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花室 芽苳
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Novel-novel oleh 花室 芽苳

(仮)花嫁契約 ~元彼に復讐するはずが、ドS御曹司の愛され花嫁にされそうです⁉~

(仮)花嫁契約 ~元彼に復讐するはずが、ドS御曹司の愛され花嫁にされそうです⁉~

学生時代からの恋人である、守里 流(ながれ)から突然の婚約破棄!? その理由は彼の会社の御曹司、神楽 朝陽(あさひ)という男の所為だと聞かされた鈴凪(すずな)。 あっさり恋人に捨てられてしまう鈴凪。 怒りにまかせて、婚約破棄の原因である神楽 朝陽に会いに行くが…… 「元カレに復讐するつもりなら……いっそ、世界一の愛され花嫁になってみないか?」 追い詰められた鈴凪に、謎の提案を持ちかける神楽。 どうやら彼も、なにやら訳ありのようで――? 眼鏡を外すとドSに変貌する御曹司、神楽 朝陽 × 明るさと前向きな姿勢が取り柄の雨宮 鈴凪  元カレの流に復讐するため、鈴凪は朝陽の愛され花嫁になりきるはずだったのだがーー? 表紙絵AI学習禁止 
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Chapter: 想い重なる喜びに 4
 確かに朝陽《あさひ》さんは、ドS御曹司で意地悪だと思うことも少なくないけれど……そういう面も全部含めて彼なのだし、こんなに好きになったのだからどうしようもない。 この人だって私の欠点もちゃんと分かっていて、こうして求めてくれてるのだもの。素のままの自分を受け入れ必要としてくれる、そんな朝陽さんを私だって同じように愛したい。「どうしてこの状況で余計に煽るんだ? もう……知らないからな」「ちゃんと責任とって大事にしてくれるなら、それでも良いです。私だってこんな時くらい、思いっきり愛されたいですから」 今、私が一番欲しいのは朝陽さんからの純粋な愛情で。その表現の仕方が少しくらい自分本位なものでも構わない、私はそう思っていたのに……何故かそれを聞いた朝陽さんは、私の肩口に顔を埋めて小さく唸った。 私が何か、彼を怒らせるような事を言ったのだろうか? そう心配しかけたがどうやら杞憂だったようで、よく見ると朝陽さんの耳が赤く染まっていた。 ……これって、もしかして朝陽さんが照れているってことなの?「あんまり可愛いことばかり言うな、どれだけ我慢してやってると思ってるんだ」「か、かわいい……っ!?」 言われ慣れてない言葉を、まさか朝陽さんの口から聞く事になるなんて。一気に頭まで沸騰してしまうかと思った、嬉しいのと恥ずかしいのでちょっとパニックになりかける。朝陽さんがここまで恋人に甘い人だったなんて、聞いてません! だけど、そんなこの人が凄く愛おしく感じるから……私もどうかしてるのかもしれない。 そんな私の肩口から顔を上げた朝陽さんに、少しだけ乱暴に口付けられて彼の舌に捕まってしまった。舌を絡ませあう濃厚なキスに、思考は蕩けて体から力が抜けていく。 キスが上手なのは知っていたけれど、想いが重なったからなのか以前より強い快感を得てしまうみたいで。「はあ、は……っ、ちょっと……待って、朝陽さん」 繰り返される深い口付けに上手く息が出来なくなって、一旦ストップして欲しいと頼んだのだが……朝陽さんの返事は予想と違って。「悪いけど、もう無理」「!?」 私を見つめる朝陽さんの瞳には確かな熱があって、その上に獲物を仕留める獣のように強い意志を感じた。この人に私の全部を食べてもらいたい、そう思い無意識に彼を受け入れるよう両手を大きく広げてみせる。「鈴凪《すずな》
Terakhir Diperbarui: 2025-11-17
Chapter: 想い重なる喜びに 3
 本気かそれとも冗談なのかすら分からないようなそのセリフに一瞬戸惑ったが、もしも朝陽《あさひ》さんがそれを実行に移したらとんでもないような事になりそうな気がする。 そう思って、つい誤魔化そうとしたのだけれど……「それって……ただの冗談、ですよね?」「これが冗談かどうかは、今夜一晩かけてじっくりその頭と身体に教えてやるよ」 本気でそう返されて、何も言えなくなってしまいそうだ。今の朝陽さんの瞳には確かな情欲と、私に対する独占欲を映している。そのことに、私自身が喜びを感じてしまうのも事実で。 だけど……急にシャツを捲ってブラを引き上げそのまま私の胸に顔を埋めた朝陽さんの姿を見て、一気に身体の熱が上がってしまった。「ちょ、嘘でしょ? 朝陽さん、それやだあ……」「鈴凪《すずな》が本気で嫌がる事はしない、俺はお前を気持ち良くさせたいだけだから」 私の胸の谷間に顔を埋めたまま、両手は外側から膨らみを掬うようにして触れてくるから。とんでもなくいやらしい事をされている気分になる。それが気持ち良いと思ってしまう自分に戸惑うが、このまま快感に身を委ねたいような気もしてくるから不思議だ。 性的な経験なら朝陽さんと私では比べ物にならないだろう、それくらい慣れた手つきにちょっとだけ拗ねたくもなるけれど……今は私だけを見てくれてるから。「ふっ……う、んん……あっ」 勝手に口から漏れてしまう甘い声を噛み殺そうとするけれど、そんな私にもっと喘げとばかりに朝陽さんは感じる部分を執拗に攻めてくる。この人に触れられるたびに理性は溶けて形をなくし、本能に従って素の雨宮《あまみや》 鈴凪を全て晒してしまいそうで。 朝陽さんは本当に、そんな私で全部受け入れてくれるだろうか? 「可愛い、もっとそのヤラシイ声を聴かせろ。俺も……ヤバいぐらい興奮してる」「やぁ……っ、そういうことばっかり……朝陽さんの、意地悪……ぁんっ!」 理性が壊れかけているのはどうやら私だけではなかったようで、朝陽さんも今の状況に興奮を隠せないらしかった。まるで獲物を見つけた獣のような鋭い視線を向けられているのに、それでも身体中がゾクゾクするのが止められない。 心と身体……私の全てが、この神楽《かぐら》 朝陽という男性を本気で求めてるんだって。「あまり、優しく出来ないかもしれない」「そんなの……朝陽さんにな
Terakhir Diperbarui: 2025-11-16
Chapter: 想い重なる喜びに 2
「んっ……くすぐったいです、朝陽《あさひ》さん」 啄む様なキスを唇だけでなく頬や首筋まで何度も落とされて、そのくすぐったさでたまらず身を捩ったのだけど。 そうは言っても、もちろん本気で嫌なんじゃない。ただあまりに優しくて私が勝手に恥ずかしがっているだけで、朝陽さんが悪いわけでもなく。 それでも……こんな時だけ特別に甘くて優しいのは、ちょっと反則なのではないかとは思う。「嫌か?」「嫌なわけじゃないですけど……」 その聞き方は本当に狡いんですってば。 朝陽さんは私が照れてるだけだって分かってるから、そんな言い方をするんでしょう? そう考えると、この人の本質的な部分は変わってないのかもしれない……ドSという意味では、だけど。「じゃあ、止めない」 即答ですね、そんな予感はしてましたけど。しかも先ほどよりも焦らすような口付けをされて、身体の内側からジワジワと酔わされてる気分になる。 彼からの蕩ける様なキスで溶けていく理性、そして熱を帯び始めた私の全てが……もっとこの人が欲しいと訴えてくる。「い、じわるっ……!」「そんな俺が好きなんだろう、鈴凪《すずな》は?」 そういうところだけが好きだなんて言ってませんよね! 絶対分かってるくせにそうやって自分の都合良い様にしちゃうのが、確かにこの人らしいけど。 でもそんな彼の言葉に、私が『違います』と返す事は出来なかった。「ひゃあ……っ!」 此方が文句を言おうとしたのを察したのか、朝陽さんが薄いシャツの上から胸の先端を探し当てそのまま喰んだから。急に与えられた性的な刺激に、私の身体がビクンと跳ねて中心にジクジクとした熱が広がる。 でも、これだけじゃあ……もの足りない。朝陽さんから与えられる微熱は私を本能に忠実にしてしまったようで、もっともっとと彼に強請りたくなる。 私の身体をこんな風に欲張りにしたのも、紛れもなくこの人で。私が知らなかった抱き合うことの気持ちよさを、朝陽さんがわたしに教えてしまったから。「敏感だな、少し前まで感じることが分からないと言ってたくせに」「……あ、朝陽さんの所為じゃないですかっ!」 一度目の夜は慰め合うように抱き合ったが、次の時には朝陽さんは私に快感を教え込むようにこの身体に触れた。その為か、少しの刺激で反応してしまう様になってしまって。 それなのに朝陽さんは、それさえ
Terakhir Diperbarui: 2025-11-15
Chapter: 想い重なる喜びに 1
「ひゃあっ!」 ここまで運んでくるのは丁寧だったのに、少し乱暴にベッドに降ろされ変な声が出てしまった。そんな私に朝陽《あさひ》さんがすぐに覆いかぶさって来て、ゴクリと唾を飲み込む。 こうして彼のベッドで触れ合うのは始めてじゃないのに、今とんでもなく胸がドキドキしてる。やはりさっきの朝陽さんからの告白が、予想外過ぎたこと所為かも? それでも最初から諦めて、隠しておかなければならなかった想いを伝えることが出来たのは本当に嬉しくて。夢なんじゃないかと、少しだけ思ったりもした。 だけどそれを確認する間もなく、真上にいる朝陽さんが私の頬に触れて……「……嫌か?」「そんなわけないじゃないですか。そりゃあ確かに、ちょっとは緊張はしてますけど」 少しだけ不安そうな表情で問いかけられて、私はゆっくりと首を横に振った。正直なところ思いもよらない展開に戸惑ってはいるけれど、それは朝陽さんの所為じゃないし。 好きなのは私だって同じだから、こうして求められるのは嬉しくて仕方ない。それに触れ合えれば、もっと朝陽さんに近付ける気がするもの。「……俺も緊張してる、これでもかなり気が急いてるんだ」「そうは見えないところが朝陽さんですよね、私なんか今にも心臓が破裂しそうなのに」 いつも余裕そうな朝陽さんがそう言うって事は、本当に彼は私を求めてくれてるって事なんだろう。その言葉で、朝陽さんに対しての愛おしい気持ちが一気に溢れてくる。 ――好き。本当に、この人が大好き。 今まではほとんど一方通行だった、そんな恋愛ばかりの私を……受け止めてくれる。同じくらいかそれ以上の愛情をくれて、私を満たしてくれるの。「……鈴凪《すずな》」 そう私の名前を呼びながら、朝陽さんが部屋の照明を暗くしたけれど常夜灯は付けたままで。恥ずかしいから消して欲しいと頼んだけど、ちゃんと鈴凪を見たいんだって聞き入れてはもらえなかった。 今、朝陽さんが愛し合おうとしているのは私。もう元カノである鵜野宮《うのみや》さんの存在に嫉妬したり、彼女の行動に怯えたりしなくていいんだって。「私を見てください、私だけを……お願い、朝陽さん」「今はお前しか見る気は無いし、嫌だって言っても離してやるつもりはないな」 意外な独占欲を見せだした朝陽さんに驚いたが、背中に回された腕と温かな彼の胸に素直に甘えることにした。こ
Terakhir Diperbarui: 2025-11-12
Chapter: 心惑わせる告白で 7
「……そんな所だけ、とは? まるで俺がそれ以外では気が短いと言いたげだな、否定はしないが」 つい口から出た言葉で怒らせてしまったかと思ったが、そんな事はなく。朝陽《あさひ》さんはあっさりとそれを認めてしまう。 いつもだったら絶対に嫌味の一つも言うのに、今はとんでもなく機嫌が良いようで。 あらかた予想はしていたが、やっぱりすでに私の方が振り回されてしまっている。「本当はどっちなんですか、もう……」 そう言って溜息をつく私の髪に、何故か朝陽さんが勝手に触れてくる。先程までと一変した甘い雰囲気に、こっちの方がついていけそうにない。 それなのに、朝陽さんは…… 「さあな。そんな事より今は、こっちの方が俺にとって重要だし?」「……こっちって?」 彼から含みのある言い方をされて、つい身構えてしまう。朝陽さんがこんな話し方をする時は、絶対に私に何かをするつもりだったから。 さすがに恋人同士となった今でも、そんな意地悪はしないと信じたいのだけど。「晴れて両想いという事が分かった事だしな、もっと相手の事を知りたいと思うのは当然の事だろう?」「その知りたいって、それはどういう意味ででしょうか……まさか?」 それは私だって同じだし、もっと朝陽さんの事を知れたらなって思いはするけれど。そうして身近に感じれたら、幸せなんだろうって。 だけど、展開がいきなりすぎて……まだ自身の頭と心の整理が出来ていない。 だからこそ、どうにかこの話を誤魔化したかったのだけど。「くくっ、鈴凪《すずな》の期待に応えられるよう俺も努力しなきゃいけないだろうな」 そう言うと朝陽さんは、私の脇と膝裏にスッと手を差し込んでそのまま抱き上げてしまう。そんな事をされるとは思っておらず、つい悲鳴を上げそうになったが何とか耐えたけど。 でも、これってお姫様抱っこですよね!?「――え? ちょ、ちょっと待って朝陽さん!?」「嫌だ、待たない。俺は前回からずっと、鈴凪をおあずけされたままなんだぞ」 それを今のこの状況で言うのは狡くないですか? 朝陽さんは私に断れないようにして、そのまま彼の寝室に向かってズンズンと歩き出してしまう。 さっきお風呂に入ったばかりで良かった、なんて思えるわけもなく。必死で朝陽さんの説得を試みたが、彼は全く聞く気は無いようで。「そ、それはっ……ねえ、私の話も聞い
Terakhir Diperbarui: 2025-11-11
Chapter: 心惑わせる告白で 6
 だけど、どうしても素直に自分の気持ちを口に出来なくて。朝陽《あさひ》さんにきちんと伝えようと思う程、ハードルが高くなる気がするのは何故なのだろうか? ただ「好き」の一言が言えなくて、自分なりに頑張ったのだけど。「私は、朝陽さんの事が……気にはなっていますよ、もちろん」 これは失敗した、とは自分でも分かっている。 朝陽さんがこんな伝え方で満足するような人ではないという事も、ちゃんと知っているのに。 でも朝陽さんはそれでも怒らずに、まだ私と向き合おうとしてくれて。「それは特別な意味で、という事で合ってるか?」「……ええと、そういうことになりますね」 はい、そうです! と言えばいいのに、どうしてまだこんな風にまどろっこしい伝え方をしようとしちゃうの? さすがに自己嫌悪に陥りそうになっていると、朝陽さんは……「曖昧な言い方をするな。俺が聞きたいのがどういった言葉なのかくらい。お前だって分かっているんだろ?」 やっぱりハッキリと言葉にして、彼に告げなければいけないらしく。今度こそ、としっかり覚悟を決めて朝陽さんに向き合った。「ああ、もう。言えばいいんですよね、ちゃんと言えば! 私だって朝陽さんの事をずっと意識しちゃってましたよ、もの凄く!」 もの凄く! を強調していれば、朝陽さんだって私が彼に惹かれている事を分かってくれるはず。 そして私がどれだけ鵜野宮《うのみや》さんに嫉妬したのかも、ちゃんと伝わればいいのに。「……はは、ちゃんと言えるじゃねえか。俺は欲しがっている言葉を」 朝陽さんが見たこともないような顔で笑ってて、ドキンと大きく胸が鳴る。 そんな、私の言葉でこうも嬉しそうな顔をしてくれるんですか? 自然に自分の顔が熱くなっていくのを感じて。「言うまで許してくれる気は無かったじゃないですか! 朝陽さんは、絶対そういう人ですよね」 それを誤魔化そうと、朝陽さんに嫌味っぽく言ってみたが今の彼にはダメージは与えられないようで。まだ朝陽さんは、ニコニコと余裕そうに微笑んでいる。 なんだか、負けた気がして少し悔しいのだけど。「まあ、そうだな。こう見えても恋愛事に関しては気が長いんだ、鈴凪《すずな》が諦めるまで待てる自信はあったし」「どうしてそんな所だけ、はあ……」 つまり、朝陽さんが納得する言葉が出るまで終わらせる気は無かったらし
Terakhir Diperbarui: 2025-11-09
唇に触れる冷たい熱

唇に触れる冷たい熱

唇に触れる御堂の指は冷たいのに、触れられた私の唇はジンジンと熱を持つ。 お願い、御堂。それ以上何も言わないで…… 「よく覚えておけ、お前は俺から逃げきることなんて出来ないのだから――」 課長の代理として支社にやってきた幼馴染の御堂に強引に迫られる紗綾。 とある理由で恋に憶病になっている紗綾はそんな御堂を避けるようになるが、御堂に紗綾を逃がす気は全くないようで――? 強引な幼馴染に仕事に生きたい臆病な美人がジリジリ追いつめられる、じれったいオフィスラブ。 本社から支社に移動して来た課長代理 御堂 要(みどう かなめ)29歳 × 支社に勤める仕事一筋の美人主任  長松 紗綾(ながまつ さや)29歳
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Chapter: 思い出の先を紡いで 5
 ――EPILOGUE―― 「ねえ、要《かなめ》はどっちが良いと思う? どうしてもこの二着から、一つを選べなくて」  私達は結婚式に向けてウエディングドレスを選ぶために、式場連携のドレスショップに来ている。要からのプロポーズを受けて、あれよあれよと結婚の話がどんどん進んで今のこの状況。  なによりも驚いたのは、こういうのを苦手そうな彼の方が積極的にブライダルフェスを見て回った事で。選ぶのは私に任せてくれたけれど、意外な一面を見た気がしたの。  並べられた二つのドレスを眺めると、要は迷いもなくこんな事を言い出した。 「迷うのならばどちらも着ればいいんじゃないか? なんならオーダーメイドのウエディングドレスを作っても俺は全く構わないが」 「……そういうことじゃなくてぇ」  要らしい発言にちょっと脱力してしまう、私が聞きたいのはどちらが彼好みで私に似合っているのかという事なのだけれど。全て私の事優先で物事を考える要は、いつもこうなのでちょっと困る。 「ああ、どちらが似合うかという事ならば答えは簡単だ。紗綾《さや》ならばどちらを着ても似合うに決まっている」 「もう! またそんなことを真顔で……」  そんな私達のやりとりに、ドレスを見せるために立っていたスタッフの方もクスクスと笑ってしまって。要はそういう事を全く気にしないから、私一人で恥ずかしがることになるのだ。  試着を済ませてショップを出ると、もう夕方近い時間になっていて。どこかで夕飯を食べていこうという話になったので、最近お気に入りのイタリアンの店に決めた。 「それにしても両親に挨拶をしに行って、すぐに結婚式の準備をすることになるなんてね。反対どころか大賛成なんだもの『こんな娘で良いんですか?』なんて、失礼しちゃうわよ」 「俺はかなり緊張してたんだがな、相手に気にいられようと必死になるのなんて初めてだったかもしれない」  確かにあの時は普段の彼よりずっと笑顔が多くてお喋りだった気もする、家に帰ってからぐったりしてて面白かったけれど。  今思えば、あの時に要が『準備が必要だ』って言っていたのはそういう事だったんだろうけど。私は全く気が付かなくて、この人をヤキモキさせていたに違いない。 「結局ドレスは一つに決めていたが、それで良かったのか?」 「ええ、良いの。一番大事なのは、誰の隣でそのド
Terakhir Diperbarui: 2025-08-31
Chapter: 思い出の先を紡いで 4
 私をベッドに座らせたまま、要《かなめ》はゆっくりと歩いて目の前に来ると静かにその場に跪いた。何故そんな事をするのか分からずにいる私の前に、そっと彼が小さな箱を差し出して……「……っ!!」 ここまでされて、今の状況が分からない筈はない。慌てて要を見れば、彼はとても真剣な表情で私をジッと見つめている。まさかの展開に一気に緊張が押し寄せて、なにも言葉が発せなくなって。 これから起こることを期待して、ゴクリとつばを飲み込んだ。「長松《ながまつ》 紗綾《さや》さん。俺と結婚してもらえませんか?」 要らしい、セオリー通りのプロポーズだけど彼が本気なのは十分伝わってくる。きっとさっき言ったように色々考えて、悩んでのこのセリフなのだと。 熱いまなざしでジッと私の返事を待つ彼の目の前に、私はそっと左手を差し出した。その指輪を、貴方の手で指に付けて欲しいという意味を込めて。 その行動に込められた気持ちを理解し、黙ったままの要が私の手を取ると細身の指輪をスッとつけてくれた。「とても素敵、嬉しいわ……」「そうか」 キラリと輝くダイヤのついた、細身のプラチナリング。派手なものをあまり好まない私のために、あえてシンプルなデザインにしてくれているみたい。 要のそんな私を想ってくれる心が嬉しくて、凄くほわほわとした気分になる。「それにしても……いきなりプロポーズされるなんて、想像もしなかったわ」「そう言うな、俺だってこの時のために色々考えてはいたんだ。だが紗綾があまり鈍い発言ばかりするから、つい……」 少し拗ねたような表情でそんな事を言うから、余計に胸の中が熱くなるじゃない。 要が何度も私の薬指を触って、サイズを確認していたのは気付いていたの。でもきっとまだまだ先の事だと勝手に思い込んでて。 この人が中途半端な気持ちで私と付き合い同棲してるとは思っていなかったけれど、二人の将来を真面目に考えていてくれたことがとても嬉しい。 要の過去にも現在にも、そして未来にも私がずっと隣に居れるんだって。「ずっと大切にするって、約束してね?」「ああ、誰より何よりも大事にする。だから俺の傍でそうやって微笑んでいてくれ」 そっと私の頬に触れる大きな手、要の顔が静かに近付いてきて優しく口付けられる。 今も変わらない、唇に触れる貴方の熱は少し冷たいように感じるけれど……本当は
Terakhir Diperbarui: 2025-08-31
Chapter: 思い出の先を紡いで 3
「これからは思い出の私も目の前にいる私も、大事にしてくれるんでしょう?」「そんなの当然だろう、俺にとって一番大切なのはいつだって紗綾《さや》なんだから」 そんな甘い言葉を当たり前のことのように言いながら、要《かなめ》は優しく私の身体を抱きしめ返してくれる。こうしている時間が一番心が満たされる気がするし、なによりも幸せだと思う。 以前の私では考えられなかった事だけど、もうこの人のいない未来なんて想像出来ないくらいなの。「……ところで、紗綾のお母さんから俺宛に伝言があると言っていたが。それはどんな内容なんだ?」「あら、そっちはすっかり忘れてたわ」 そのために彼をこの部屋に呼んだのに、ついついいつものような時間に酔ってしまっていて。そんな私を要は少し呆れたような表情で見ている。彼はしっかり覚えていて、手紙の内容がかなり気になっていたのだろう。 机の上に置いたままになっていた二通の手紙、その片方の封筒を手に取って要に渡した。手紙の内容は私も知らないけれど、そこに悪い事が書いてあるとは思ってはいない。 鋏《はさみ》を渡すと要は丁寧に端を切り、中の便せんを取り出して静かに読み始める。さっきとは違い、今度は読み終えるのを待っている私の方がソワソワしてしまって。「……要、お母さんはなんて?」 やはり手紙に何が書いてあったのかが気になって、黙ったまま便箋を封筒に戻している要に聞いてしまう。反対されるとは思っていないけれど、どんな反応なのかは知りたくなるもの。 そう落ち着かない気持ちで、返事を待っていると……「そうだな、近いうちにきちんとご両親に挨拶へ行く必要があると思う」「ああ、それはそうね。お母さんは要がどんなふうに成長したのかを、凄く気にしていたから」 子供の頃、私は彼の家庭事情を全く知らなかったけれど両親は気付いていたはずだ。口には出さなかったけれど、両親はきっと要の事もずっと気になっていたに違いない。 今のこの人を見れば二人も安心するでしょうし、出来るだけ早く会いに行った方が良いのかも?「それじゃあ来週の休みにでも会いに行きましょうか? 私からお母さんに時間が取れるか聞いて見るから」「……お、おい? ちょっと待て、紗綾」 スマホを取り出して母の番号をタップしようとすると、慌てた表情の要にスマホを取り上げられて。珍しく焦っているみたいだけど
Terakhir Diperbarui: 2025-08-30
Chapter: 思い出の先を紡いで 2
 自分用に部屋を用意してもらっているけれど、普段は要《かなめ》と一緒にリビングで過ごすことが多い。ここに来てまだほとんど使ってないベッドに腰かけて、荷物の中から取り出した目的の物をパラパラとめくっていく。 両親が大切に保存してくれていたようで、二十年近く経つのに中の写真はほとんど色褪せてはいなかった。このアルバムを開くのは学生の時以来だったかしら? つい最近まで存在もすっかり忘れていたというのに、こうして見てみると懐かしさに心がジンとしてくる。「ふふ、本当に昔の面影を探す方が大変なんだから……」 幼い頃の要をみると、自然と笑みが零れてしまう。再会した時に、彼が誰だか分からなかったのも仕方ないと思ってしまうもの。 そんな事を考えながら、一枚一枚の思い出に浸っていると部屋の扉がノックされた。「……入るぞ、紗綾《さや》」「ええ、どうぞ」 彼は私が返事をするまで決して扉を開けようとはしない、一緒に暮らしてもちょっとした気を使ってくれるのは有難くもある。 部屋に入ると私が座っている隣に腰かけ、手元に開いているアルバムを覗き込む要。「何を見てるんだ? ずいぶん楽しそうだが……ん、これはまさか俺なのか?」「ふふ、そう貴方よ」 そう答えると途端に要が驚いた表情を見せるから、可笑しくて笑っちゃったの。無言でアルバムを捲っていく彼を眺めているのも結構楽しいかも?「まさか、俺のガキの頃の写真があるなんて……自分の手元には一枚も残ってなかったから、かなり驚いた」「そうね。うちの母は、思い出は宝物だって言うような人だから」 要の育ってきた環境や境遇を考えれば、写真が残さず処分されていてもおかしくない。そう思ったからこそ、私はこのアルバムを母に頼んで送ってもらったのだから。 お互いにうろ覚えの記憶でも、二人の思い出を重ね合わせればその時の光景が浮かぶかもしれないって。「懐かしいな、こうしてみると俺にもこんな子供の頃があったのかと不思議な気分になる」「そう? この頃の要は女の子に間違えられるくらい可愛かったじゃない、そういうのも全部忘れちゃったの?」 ちょっと揶揄《からか》ってみると、要は苦虫を噛み潰したような顔をする。どうやら幼い頃に何度も性別を間違えられたことを、本人は結構気にしていたのかもしれない。 ……でも本当にあの頃の要は可愛くて、私が守ってあげ
Terakhir Diperbarui: 2025-08-30
Chapter: 思い出の先を紡いで 1
「ただいま」「おかえり、紗綾《さや》。昼過ぎに実家のお母さんから、何か大きな荷物が届いてたぞ」 要《かなめ》と二人で暮らすマンションに仕事から帰って来れたのは二十時過ぎ。まだまだ不慣れな事もあるが、少しずつ自分が担当する業務も増えて残業する日も少なくない。 今日の要は有給消化で強制的に休みを取らされている、そうでもしないとこの人はちっとも休もうとしないから。「ああ、それは私がお母さんに頼んでおいたの。まだ残してあるって聞いて、久しぶりに見たくなって」「残してあるって、何の話だ?」「……ふふ、まだ内緒」 彼は中身を気にしているようだが、今は秘密にしておきたい。見る前に取り上げられたりしては、せっかく母に頼んだ意味がなくなるものね。 早く開けて確認したいけれど、疲れたしお風呂にも入りたいなと考えていると……「夕飯と風呂の準備は出来ているから、先に湯船に浸かってサッパリしてくるといい」「嬉しいわ、ありがとう」 互いの休みが重ならないときは、こうやって家のことなどをしている事が多い。彼も休みを好きに使えばいいのに『紗綾と一緒でなければ、外に出る意味はない』と。 再会した幼馴染の意外な執着愛に戸惑う事もあったけど、今はそれすら愛おしいと感じれる。それくらい要との日々は喜びに満ちているから。 入浴をすませリビングに戻ると、テーブルには既に食事が並べられていて。その美味しそうな香りに、一気に空腹を感じてお腹がくうっと音を立てた。 そんな私に要は早く座って食べろと目で合図してくるから、先に席について彼が座るのを待って手を合わせた。「んん~、凄く美味しいわ。この秋ナスの肉詰め、ポン酢だとサッパリしてていくらでも食べれそう!」「少し多めに作ってしまったから、好きなだけ食べるといい」 分量を間違えたかのように彼は言うけれど、わざと多めに作っているって私は気付いてる。ここに来た当初はなかなか環境に慣れず、私の体重が少し減ってしまったから。 でもそれもとっくに元に戻って、それどころか……「もう、ここ最近は体重が増えて困ってるって言ってるのに」「紗綾は元々が瘦せすぎているんだ、以前より少し増えたくらいが丁度良い」 何度言っても、こうやって受け流される。彼の料理が美味しすぎて、いつも食べ過ぎてしまう私も悪いのだけれど。 ……にしても、今日の要はいつも
Terakhir Diperbarui: 2025-08-29
Chapter: 上司と部下ではなく 4
「今日からお友達、なんですよね? 私と主任、そして御堂《みどう》さんは」 嬉しそうに微笑んでその手を揺らす横井《よこい》さん、そんな彼女を見て少しホッとするの。今の私達ではこうしてあげるのが精一杯だけど、もし何かあった時は本社からでも飛んでくるから。 そう思っていると、どこからかスマホのメロディーが鳴りだした。すぐに動いたのは横井さん、バックの中からスマホを取り出して画面を操作している。「この人もなんだかんだで、相当捻くれた心配性なんですよね。ふふ……」 画面を操作しつつ何か楽しそうな雰囲気の横井さん、そんな彼女が気になり誰の事かを聞いてみると……「ああ、今のメールは伊藤《いとう》さんです。あの人、どうしてか私の番号を知ってたみたいで」「彬斗《りんと》君が? どうして海外にいるはずの彼が、今も横井さんと連絡を取ってるの?」 彬斗君の考えている事は、昔からよく分からないとこがある。けれど、横井さんを巻き込むような事はしないで欲しいのに。「大丈夫ですよ、私だってちゃんと伊藤さんの事は警戒していますから。でも彼は何故か私の愚痴を聞いてくれたりもして……」 予想外の二人が仲良くなっている事に私と要は戸惑いを隠せなかったけれど、当の横井さんは彬斗君を愚痴吐き相手と見ているみたいで。 梨ヶ瀬《なしがせ》さんにはあんなに苦手意識を見せてるのに、彬斗君は平気だなんて横井さんもよく分からないところがあるわ。 「今夜は紗綾《さや》さんを私が独り占めしていいんですよね、御堂さん?」 予約していたホテルの部屋、要《かなめ》と眠るはずのダブルベッドの上で横井さんは私に抱きついている。 彼女は要と正々堂々と勝負をして、私と一緒に眠る権利を手に入れたのだった。 普段はすんなり諦める要だけど今日はよほど諦めがつかないのか、部屋の端のソファーに陣取ったままでもう一つの部屋へと移動する様子はない。「全く、御堂さんも諦めが悪いですよ? 紗綾さんとはいつでも一緒に眠ってイチャイチャベタベタ出来るんですから、今日くらい私に譲ってくれて良くないですか?」 遠回しに要に向かってさっさと部屋を出て行けと伝える横井さん。もちろんそんな彼女に要が黙っているはずもなく……「横井さんは俺たちが空港に着いてからは、紗綾を散々独り占めしてると思うが?」 バチバチと音を立てて睨み合う
Terakhir Diperbarui: 2025-08-29
唇を濡らす冷めない熱

唇を濡らす冷めない熱

触れる指先で私の唇を濡らさないで…… いつだって貴方の指先は、冷めない熱を持っているから。 その熱で私を狂わせようとするのはもう止めて? そう言いたいのに…… 新しい課長として支社にやって来た優男、梨ヶ瀬 優磨。 誰からも好かれる明るい性格と優し気な容姿を持つ梨ヶ瀬を、あからさまに避ける女子社員の横井 麗奈。 ミーハーな性格である彼女だが、彼の事だけは毛嫌いしているようで……? ある日横井は部長に呼び出され、梨ヶ瀬のサポート役を頼まれるのだが? 笑顔の裏で何を考えているのかを決して見せない二面性のある優男と、そんな男の隠した危なさに気付いて逃げ出したい女子社員。 二人の攻防戦の行方は? 表紙絵 neko様 AI学習禁止
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Chapter: 信じない、そんな愛 6
「じゃあ私は帰りますね、これコーヒーの代金です」 そう言って財布からお札を取り出そうとするが、すぐに伊藤《いとう》さんに止められる。その必要は無いと言うように。彼はその伝票を持つと、さっさとレジで会計を済ませてしまった。 そして……「近くまで送っていく、途中で転ばれたりしたら困るからな」「……まあ、伊藤さんがそうしたいというのなら止めませんけれど?」 間に人が一人入るくらいの空間を開けて、それが私と伊藤さんのちょうど良い距離。憎まれ口を叩きながら、それも悪くないと。 二人で駅から出ようとしたところで、懐かしいシトラス系の香水の匂いがして何となく振り向いた。「あれ……もしかして、麗奈《れな》?」 どうしてこんな時に限って、この人は私を見つけて声をかけてくるのだろう? お互いこの街で暮らしていても、今まですれ違った時は他人の顔をしていたはずなのに。 この甘い香水の匂いも、少し掠れたような低い声もすごく好きだった……今でもその思い出に、胸を締め付けられるくらい。「……麗奈、知り合いか?」 隣にいた伊藤さんがまるで彼氏のような態度で、私に声をかけてきた相手をじっと見つめている。 先程まで空いていた、一人分くらいの距離はいつの間にかなくなっていた。 おそらく一瞬で伊藤さんが私の表情が固くなった事に気付き、こうして守ろうとしてくれているのだろう。「昔、知り合いだった。ただそれだけの人」「ふうん? 相手はそうじゃないみたいだけど」 私の言葉に、伊藤さんがわざとらしい返事をする。 何事もなかったように横をすり抜けようとする私たちの行く手を阻むように、その男が立ち塞がったからだ。 面倒なことになりそうで頭がいたくなってくるのに、隣の伊藤さんは少し楽しそうな顔をしているようにも見える。 ……そうだ。この人はとても厄介な性格の持ち主だった事を、すっかり忘れていたわ。「……麗奈、話がしたい。少し二人きりになれないか?」「無理よ。何か話をしたいのなら、この場でしてもらえないかしら」
Terakhir Diperbarui: 2025-11-19
Chapter: 信じない、そんな愛 5
「ああ、馬鹿馬鹿しい! そんな理由だと知ったら、梨ヶ瀬《なしがせ》さんも呆れて麗奈《れな》から離れていくかもな。だいたいあんな出来そうな男がそんな風になるなら、逆に面白そうじゃないか?」 分かってはいたが……他人事だと思って、伊藤《いとう》さんは言いたい放題だ。 自分は元カノ相手に、散々グチグチしてたくせに。そんな伊藤さんにちょっとイラつきながらも、それを我慢して昨日の梨ヶ瀬さんとのやり取りを思い出す。 私の一番の心配を、梨ヶ瀬さんはこの人と同じように笑い飛ばして。そんなことで気持ちを押し殺すなんて、自分には理解出来ないとも話した。 それは目の前にいる伊藤さんも一緒なようで、むしろ梨ヶ瀬さんがそうなるのを想像して楽しんでまでいる。「みんなそう言いますけどね、私だって真剣に悩んでて……」「そもそも麗奈は、悩む所が少しズレているんじゃないのか? ダメンズにしてしまうから付き合いたくない、じゃなくて……どうすればダメンズにしないように出来るか。どうせ悩むのならば、その方がずっと前向きだろ?」 伊藤さんの言葉に私の方がポカンとしてしまう。 ……だってそんな簡単な事を、今まで私はずっと思いつかなかったのだから。 自分か付き合えば必ず相手をダメにしてきた、それはどうあっても変えられないんだと思い込んでいて。「なんでそれを教えてくれるのが、伊藤さんなのかなあ……?」「はあ? ここは素直に礼をいう所だろう、喧嘩売ってるんなら買ってやるぞ?」 私と伊藤さんの関係は、とても不思議なものだと思う。お互いに恋愛感情も無ければ友達なわけでもない、だからと言ってただの知人とも言えない微妙な距離感。 なのに、それが意外と悪くないと思うから不思議で。「なんだかんだでお節介なんですよね、伊藤さんは。自分の事も、それくらい積極的になればいいのに」「……いいんだよ、俺は。しばらくは自由を楽しむって決めてるんだから」 そう言って笑うくせに、その表情はやはり寂し気で。 「……ホント、意気地なし」 人には頑張れなんて簡単に言うくせに、自分は傍観者になる事に決めている。今の伊藤さんに、ちょっとだけもどかしさを感じていた。 そんな私の気持ちを分かっているのか、彼は横に置いていた紙袋を私に差し出してみせる。「それはお互い様だ。この話題はもういいだろ、そろそろ出ようぜ」 こ
Terakhir Diperbarui: 2025-11-19
Chapter: 信じない、そんな愛 4
「麗奈《れな》はさ、何で自分の気持ちに素直にならないんだ? 好きなんだろ、梨ヶ瀬《なしがせ》さんの事が」 第三者だから冷静に観察出来るのか、伊藤《いとう》さんには私の気持ちは完全にバレている。梨ヶ瀬さんに隠せているかと言えばそうではないけれど、ハッキリと突っ込んでくるところが伊藤さんらしいと思った。 伊藤さんには関係ない。そう一言いえば済む事なのに、それが出来ないのは彼が意外と真剣に心配してくれてるからかもしれない。「……だって、釣り合わないじゃないですか。私と梨ヶ瀬さんでは」 これは第一の言い訳。仕事も出来て人当たりも良い、その上あのルックスなのだ。私のような平凡で気が強いだけの女が、そんな梨ヶ瀬さんに似合うとは思えない。「へえ? 恋愛に必要なのは気持ちであって、容姿は二の次だと俺は思うけど?」 伊藤さんの言いたいことは分かる。梨ヶ瀬さんだって私の容姿だけを見ているんじゃないって事くらい、ちゃんと理解してる。 それでも何か理由を付けないと、自分を正当化できない気がしてて……「梨ヶ瀬さんは本社から来てるの、いつ御堂《みどう》さんみたいにそっちに戻るか分からないわ」「麗奈が梨ヶ瀬さんを追いかければいい、紗綾《さや》がそうしたように」 そんな簡単に言わないで欲しい。紗綾はその能力を買われ本社へと移動することになったけれど、私に同じことが出来るとは思えない。 ……それに、そこまで梨ヶ瀬さんの事を好きだという自信もない。「そんな簡単に言わないでくださいよ、何でも出来る紗綾と同じように考えないで」「紗綾だって悩んで選んだんだって、本当はアンタだって分かってるくせに。意外と言い訳が多いんだな、ウジウジ悩んでばかりに聞こえる」 なんでそう分かったように言うの、伊藤さんのくせに。 そう……サバサバした性格だとみられることが多い私だけど、本当は結構考え込んでしまうタイプ。ああでもない、こうでもないといつまでも答えを出せないでいる。 そんな格好悪い自分をズバリと当てられ、何となく恥ずかしい気持ちになってしまう。「だ
Terakhir Diperbarui: 2025-11-18
Chapter: 信じない、そんな愛 3
「いつも紗綾《さや》がどこまで許してくれるのか、どうしたら嫉妬していると正直に言ってくれるのか。そんな事ばかりを考えて、何度も彼女を傷付けていた。俺が紗綾に対して、素直になることが出来なかったばかりに」「……だから真っ直ぐに紗綾を愛している御堂《みどう》さんに、彼女を任せると?」 伊藤《いとう》さんは、そんな私の問いかけに返事はしなかった。 その無言の肯定に、私の方が胸が痛くて何とも言えない気持ちになる。 紗綾との一件の後に海外へと行ってしまった伊藤さんだが、そうしなければ彼女に対する想いを抑えることが出来なかったのかもしれない。 それほどまでに、彼も本当は紗綾を愛していたのだと。 「……私は信じないですよ、そんな愛。本当に好きなら諦めたりしないですもん、自分だったら」 これは嘘。私は自分に自信が無いから、すぐに諦めてしまう。梨ヶ瀬さんの事だって、ずっと誤魔化して彼が飽きるまでそうしておくつもりだった。 それでも伊藤さんが気持ちを押し殺している様子は、見ていて堪らない気持ちにさせられるのだ。「たとえ麗奈《れな》がそうだとしても、俺はそうじゃないんだよ。紗綾を幸せに出来るのは、あの男しかいないと分かっているから」 伊藤さんの視線が、チラリとテーブルの端に置かれた紙袋へと移る。彼の中で紗綾と御堂さんを祝福する、それはもう決定している事だと気付かされた。 今でも愛しているから、そんな紗綾の幸せを一番に考えている。そう自分を納得させるために、伊藤さんは日本を離れていたのかもしれない。「……馬鹿みたいですね、そんな強がり言って。自分が一番幸せにする、くらい言えないんですか?」「それを出来なかったんだからな、俺は。たった一度きりのチャンスを、自分のプライドで駄目にしたんだ」 それほどまでに伊藤さんの浮気は、紗綾を傷付けその心を追い詰めた。その結果、どれだけ伊藤さんと紗綾がどれほど苦しむことになったのかも聞いている。 私には、それ以上はもう何も言えなくて……「だからかな? 麗奈と梨ヶ瀬《なしがせ》さんを見ていると、上手くいって欲しいなと思ったりして」「……狡いですよ、そういう事を言うのは」 お互いの気持ちは分かっているのに、それ以上の関係に進もうとしない。そんな私達は伊藤さんから見ればもどかしいのかもしれない。 だから今回も私に確認もせず、
Terakhir Diperbarui: 2025-11-18
Chapter: 信じない、そんな愛 2
 喉を通りかけていた水が思いきり器官に入り込んだ、むせて咳が止まらなくてとても苦しい。 このタイミングを狙っていたのだと気付いた時には手遅れで、伊藤《いとう》さんは楽しそうに笑っている。 やっぱりこの人って最低だ!「この、よくも……ごほ、んん、げほっ! わざとですよね、今のは」「面白いくらいに動揺したな、進展があったみたいで何よりだ」 なにが何よりなのよ! 伊藤さんの所為で結局私と梨ヶ瀬《なしがせ》さんは……そう怒りを感じながらも、あの出来事を思い出して顔が段々熱くなる。 そんな私の変化に、伊藤さんは興味津々という表情でこっちを見てくるから堪らない。 「やっぱり梨ヶ瀬さんに余計な事を話したのは、伊藤《いとう》さんだったんですね? そのせいで私がどんな目にあったと……!」 さすがにキスまでで止まってくれたが、あれが病気でない時だったら最後まで押し切られていたかもしれない。 そう思うと、今更ながらにとんでもない状況だったのだと思い知らされた。 あの時、梨ヶ瀬さんは完全に《《男の顔》》をしていた、その迫力と色気に私はほとんど抵抗も出来なかったのだから。「へえ、もしかして最後までいったとか?」「ば、馬鹿なこと言わないで! そんな訳ないでしょ、伊藤さん全然悪かったと思ってないですよね?」 他人事だと思って茶化してくる伊藤さんを殴りたい気持ちを抑えて、思いきり睨んでみせる。この人の性格の悪さは分かっていたつもりだけど、やはり腹は立つ。「……どうして、あんな余計な事をしたんです? 伊藤さんには、私と梨ヶ瀬さんの事は関係ないでしょう」「んー、なんでだろうな。お互い意識してんのに変に距離を取ろうとしてんのが、見ててもどかしかったからじゃないか?」 伊藤さんの言っている事は当たっている。それでも私には、簡単に梨ヶ瀬さんを受け入れられない理由もあった。それも……結局は梨ヶ瀬さんに、簡単に吹き飛ばされてしまったのだけど。「見ていてもどかしいのは、伊藤さんの恋なんじゃないですか? 紗綾《さや》の事をどれだけ想っても、彼女はもう伊藤さんの所には戻らないのに……」 傷付けたいわけじゃないのに、私の方が伊藤さんにお節介な事を言ってしまう。笑っていても伊藤さんは、どこか寂しげな眼をしている事があったから。「……紗綾と別れて、一時期は凄く後悔したんだ。だけど今は
Terakhir Diperbarui: 2025-11-17
Chapter: 信じない、そんな愛 1
「……ええ、もう大丈夫です。じゃあ、今日の七時に駅前で」 用件のみの電話を終えると、私はそのままシャワーを浴びにバスルームへと向かう。 さっきの電話の相手は、あの伊藤《いとう》さんだ。 熱は大丈夫なのか? とわざわざ電話をくれたのだけど、やはり彼はよく分からない。 ただ梨ヶ瀬《なしがせ》さんの事について、余計な事をしてくれるな! と注意しようと思ったが、それは今日の夜に直接言う事にする。 熱めのシャワーを浴びて汗を流せばすっきりとして、ぼんやりしていた頭もだいぶハッキリとしてくる。 昨日梨ヶ瀬さんは月曜まで大事を取って休むようにと言ってくれた。そのおかげで熱も下がり体調もずいぶん楽になっている、少しくらい伊藤さんと会う時間を作っても問題なさそう。 遅い昼食を済ませのんびりした後、準備を済ませて私は伊藤さんとの待ち合わせ場所へと向かった。 「……何でもういるんですか、まだ待ち合わせ三十分前ですよ?」 駅の中にあるコーヒーショップに伊藤さんの姿を見つけて、私も店の中へと入る。声をかければ、伊藤さんの方が少し驚いているようだった。 「麗奈《れな》のほうこそ、随分早く来たんだな? 時間近くになったら、ここを出ようと思ってたのに」 テーブルの上に置いてあるシンプルな紙袋、中に入っているのがきっと紗綾《さや》に渡したいものなのだろう。もしかしたら伊藤さんは、緊張で落ち着かなかったのかもしれない。 そんな風に元カノの紗綾をいまだに想う伊藤さんの気持ちを考えると、少し複雑な気分になる。 「喫茶店の珈琲が飲みたい気分だったんですよ、もうここで話を済ませちゃっていいですよね?」 そう言ってチラリと紙袋に視線をやると、伊藤さんの返事も待たずに彼の正面の席に座る。用件は最初から分かっていたのだし、すぐに終わるにしても珈琲一杯くらいは付き合ってもらってもいいはず。 ウエイターを呼んで注文を済ませると、ゆっくりと伊藤さんの方へと視線を戻した。 「……それで、あの日はどうだった?」 「えっと……何がです?」 いきなり意味の分からない質問をされて、私は首を傾げて見せる。どれが『それで』なのかも、何が『どうだった?』のかも私には全く分からない。 もしかしてこの人は、寝ぼけているのかな? なんて考えつつグラスの水を一口含む、そんな私を見て伊藤さんがニヤリと笑う。
Terakhir Diperbarui: 2025-11-17
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