「はい…」
早鐘のような力強い心臓の音が心地良い。これ程までに力強く脈打つのを感じた事など今まで一度も無い。大きな体、逞しい胸板、力強い腕、そして繊細な心。こんなにも素敵な方がこんなに近くに居たのに、私は今まで何を見ていたんだろう。いや、何も見ていなかった。見ないようにして来たのだ。
家同士の政略結婚など当たり前過ぎて自分の気持ちなんて二の次だった。そうしなければいけなかった。こんなに熱烈にアプローチを仕掛けて来る者など今まで居なかった。
もしかしたら王太子殿下もこんなふうに熱に浮かされていたのかもしれない。そう思うと王太子殿下の気持ちも少しは分かる気がした。それでもあの断罪のような婚約破棄はルール違反だ。ふと、気になって聞いてみる。
「殿下はすぐに私の後を追って出て来たのですか?」
殿下は優しく私の頭を撫でながら言う。
「そうです、貴方を見失う訳にはいかなくて」
そしてクスっと笑う。
「きっと今頃は大変な騒ぎでしょう。でもその騒ぎも明日には別のものに変わっているでしょう」
殿下を見上げると殿下は微笑んで言う。
「こんな事は前代未聞でしょうが、明朝、改めてヴァロア家に伺い、正式に婚約の手続きを進めたいと考えています。きっとヴァロア家ご当主もビックリなさるでしょう。きちんと私からお話を通します。なのでご安心を」
◇◇◇
家に着いて出迎えてくれたのは執事のハンスだ。
「失礼するよ」
そう言って王弟殿下は私を抱き上げて馬車を降りる。
「王弟殿下!」
ハンスは驚いて腰を抜かしそうになっている。
「ヴァロア嬢は足を挫いている。すぐにでも医者に診せるんだ。肘と膝にも怪我をしている」
わらわらと使用人たちが出て来て、私と王弟殿下を見て驚いている。
「どちらへ運べば?」
王弟殿下が聞くとハンスが慌てて言う。
「こちらへ!」
王弟殿下はひとまず、一階の客室へ私を運び、ベッドに下ろしてくださる。
「王弟殿下! 王弟殿下にご挨拶申し上げます。」
ヴァロア家当主の私の父が挨拶する。
「あぁ、挨拶などは良い。それよりもヴァロア嬢の手当てを」
王弟殿下と私の父は連れ立って部屋を出て行く。きっと経緯を話しているのだろう。すぐに医者が呼ばれて手当てを受ける。一通りの手当てを受けると医者が言う。
「2,3日は足の痛みもあるでしょう。なるべく歩かないように。腫れがひたら少しずつ歩くようにしてください」
医者が出て行くと侍女たちがわらわらと集まって来て私の世話をする。しばらくして部屋のドアがノックされ、入って来たのは満面の笑みの父と王弟殿下。どうやらお話がまとまったようだ。侍女たちを下がらせると王弟殿下は私の傍に来て片膝を付き言う。
「明朝、また伺う。その時まで片時も私の事を忘れませんように」
そう言って私の手の甲に口付ける。立ち上がると父に目配せして言う。
「失礼する」
マントを翻し、颯爽と出て行く殿下はとても格好良かった。父は殿下と共に出て行く。きっとお見送りに行ったのだろう。口付けられた手の甲が熱い。部屋に入って来た侍女たちが私の傍に来る。
「お嬢様、お熱でも?」
そう聞かれるくらいに私の頬は赤かったんだろう。
「いえ、違うわ」
頬が紅潮しているのが分かる。抗えずあんなに熱く甘い口付けを二度も…思い出してまた恥ずかしくなる。
◇◇◇
侍女たちを下がらせ、父と向き合う。
「話は殿下から聞かせて頂いた。王太子殿下にはヴァロアから正式に抗議する」
そこでふわっと父が笑う。
「その後の話も殿下から聞いているよ、ジル」
そう言われてどこまでお話が通されているのか、と思う。
「あのような立派な方がジルを見初めて下さっていたとは。正式には明朝にはなるが、王弟殿下と婚約をさせて頂くという事で話を進めて良いのだな?」
私は頷く。
「はい、お父様」
父は微笑んで言う。
「今頃は婚約破棄の話で持ち切りだろうが、明日の午後には正式に、王弟殿下とジルの婚約を発表しようと殿下はお考えのようだよ。そうする事で皆は婚約破棄の事などすぐに忘れて王弟殿下とジルの婚約の話で持ち切りになるだろうからな」
私は思っていた事を聞く。
「婚約を破棄された私と婚約する事で王弟殿下のお名前に傷が付かないでしょうか」
すると父がそれを笑い飛ばす。
「傷など付くものか! 我が家はヴァロアなのだぞ? そのヴァロアの愛娘を袖にして子爵位の小娘などと婚約した王太子殿下の名前に傷は付いても、麗しいヴァロアの令嬢を搔っ攫った逞しい王弟殿下には更なる良き評判が立つに決まっている」
言われてテオを見る。テオは微笑んで立ち上がり、私の手を引く。連れて行かれたのはお風呂。お風呂の隅に立つとテオがガウンの紐を解く。「ジルが前に見たいって言ってただろ?だから見せてあげるよ」テオはそう言って私を見て微笑む。「しゃがんで」そう言われてしゃがむ。目の前にはテオのそれがある。テオは自分でそれを掴むと言う。「見られてると恥ずかしいな」そう言いながら天を仰ぐ。「……出るよ、ジル」言われて視線を戻す。テオの半勃ちのそこからそれが溢れて来る。ジョロジョロと出されるそれを目の当たりににする。あぁ、すごい、出てる……。テオは私の頭を撫でている。出し終わると雫が垂れる。◇◇◇「そんな顔するな……」ジルはとろけてしまいそうな顔をしている。「食べたいのかい?」聞くとジルが頷く。「良いよ」言うとジルがそれを口に含む。「あぁ……」天を仰ぐ。いやらしい格好で俺の前に跪いて、こんな事…ジルの頭が艶めかしく動く。ジルの頭を撫でながら腰が動いてしまう。「はぁ……はぁ……んっ……」ジルの手が俺のそれの根元を握り、しごく。「あぁ……ジル……イキそうだよ……」そこにグンと力が入る。ジルの口からそれを引き抜き、それを握ってしごく。「見ていて、ジル……出すとこ、見ててくれ……」動きを早める。「あっ……ジル……」ドピュッと噴き出す白濁液。ジルはそれを見ている。あぁ、見られている、自分でしごいて出すところを見られている……白濁液が糸を引いて垂れる。息を切らしてジルを見る。ジルはペタンと座ってしまう。それを見て微笑む。俺はそんなジルを抱き上げる。◇◇◇お湯で軽く流した足を拭いてやり、ジルに囁く。「目を閉じて……」ジルが目を閉じる。俺はスカーフを出してジルに目隠しする。「テオ……?」ジルが不安がらないようにジルの手に触れる。「大丈夫」そう言ってジルを抱き上げ、ベッドに上がる。ジルを座らせて言う。「両手を出して」ジルは言われるがまま両手を出す。ジルの手首にタオルを巻く。そして、用意してあった革のベルトをその上から巻いて固定する。「寝かせるよ」そう言ってジルを寝かせる。「両腕を上げて」ジルが両腕を上げる。ベッドヘッドにある飾り穴にベルトを通して固定する。「痛くない?」聞くとジルが頷く。ギシギシと革が軋む音がする。口付ける。舌を絡
ノックがしてメアリーが現れる。「お呼びですか、奥様」入口に立っているメアリーに言う。「そうなの、ちょっとこっちへ来てくれる?」私の座っているソファーにメアリーが近付く。「ここへ座って」すぐ横をトントンと叩く。メアリーが遠慮がちに座る。「何でしょう」メアリーが聞く。入口にはギリアムが立っていて、含み笑いをしている。「あのね、メアリー。あなたに渡したい物があるの」そう言って包みを出す。メアリーは包みと私を交互に見て聞く。「これは……?」聞かれて私は微笑む。「あなたによ、メアリー」途端、メアリーは息を飲む。「私に?」メアリーの手にそれを載せる。「開けてちょうだい」言うとメアリーが包みを開ける。中には眼鏡用のチェーンが入っている。「奥様……」メアリーの目にはもう涙が溜まっている。「あなたにはいつも助けて貰っているもの、テオも私もね。この御屋敷の侍女たちを纏め上げてくれているあなたに、感謝を込めてね」メアリーの肩を撫でる。メアリーが俯いて肩を震わせる。「泣かないで、貰い泣きしそうだわ」「アンを呼んでくれる?」言うと二人が微笑む。「はい、奥様」二人とも新しい眼鏡チェーンがよく似合っている。ギリアムには黒い鎖のものを、メアリーには金細工のものを贈った。パタパタと足音がしてアンが現れる。「奥様、お呼びでしょうか」アンはまだ若い。私とそんなに歳も変わらない。子爵家の令嬢だけれど、ここへ奉公しに来ている。「アン、ちょっとこっちへ来て」アンは私の傍まで来る。私は立ち上がってアンの前に立つ。ここの侍女の服はちょっと特殊だ。普通一般的には黒の侍女服なのだが、ここは濃紺。色だけで王弟に仕えていると一目で分かる。普通、装飾品などは付けないのが一般的だけれど、出自の家柄が高い者は首元などにブローチを付けたりする。この屋敷にも何人か、そういう侍女が居るけれど、アンは違った。私はアンの首元にアメジストをあしらったブローチを付ける。「奥様、これは……?」アンが聞く。私は微笑んで言う。「あなたがここで私に仕えているという証よ。これを付けていれば、どこへだって行けるわ。私の侍女なのだから」アンはポロポロと涙を零して泣く。「奥様……」アンを抱き締める。「泣かないで。あなたにはこれからもっと頑張って貰うんだから」◇◇◇ジルのプレゼ
屋敷に戻る。たくさん見て回った筈だけど、まだお昼だった。昼食にテオが戻って来る。「街は楽しかったかい?」聞かれて頷く。◇◇◇「えぇ、とても。それでね、あなた」あなたと呼ばれてドキッとする。「ん?何だい?」聞くとジルは微笑んで俺に何かを差し出す。それはプレゼントの包みだった。「これは……?」聞くとジルが言う。「あなたに。開けてみて」俺は包みを開ける。中には青い革の手袋が入っていた。「ほぅ、青か、珍しいな」ジルがワクワクした様子で言う。「付けてみて」言われて手袋を付ける。柔らかく、それでいてしっかりとした作りだ。職人の腕が良いんだろう。「どうだい?似合うかい?」聞くとジルはうっとりしている。「似合うわ、とても……」そんなジルに微笑んで、俺は手袋を付けたまま、ジルの顎に手を添えて顔を上げさせる。「こういうふうに使うんだろ?」顔を近付けて言うとジルが言う。「そうよ」そのまま口付ける。口付けたままジルのうなじに手を回す。革の音がする。◇◇◇ジルは街での買い物について話してくれた。まだ渡していないから内緒にしてくれと。そんなふうに言うジルが可愛くて仕方ない。「で、君自身のものは買ってないのかい?」聞くとジルは微笑む。「私のは良いの」そして俺を見上げて言う。「あなたがくれる物以外、欲しい物なんて無いもの」そう言われて微笑む。「そうか。なら街ごと買ってやる。国でも良いぞ?」言うとジルが俺をホンの少し押す。「もう!そんな事言って!」笑ってジルを抱き寄せる。◇◇◇仕事に戻って行くテオに付いて行く。途中でテオの侍従であるダイナスとノリスが合流する。私は二人に錫製のマントの留め具をプレゼントする。二人とも飛び上がりそうな勢いで喜び、その場で付けてくれた。詰所に行くと参謀のマクリー卿と団長補佐のマドラス卿が居た。その二人にもプレゼントを渡す。「頂いても宜しいのですか!」マクリー卿が聞く。「あぁ、構わない。ジルが選んで来たんだ、貰ってくれ」テオがそう言うと二人とも震える手でプレゼントを開ける。中にはルビーをあしらったマントの留め具がある。「これは!」「何と!」二人とも言葉を失い、感動しているようだった。「す、すぐにでも……いや、家宝にするべきか」マクリー卿が言う。私は笑う。「すぐに使って頂けるかしら
お店に入ると革製の物が所狭しと並べられていた。手袋、靴、ベルト……。「いらっしゃいませ、マダム」お店の店主らしき人物が声を掛けてくる。「何かお探しで?」とても礼儀正しい。「あのショーウィンドウに飾ってある青い手袋を見たいのだけど」言うと店主らしき人物は微笑んで頷く。「かしこまりました」今度は女性の方が近付いて来て言う。「宜しかったらこちらへ」促されるまま、店の奥にあるソファーへ座る。青い手袋を手に店主らしき人物が戻って来る。「申し遅れました、私、ここの店主をしております、クエロトーロと申します、こちらは妻のアルディージャ」礼儀正しく挨拶してくれる。「今日はお忍びで?」クエロトーロが小声で聞く。少し驚くとクエロトーロが微笑む。「お見かけしてすぐに分かりました、王弟妃殿下」私は何だか気恥ずかしくて俯く。「ローブをお召になっていても、その麗しさは隠しきれておりませんよ」そして青い手袋をトレーに載せて見せてくれる。手に取るとその青はとても美しかった。「さすがはマダム、お目が高いですね」クエロトーロはそう言うと目を細める。「革を青く染めるのは実は一苦労なのです。染料のラーゴラの花は希少なので」手袋の触り心地はとても良かった。「革製品はお使いになる方によってどんどん変わります。その方の生活に馴染み、色が変わり、その方独特の味が出るのです」私は決める。これにしよう。「これを頂くわ」クエロトーロは深くお辞儀をして言う。「私共の品を選んで頂き、大変光栄に存じます。プレゼント用にお包み致します故、お待ちください」テオがあの青い手袋をするところを想像して、ワクワクする。きっと似合う。立ち上がって店内を見る。ブラウンの手袋が目につく。手に取ると柔らかく、でもしっかりとした作り。女性用で小さく作ってある。「ルーシー」呼ぶと入口に居たルーシーが来る。「はい、奥様」私はブラウンの手袋をルーシーに渡す。「付けてみて」ルーシーは少し困惑しながらも手袋を付ける。「どう?」聞くとルーシーは照れ笑いしながら言う。「えぇ、とても柔らかくて心地良いです」私はそれを聞いて嬉しくなる。振り返るとアルディージャが控えている。「これも頂ける?」アルディージャが笑顔で頷く。「かしこまりました」ルーシーが手袋を外そうとするのを止める。
仕事に復帰する。なまった体を鍛え直し、王城に行き国政を兄上と執り行う日々に戻る。家の執務はジルが取り仕切り、俺が持ち帰った書類にも目を通してメモを書き残してくれる。ジルの指摘は的確で、アドバイスも役に立った。俺はそれを決して自分の手柄にはせず、ジルが提言してくれているとハッキリ表明した。「やはり、お前の妻は有能だな」休憩中のお茶を飲みながら兄上が言う。「長く王妃教育を受けていたからな」ふと兄上を見る。顔色が悪い気がした。「何だ、兄上、具合でも悪いのか?」聞くと兄上が笑う。「次の世継ぎを作るのに忙しくてな」そう言われては何も言えない。「そうか」俺はふと疑問に思って聞く。「まさか、妾じゃないだろうな?」兄上は笑って言う。「私の相手はセリーヌしか居ないよ。もう懲りた」言われて笑う。そうか、励んでいるのだな、と思うと兄弟でも何だか恥ずかしくなる。「お前も励んでいるか?」聞かれて俺は吹き出す。「まぁな。心配するな」兄上は微笑んでまたお茶を飲む。◇◇◇それからしばらくして、ジルの護衛騎士に任命したルーシーが正式に護衛騎士となった。ジルが決めたデザインの服は凛々しく、ルーシーに良く似合っている。騎士団での小さな任命式を終えて、俺はルーシーに言う。「頼んだぞ、ルーシー」言うとルーシーは頭を下げて言う。「はい。この命に代えてもお守りします」ジルはその様子を見守ると、すぐに言う。「ねぇ、テオ、ルーシーを連れて、街へ行っても?」俺は笑って頷く。「あぁ、良いよ」ジルはルーシーの手を取ると引っ張って言う。「行きましょう!」ルーシーはジルに引きずられながらも俺に頭を下げ、ジルについて行く。その様子は本当に微笑ましい。周りに居た騎士たちもニコニコしている。「本当に愛らしいお方だ」またマクリーが言う。「あぁ、ジルはいつも愛らしいよ」二人の後ろ姿を見ながら目を細める。「殿下も変わられましたな」マクリーが言う。「そうか?」笑うとマクリーは微笑んで言う。「はい、それはもう。力がみなぎっていて、こう…お近くに居るだけで、あぁ敵わないなと思わせる、そこは変わりませんが、今は殿下の根底にはしっかりとした愛という地盤がある。我々にもそれが良く分かります。以前の殿下は少し危うさがあったので」それを聞いて苦笑いする。「戦場でいつ死ん
「私、何も出来なかったの……ただ、水にシャツの切れ端を浸して絞ってテオに乗せるだけ……それを繰り返す事しか出来なかった……」ジルの声が涙に濡れる。「怖かった……目の前のテオがこのまま本当に目を覚まさなかったら?何もかもをテオがしてくれるから、私はそれを見てるだけしかしてなくて、私は無力なんだって、実感したの……」ジルを見る。ジルはポロポロと涙を零している。「テオがこのまま死んでしまったらどうしようって、泣く事しか出来なくて、情けなくて……」ジルの頭を撫でてやる。「だから朦朧としながらも私の名前を呼んで、抱き寄せてくれた貴方にまた抱き着いてしまった……テオの腕の中で思ったの、もしこのままテオが死んだら、私もこのままテオを抱いたまま死のうって……」胸が苦しくなる。ジルを抱き締める。「そんな思いをさせてすまない。怖かったよな、ごめん……」ジルが泣く。あぁ、そうか。俺はパラベンでの一件以降、こうやってジルを腕に抱いて、ゆっくり泣かせてやる事もしていなかったなと思う。きっと我慢していただろうに。救い出された後はバタバタと俺の手当や移動があって、俺たちには常に誰かが付いていた。王都に戻る頃には王城に駆り出され、シオスの処刑やパラベンへの制裁措置やその後の国の再建などを話し合ったりしていた。その後は俺の静養とジルの心の安定をと思って過ごしていたのに。俺はまだジルを分かっていなかった。気丈に振舞っていても、本当はこうして甘えて泣きたかったに違いない。「ごめん……」そう言う事しか出来ない。「本当はね、いつもずっと不安なの……」そう言われて少し驚く。「不安?」ジルが俺を見上げる。「離れている時はいつも考えてる、テオに何か起こっていないか、怪我してないか、誰かがテオに言い寄ってないか……」ジルの涙を掬う。「いつも心配なの……」あぁ、何て可愛いんだ、こんなにも俺の事を愛してくれているなんて。ジルが体勢を変える。俺に跨り俺を見下ろし、俺の頬を両手で包む。「愛してるの、テオ……」顔が近付く。口を半開きにしてジルの口付けを待つ。あともう少しのところでジルが止まる。「しないのかい?」聞くとジルが聞く。「したい?」俺はジルのうなじに手を回して言う。「したい……」ジルは俺を見つめたまま動かない。息が上がる。「あまり俺を煽るな」言うとジルが聞く