Chapter: 手段選ばぬ目的に 3 さっき同じことを鵜野宮《うのみや》さんにも言われたけれど、この人たちは朝陽《あさひ》さんを神楽《かぐら》グループの御曹司としか見れないのでしょうね。 いつだって私と誠実に向き合ってくれる、そんな本当の彼を知っていればこんな風には考えたりしないはずだもの。 だからといって、それで全てが上手くいくわけではなけれど。「ええ……それはそうね、私だって朝陽さんとの価値観のズレを感じる事が無いわけじゃない」「なっ、そうだろう! だから鈴凪《すずな》には俺が一番合うと思うんだ!」 私が彼の言葉に納得したと思ったのか、流《ながれ》はすぐに上機嫌になり話を進めようとする。私は今までこの人に、こんなに単純な人間だと思われていたのだろうか? だからこそ、あんな酷い裏切りも平気ですることが出来たのかもしれないが……「確かにそうだけど、それをお互いに擦り合わせていくのも愛情でしょう? 私に合わせてもらうだけだった流は、それに気付かなかったのでしょうけど」「それも鈴凪が俺を想っていてくれたからだろう!? これからはお前のことを想って大事にしていくんだし、いつまでもそんな意地を張らずに戻って来いよ」 どうしてそこまで自分の都合が良いように、話の内容を勘違いすることが出来るのだろう。もう過去の事として伝えてるのに、今でも自身が想われているとでも? 付き合っている頃は、ここまで話が噛み合わない相手ではなかったのに。「そんな必要はないわ、そこに戻るつもりなんてないもの。流のことを好きだったのも、もう過去の事でしかないから」「……俺がこんなにも頼んでいるのに? 鈴凪は本当に変わったんだな、俺が以前のお前に戻してやらなきゃいけない」 これが頼んでいる態度って言えるの? こんな場所に監禁して強引に言う事を聞かせようとしてる、これは一方的な意見の押し付けでしかない。 それを、流は私が変わったと何度も責めてくる。戻すも何も……私はずっと前からこういう性格だったのに、この人は何も分かってなかったんだ。「ふざけたことを言ってないで、さっさとこれを外してくれないかしら? 私はこんな場所で、いつまでも大人しくしてるつもりはないの」「鈴凪がそんな風に相手を想っていても、肝心の神楽 朝陽が同じ気持ちとは限らない。もしも、アイツから手酷く裏切られてもそう言えるのか?」 よくもまあ、そんな
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-02-19
Chapter: 手段選ばぬ目的に 2「それって……まさかここは県外、とか? ねえ、今は何日の何時であれからどれくらい時間が経ったって言うの?」 流《ながれ》は私がなかなか目覚めなかったとも言っていた、もしかすると自分が思っている以上に時間が経っている可能性がある。そう考えると、どうしても気持ちが焦ってしまって冷静ではいられない。「わざわざそんなことを教えるとでも思っているのか? それに鈴凪《すずな》が今一番に考えるべきなのは、目の前にいる俺の事だろう」 流はそう言いながら、私の手が届きそうなギリギリまで範囲まで顔を近づけてくる。その行動が余計に私を苛立たせるのに、本気でこんな事を思っているのだろうか?「それ以上、私に近付かないで! 分かってるとは思うけれど、流が今やっている事は立派な犯罪なのよ?」 私にやり返される可能性があるから、これ以上は距離を詰めないとは分かっていても気持ちが悪い。流は今の状況に酔っているのだろうけど、これはただの誘拐でしかないのに。 何も悪い事はしていないという表情、彼は罪の意識など全く感じて無さそうで。「ははは、犯罪だって? 何を言ってるんだ、俺たちは婚約までしている恋人同士じゃないか。邪魔をして俺達の間に割り込もうとする、神楽《かぐら》 朝陽《あさひ》の方がよっぽど問題だ」「婚約している恋人同士? こんな風に私を繋いで自由を奪わなければ、まともに話も出来ないのに?」 馬鹿げている、婚約して想い合っている同士なら何をしても良いと? そっちからアッサリと私を捨てておいて、今になって朝陽さんが割り込んだと言えるその神経がどうかしてる。 一方的な復縁の要求と洗脳のような説得を繰り返し、それで勝手に満足しているに過ぎない。「こうでもしないと、鈴凪は俺の話を聞こうとしないから仕方ないだろ? お前が素直になって俺の傍に戻ると言えば、すぐに自由にしてやるのに」「私は最初から素直に自分の気持ちを話してるけれど、納得しないのは流の方じゃない。こんなやりとりは無意味だと、貴方こそどうして分かってくれないの?」 私と流の話は平行線のままだけど、今の状況から彼の言う通りにするのも身の危険を感じるし。かといってあまり反抗的なこの人を態度で逆上させても、きっと良い事は無いだろう。 精神的にもギリギリな状態で、いつまでこうしていられるか不安ではあるけれど。そんな私に流は、今度
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-02-18
Chapter: 手段選ばぬ目的に 1「以前のように隣に座りたいけど、まだ鈴凪《すずな》も戸惑ってるだろうし……ここで我慢しておこうかな」 流《ながれ》は少し離れた場所に置いてあったパイプ椅子を持ってくると、私の手が届かないギリギリの場所に置いて腰を降ろした。その距離にホッとしたが、それと同時に分かってやってるんだという怒りも感じて。 たとえ元カレが相手でも、こちらも嫌味の一つも言ってやらねば気が済みそうにない。「……ええ、それが正解だと思うわよ? 図々しく傍に寄って来たなら、頭突きでもしてやるつもりだったもの」「ずいぶん捻くれた事を言うようになったな、これも神楽《かぐら》の近くにいた所為なんだろうけど。まあその鎖がある以上、そう好き勝手は出来ないだろう?」 自分にとって都合の悪い事は、そうやって全て朝陽《あさひ》さんの所為にしようとする。きっと彼は長い交際期間も、私の事を本当の意味では見ていなかったのでしょうね。 負けず嫌いの性格も、猪突猛進なところも……そんな私の事を、朝陽さんは最初から分かってくれたのに。 今の流はこんな鎖を使わなければ、私と対等に話すことも出来ないんだなって悲しくもなる。「本当にね、復縁を拒否してここまでされるなんて思わなかったわ。過去の自分の見る目の無さがよく分かって、別れて正解だったと感じてるけど」「そういう鈴凪がどこまで強がれるのか、俺もとても楽しみだよ。こうして鎖に繋がれているのに、まだ諦めてないと言わんばかりのその表情にもそそられるし」 流の発言に気持ち悪ささえ感じる、今の彼には嫌悪や軽蔑という思いしか湧いてこなくて。でも……もしも流がここまで歪んでしまったのが、自分の所為だとしたら? そう考えかけて首を振る、私がこの状況で最優先にすべきは自分自身のはずだから。「貴方達の方こそ何時までそんなに余裕でいられるかしら、朝陽さん達が何もしてないとは思ってないでしょう? ここがどこだか知らないけれど、きっとすぐに見つかるはずよ」 神楽の御曹司である彼にとって、そういった方面のネットワークは半端ではない。何時何時に自分や周りの人に危険があるか分からない、だからこそ必要な情報網なのだと聞いたことがあったから。 このことは鵜野宮《うのみや》さんだって知っていそうなのに。それとも、もしかして?「はは、それはどうだろうな? そもそもこの場所は鵜野宮さんが裏
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-02-17
Chapter: 執拗に絡む悪意に 11 自由に動くことが出来ないがそれでも何とか後ろを見ると、分厚そうな扉の前にいたのはやはり元カレの流《ながれ》だった。コンビニにでも行っていたのだろうか、手には店のロゴのついた白い買い物袋を持っている。 彼は私が起き上がっている事に気付くと、すぐに傍に駆け寄って来て。「良かった、鈴凪《すずな》! ようやく目が覚めたんだな、あまり起きないから薬の量を間違えたのかと心配してたんだ」「……流、やっぱりあなたも共犯だったのね?」 意識を失ってここに連れて来られる前、いきなり何かを嗅がされたような記憶はある。流はそんなものまで使用して、私をこんなところに攫《さら》ってきたというのか。 本当に大好きだった、何年も愛していたはずの元恋人が……実はこんなことをする人だったなんて、正直信じられない気持ちで。「あら、今回の計画を立てたのは最初から流君だったのよ? まあ、私にとっても都合が良かったからこの話に乗ったのだけど」「利害の一致ではありますね、俺は鈴凪と貴女は神楽《かぐら》 朝陽《あさひ》とお互いにヨリが戻せるっていうところで」 鵜野宮《うのみや》さんが首謀だと思ったのに、実際は流が計画したものだったらしく。その事にも驚いたが、冷静に鵜野宮さんとの関係は利害の一致だなんて言い切って。 私と別れる時はあれほど彼女に熱心にアプローチしていたはずなのに、どういうことなのか訳が分からない。「それはずいぶんと自分勝手な話じゃないのかしら? 私と朝陽さんは、貴方達とヨリを戻したいなんて気持ちは欠片もないのに」「……鈴凪、お前は神楽 朝陽に騙されてるんだよ。俺と何年一緒にいたと思ってるんだ、本当に鈴凪の事を理解出来るのは俺しかいない筈だろう?」 だけど私にだってちゃんと意思はある、流や鵜野宮さんがどう思っていようとそんなの関係ない。私は朝陽さんと一緒に歩いていく未来しか、もう考えられないんだもの。 それをハッキリと伝えるために、流にはもう感情が無いということを言葉にする。「そうね、でも一緒に過ごした期間に私を裏切っていたのは流の方よね。少なくとも私はそんな貴方の事を理解してなかったし、これからしたいとも思わない」「何を言うんだ! 浮気なんて一時の気の迷いで、心から愛していたのはお前だけなんだよ。だから……俺はあいつらから鈴凪をこうして助けだしたんだ」 婚約破棄ま
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-02-16
Chapter: 執拗に絡む悪意に 10 そうして奥にあった人形を片手で持ったまま戻ってくると、それを眺めながら鵜野宮《うのみや》さんは鼻で笑うように言った。「それにしてもずいぶん年季の入った人形ね、安っぽくて地味な感じが持ち主にそっくりで笑えるわ」「貴女の価値観で見ればそうなんでしょうね、その物の大切さを金額や見た目でしか判断出来ないんですから」 何度言葉を交わしてもそう、鵜野宮さんとはどうやっても分かり合える気がしない。今だって二人で会話をしているのに、その中身は噛み合っていないのだから。 物の見え方が違うのか、そもそもの考え方に大きな差があるのか……どちらにしても私達の意見は、きっと平行線のままなのだろう。「なあに、それって負け惜しみ? 貴女の価値観がどうであれ、朝陽《あさひ》のそれと近いのは同じような環境で育った私なのよ。その貧乏くさい性格に、彼はすぐに愛想を尽かすに決まってるもの」「そうでしょうか? そういう鵜野宮さんは財産や地位、そして朝陽さんの容姿など目に見えるものを求めてるようにしか見えません。私の知っている朝陽さんは、目に映らないものもちゃんと大切にしてくれています」 確かに大企業の御曹司として育った朝陽さんは、社長令嬢である鵜野宮さんに近い価値観を持っているかもしれない。でも一つだけ言い切れるとすれば、彼はそれだけしか見えない人じゃないってこと。 だからこそ鵜野宮さんとの恋愛だって引き摺っていたのだと思うし、いまは私に対して精一杯の愛情表現をしてくれる。彼女はきっとそんな事、気にもしなかったのでしょうけど。「はあ、綺麗事ばかり言うのね? 神楽《かぐら》の跡取りである朝陽の財産や地位が目的の癖に、私はそんなのには興味ありませんって顔して……」「そうやって貴女と一緒にしないでもらえませんか? 私は朝陽さんが神楽の御曹司でなくても、彼を想う気持ちに変わりはないんです。むしろ立場が違いすぎても諦められない、それくらい真剣に想い合ってますから」 朝陽さんから神楽家や仕事のことを切り離すのは無理がある、それは当たり前だけど。逆にお互いの立場に差があるから迷いもしたし、彼の想いに応えるのに勇気も必要だった。 それでも朝陽さんの事が本気で好きだから、二人で一緒に頑張ろうって思えたの。「……またそうして純真で素直なフリをするのね、私の朝陽を騙したように。騙される彼にも腹が立つ
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-02-14
Chapter: 執拗に絡む悪意に 9「私は仕方なく朝陽《あさひ》から離れたのよ、彼の父親からそうするように言われてね! 本当は彼を愛してたのに、あの時は身を引くしかなかった……それなのに、貴女なんかがしゃしゃり出てきて!」 鵜野宮《うのみや》さんは自分の都合の良いように過去のことを話してくるが、私はちゃんとその件に関しても朝陽さん達に聞いている。彼女の使う【愛】という言葉の軽さに、私の方が段々と苛立ちを感じてきて……「本当に朝陽さんの事が好きなのならば、なぜ彼のお父さんから対価を受け取ったんです? 社長令嬢である貴女を納得させるために、相当な見返りを要求されたと聞いてますが」「どうして、貴女なんかがそんな事まで……っ!? まさか、朝陽もその事を知っているっていうの?」 彼のお父さんは、初めはこの件について朝陽さんに伝えないつもりだったそうだけど。鵜野宮さん達からの嫌がらせや付き纏《まと》いを説明すると、その経緯についてきちんと教えてくれた。 そもそも幹臣《みきおみ》さんにとっての彼女の第一印象はあまり良くなかったようで……最初から別れてもらうために用意した見返りが、鵜野宮さんの目的だったのかと思う程だったそうだ。「鵜野宮さんはいままで、彼がそんなことも気付かない人だと思っていたのですか? ……ありえない」「さっきから何なのよ!? 自分ではまともに動けない状態の癖に、偉そうに言ってるけどいつまでそんな強気でいれるかしらね」 チラリと視線を私の手首に装着された手錠と縄に向けて、彼女はまたほくそ笑んでみせる。身体の自由の利かない私に対してそんな風に勝ち誇って、いったい何の意味があるというのだろう? ここで弱気になればこの人の思うつぼ、せめて気丈に振舞ってみっともない様子だけは晒さないでいるつもり。だけど不安や恐怖が無いと言えば嘘になる、どうにか自分で逃げられないかと考えてはみるが簡単にはいきそうにない。 鵜野宮さんに勘付かれないようにゆっくりと周りを観察していると、少し離れた場所にシオさんからもらった袋と人形の頭が見えて……「……ああ、あの人形ね? 貴女がなかなか離さないから、流《ながれ》君が仕方なく持ってきたみたいなのよ。あの時の人形と同じように、またメチャクチャに壊してあげましょうか?」「――やっぱり、あの時のは貴方達の仕業だったのね!?」 元カレの流が共犯であろうことは察し
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-02-12
Chapter: 思い出の先を紡いで 5 ――EPILOGUE―― 「ねえ、要《かなめ》はどっちが良いと思う? どうしてもこの二着から、一つを選べなくて」 私達は結婚式に向けてウエディングドレスを選ぶために、式場連携のドレスショップに来ている。要からのプロポーズを受けて、あれよあれよと結婚の話がどんどん進んで今のこの状況。 なによりも驚いたのは、こういうのを苦手そうな彼の方が積極的にブライダルフェスを見て回った事で。選ぶのは私に任せてくれたけれど、意外な一面を見た気がしたの。 並べられた二つのドレスを眺めると、要は迷いもなくこんな事を言い出した。 「迷うのならばどちらも着ればいいんじゃないか? なんならオーダーメイドのウエディングドレスを作っても俺は全く構わないが」 「……そういうことじゃなくてぇ」 要らしい発言にちょっと脱力してしまう、私が聞きたいのはどちらが彼好みで私に似合っているのかという事なのだけれど。全て私の事優先で物事を考える要は、いつもこうなのでちょっと困る。 「ああ、どちらが似合うかという事ならば答えは簡単だ。紗綾《さや》ならばどちらを着ても似合うに決まっている」 「もう! またそんなことを真顔で……」 そんな私達のやりとりに、ドレスを見せるために立っていたスタッフの方もクスクスと笑ってしまって。要はそういう事を全く気にしないから、私一人で恥ずかしがることになるのだ。 試着を済ませてショップを出ると、もう夕方近い時間になっていて。どこかで夕飯を食べていこうという話になったので、最近お気に入りのイタリアンの店に決めた。 「それにしても両親に挨拶をしに行って、すぐに結婚式の準備をすることになるなんてね。反対どころか大賛成なんだもの『こんな娘で良いんですか?』なんて、失礼しちゃうわよ」 「俺はかなり緊張してたんだがな、相手に気にいられようと必死になるのなんて初めてだったかもしれない」 確かにあの時は普段の彼よりずっと笑顔が多くてお喋りだった気もする、家に帰ってからぐったりしてて面白かったけれど。 今思えば、あの時に要が『準備が必要だ』って言っていたのはそういう事だったんだろうけど。私は全く気が付かなくて、この人をヤキモキさせていたに違いない。 「結局ドレスは一つに決めていたが、それで良かったのか?」 「ええ、良いの。一番大事なのは、誰の隣でそのド
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-08-31
Chapter: 思い出の先を紡いで 4 私をベッドに座らせたまま、要《かなめ》はゆっくりと歩いて目の前に来ると静かにその場に跪いた。何故そんな事をするのか分からずにいる私の前に、そっと彼が小さな箱を差し出して……「……っ!!」 ここまでされて、今の状況が分からない筈はない。慌てて要を見れば、彼はとても真剣な表情で私をジッと見つめている。まさかの展開に一気に緊張が押し寄せて、なにも言葉が発せなくなって。 これから起こることを期待して、ゴクリとつばを飲み込んだ。「長松《ながまつ》 紗綾《さや》さん。俺と結婚してもらえませんか?」 要らしい、セオリー通りのプロポーズだけど彼が本気なのは十分伝わってくる。きっとさっき言ったように色々考えて、悩んでのこのセリフなのだと。 熱いまなざしでジッと私の返事を待つ彼の目の前に、私はそっと左手を差し出した。その指輪を、貴方の手で指に付けて欲しいという意味を込めて。 その行動に込められた気持ちを理解し、黙ったままの要が私の手を取ると細身の指輪をスッとつけてくれた。「とても素敵、嬉しいわ……」「そうか」 キラリと輝くダイヤのついた、細身のプラチナリング。派手なものをあまり好まない私のために、あえてシンプルなデザインにしてくれているみたい。 要のそんな私を想ってくれる心が嬉しくて、凄くほわほわとした気分になる。「それにしても……いきなりプロポーズされるなんて、想像もしなかったわ」「そう言うな、俺だってこの時のために色々考えてはいたんだ。だが紗綾があまり鈍い発言ばかりするから、つい……」 少し拗ねたような表情でそんな事を言うから、余計に胸の中が熱くなるじゃない。 要が何度も私の薬指を触って、サイズを確認していたのは気付いていたの。でもきっとまだまだ先の事だと勝手に思い込んでて。 この人が中途半端な気持ちで私と付き合い同棲してるとは思っていなかったけれど、二人の将来を真面目に考えていてくれたことがとても嬉しい。 要の過去にも現在にも、そして未来にも私がずっと隣に居れるんだって。「ずっと大切にするって、約束してね?」「ああ、誰より何よりも大事にする。だから俺の傍でそうやって微笑んでいてくれ」 そっと私の頬に触れる大きな手、要の顔が静かに近付いてきて優しく口付けられる。 今も変わらない、唇に触れる貴方の熱は少し冷たいように感じるけれど……本当は
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-08-31
Chapter: 思い出の先を紡いで 3「これからは思い出の私も目の前にいる私も、大事にしてくれるんでしょう?」「そんなの当然だろう、俺にとって一番大切なのはいつだって紗綾《さや》なんだから」 そんな甘い言葉を当たり前のことのように言いながら、要《かなめ》は優しく私の身体を抱きしめ返してくれる。こうしている時間が一番心が満たされる気がするし、なによりも幸せだと思う。 以前の私では考えられなかった事だけど、もうこの人のいない未来なんて想像出来ないくらいなの。「……ところで、紗綾のお母さんから俺宛に伝言があると言っていたが。それはどんな内容なんだ?」「あら、そっちはすっかり忘れてたわ」 そのために彼をこの部屋に呼んだのに、ついついいつものような時間に酔ってしまっていて。そんな私を要は少し呆れたような表情で見ている。彼はしっかり覚えていて、手紙の内容がかなり気になっていたのだろう。 机の上に置いたままになっていた二通の手紙、その片方の封筒を手に取って要に渡した。手紙の内容は私も知らないけれど、そこに悪い事が書いてあるとは思ってはいない。 鋏《はさみ》を渡すと要は丁寧に端を切り、中の便せんを取り出して静かに読み始める。さっきとは違い、今度は読み終えるのを待っている私の方がソワソワしてしまって。「……要、お母さんはなんて?」 やはり手紙に何が書いてあったのかが気になって、黙ったまま便箋を封筒に戻している要に聞いてしまう。反対されるとは思っていないけれど、どんな反応なのかは知りたくなるもの。 そう落ち着かない気持ちで、返事を待っていると……「そうだな、近いうちにきちんとご両親に挨拶へ行く必要があると思う」「ああ、それはそうね。お母さんは要がどんなふうに成長したのかを、凄く気にしていたから」 子供の頃、私は彼の家庭事情を全く知らなかったけれど両親は気付いていたはずだ。口には出さなかったけれど、両親はきっと要の事もずっと気になっていたに違いない。 今のこの人を見れば二人も安心するでしょうし、出来るだけ早く会いに行った方が良いのかも?「それじゃあ来週の休みにでも会いに行きましょうか? 私からお母さんに時間が取れるか聞いて見るから」「……お、おい? ちょっと待て、紗綾」 スマホを取り出して母の番号をタップしようとすると、慌てた表情の要にスマホを取り上げられて。珍しく焦っているみたいだけど
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-08-30
Chapter: 思い出の先を紡いで 2 自分用に部屋を用意してもらっているけれど、普段は要《かなめ》と一緒にリビングで過ごすことが多い。ここに来てまだほとんど使ってないベッドに腰かけて、荷物の中から取り出した目的の物をパラパラとめくっていく。 両親が大切に保存してくれていたようで、二十年近く経つのに中の写真はほとんど色褪せてはいなかった。このアルバムを開くのは学生の時以来だったかしら? つい最近まで存在もすっかり忘れていたというのに、こうして見てみると懐かしさに心がジンとしてくる。「ふふ、本当に昔の面影を探す方が大変なんだから……」 幼い頃の要をみると、自然と笑みが零れてしまう。再会した時に、彼が誰だか分からなかったのも仕方ないと思ってしまうもの。 そんな事を考えながら、一枚一枚の思い出に浸っていると部屋の扉がノックされた。「……入るぞ、紗綾《さや》」「ええ、どうぞ」 彼は私が返事をするまで決して扉を開けようとはしない、一緒に暮らしてもちょっとした気を使ってくれるのは有難くもある。 部屋に入ると私が座っている隣に腰かけ、手元に開いているアルバムを覗き込む要。「何を見てるんだ? ずいぶん楽しそうだが……ん、これはまさか俺なのか?」「ふふ、そう貴方よ」 そう答えると途端に要が驚いた表情を見せるから、可笑しくて笑っちゃったの。無言でアルバムを捲っていく彼を眺めているのも結構楽しいかも?「まさか、俺のガキの頃の写真があるなんて……自分の手元には一枚も残ってなかったから、かなり驚いた」「そうね。うちの母は、思い出は宝物だって言うような人だから」 要の育ってきた環境や境遇を考えれば、写真が残さず処分されていてもおかしくない。そう思ったからこそ、私はこのアルバムを母に頼んで送ってもらったのだから。 お互いにうろ覚えの記憶でも、二人の思い出を重ね合わせればその時の光景が浮かぶかもしれないって。「懐かしいな、こうしてみると俺にもこんな子供の頃があったのかと不思議な気分になる」「そう? この頃の要は女の子に間違えられるくらい可愛かったじゃない、そういうのも全部忘れちゃったの?」 ちょっと揶揄《からか》ってみると、要は苦虫を噛み潰したような顔をする。どうやら幼い頃に何度も性別を間違えられたことを、本人は結構気にしていたのかもしれない。 ……でも本当にあの頃の要は可愛くて、私が守ってあげ
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-08-30
Chapter: 思い出の先を紡いで 1「ただいま」「おかえり、紗綾《さや》。昼過ぎに実家のお母さんから、何か大きな荷物が届いてたぞ」 要《かなめ》と二人で暮らすマンションに仕事から帰って来れたのは二十時過ぎ。まだまだ不慣れな事もあるが、少しずつ自分が担当する業務も増えて残業する日も少なくない。 今日の要は有給消化で強制的に休みを取らされている、そうでもしないとこの人はちっとも休もうとしないから。「ああ、それは私がお母さんに頼んでおいたの。まだ残してあるって聞いて、久しぶりに見たくなって」「残してあるって、何の話だ?」「……ふふ、まだ内緒」 彼は中身を気にしているようだが、今は秘密にしておきたい。見る前に取り上げられたりしては、せっかく母に頼んだ意味がなくなるものね。 早く開けて確認したいけれど、疲れたしお風呂にも入りたいなと考えていると……「夕飯と風呂の準備は出来ているから、先に湯船に浸かってサッパリしてくるといい」「嬉しいわ、ありがとう」 互いの休みが重ならないときは、こうやって家のことなどをしている事が多い。彼も休みを好きに使えばいいのに『紗綾と一緒でなければ、外に出る意味はない』と。 再会した幼馴染の意外な執着愛に戸惑う事もあったけど、今はそれすら愛おしいと感じれる。それくらい要との日々は喜びに満ちているから。 入浴をすませリビングに戻ると、テーブルには既に食事が並べられていて。その美味しそうな香りに、一気に空腹を感じてお腹がくうっと音を立てた。 そんな私に要は早く座って食べろと目で合図してくるから、先に席について彼が座るのを待って手を合わせた。「んん~、凄く美味しいわ。この秋ナスの肉詰め、ポン酢だとサッパリしてていくらでも食べれそう!」「少し多めに作ってしまったから、好きなだけ食べるといい」 分量を間違えたかのように彼は言うけれど、わざと多めに作っているって私は気付いてる。ここに来た当初はなかなか環境に慣れず、私の体重が少し減ってしまったから。 でもそれもとっくに元に戻って、それどころか……「もう、ここ最近は体重が増えて困ってるって言ってるのに」「紗綾は元々が瘦せすぎているんだ、以前より少し増えたくらいが丁度良い」 何度言っても、こうやって受け流される。彼の料理が美味しすぎて、いつも食べ過ぎてしまう私も悪いのだけれど。 ……にしても、今日の要はいつも
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-08-29
Chapter: 上司と部下ではなく 4「今日からお友達、なんですよね? 私と主任、そして御堂《みどう》さんは」 嬉しそうに微笑んでその手を揺らす横井《よこい》さん、そんな彼女を見て少しホッとするの。今の私達ではこうしてあげるのが精一杯だけど、もし何かあった時は本社からでも飛んでくるから。 そう思っていると、どこからかスマホのメロディーが鳴りだした。すぐに動いたのは横井さん、バックの中からスマホを取り出して画面を操作している。「この人もなんだかんだで、相当捻くれた心配性なんですよね。ふふ……」 画面を操作しつつ何か楽しそうな雰囲気の横井さん、そんな彼女が気になり誰の事かを聞いてみると……「ああ、今のメールは伊藤《いとう》さんです。あの人、どうしてか私の番号を知ってたみたいで」「彬斗《りんと》君が? どうして海外にいるはずの彼が、今も横井さんと連絡を取ってるの?」 彬斗君の考えている事は、昔からよく分からないとこがある。けれど、横井さんを巻き込むような事はしないで欲しいのに。「大丈夫ですよ、私だってちゃんと伊藤さんの事は警戒していますから。でも彼は何故か私の愚痴を聞いてくれたりもして……」 予想外の二人が仲良くなっている事に私と要は戸惑いを隠せなかったけれど、当の横井さんは彬斗君を愚痴吐き相手と見ているみたいで。 梨ヶ瀬《なしがせ》さんにはあんなに苦手意識を見せてるのに、彬斗君は平気だなんて横井さんもよく分からないところがあるわ。 「今夜は紗綾《さや》さんを私が独り占めしていいんですよね、御堂さん?」 予約していたホテルの部屋、要《かなめ》と眠るはずのダブルベッドの上で横井さんは私に抱きついている。 彼女は要と正々堂々と勝負をして、私と一緒に眠る権利を手に入れたのだった。 普段はすんなり諦める要だけど今日はよほど諦めがつかないのか、部屋の端のソファーに陣取ったままでもう一つの部屋へと移動する様子はない。「全く、御堂さんも諦めが悪いですよ? 紗綾さんとはいつでも一緒に眠ってイチャイチャベタベタ出来るんですから、今日くらい私に譲ってくれて良くないですか?」 遠回しに要に向かってさっさと部屋を出て行けと伝える横井さん。もちろんそんな彼女に要が黙っているはずもなく……「横井さんは俺たちが空港に着いてからは、紗綾を散々独り占めしてると思うが?」 バチバチと音を立てて睨み合う
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-08-29
Chapter: 許さない、あの過ち 7 これは冗談とかではなく、この人は人道りの多い道路で平気でこんな事を言っているのだ。他の通行人がこちらの会話を聞いているとは思わないが、彼の甘い台詞のせいで顔が熱くなり真っ直ぐ前を向けなくて。 そんな様子の私を見て、心底嬉しそうな顔をするのは止めて欲しいんですけど。「うん、そうだね。そんな麗奈《れな》の可愛い顔は、俺だけで独り占めしてたいかな?」「……っつ! 貴方は、またそういう恥ずかしい事を!」 流石にこれ以上、甘い台詞には耐えられそうにない! そう思ってグッと顔を上げ片手で梨ヶ瀬《なしがせ》さんの頭を叩こうとしたが、すぐにその腕を掴まれて。そのままズンズン歩き出した彼に、強引に引っ張られてどこかへ連れて行かれる。「ちょっと、梨ヶ瀬さん!? いきなりどこに連れてくつもりなんですか?」「今すぐに二人きりになれるとこ。場所を選べば口説いて良いって、さっき君が言ってくれたからね」 それは違うでしょ!? そういうセリフは、時と場所を選んで言ってくださいって意味でしょうが! ……んん、いや? 私が言った言葉だと、そういう事になるのかもしれない。ああ、だんだん私の頭が混乱してきた気がする。 私がぐるぐるしている間に彼はホテルのロビーで受付を済ませ、いつの間にやらモダンな部屋のソファーに二人並んで座っていた。「……ええと、どうしてこうなってるんでしたっけ?」「そうだね、今日こそ麗奈から良い返事をもらうためにかな? 今日の運勢は大吉だったし、少しくらい強引にいこうかと」 いやいや、梨ヶ瀬さんの今日の運勢とか私にはどうでもいいですし? まずどうして今日は、良い返事がもらえると確信してらっしゃるんですかね。 なんかもう頭が痛いを通り越して、中身が全部真っ白くなりそうな気がする。本当に私がいろいろ気にしてるのが、馬鹿馬鹿しくなってしまうのに。 どうして私はまだ、あの日のあの過ちに捕らわれたままなのだろう? 今もそれを許すことが出来ないで、心があそこに留まっている。 今の自分には、こんなにも心を揺さぶってくる人が現れたというのに。その想いに応えることもせずにズルズルと引き伸ばしてる、そんな狡い自分がここにはいて。 もし……そのうちに梨ヶ瀬さんが私に興味を無くしたら、後悔するのは間違いない。素直になってみてはどうだと、私の中で葛藤が生まれる。 一歩、
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-30
Chapter: 許さない、あの過ち 6 それはそれは、見た目と中身にギャップが有り過ぎてとても残念です。その時や場合に応じて軽めの恋愛を楽しんでそうな雰囲気なのに、想像以上に梨ヶ瀬《なしがせ》さんはしっかり真剣交際をしたいタイプらしい。 だから、なおさらこの人の相手が自分じゃ駄目な気がして……「私は梨ヶ瀬さんが思ってる程、価値のある女ではないと思いますよ?」「俺の中での麗奈《れな》の価値は、君じゃなく俺が決めるものだよね? 少なくとも自分にとって麗奈は、唯一無二の存在だし」 何を言っても全部こうして返してくるから、興味を無くしてもらう事も出来ない。諦めが悪いと自負しているだけあってか、それはもう手強すぎて。 梨ヶ瀬さんは私には勿体ないくらい素敵な男性だって、自分でも分かってるけれど……どうしてこの人は、もっと自分に合った女性を選ばないんだろう? 仮に付き合ったとしても、きっといつか私にがっかりするに決まってるのに。「ねえ、またうだうだ難しく考えてるでしょ? どうして麗奈は好きか嫌いか、それだけで俺を見てくれないんの。俺は君の何だって、受け止める覚悟はあるんだけど?」「……そんな簡単な問題じゃないでしょう?」 何度もそう言ってくれるけれど、答えがそんな簡単な事だとは思えない。全部の問題をクリアーにして、梨ヶ瀬さんだけを見れたら……その時の、答えは予想出来るけれど。 その感情を認めてしまったら、私はきっと身動きとれなくて余計に苦しくなってしまうから。 なのに……「簡単だよ、難しくしてるのが麗奈なだけで」 そんな風に、何も気にしてないように言うから。「そうなのかもしれないって、自分でも分かってはいるんです。梨ヶ瀬さんの言うように出来れば、きっとずっと生きやすいだろうなと思いますし。でも……私が許せないのは多分、自分自身なので」「その理由は、俺に聞かせてもらえないの?」 その答えも本当は分かってるくせに、そうやって聞いて来るんですよね。少しでも可能性があれば諦めない、その言葉は嘘じゃないって何度も繰り返すように。 素直に言ってしまえば楽になる。そう誰かが囁いても……結局は怖くて言えないの、この人に軽蔑されるかもしれないから。「それを隠したままでは、俺と付き合えない。そう考えてしまうところが、麗奈らしいとは思うけれど。正直な気持ち、好きな女性にいつまでもそんな顔をさせておきた
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-30
Chapter: 許さない、あの過ち 5 これ以上、眞杉《ますぎ》さんと鷹尾《たかお》さんの前で揶揄われたら堪らない。そう思った私は、適当な理由を付けて二人と別方向へと歩き出す。梨ヶ瀬《なしがせ》さんにはわざと声を掛けなかったが、どうせあの人は勝手について来るだろう。 どうしてこんな私に執着するのか、何度聞いてもよく分からないけれど。少しずつ信頼するようになって、今では一番この心を揺らす存在になった。「もしかして俺の存在を忘れてるの、麗奈《れな》?」「むしろ存在を忘れさせてくれるような人なら、凄く良かったんですけどね」 存在感が有り過ぎなくせによく言うわよ。私は梨ヶ瀬さんが支社に来て以来、一日だってこの人の事を考えずに済んだ日なんてないのに。 こっちは嫌味でそう言ったのに、梨ヶ瀬さんはその言葉に満足そうな顔をしていて。 ああ、本当に面倒な人と距離を縮めてしまってる。後悔しても、もう後戻りが出来ないところにまで来てる気がして……「ちょっとずつだけど、麗奈の心に俺が存在する割合が増えてるみたいで嬉しいかな」「もう充分過ぎるくらいなんですけどね、どれだけ占領すれば気が済むんです?」 仕事でもプライベートでも無理矢理関わってくるくせに、これ以上を望むというの? そんなベタベタした関係を、この人が好むようには見えないんだけれど。「それはもちろん全部だよ、俺は麗奈を独占したい」「……っ!?」 ああ、もう! 本当にこの人といると頭がおかしくなりそう! こんな蜂蜜みたいに甘い言葉を平気で言えちゃうし、重いくらいの束縛宣言までしてくるんだから。 爽やかさなんてどこかに飛んでいくくらいの激重感情を持っている、そんな梨ヶ瀬さんから逃げられる気がしなくて。 素直になれればきっと楽なはず、彼なら私のどんなところだって受け入れてくれると思いはするのに。 それでもまだ、許せないのは自分自身で。 ……今もまだ記憶から消すことも出来ない、あの日の過ち。 梨ヶ瀬さんはもちろん、紗綾《さや》や御堂《みどう》さんにも話せないまま私の中で今も燻り続けてる。 軽口で周りに愛想を振りまくことも、流行の好きなミーハーなキャラでいるのもそう難しくはないのに。誰かに甘えることが簡単に出来ないのは、それが関係しているからだと思う。 そんな私を梨ヶ瀬さんは、本当にいつまでも可愛いと言ってくれるのだろうか?「……正直、
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-29
Chapter: 許さない、あの過ち 4「ええっ? 今からですか、でも……」 この状況ならば、眞杉《ますぎ》さんが迷うのは分かっていた。でもここでは、女友達と言う立場を最大限利用させてもらうことにして。コテンと首を傾げ、彼女に甘えるようにその細い腕を掴んで見せる。 そうやって眞杉さんを鷹尾《たかお》さんから引き離して、私の方へと引き寄せる。そして……「ちょっと聞いてみたんですけど、どうやら今しか空きが無いらしいんです。私、どうしてもその店で眞杉さんと《《二人きりで》》話をしたくて」「まあ、そうなんですか? 鷹尾さん、梨ヶ瀬《なしがせ》さん! すみません、ブックカフェはまた今度にしてもらっていいですか?」 ほら、見なさい。眞杉さんの優先順位が、鷹尾さんから私に変わっちゃいましたよ? このままでは男二人がこの場に残されることになるが、さて鷹尾さんと梨ヶ瀬さんはどうするかしらね。 そうやって余計な事ばかりを話している男たちを、ちょっとだけ懲らしめてやる。 それくらいのつもり、だったのだけれど……「ああそうだ、横井《よこい》さん。昨夜の事は《《まだ》》眞杉さんには話さないでね?」「――っ!!」 まさか不意打ちで、そんな事を言われるとは思ってなかった。一瞬で昨日の夜の事が頭に浮かんで、あっという間に顔が熱くなるのが分かる。 ……こ、この人は本当にとんでもないわ!「ん、昨夜の事って? え、なになに? もしかして二人、何かあったりしたとか……」「鷹尾さんはそうやって、余計な事ばかり気にしなくていいですから!」 こう言う時だけ、嬉々として話を聞き出そうとしないで! 鷹尾さんがいま気にするべきなのは、隣にいる眞杉さんの事だけですよ。 少しくらい焦ればいいと思って言いだした事なのに、まさか梨ヶ瀬さんにこんな風に返されるなんて。「……あの、大丈夫ですか? 横井さん、顔が真っ赤になってますよ」「平気ですよ、頭に血が上ってるだけですから。主に誰かさんへに対する怒りでね」 そう言って睨んでも梨ヶ瀬さんは相変わらずの余裕の表情、本当にむかつく。オロオロと私達を交互に見てる眞杉さんが可哀想になって、仕方なく鷹尾さんに後は任せる事にした。「眞杉さん! 今度は絶対、私と二人きりでお茶しましょうね。邪魔者がいないときに!」「邪魔者って誰だろうね、鷹尾は知ってる?」 私はいま、眞杉さんに話しかけてるん
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-29
Chapter: 許さない、あの過ち 3「へえ、鷹尾《たかお》もやるじゃないか。俺たちも負けていられないね」「そうですね、私も鷹尾さんには頑張って欲しいと思います。ただ彼と勝負がしたいのならば、梨ヶ瀬《なしがせ》さんお一人でどうぞご勝手に」 そう言ってニコニコと微笑む彼に、氷水のように冷たい言葉を頭から遠慮なくぶっかけてあげておく。 そのはずなのに……「結局、私たちも一緒に行くことになるんですね。せっかくのチャンスだったのに、鷹尾さんって本当に……」「いざとなると意気地がないよね、まあそれが鷹尾らしいんだけど」 目の前を鷹尾さんと眞杉《ますぎ》さんが並んで歩いている、私たちがついてくる必要はどこにあったのだろうか? 新しいブックカフェには興味あるが、鷹尾さんにもそろそろ本気を出して欲しいのだけど。 眞杉さんだって彼の事を嫌ってなどいない、もう少し押せば良い返事がもらえると思うのだけれど。 分かっていることだけど、この二人は見ていて本当にじれったい。「さっさと告白して付き合ってしまえばいいのに、とは思ってます。両思いなのは分かりきってるんですから、見ていてもどかしい」「……それと全く同じことを、あの二人も考えてると思うよ」 そうなんだ、じゃあ尚更さっさと恋人同士になればいいのに。では何故そうしないのか、私にはよく分からないな。 なんて思っていると……「なんですか、ジッとこっちを見て。いまのは鷹尾さんと眞杉さんの話ですよね?」「そうなんだけど、麗奈《れな》には通じてないんだなって。じれったいからさっさと付き合えって、鷹尾に言われたのは俺の方だしね」 ……はい? じれったいのは鷹尾さんたちの方じゃないの? 鷹尾さんたちから見ると私と梨ヶ瀬さんがそういう風に見えるんだって気付かされて、ものすごく頭が痛くなってしまった。「そんな周りに口出す余裕が鷹尾さんにあるのならば、私達ももう少し彼らの為にお世話を焼いてあげてもいいかもしれませんね。眞杉さーん、ちょっといいですか!」「……え、ちょっと!? 横井《よこい》さん、いったい何をするつもり?」 驚いている梨ヶ瀬さんを無視して、私は眞杉さんの隣へと移動した。そのまま彼女に『ある事』をこっそり囁いてから、ゆっくりと鷹尾さんに視線を移す。 思った通り鷹尾さんは私の行動に驚いているので、わざと彼を見て綺麗に微笑んで見せてやった。 いいで
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-28
Chapter: 許さない、あの過ち 2「ねえねえ! 横井《よこい》さん、やっと優磨《ゆうま》と付き合うことにしたの?」「……すみません、鷹尾《たかお》さん。私の耳の調子が凄く悪いようです、もう一度言ってもらえませんか?」 私が笑顔で鷹尾さんにそう答えると、彼は一瞬引き攣った顔をして『……いえ、何でもないです』と目を逸らした。梨ヶ瀬《なしがせ》さんから何を聞いたか知らないが、少なくとも今は上司と部下の関係のはずだから。 それにしても、鷹尾さんも周りに人がいることをよく考えて喋って欲しいものだ。もしこんな話を梨ヶ瀬さんの取り巻きが知ったら、今度はどんな言いがかりをつけられるか分かったものじゃない。 ハッキリとした関係になるまでは、絶対に誰にも知られないようにしておきたいくらいなのに。「でもさ……優磨が昨日からずごく機嫌が良くて。今朝も並ばないと買えない、人気のパン屋のサンドウィッチを差し入れてくれて」「へえ、そうなんですか。なにか良い事でもあったんでしょうね」 鷹尾さんはまだしつこくこの話を続けようとするので、私は何も存じませんという顔で会話をぶった切ってやる。 すると隣に座っていた眞杉《ますぎ》さんの方がこれ以上は聞かない方が良いと気付いたらしく、鷹尾さんに違う話題を振って話を変えてくれた。 随分とご機嫌なのは良いが、これで私の返事が思っていたのと違ったらどうするつもりなのか。まあ……その可能性はないと分かってるから、そんなに浮かれてるんだろうけれど。 ……はあ、それにしても面倒くさい。「なに? 何の話しているの、俺もまぜてよ」 遅れてきた梨ヶ瀬さんが、トレーを持って当たり前のように私の隣に座る。以前は私の隣に眞杉さんが座っていたはずなのに、いつの間にか席替えが行われていたらしい。 『いただきます』と手を合わせる梨ヶ瀬さんは、鷹尾さんが話していた通り確かにご機嫌だ。それに関して私から、その理由を尋ねる気は全くないけれど。「そ、そういえば駅前に素敵なブックカフェが出来たんですよ! 今日の仕事終わりに、ちょっと寄ってみようかと思ってて」「え、じゃあ俺も一緒に行こうかな! ちょうど、新しく読む本を探そうかなって思ってたところなんだよね」 眞杉さんがそう話すと、鷹尾さんがすぐに話題に食いついた。そうそう。貴方は梨ヶ瀬さんのことより、まず自分の事を頑張ってください。 眞杉さんはそ
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-28