絶世の美女であり王国で強大な力を持つ侯爵家の一人娘のジルは王太子であるエドワードと婚約を結んでいた。しかしある夜、夜会にて王太子であるエドワードから婚約破棄を言い渡される。素直に受け入れたものの、傷心のジルに国王の弟であるテオドールが婚約を申し込む…。テオドールは密かにジルに恋心を抱いていた。騎士団団長のテオと絶世の美女ジルの愛の物語が始まります…。
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私の心の中は冷ややかだった。今、目の前で私の婚約者が私との婚約を破棄しようとしている。
「ジル・ヴァロア! いや、ジゼル・ヴァロア! 今、この時をもって君との婚約を破棄する!そしてこのマリエラ・グラハム嬢と婚約する!」
こんな場所で断罪するように、そう大声で宣言されてもなお、私の心は冷ややかだった。
この人はちゃんと物事を分かって言っているのだろうか。いや、分かっている筈が無い。分かっているならば私との婚約を破棄するなどと馬鹿げた事は言わない筈だ。周囲は固唾を飲んで見守っている。私がどう出るか、待っているのだ。
まぁ、良いでしょう。このまま私が引き下がって幕引きしましょう。その後の事は私には無関係となるのだから。
私はドレスの両端を持って深くお辞儀する。
「かしこまりました、王太子殿下。殿下の仰せのままに」
そう言われた事が意外だったのか、顔を上げた私が見たのは驚いている王太子殿下とその恋人のグラハム嬢の顔だった。
「私は婚約を破棄されましたので、この場には相応しく無い身の上となりました故、失礼させて頂きます」
そう言ってひらりと踵を返して歩き出す。
扉を開けて外へ出る。このまま帰ろう。馬車が何台も連なっていて、自分の家の馬車までは遠い。王宮で開かれた夜会なので元々庭園が広いのだ。私は歩きながら前だけを見て歩き続ける。
私はここ何年も王妃に相応しい女性になるべく、王妃教育を受けて来た。それはこの国の国王陛下も王妃殿下も、そして誰よりも王太子殿下も良く知っている事だ。5年前に婚約が決まり、20歳になったら正式に結婚の予定だった。そう、今年がその年だった。それがこのザマだ。
半年ほど前からグラハム嬢と王太子殿下の仲の良さは疑っていた。王太子殿下に直接お聞きした事もあった。王太子殿下はその度に自分を疑うのか! と私を叱責なさった。私たちの結婚は家同士が決めた事、いわゆる政略結婚というものだ。我がヴァロア家はこの国で強大な力を持つ。国王陛下はそのヴァロアとの結び付きを更に固めるべく、王太子殿下と私との結婚を決めたのだ。かたやグラハム家はしがない子爵位。きっと二人は身分違いの恋とやらに浮かれてのぼせている。現実はそれほど甘くないというのに。
「うふふふふ……」
可笑しくて笑みが漏れる。あのグラハム嬢に王妃が務まるだろうか。頭の中は着飾る事と殿方に甘える事で一杯で、この国の政治や経済、外交や歴史などには疎いと聞く。王妃たる者、ありとあらゆる知識と知恵が必要なのに。
でも私にはもう関係無い。婚約は破棄されたのだ。もう今以上に知識や外交の経験など積まなくても良くなる。笑っている筈なのに、私の瞳からは涙が溢れて来る。まだダメよ、ジゼル。我慢なさい。せめてこの庭園を出るまでは。去り際こそ美しく、散るなら潔く。そう強く思いながら歩く。やっと中間地点の白亜のガゼボに辿り着く。ここを抜けて真っすぐ歩くのよ。
次の瞬間、有り得ない事が起こった。ヒールの踵が石畳に引っ掛かり、躓いて転ぶ。
「痛っ……」
今までこんな事は起こった事が無かったのに。転ぶなんて何年ぶりだろうか。体を起こして立ち上がろうとする。その瞬間足に、肘に痛みが走る。見れば肘は擦り剝け、膝は打ち付けて赤くなっている。足首を捻ったのか、体重を乗せる事も出来そうに無い。痛みと羞恥で涙が止まらなくなる。
「もう嫌……」
そう呟いた時。
「大丈夫ですか、御令嬢」
低く艶やかな声。その声に驚いたけれど、こんな失態、人に見せる訳にはいかず、私は痛む足を庇いながら自身の手袋をはめている手で涙を拭う。声の主は私に近付いて来ている。私はその気配とは逆方向を向き、顔を上げて言う。
「ご心配はご無用です」
声の主は私のすぐ傍まで来ると私の傍らに片膝を付き、言う。
「心配は無用との事ですが、その足では歩けないのでは?」
仰る通りだ。私は足を挫いていて歩く事もままならない。
「宜しければこの私に御令嬢の歩くお手伝いをさせては頂けませんか?」
低く艶やかな声。どこかで聞いた覚えのある優しい声。声の主は立ち上がると私のすぐ傍に立ち言う。
「強情なお嬢さんだ」
そう言って私の腰を抱き、自分と向き合わせる。何て強引な!そう思って声の主を見て驚く。
「王弟殿下……!」
目の前に居るのは王弟殿下のテオドール様だ。
「あの、王弟殿下、これは、何ですの?」
王弟殿下は微笑みながら私を抱き寄せている。
「貴方を助けているのですよ、ヴァロア嬢」
助けているというけれど、そうは見えない。
「足を挫いたのでしょう? 運んで差し上げますよ」
王弟殿下はそう言うと私をまるで小さな子を抱っこするように抱き上げる。
「殿下! お戯れが過ぎます!」
言うと王弟殿下は私を見上げて言う。
「お戯れ? 私は真剣ですよ」
お店に入ると革製の物が所狭しと並べられていた。手袋、靴、ベルト……。「いらっしゃいませ、マダム」お店の店主らしき人物が声を掛けてくる。「何かお探しで?」とても礼儀正しい。「あのショーウィンドウに飾ってある青い手袋を見たいのだけど」言うと店主らしき人物は微笑んで頷く。「かしこまりました」今度は女性の方が近付いて来て言う。「宜しかったらこちらへ」促されるまま、店の奥にあるソファーへ座る。青い手袋を手に店主らしき人物が戻って来る。「申し遅れました、私、ここの店主をしております、クエロトーロと申します、こちらは妻のアルディージャ」礼儀正しく挨拶してくれる。「今日はお忍びで?」クエロトーロが小声で聞く。少し驚くとクエロトーロが微笑む。「お見かけしてすぐに分かりました、王弟妃殿下」私は何だか気恥ずかしくて俯く。「ローブをお召になっていても、その麗しさは隠しきれておりませんよ」そして青い手袋をトレーに載せて見せてくれる。手に取るとその青はとても美しかった。「さすがはマダム、お目が高いですね」クエロトーロはそう言うと目を細める。「革を青く染めるのは実は一苦労なのです。染料のラーゴラの花は希少なので」手袋の触り心地はとても良かった。「革製品はお使いになる方によってどんどん変わります。その方の生活に馴染み、色が変わり、その方独特の味が出るのです」私は決める。これにしよう。「これを頂くわ」クエロトーロは深くお辞儀をして言う。「私共の品を選んで頂き、大変光栄に存じます。プレゼント用にお包み致します故、お待ちください」テオがあの青い手袋をするところを想像して、ワクワクする。きっと似合う。立ち上がって店内を見る。ブラウンの手袋が目につく。手に取ると柔らかく、でもしっかりとした作り。女性用で小さく作ってある。「ルーシー」呼ぶと入口に居たルーシーが来る。「はい、奥様」私はブラウンの手袋をルーシーに渡す。「付けてみて」ルーシーは少し困惑しながらも手袋を付ける。「どう?」聞くとルーシーは照れ笑いしながら言う。「えぇ、とても柔らかくて心地良いです」私はそれを聞いて嬉しくなる。振り返るとアルディージャが控えている。「これも頂ける?」アルディージャが笑顔で頷く。「かしこまりました」ルーシーが手袋を外そうとするのを止める。
仕事に復帰する。なまった体を鍛え直し、王城に行き国政を兄上と執り行う日々に戻る。家の執務はジルが取り仕切り、俺が持ち帰った書類にも目を通してメモを書き残してくれる。ジルの指摘は的確で、アドバイスも役に立った。俺はそれを決して自分の手柄にはせず、ジルが提言してくれているとハッキリ表明した。「やはり、お前の妻は有能だな」休憩中のお茶を飲みながら兄上が言う。「長く王妃教育を受けていたからな」ふと兄上を見る。顔色が悪い気がした。「何だ、兄上、具合でも悪いのか?」聞くと兄上が笑う。「次の世継ぎを作るのに忙しくてな」そう言われては何も言えない。「そうか」俺はふと疑問に思って聞く。「まさか、妾じゃないだろうな?」兄上は笑って言う。「私の相手はセリーヌしか居ないよ。もう懲りた」言われて笑う。そうか、励んでいるのだな、と思うと兄弟でも何だか恥ずかしくなる。「お前も励んでいるか?」聞かれて俺は吹き出す。「まぁな。心配するな」兄上は微笑んでまたお茶を飲む。◇◇◇それからしばらくして、ジルの護衛騎士に任命したルーシーが正式に護衛騎士となった。ジルが決めたデザインの服は凛々しく、ルーシーに良く似合っている。騎士団での小さな任命式を終えて、俺はルーシーに言う。「頼んだぞ、ルーシー」言うとルーシーは頭を下げて言う。「はい。この命に代えてもお守りします」ジルはその様子を見守ると、すぐに言う。「ねぇ、テオ、ルーシーを連れて、街へ行っても?」俺は笑って頷く。「あぁ、良いよ」ジルはルーシーの手を取ると引っ張って言う。「行きましょう!」ルーシーはジルに引きずられながらも俺に頭を下げ、ジルについて行く。その様子は本当に微笑ましい。周りに居た騎士たちもニコニコしている。「本当に愛らしいお方だ」またマクリーが言う。「あぁ、ジルはいつも愛らしいよ」二人の後ろ姿を見ながら目を細める。「殿下も変わられましたな」マクリーが言う。「そうか?」笑うとマクリーは微笑んで言う。「はい、それはもう。力がみなぎっていて、こう…お近くに居るだけで、あぁ敵わないなと思わせる、そこは変わりませんが、今は殿下の根底にはしっかりとした愛という地盤がある。我々にもそれが良く分かります。以前の殿下は少し危うさがあったので」それを聞いて苦笑いする。「戦場でいつ死ん
「私、何も出来なかったの……ただ、水にシャツの切れ端を浸して絞ってテオに乗せるだけ……それを繰り返す事しか出来なかった……」ジルの声が涙に濡れる。「怖かった……目の前のテオがこのまま本当に目を覚まさなかったら?何もかもをテオがしてくれるから、私はそれを見てるだけしかしてなくて、私は無力なんだって、実感したの……」ジルを見る。ジルはポロポロと涙を零している。「テオがこのまま死んでしまったらどうしようって、泣く事しか出来なくて、情けなくて……」ジルの頭を撫でてやる。「だから朦朧としながらも私の名前を呼んで、抱き寄せてくれた貴方にまた抱き着いてしまった……テオの腕の中で思ったの、もしこのままテオが死んだら、私もこのままテオを抱いたまま死のうって……」胸が苦しくなる。ジルを抱き締める。「そんな思いをさせてすまない。怖かったよな、ごめん……」ジルが泣く。あぁ、そうか。俺はパラベンでの一件以降、こうやってジルを腕に抱いて、ゆっくり泣かせてやる事もしていなかったなと思う。きっと我慢していただろうに。救い出された後はバタバタと俺の手当や移動があって、俺たちには常に誰かが付いていた。王都に戻る頃には王城に駆り出され、シオスの処刑やパラベンへの制裁措置やその後の国の再建などを話し合ったりしていた。その後は俺の静養とジルの心の安定をと思って過ごしていたのに。俺はまだジルを分かっていなかった。気丈に振舞っていても、本当はこうして甘えて泣きたかったに違いない。「ごめん……」そう言う事しか出来ない。「本当はね、いつもずっと不安なの……」そう言われて少し驚く。「不安?」ジルが俺を見上げる。「離れている時はいつも考えてる、テオに何か起こっていないか、怪我してないか、誰かがテオに言い寄ってないか……」ジルの涙を掬う。「いつも心配なの……」あぁ、何て可愛いんだ、こんなにも俺の事を愛してくれているなんて。ジルが体勢を変える。俺に跨り俺を見下ろし、俺の頬を両手で包む。「愛してるの、テオ……」顔が近付く。口を半開きにしてジルの口付けを待つ。あともう少しのところでジルが止まる。「しないのかい?」聞くとジルが聞く。「したい?」俺はジルのうなじに手を回して言う。「したい……」ジルは俺を見つめたまま動かない。息が上がる。「あまり俺を煽るな」言うとジルが聞く
王都に戻ってからというもの、ジルは以前にも増して俺から離れなくなった。強制的に離され、俺が死んだと聞かされ一度は絶望の淵に居たのだ、それも仕方ない。ジルが安定するまでは俺の静養も込みでジルを甘やかしてやろうと思った。◇◇◇失礼しますと言ってマクリーとルーシーが部屋に入る。ソファーに座ってジルの肩を抱く。今日はマクリーとルーシーをあの日についての事情聴取の為に呼んだのだ。「話せ」俺がそう言うとマクリーは片膝をついて、頭を下げながら報告する。あの日、私は殿下の乗る馬車のすぐ近くに居た。不意に投げ込まれた麻酔弾で馬車まで辿り着けず、意識を失った。目を覚ました時にはもう夕方で周りは皆まだ倒れていた。皆を起こし、馬車を確認した。殿下と奥様が消えていた。拐かされたのだとすぐに分かった。皆が右往左往している。私は考える。こういう時、殿下ならどうなさるか。とにかく手がかりになりそうな物を探そうと思った。投げ込まれた麻酔弾の殻を手に取り、調べる。匂いを嗅いで分かった。ホリアツスの花の香りだ。この周辺でホリアツスが自生しているのはパラベンしか無い。さて、どうするべきか。今は体勢を整えてしっかりと統率をとらねば。その場で全員を集め、今の状況を把握させる。今の部隊編成では弱小国パラベンと言えど、戦うには厳しい。早馬を走らせて王都に伝令を送る事、今この場所で夜営を張る事、少しずつ捜索範囲を広げて行く事を告げる。早馬にはルーシーが志願した。早馬を送り出し、夜営を張り、体調不良の者が居ないか気を配る。翌日は朝から捜索範囲を広げパラベンにほど近い小屋から煙が上がっているのを見て、小屋へ向かった。小屋の入口に殿下のマントが掛けられていて、中に入ると殿下が奥様を守るように抱いていらっしゃった。◇◇◇ルーシーを見る。ルーシーは両手に酷い怪我をしていた。「ルーシー、それは何だ」聞くとルーシーは俯いたまま言う。「早馬で一刻も早く王都に辿り着かねばならず、なので手綱を離さないように縛りました」ルーシーが突然、ひれ伏して言う。「奥様!殿下!申し訳ありませんでした!」その声は涙に濡れている。「ルーシー、止せ、お前のせいでは無い」俺はジルを抱き寄せながら言う。「確かに俺はお前をジルの護衛騎士に任命した。だがな、お前はまだ見習いだ。ふた月と言ったろう?」ジルを見下ろして微笑み、
「そうか?」私に覆い被さっているテオは微笑んで聞く。そう聞きながらもテオは私の体を撫で回している。「ダメよ、テオ。熱があるなら、こんな事……」テオは軽く息を切らして私の腕をベッドに抑える。「抱かせてくれ、頼む……」そう言って私の耳元に顔を埋めて私を抱き締める。「頼むから、抱かせてくれ、ジルを抱きたい……」熱い吐息が耳をくすぐる。テオが私の耳に舌を入れる。「んっ……」そうされるだけで体中に鳥肌が立つ。パラベン城を出る時には簡素な服しか着せて貰えなかった。その簡素な服がテオの手で剥がされていく。テオの体が熱い。でも止められなかった。私もテオに抱かれたかった。テオを感じたかった。テオの手が足の間に差し込まれ、中を掻き混ぜる。体が仰け反る。「あぁ、ジル……もうこんなに濡れて……」私の乳房を口に含んだままテオが言う。「テオ……」体が熱くなる。「もう、限界だ……」テオはそう言って、自分の服を脱ぎ捨て、私のそこに自分のそれを埋める。息を飲む。「テオの、熱いの……硬くて、大きい……」言うとテオが息を切らして言う。「ジルの中も、熱くて、絡み付いて来て、締め付けてるよ……」テオが動き出す。押し込まれる度に強い快感に飲まれる。「ジル、愛してる、愛してる……」テオが囁く。テオの首に手を回して言う。「愛してる、テオ、愛してるの……」切られてしまったテオの髪が私の頬をくすぐる。テオの髪を梳くように髪の中に手を埋める。絶えず送り込まれて来る快感に手足の感覚を失う。「あぁ、テオ、もう……」テオの動きが激しくなる。「あぁっ、ジル……!」体中が熱くて、腰の感覚が無くなる。「あぁ、ダメ……」頭の芯が痺れていく。「あぁっ、イクッ……!」テオが私の一番奥にそれを押し付ける。あぁ、来る、テオの熱い飛沫が…私の中に…。テオの腰がグンと動く。中でテオのそれがドクンドクンと鼓動している。「あぁ、テオ……」ガクンと体が跳ねてビクビクと痙攣する。中がヒクヒクと甘く痙攣する。息を切らして倒れかかるテオを受け止める。「テオ、テオ……?」テオは気を失っているようだった。体中が熱い。熱が上がったのだと分かる。私はテオの腕の中から抜け出し、脱いだ服を着て、濡らしたシャツをもう一度水に浸して絞る。シャツでは大きい。私は辺りを見回して使えそうな物を探す。火かき
お部屋のベッドへ行く。テオドール殿下は地下牢にて手当を受けている。早く伝えなければ。ベッドに座っている姫君様に近付いて言う。「姫君様、テオドール殿下は生きておられます」その一言で姫君様が真にお目覚めになる事を願いながら言う。姫君様の目が動く。そして私を捉える。「テオドール殿下は生きておられるのです」もう一度言うと姫君様はお顔を動かして私を見る。「……テオが、生きて、る……?」姫君様の瞳に力が宿り、その瞳に一気に涙を溢れさせる。「はい、姫君様、テオドール殿下は生きておられます」ポロポロと涙を零し、体が動く。「テオに、テオに会わせて……」姫君様がベッドを出る。「こちらへ。」姫君様を誘導して地下牢へ行く。地下牢にはシオス陛下もいらっしゃった。姫君様はシオス陛下など視界に入っておらず、牢屋の中で手当を受けているテオドール殿下を見つけると駆け出す。「テオ!」牢屋の入口は開け放たれている。その入口から飛び込むように中に入り、テオドール殿下に飛び付く姫君様をシオス陛下は呆然と見ていた。◇◇◇ジルが俺に抱き着く。俺もジルを抱き留めて抱き締める。「ジル……すまなかった、怖い思いをさせたね」ジルは俺の顔を両手で触れながら泣いている。「テオ、テオ……」ジルは自分から俺に口付けて来る。ジルを抱き締め口付ける。◇◇◇俺とジルは地下牢から出され、荷台に乗せられ、運ばれる。「このまま国境までお送りします。国境を超える事は出来ません、お許しを」太陽が高い。時間は昼くらいか。荷車から下ろされる。ジルは俺に寄り添い、俺は振り返る。マーカスが頭を下げている。国境を超えファンターネの領土内に入る。部下たちはどの辺まで来ているだろうか。頭の中で地図を描く。どこを見ても同じような森の中。森の中という事は馬車道を歩けば、いずれは部下たちと合流出来るだろうと考える。だが、痛め付けられている俺は体力が削がれている。どこまでもつだろうか。両腕を釣り上げられていた時間が長く、腕がまだ痺れている。背中や両肩の傷が痛む。ジルは俺に寄り添い歩く。ジルの肩を抱きながら歩く。途中、休みながら歩いていても景色は全く変わらない。こんなに長くジルを歩かせてしまった。「ジル、すまないな、こんなに長く歩く事なんて無かっただろう?」言うとジルは俺を見上げて言う。「そんな事はどうでも良
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