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オデットオディール
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Novels by オデットオディール

始まりは婚約破棄~王弟殿下の溺愛~

始まりは婚約破棄~王弟殿下の溺愛~

絶世の美女であり王国で強大な力を持つ侯爵家の一人娘のジルは王太子であるエドワードと婚約を結んでいた。しかしある夜、夜会にて王太子であるエドワードから婚約破棄を言い渡される。素直に受け入れたものの、傷心のジルに国王の弟であるテオドールが婚約を申し込む…。テオドールは密かにジルに恋心を抱いていた。騎士団団長のテオと絶世の美女ジルの愛の物語が始まります…。
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Chapter: 欲望の手枷
言われてテオを見る。テオは微笑んで立ち上がり、私の手を引く。連れて行かれたのはお風呂。お風呂の隅に立つとテオがガウンの紐を解く。「ジルが前に見たいって言ってただろ?だから見せてあげるよ」テオはそう言って私を見て微笑む。「しゃがんで」そう言われてしゃがむ。目の前にはテオのそれがある。テオは自分でそれを掴むと言う。「見られてると恥ずかしいな」そう言いながら天を仰ぐ。「……出るよ、ジル」言われて視線を戻す。テオの半勃ちのそこからそれが溢れて来る。ジョロジョロと出されるそれを目の当たりににする。あぁ、すごい、出てる……。テオは私の頭を撫でている。出し終わると雫が垂れる。◇◇◇「そんな顔するな……」ジルはとろけてしまいそうな顔をしている。「食べたいのかい?」聞くとジルが頷く。「良いよ」言うとジルがそれを口に含む。「あぁ……」天を仰ぐ。いやらしい格好で俺の前に跪いて、こんな事…ジルの頭が艶めかしく動く。ジルの頭を撫でながら腰が動いてしまう。「はぁ……はぁ……んっ……」ジルの手が俺のそれの根元を握り、しごく。「あぁ……ジル……イキそうだよ……」そこにグンと力が入る。ジルの口からそれを引き抜き、それを握ってしごく。「見ていて、ジル……出すとこ、見ててくれ……」動きを早める。「あっ……ジル……」ドピュッと噴き出す白濁液。ジルはそれを見ている。あぁ、見られている、自分でしごいて出すところを見られている……白濁液が糸を引いて垂れる。息を切らしてジルを見る。ジルはペタンと座ってしまう。それを見て微笑む。俺はそんなジルを抱き上げる。◇◇◇お湯で軽く流した足を拭いてやり、ジルに囁く。「目を閉じて……」ジルが目を閉じる。俺はスカーフを出してジルに目隠しする。「テオ……?」ジルが不安がらないようにジルの手に触れる。「大丈夫」そう言ってジルを抱き上げ、ベッドに上がる。ジルを座らせて言う。「両手を出して」ジルは言われるがまま両手を出す。ジルの手首にタオルを巻く。そして、用意してあった革のベルトをその上から巻いて固定する。「寝かせるよ」そう言ってジルを寝かせる。「両腕を上げて」ジルが両腕を上げる。ベッドヘッドにある飾り穴にベルトを通して固定する。「痛くない?」聞くとジルが頷く。ギシギシと革が軋む音がする。口付ける。舌を絡
Last Updated: 2025-09-04
Chapter: 秘密の贈り物
ノックがしてメアリーが現れる。「お呼びですか、奥様」入口に立っているメアリーに言う。「そうなの、ちょっとこっちへ来てくれる?」私の座っているソファーにメアリーが近付く。「ここへ座って」すぐ横をトントンと叩く。メアリーが遠慮がちに座る。「何でしょう」メアリーが聞く。入口にはギリアムが立っていて、含み笑いをしている。「あのね、メアリー。あなたに渡したい物があるの」そう言って包みを出す。メアリーは包みと私を交互に見て聞く。「これは……?」聞かれて私は微笑む。「あなたによ、メアリー」途端、メアリーは息を飲む。「私に?」メアリーの手にそれを載せる。「開けてちょうだい」言うとメアリーが包みを開ける。中には眼鏡用のチェーンが入っている。「奥様……」メアリーの目にはもう涙が溜まっている。「あなたにはいつも助けて貰っているもの、テオも私もね。この御屋敷の侍女たちを纏め上げてくれているあなたに、感謝を込めてね」メアリーの肩を撫でる。メアリーが俯いて肩を震わせる。「泣かないで、貰い泣きしそうだわ」「アンを呼んでくれる?」言うと二人が微笑む。「はい、奥様」二人とも新しい眼鏡チェーンがよく似合っている。ギリアムには黒い鎖のものを、メアリーには金細工のものを贈った。パタパタと足音がしてアンが現れる。「奥様、お呼びでしょうか」アンはまだ若い。私とそんなに歳も変わらない。子爵家の令嬢だけれど、ここへ奉公しに来ている。「アン、ちょっとこっちへ来て」アンは私の傍まで来る。私は立ち上がってアンの前に立つ。ここの侍女の服はちょっと特殊だ。普通一般的には黒の侍女服なのだが、ここは濃紺。色だけで王弟に仕えていると一目で分かる。普通、装飾品などは付けないのが一般的だけれど、出自の家柄が高い者は首元などにブローチを付けたりする。この屋敷にも何人か、そういう侍女が居るけれど、アンは違った。私はアンの首元にアメジストをあしらったブローチを付ける。「奥様、これは……?」アンが聞く。私は微笑んで言う。「あなたがここで私に仕えているという証よ。これを付けていれば、どこへだって行けるわ。私の侍女なのだから」アンはポロポロと涙を零して泣く。「奥様……」アンを抱き締める。「泣かないで。あなたにはこれからもっと頑張って貰うんだから」◇◇◇ジルのプレゼ
Last Updated: 2025-09-03
Chapter: それぞれの贈り物
屋敷に戻る。たくさん見て回った筈だけど、まだお昼だった。昼食にテオが戻って来る。「街は楽しかったかい?」聞かれて頷く。◇◇◇「えぇ、とても。それでね、あなた」あなたと呼ばれてドキッとする。「ん?何だい?」聞くとジルは微笑んで俺に何かを差し出す。それはプレゼントの包みだった。「これは……?」聞くとジルが言う。「あなたに。開けてみて」俺は包みを開ける。中には青い革の手袋が入っていた。「ほぅ、青か、珍しいな」ジルがワクワクした様子で言う。「付けてみて」言われて手袋を付ける。柔らかく、それでいてしっかりとした作りだ。職人の腕が良いんだろう。「どうだい?似合うかい?」聞くとジルはうっとりしている。「似合うわ、とても……」そんなジルに微笑んで、俺は手袋を付けたまま、ジルの顎に手を添えて顔を上げさせる。「こういうふうに使うんだろ?」顔を近付けて言うとジルが言う。「そうよ」そのまま口付ける。口付けたままジルのうなじに手を回す。革の音がする。◇◇◇ジルは街での買い物について話してくれた。まだ渡していないから内緒にしてくれと。そんなふうに言うジルが可愛くて仕方ない。「で、君自身のものは買ってないのかい?」聞くとジルは微笑む。「私のは良いの」そして俺を見上げて言う。「あなたがくれる物以外、欲しい物なんて無いもの」そう言われて微笑む。「そうか。なら街ごと買ってやる。国でも良いぞ?」言うとジルが俺をホンの少し押す。「もう!そんな事言って!」笑ってジルを抱き寄せる。◇◇◇仕事に戻って行くテオに付いて行く。途中でテオの侍従であるダイナスとノリスが合流する。私は二人に錫製のマントの留め具をプレゼントする。二人とも飛び上がりそうな勢いで喜び、その場で付けてくれた。詰所に行くと参謀のマクリー卿と団長補佐のマドラス卿が居た。その二人にもプレゼントを渡す。「頂いても宜しいのですか!」マクリー卿が聞く。「あぁ、構わない。ジルが選んで来たんだ、貰ってくれ」テオがそう言うと二人とも震える手でプレゼントを開ける。中にはルビーをあしらったマントの留め具がある。「これは!」「何と!」二人とも言葉を失い、感動しているようだった。「す、すぐにでも……いや、家宝にするべきか」マクリー卿が言う。私は笑う。「すぐに使って頂けるかしら
Last Updated: 2025-09-02
Chapter: 贈り物
お店に入ると革製の物が所狭しと並べられていた。手袋、靴、ベルト……。「いらっしゃいませ、マダム」お店の店主らしき人物が声を掛けてくる。「何かお探しで?」とても礼儀正しい。「あのショーウィンドウに飾ってある青い手袋を見たいのだけど」言うと店主らしき人物は微笑んで頷く。「かしこまりました」今度は女性の方が近付いて来て言う。「宜しかったらこちらへ」促されるまま、店の奥にあるソファーへ座る。青い手袋を手に店主らしき人物が戻って来る。「申し遅れました、私、ここの店主をしております、クエロトーロと申します、こちらは妻のアルディージャ」礼儀正しく挨拶してくれる。「今日はお忍びで?」クエロトーロが小声で聞く。少し驚くとクエロトーロが微笑む。「お見かけしてすぐに分かりました、王弟妃殿下」私は何だか気恥ずかしくて俯く。「ローブをお召になっていても、その麗しさは隠しきれておりませんよ」そして青い手袋をトレーに載せて見せてくれる。手に取るとその青はとても美しかった。「さすがはマダム、お目が高いですね」クエロトーロはそう言うと目を細める。「革を青く染めるのは実は一苦労なのです。染料のラーゴラの花は希少なので」手袋の触り心地はとても良かった。「革製品はお使いになる方によってどんどん変わります。その方の生活に馴染み、色が変わり、その方独特の味が出るのです」私は決める。これにしよう。「これを頂くわ」クエロトーロは深くお辞儀をして言う。「私共の品を選んで頂き、大変光栄に存じます。プレゼント用にお包み致します故、お待ちください」テオがあの青い手袋をするところを想像して、ワクワクする。きっと似合う。立ち上がって店内を見る。ブラウンの手袋が目につく。手に取ると柔らかく、でもしっかりとした作り。女性用で小さく作ってある。「ルーシー」呼ぶと入口に居たルーシーが来る。「はい、奥様」私はブラウンの手袋をルーシーに渡す。「付けてみて」ルーシーは少し困惑しながらも手袋を付ける。「どう?」聞くとルーシーは照れ笑いしながら言う。「えぇ、とても柔らかくて心地良いです」私はそれを聞いて嬉しくなる。振り返るとアルディージャが控えている。「これも頂ける?」アルディージャが笑顔で頷く。「かしこまりました」ルーシーが手袋を外そうとするのを止める。
Last Updated: 2025-09-01
Chapter: 散策へ
仕事に復帰する。なまった体を鍛え直し、王城に行き国政を兄上と執り行う日々に戻る。家の執務はジルが取り仕切り、俺が持ち帰った書類にも目を通してメモを書き残してくれる。ジルの指摘は的確で、アドバイスも役に立った。俺はそれを決して自分の手柄にはせず、ジルが提言してくれているとハッキリ表明した。「やはり、お前の妻は有能だな」休憩中のお茶を飲みながら兄上が言う。「長く王妃教育を受けていたからな」ふと兄上を見る。顔色が悪い気がした。「何だ、兄上、具合でも悪いのか?」聞くと兄上が笑う。「次の世継ぎを作るのに忙しくてな」そう言われては何も言えない。「そうか」俺はふと疑問に思って聞く。「まさか、妾じゃないだろうな?」兄上は笑って言う。「私の相手はセリーヌしか居ないよ。もう懲りた」言われて笑う。そうか、励んでいるのだな、と思うと兄弟でも何だか恥ずかしくなる。「お前も励んでいるか?」聞かれて俺は吹き出す。「まぁな。心配するな」兄上は微笑んでまたお茶を飲む。◇◇◇それからしばらくして、ジルの護衛騎士に任命したルーシーが正式に護衛騎士となった。ジルが決めたデザインの服は凛々しく、ルーシーに良く似合っている。騎士団での小さな任命式を終えて、俺はルーシーに言う。「頼んだぞ、ルーシー」言うとルーシーは頭を下げて言う。「はい。この命に代えてもお守りします」ジルはその様子を見守ると、すぐに言う。「ねぇ、テオ、ルーシーを連れて、街へ行っても?」俺は笑って頷く。「あぁ、良いよ」ジルはルーシーの手を取ると引っ張って言う。「行きましょう!」ルーシーはジルに引きずられながらも俺に頭を下げ、ジルについて行く。その様子は本当に微笑ましい。周りに居た騎士たちもニコニコしている。「本当に愛らしいお方だ」またマクリーが言う。「あぁ、ジルはいつも愛らしいよ」二人の後ろ姿を見ながら目を細める。「殿下も変わられましたな」マクリーが言う。「そうか?」笑うとマクリーは微笑んで言う。「はい、それはもう。力がみなぎっていて、こう…お近くに居るだけで、あぁ敵わないなと思わせる、そこは変わりませんが、今は殿下の根底にはしっかりとした愛という地盤がある。我々にもそれが良く分かります。以前の殿下は少し危うさがあったので」それを聞いて苦笑いする。「戦場でいつ死ん
Last Updated: 2025-08-31
Chapter: 本当はずっと……
「私、何も出来なかったの……ただ、水にシャツの切れ端を浸して絞ってテオに乗せるだけ……それを繰り返す事しか出来なかった……」ジルの声が涙に濡れる。「怖かった……目の前のテオがこのまま本当に目を覚まさなかったら?何もかもをテオがしてくれるから、私はそれを見てるだけしかしてなくて、私は無力なんだって、実感したの……」ジルを見る。ジルはポロポロと涙を零している。「テオがこのまま死んでしまったらどうしようって、泣く事しか出来なくて、情けなくて……」ジルの頭を撫でてやる。「だから朦朧としながらも私の名前を呼んで、抱き寄せてくれた貴方にまた抱き着いてしまった……テオの腕の中で思ったの、もしこのままテオが死んだら、私もこのままテオを抱いたまま死のうって……」胸が苦しくなる。ジルを抱き締める。「そんな思いをさせてすまない。怖かったよな、ごめん……」ジルが泣く。あぁ、そうか。俺はパラベンでの一件以降、こうやってジルを腕に抱いて、ゆっくり泣かせてやる事もしていなかったなと思う。きっと我慢していただろうに。救い出された後はバタバタと俺の手当や移動があって、俺たちには常に誰かが付いていた。王都に戻る頃には王城に駆り出され、シオスの処刑やパラベンへの制裁措置やその後の国の再建などを話し合ったりしていた。その後は俺の静養とジルの心の安定をと思って過ごしていたのに。俺はまだジルを分かっていなかった。気丈に振舞っていても、本当はこうして甘えて泣きたかったに違いない。「ごめん……」そう言う事しか出来ない。「本当はね、いつもずっと不安なの……」そう言われて少し驚く。「不安?」ジルが俺を見上げる。「離れている時はいつも考えてる、テオに何か起こっていないか、怪我してないか、誰かがテオに言い寄ってないか……」ジルの涙を掬う。「いつも心配なの……」あぁ、何て可愛いんだ、こんなにも俺の事を愛してくれているなんて。ジルが体勢を変える。俺に跨り俺を見下ろし、俺の頬を両手で包む。「愛してるの、テオ……」顔が近付く。口を半開きにしてジルの口付けを待つ。あともう少しのところでジルが止まる。「しないのかい?」聞くとジルが聞く。「したい?」俺はジルのうなじに手を回して言う。「したい……」ジルは俺を見つめたまま動かない。息が上がる。「あまり俺を煽るな」言うとジルが聞く
Last Updated: 2025-08-30
あなたの懺悔に口付けを 離婚後、元夫は私の妊娠検査票を見て発狂した

あなたの懺悔に口付けを 離婚後、元夫は私の妊娠検査票を見て発狂した

世界的な大会社・篠江グループのCEO・篠江龍月(しのえ りゅうが)と結婚して3年が経とうとしていた杏(あんず)は、記念日の夜、龍月から唐突に離婚を突き付けられる。 身に覚えのない罪を着せられた杏は自身の初めての妊娠を龍月に秘密にしたまま、離婚を決意する━━ 離婚後、龍月は次々と明らかになる事実と秘密に後悔と懺悔の日々を送る事になる…… 愛と裏切り、そして復讐と許し……交錯する人間模様、杏との別離の陰にある秘密と許されない裏切りとは……?
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Chapter: 夢の中は温かく……
必死で逃げて来る男の子が転んでうずくまる。目の前の男の子は泣いていた。誰が見てもその子が危ない状況だという事は分かる程だった。私はそれを見て思わず駆け寄る。「助けて……お願い……」涙でぐしゃぐしゃになった顔でそう言う男の子。私は頷いてその子の手を取って走り出した。その時、私は漠然と思っていたのだ。この子を守らないと、と。何故そう思ったのかは分からない。彼の泣き顔を見たからなのか、彼に助けてと言われたからなのか。私はその子と一緒に走って逃げ、自分の家に駆けこみ、母に警察を呼ぶように言った。母は慌てていたけれど、最初は私が警察を呼ぶように言った事を本気だと思っていなかった。母は優しく大丈夫、大丈夫と繰り返すだけだった。私が必死で警察を呼ぶように言ったので、警察を呼んでくれた。警察に保護された男の子、それが龍月だった。龍月は篠江家の財産を狙う人間に誘拐されかけていたのだ。警察に保護されてからも龍月は私の手を離さず、傍に居て欲しいとそう言った。龍月のご両親が慌ててやって来て、私が保護した事を知ると、ご両親は私のその行動にいたく感動し、感謝の言葉を雨のように降らせた。私の母はその当時、職に困っていた時期だったけれど、それを聞いた龍月のご両親は私の母を篠江家で働かせてくれた。私は一目で龍月に恋をしたのだ。優しくて温かい龍月、少し泣き虫だったけど。龍月は泣きながら私の手を離さず、警察の人も龍月のご両親も、私の親も困らせる程だった。その時、龍月は私に言ったのだ。「ずっと、一緒に居たいよ……僕はこの子と結婚する!」そう言われた私は恥ずかしくて俯いた。でもすごく嬉しかった。私もずっと一緒に居たいと思った。私もこの子と結婚したいとそう思った……。繋いだ手が温かく、そして幼かった私は夢見てしまったのだ、彼との将来を。けれど、現実はもう違ってしまった。彼は私を絶望の淵へと追いやり、あと一歩で私をその深淵へ落とすところまで来ている。かろうじて踏み止まっている私の希望はお腹の中に宿った小さな命……。夢うつつの中でも病室の扉の開く音を感じる。誰かが病室に入って来るのが気配で分かった。桃李……?そう思ったけれど、私の瞼は重かった。目が開かない。入って来た誰かが私の手を包む。……温かい。あの幼い日に私の手を掴んで離さなかった龍月の温もりが思い出される。「龍月……」夢う
Last Updated: 2025-09-04
Chapter: 杏の決意と決断
目が覚める。天井が白い。薬品の匂いがする……。辺りを見渡す。……病室だ。「姉さん……」声の方を見ると、桃李が私の手を握っていた。「桃李……私……?」そう聞くと桃李が言う。「倒れたんだ」そう言われてハッとする。「赤ちゃんは……?」そう聞くと桃李が微笑む。「無事だよ、奇跡的にね」桃李はそう言いながら私の頭を撫でる。「実はすごく危ない状態だったんだ。でも奇跡的に乗り越えた」胸が苦しくなる。良かった……。そう思いながら私は自身のお腹を撫でる。涙が溢れて来る。お腹の子が無事だと分かった瞬間、私は自分の中にあった憎悪や絶望、恐怖がふわっと消えて行くのを感じる。そして自分の中に残ったのはただただ、この子が愛おしいという感情だけだった。「もう、大丈夫なのよね……?」そう聞くと桃李が力強く頷く。「あぁ、大丈夫だよ」そう答えた桃李を見て、私は確信する。桃李は腕の良い医師だ。その桃李がそう言うのだから大丈夫なのだろう。病室には桃李以外には人が居なかった。私が倒れても龍月はもう付き添ってはくれないのだ。そう思うと悲しみが込み上げる。「何で篠江さんに姉さんの妊娠を言わないんだよ」桃李はそう言いながら怒りのあまりか、涙ぐんでいる。「アイツは姉さんに借りがあるじゃないか」借り……か。確かにそうだ。でもそれは今更掘り返す事じゃないし、今、重要なのはそれじゃない。「もう良いのよ、桃李」私は諦めを受け入れる。「龍月は私を裏切って、華凜と寝たの。私の義理の妹である華凜と関係を持っている。あれだけ私が華凜には気を付けて、華凜に騙されないでと言ったのに、龍月は私よりも華凜の事を信じた……それに」そう言って私は桃李を見る。「私が倒れても龍月は来なかったでしょう?」そう聞く私に桃李が苦笑いする。「でも本当にそれで良いのか?姉さんは何年も篠江さんを愛してたじゃないか。待ち望んだ子供も居るって言うのに……」そんな桃李に私は微笑む。桃李が思い付いたように言う。「あの手紙の主!そうだよ、その運転手を連れて来れば良いんじゃないか!」私は既に自分の手の中にある諦めの感情を転がす。「もう良いのよ。手紙の主が誰なのか、真実は何なのか……もうそんな事はどうでも良いの」天井を見つめる。「龍月は選択したの。私じゃなく、華凜を選んだ。だから私も自分の道を選ぶわ」あの
Last Updated: 2025-09-03
Chapter: 義妹・華凜
私はそう言った桃李を見る。桃李の顔には怒りが滲んでいる。「姉さんから話は聞きましたが、全て、嘘だ。だっておかしいじゃないですか、姉さんがそんな指示を出すなんて有り得ない!それに姉さんと篠江さんは3年も夫婦だったんですよ?その妻に対して何故、そんなに冷たくなれるんですか!」桃李にそう言われても龍月は表情一つ変えない。「それに姉さんは……!」そこまで言った桃李を止める。「桃李、止めて。もう良いのよ……」桃李が私を見下ろす。「でも、姉さん……」桃李の言いたい事は分かっていた。でも私は桃李の言葉を止めた。「ねぇ、龍月、携帯を車の中に忘れちゃったみたいなの、取って来てくれない?」甘えるような口調で華凜が龍月に言う。龍月はそんな華凜に微笑む。「あぁ、良いよ。待っていて」龍月は華凜の頭を少し撫で、私たちを睨み、歩き去った。龍月が居なくなると華凜は貼り付けていた微笑みを滑り落とし、私たちを見て嘲るように笑う。「久しぶりね、杏姉さん」華凜に姉さんなんて言われると嫌悪感でいっぱいになる。「あなた、留学していたんじゃなかったの?」そう聞くと華凜は笑う。「もう随分前に留学からは帰ってるわ」華凜の笑みは冷たく、そして私たちに近付いて来る度に、その冷たさが伝わって来るようで、私は背筋が冷えて行くのを感じる。目の前まで来た華凜は私を見て鼻で笑う。「自分の夫も繋ぎ留められないの?三年も夫婦だったんでしょう?その三年の間、一体、何をやっていたのかしらね?」華凜はそこでクスっと笑って言う。「あなたの母親だって結局、何も守れなかったものね。親子揃って同じ穴のムジナって事よね」そう言われて怒りが増す。華凜は私の妹だけれど、血は繋がっていない。義理の妹だ。私の母は事故で亡くなり、その後釜に華凜の母である美都が居座ったのだ、華凜を連れて。「あなたが今まで3年間、篠江家の奥様で居られたのは私が身を引いたからでしょう?その私が帰って来たんだもの、龍月は返して貰うわ」華凜を睨み付ける。華凜はそんな私を鼻で笑って言う。「篠江家の奥様っていう地位も私のもの」そこで桃李が口を挟む。「姉さんに近付くな、厚かましい!」そういう桃李を見て華凜がまた笑う。「どうして私がここに居るか、知りたい?」華凜は桃李から私に視線を移し、言う。「私のお腹の中には龍月の子供が居るの
Last Updated: 2025-09-02
Chapter: 3話 悲しみの朝
結局一睡も出来なかった。普通は妊娠すれば眠くて仕方ない筈なのに。実際、私は昨日の夕方までは自身の眠気と戦いながら、特別な夜にしようと頑張って準備していたのだ。体は睡眠を欲しているのに、私の思考は止まらなかった。考えれば考える程、おかしい。私が龍月のご両親を車で撥ねろなんて命じる事は絶対に無いし、お金だって100万円なんてそんな大きな額を動かせる訳も無い。それに妹の華凜は今、海外に留学していて、2年前にも、今までにも誘拐されていた事なんて無かった筈だ。それに峰月美都は……。不意に電話が鳴る。スマホには桃李の名前。通話をタップした時にはもう泣いていた。「桃李……」私が泣いているのを察した桃李が聞く。「姉さん?!どうしたの?何かあった?」私は何をどう話して良いのか分からず、ただ泣いていた。桃李はそんな私を宥め、一人で居たらダメだと言い、自分の居る病院に来るように言う。約束させられた私は重い体を引き摺って、何とか身支度を整えて部屋を出る。病院に到着した私を桃李が出迎える。私の顔を見た桃李が驚いて、とにかく横になるように言う。病院の特別室に案内され、横になる。「顔色が悪いよ、何か体に変化は無い?」そう聞かれても私はもう何も感じていなかった。私を見た桃李の勧めで私は検査をする事になった。「大事な体だからね、念には念を入れておこう」桃李はそう言って微笑む。しばらくして桃李がまた病室に入って来る。検査結果が出たようだった。桃李は紙を見ながら難しい顔で言う。「数値が少し高いね……このままだと流産の可能性もある。」そう言われた私はまた涙ぐむ。そんな私を見て桃李が聞く。「一体、何があったんだよ……話して」上手く話せるか分からなかったけれど、私は一生懸命、昨日の夜の事を話して聞かせた。桃李はずっと私の話に耳を傾け、話し終えた私に言う。「何かおかしい気がしない?急にそんな手紙を寄越して来るなんて」そう言いながら桃李は腕を組む。「華凜が何かしたんだよ、きっと。だっておかしいじゃないか、辻褄が合わない事だらけだ」桃李が私の手を握る。「それにさ、姉さんのお腹の中には篠江さんの子供が居るんだ。姉さんのお腹の中の子供が篠江さんの子かどうか分からないって言うなら、出生前診断だって僕がやるよ」そう言われて私はそこでやっと希望の光を感じた。そうか、出生前診断がある
Last Updated: 2025-08-30
Chapter: 2話 突き付けられた離婚届
「……有り得ない……これ、何なの?……手紙の主は誰なの?」そう言いながら龍月を見上げる。龍月の視線が冷たい。もしかして、龍月はこの手紙の内容を信じているの?確かに2年前、龍月のご両親は車に跳ねられる事故には遭ったけれど、大事には至らなかった。「待って、龍月。こんなの間違ってる。私は何もしていない。ご両親に私が何かする理由が無いもの!ご両親にはお世話になっているの。今までもずっとお世話になって来たのよ?それなのに、その私がご両親を車で撥ねろなんて言うと思うの?」龍月の私を見る視線は冷たいまま。あ、私、知っている、この瞳。龍月は自分に仇成す人にはとことん冷たくなれる人なのだ。そしてその冷たい瞳が私を見つめている。龍月の冷たい視線に晒され、私は背筋が凍る。血の気が引いて行くのが分かる。「信じて!……お願い!……私は何もしてないの!お金なんて知らない、この手紙の主も知らないのよ……」言いながら恐怖に体が支配される。体中が震える。そこで私は初めて思い出した。そうよ、私のお腹の中には……。「龍月、私ね、妊娠してるの……あなたの子を身籠ってるのよ、お腹の中に赤ちゃんが居るの……!」縋るようにそう言うと、ほんの一瞬だけ、龍月の瞳が驚きを見せた。けれどすぐに冷たい視線に戻る。「それもお前とお前の母親の計画の一部か?」そう聞かれても何の事なのか、分からない。「仮にお前が妊娠していたとして。そもそも、お前のお腹の中に居る子供は俺の子か?」まさか龍月にそう聞かれるとは思っていなくて絶句する。目頭が熱くなり、涙が込み上げて来る。「誰の子かも分からない子供を妊娠したから何だって言うんだ?それで何か変わるのか?妊娠したんなんて嘘を言うな!」ポロポロと涙が零れる。龍月は首を振って言う。「残念だったな、俺はもうお前には騙されない」龍月は私を冷たく見下ろして言う。「俺は華凜と結婚するつもりだったんだ」龍月の声は冷たく、まるで刃を向けられたように息が詰まる。「お前はそれを知っていて、俺と華凜の間に割って入ったんだろう?両親に気に入られている事を逆手に取ったんだ。俺が両親には逆らえない事を知っていて、両親に圧力を掛けるように言ったんだろう?お前と結婚しないなら、後は継がせないと両親に言われた俺は従わざるを得なかったんだ……その悔しさがお前に分かるのか?」私は泣きなが
Last Updated: 2025-08-30
Chapter: 1話 記念日の夜
ダイニングのテーブルに花を生ける。ランチョンマットを敷いて、少しだけ特別なテーブルセッティングをする。気付けば私は鼻歌なんかを歌っている。私、篠江杏(しのえ あんず)は夫・篠江龍月(しのえ りゅうが)と結婚して3年になる。篠江家はこの国のみならず、海外にも事業を展開する世界的な大会社で、龍月はそのCEOだ。篠江グループの傘下には私の弟の桃李(とうり)が務める大病院もあった。私はここのところずっと、胃のムカつきを感じていて、胃の調子が悪いのかと思っていた。時折、眩暈を感じる事もあって、体調不良を実感して、私は桃李の務める病院に行った。「姉さん、おめでとう」そう言われて何がおめでとうなのか、分からなかった私はポカンとしてしまった。桃李はそんな私を見てクスっと笑い、言った。「おめでただよ、ふた月ってところかな」桃李はそう言って、微笑む。「エコーで見てみる?」そう聞かれて頷く。見られるなら見たい。「そこに横になって」そう言われて診察室の小さなベッドに横になる。「少し冷たいけど、我慢して」桃李はそう言って私のお腹にジェルを塗る。そうしてエコーの機械を私のお腹に当てて、画面を見る。「あ、ここだね。見える?」そう聞かれて私も画面を見る。「小さな袋状のものが見えるでしょう?」そう言われてエコー画面を見る。「えぇ、見えるわ」袋状のものが映し出されている。これが……待ちに待った我が子なのだと思うと少し不思議な感じがした。小さいけれど確実に私のお腹の中には赤ちゃんが居る。今まで感じていた胃のムカつきも、眩暈も妊娠したからなのだと分かる。「つわりがどの程度、出るかは分からないから、体調には気を付けて。体、冷やさないようにしないと」桃李はそう言って微笑む。「えぇ、そうね、その通りだわ」家に帰り、私はお腹の中の命を意識しながら動く。食べられる物を食べて、体を冷やさないように。そしてカレンダーを見て微笑む。奇しくも今日は私と夫・龍月(りゅうが)の3回目の結婚記念日。龍月も今日が結婚記念日だって知っている筈。私は龍月が帰宅する時間に合わせて、準備をする。今日は特別な日になりそうだわ、そう思いながら。◇◇◇時計を見る。もう日付が変わる時間。龍月はまだ帰って来ない。部屋の中は静まり返っている。不意にカタンと玄関の開く音がする。龍月だわ、そう思って私は
Last Updated: 2025-08-30
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