Chapter: 最終話体調も回復した頃、私はレナルドお兄様から呼び出しを受けた。 どんな時も表情を崩さないお兄様にしては珍しく、厳しい顔つきをしていた。 部屋の空気も重く感じられ、挨拶もなく用件を述べ始めたことに、私は言いようのない不安を感じた。 「サラ、あれだけ忠告したのに、君には伝わらなかったようだね。 ━━サラ、もう商会を君には任せておけない うちは信用が第一なんだ。 君たち二人揃って仕事を放棄して、何をやっているんだ! ルーカスのことは……君の耳にも入っているよね、健康上の理由だから仕方ないとして、君の軽率な行動は見過ごせない。 まるで、ルーカスに隠し子がいるかのように尋ねて回ったそうだね? 噂が私の耳にも届いたよ。 あぁそれから、君がルーカスを略奪したとか、今はどこかの富豪の愛人だとか色々とね。 いったい、きみは何がしたいんだい? この商会を潰す気なのか!」 「それはっ」 「何も言うな、聞け」 「この商会は私が引き継ぐ。 残念だけど仕方がない。 これ以上醜聞を広めることはできない。 今後、ゴーテルの名を名乗ることは許さないわかるね? ここからの発言は、兄としてだ。 サラ、身体のことは……女性にとってはつらいことだろう、 後継ぎが産めないことは致命的だ。 せめてもの家族の情として、 連れ戻すことはしない。 傷モノのお前の行き場は、限られてくるからな。 それなりの金額は渡す。 だが、そこまでだ。 後は自分でなんとかしろ。 あれだけ仕事がしたいと、女でも自立できると言っていたお前なら、大丈夫だろ? ルーカス達には、生活に困らないように援助をするつもりだ。 こちらにも責任の一旦はあるからな。 お前は二度と関わるな。」 口を挟む隙を与えず言い終えたレナルドは、言い忘れたことがあると付け加える。 「父上に泣きついても無駄だ」 「お父様も…同じ意見なの?」 「父上は、お前に甘い。父上が許したとしても、勘違いするな! 数年して私が当主になったら、すぐに追い出す。 家の汚点のお前を置いておけない。 つけこまれて、足元をすくわれかねない」 「レナルドお兄様……」 「私には━━もう……妹はいない」 レナルドは、一瞥することもなく立ち去った。 こんなにあっさりと縁を切られるとは、思わなかった……。 何をしても許
Terakhir Diperbarui: 2025-08-22
Chapter: 犯人ルーカスが突然いなくなって、商会の雰囲気全体が沈んでいた。 私が追い出したのではないか、とか陰口も飛び交っていた。 商会のことを放棄することが増えていた自分は、完全に皆からの信頼を失っていた。 以前なら、自分の陰口を耳にすることなどなかったのに……。 ルーカスがどこに行ったのか、気にはなるものの、日々の仕事が滞ることがないように黙々と処理した。 責任者の自分がいるから回っているが、これが逆だったら業務に支障がでていただろう。 そう、以前自分がいなかった時のルーカスの大変さが身に染みて分かった瞬間でもあった。 そこで、ふと先ほど紅茶を用意したことを思い出す。 ルーカスの分を用意していた時の名残りだった。 気分転換に少し休憩をしようと、 カップを取りに向かった。 室内に入ると、誰かが用意していたカップに何か入れているのが見えた。 「何してるの?」 ふいに声をかけると、帽子を被ったその人物は、飛び上がらんばかりに驚いた様子で、慌てて走り出て行った。 不審に思い後を追いかける。 「待って!ちょっと」 走り去る後ろ姿を見失わないように、必死に追いかけた。 こんなに脇目もふらずに走ったのは、人生で初めてかもしれない。 これ以上走るのは無理かもしれない。 体力の限界を迎えそうな時に、 運よく逃走者が転倒した。 起き上がろうとしているところを、必死で後ろから掴もうとした。 その拍子に、被っていた帽子が脱げ落ちた。 隠れていた黒い髪が流れ落ちる。 見覚えがある人物だった。 「あなたは━━メグミさん?」 「あーあ、見つかったわ、ざーんねん、ほんとに悪運の強い人ねあなたは」 「どういうこと、どうしてあなたが商会にいるの?何してたの」 「はははは!何って?ほんとにおかしなお嬢様ね。 あーあ、思ったより元気そうじゃない もっと苦しんでると思ったのに あなたなんかいなくなればいいのに━━ 死ねばいいのに」 よく知りもしない相手から、明確な殺意を向けられて、頭が真っ白になった。 「なーにその顔は?分からない?でしょうね、でも先に奪ったのはあなたでしょ」 「奪う?」 「そうよ、ダーニャが死んで、チャンスだったのに 唯一の子のナタリーを取り込んで、フェリクスの遺産を独り占めする計画だったのに、横から急に入りこんできてさ!
Terakhir Diperbarui: 2025-08-22
Chapter: リナを探して「二人に協力してほしいことがあるの」 私は、全てを打ち明けることにした。 政略結婚から逃れる為に、ルーカスと婚約を結ぶことになった経緯も含めて。 軽蔑されることを覚悟の上で。 そして、自分の行いを悔いて、ルーカスの為にも、リナを探していることを。 最初は、リナの父親へコンタクトをとった。リナに大切な話があるから、居場所を教えてほしいと。 リナは、心機一転出て行ったと、もう構わないで欲しいと一蹴された。 何度もおねがいしたけれど、 用件は自分が伝えるからの一点張りだった。 結局、連絡先は教えてもらえなかった。 仕方なく調査してくれる人を雇った。そして、リナが隣街に住んでいることが判明した。 子供がいることも。 いてもたってもいられずに、教えられた近辺に尋ねて回った。 引っ越してきたのは何年前か、 子供の容姿など、とにかく情報が欲しかった。あれからリナがどうなったのか、気になって仕方がなかった。 タイミング悪く、リナには会えなかったけれど。 「誰にも邪魔されずにリナと話をしたいの。もしも、リナと連絡が取れたら、この邸の部屋を借りてもいいかしら?」 「サラなら、いつでもこの邸は自由に使っても大丈夫だよ。 邸のことはいいんだけどさ、込みいったことを聞くけど、サラはその人と会ってどうしたいのか聞いてもいい? まぁ、私も人のことを言えるほど綺麗な人生送ってないんだけどね」 「━━償いをしたくて」 「償い? サラ、 厳しいことを言うようだけど、その人はサラに会いたくないんじゃないかな。 それでも、会いたいと言うのならば、その人をこれ以上傷つけないようにする努力は必要だと思う。 この先、同じように後悔することがないように」 「えぇ、分かってるわ。 もう、これ以上後悔したくないの。 だから、どうしても彼女に会いたいの!」 固い決意を込めた瞳で、フェリクスを見つめる。 フェリクスは、サラの強い意志を汲み取ると、これ以上止めても無駄だと判断した。 「そう……そこまで決意しているのなら、仕方ないね、応援するよ。 でも、一人で勝手に突き進まないで。 相談して。 いつでも話は聞くから。」 「ありがとう、フェリクス」 いい加減だと思っていたフェリクスだけど、親身になって相談に乗ってくれる一面に胸を打たれた。思わず目が潤ん
Terakhir Diperbarui: 2025-08-22
Chapter: 毒✳︎✳︎✳︎ 「何をしている!」 「これは、調べているんです」 「手に持ったものを渡すんだ!」 「それはできません」 「これは何だ!何をいれたんだ!お前は誰だ?」 「何を騒いでいるの⁉︎」 騒がしい声が聞こえてきて扉を開けると、ルーカスとデボラが言い争っていた。 ルーカスは、嫌がるデボラの手首を掴んで、スプーンを取り上げようとしていた。 「ルーカス、デボラの手をはなして!」 ルーカスの手を振り解こうと近づいた瞬間、ルーカスは後ずさった。 まるで、ほんの少しでも私に触れられるのを拒否するように。 嫌われてることは知っているけれど、さすがに傷つく。 「デボラ、来てたのね。大丈夫?どうしたの、そのスプーンは……」 見覚えのあるスプーンをみて、デボラが何をしていたのか理解した。 そして同時に、そのスプーンが変色していることに気づき動揺する。 デボラは無言で頷く。 「ルーカス、デボラは私達を助けてくれたのよ!これは飲んではいけないわ!」 「サラ、また君は……。はぁ、 前にも言ったよね、新しく人を雇う時は教えてと」 新しく雇う? 以前ルーカスは、デボラのことを見かけたから、知らない人がいると驚くと言ったのではないの? 忘れているのかしら。 「飲んではいけないって、君が用意したものだよね?」 「た、確かに私がさっき用意したものだけど、おそらく私が離れた後に、誰かが何かしたのよ!」 「何かしたって、まるで毒でも入ってるみたいに言うんだね」 「多分、毒…かもしれない… 私も驚いてるわ、でも誓って私は何もしてない!」 「はっ!やってないか、犯人の常套句だね。 やはり自作自演か… 少しは改心したのかと、あやうく騙されるところだった。 もう同じ空間にいるのも耐えられないよ! 失礼する」 「ルーカス!」 立ち去るルーカスが少しよろめく。 心配で手を伸ばそうとしたけれど、振り払われる。 ルーカスの顔色が悪い。 よろめくルーカスの様子に既視感を覚えた。 まるで、体調不良だった時の自分のようだ。 大丈夫かしら。 やっとルーカスと挨拶くらいは交わせるようになっていたのに……。 唯一の接点だったのに。 いったい誰が毒を入れたの? 「サラお嬢様、お飲みにならなくて良かった
Terakhir Diperbarui: 2025-08-22
Chapter: 体調不良✳︎✳︎✳︎ ある日のこと。 この日は、珍しくルーカスと鉢合わせた。 極力顔を合わせることがないように、必要な書類などは誰かに橋渡しを頼んでいた。 「お疲れさま」 「あぁ」 無視するわけにもいかないので、挨拶をした後立ち去ろうとした。 「サラ」 呼び止められて、ドキッと心臓が跳ね上がる。 何か文句を言われるのかもしれない。 思い当たることが多すぎて、耳を塞ぎたかった。 逃げるわけにもいかないので、姿勢を正して向かい合う。 すると、射抜くような視線を向けられた。 ルーカスの目をまともに見ることができずに、すぐに視線をそらす。 「新しく人を雇う時は、僕を通すか、一言連絡してほしい。 突然見慣れない人がいると、驚くじゃないか。 あぁ、それとも僕への嫌がらせで知らせないのかな? こっちは君と違って、お遊びで仕事している訳ではないんだよね。 お気楽なものだよね? 気が向いたときだけ働いて、都合が悪くなったらいなくなって。 こっちはその間必死で働いているというのに! せめて一言何か言うことはできないのか? 必死に探し回る僕を見て嘲笑っているのか? 君の署名が必要な書類があったののに……。 悪趣味だね……。まぁ、もっとも、君に何を言っても無駄だろうけど。 あぁ、それにその雇った人には、君は あまり好かれてないみたいだね。 飼い犬に手を噛まれるともいうしね。 せいぜい気をつけることだね」 「ちがう! 彼女は、従業員ではないわ━」 まただわ。 ぐらりと身体がよろめいた。倒れそうになるのを、近くにあった棚に手をついて支えることができた。 ルーカスは、ぴくっと片眉をあげて不審そうな顔をしている。 「はぁ、都合が悪くなったらそういう演技をするのか。 君って本当に……。」 「これは、本当に気分が……」 答え終わる前に、ルーカスは見向きもせずに退室した。 演技ではないのに……。 ルーカスの言っていた見慣れない人というのは、デボラのことだろう。 デボラは、表情に表さないだけで優しいのに。 何も知らないくせに。 あぁ、知らないのはお互いさまか。 いまさらどうしたらいいの……。 こんな私なんて、追い出せばいいのに! 立場上追い出せるはずないか。 分かりきってることなのに。 あぁ、気持ち悪い……。 一度、診
Terakhir Diperbarui: 2025-08-22
Chapter: 心境の変化「バタフライピー? あぁ、もしかして彼女は、月のものの最中ではないですか?」 「えぇ」 先程、マリの着替えの介助をしたので間違いない。どうしても不安感が拭えなくて、この邸のメイド達だけに任せることができなかった。特に怪しい動きを見せる者はいなかったので、そこまで監視する必要はなさそうだった。 月経による貧血なのかしら……? 「バタフライピーには、子宮収縮作用があるのです。 アントシアニンという成分が、含まれていましてね。妊娠や月経中に飲みすぎると、出血が止まらなくなる恐れもあるのですよ。 なるほど、それが原因とも考えられますね。 旅の疲れも重なったのかもしれないですね。 しばらく安静に休ませてください。 それではお大事に」 「ありがとうございます」 一人で納得した様子で、医師は立ち去って行く。 長く呼び止める訳にもいかず、お礼を言って見送った。何の根拠もなく疑うのはよくない。まずは、自分で確認することが先決。 さっそく図書室の入室許可をもらい、バタフライピーについて調べてみる。 結果、医師の言っていた通りの内容が書かれていた。 飲食物の成分にまで、気が回らなかった。自分の落ち度に、気が滅入る。 異国の食べ物が口に合わずに、体調を崩すこともあると、聞いたことがあるのに……。マリには可哀想なことをしてしまった。やはり、ここまで連れてくるのではなかったわね。早く回復するといいのだけれど。 不可抗力だったのに、人為的なものではないかと、疑ってしまった自分に嫌気がさす。 あの時のマリの言った言葉が、少しひっかかるけれど……まだ、話せる状態ではないものね。 元気になった時にでも、詳しく尋ねてみましょう。その時は、笑い話になっているといいのだけれど。 ✳︎✳︎✳︎ 数日後。 マリの容態は、芳しくなかった。その為、このままここに留まるよりも、帰国したいというマリの強い希望を聞き入れることにした。 本来なら、回復してから帰国するつもりだったのだけれど。 無理のないように、休憩をとりながらゆっくりと進んだ。 帰り着いたのは、当初予定していた1ヶ月はとうに過ぎていた。 マリは、療養を兼ねて実家へと帰すことにした。 早く元気になってほしいわ。 この出来事は、何年も後に思い出すことになる。 ✳︎✳︎✳︎ 「サラ!よく来てくれ
Terakhir Diperbarui: 2025-08-22
Chapter: 5***ノーマン伯の苦悩*** まずいことになった。 あれは、あの娘は、決して人前に出してはならない。 もしも真実が露見すれば、 大変なことになる。 はぁ……母親のいない寂しさを埋める為に、 欲しいものはなんでも与えてきた。 甘やかしすぎたのか? 寂しさを感じていたのは私も同じだった。 私は、妻を心から愛していた。 妻は、あの女を憎んでいた。 亡くなるそのときまで…… 最後の願いだと言われて、私は━━ 取り返しのつかない過ちを犯してしまった。 妻が亡くなった事がショックで、 どうしようもない怒りの矛先《ほこさき》を向けてしまった。 後戻りはできない、 だが、まだ知られる訳にはいかない……。 *** 「ねぇ。ちょっと」 はぁ、と思わずため息がでそうになるのを、ぐっと堪える。 少しでも嫌な顔をすれば義姉の機嫌を損ねるので、平静を装い返答する。 「何か御用でしょうか?お嬢様」 「うふふ。や~ね。他人行儀で。お義姉様でしょ?」 「え??」 いったいどうしたというのだろうか。 義姉のことは、お嬢様と呼ぶように強要されている。 義理でも姉妹なのが許せないし、認めたくないから、と。決して人前では呼ばないように、ときつく言われている。 「うふふ。いいのよ。 予想外にお父様がうるさいから、いいこと? 明日、あなたは具合が悪くて、寝込んだことにしなさい。 部屋には外から鍵をかけておくから。後は侍女のアンの指示に従いなさい。私の言うことは絶対よ!わかったわね?」 「……」 義姉は、私の返答を聞くことなく去って行った。 どういうことだろう? 嫌な予感がして、胸がざわついた。何か良からぬことを企んでいるとしか思えず……。 その夜は、なかなか寝付けなかった。 次の日、いつも通り朝から仕事をするつもりが、待ち構えていたアンさんに義姉の部屋まで連れて行かれた。 義姉の部屋に入るのは初めてだった。 義姉の部屋は、様々な装飾品や家具が置いてあり、一目で高価なものだと分かる。 室内が珍しくて見回していると、アンさん含め数人の侍女達に囲まれた。 身構えていると、抵抗するまもなく浴室へと連れていかれた。あれよおれよというまに服をぬがされた。 バ
Terakhir Diperbarui: 2025-11-18
Chapter: 4「これなんかどうかしら? ねぇ、あなたたちはどう思う?」 「とてもお似合いです。 アンジェリカお嬢様。」 「お嬢様は何をお召しになってもお綺麗です。」 「皆さんお嬢様に見惚れることでしょう」 「うふふ。も~う。みんな正直なんだから。そうよね、まぁ、当然ね。」 アンジェリカは、夜会に着て行く為のドレスを数十着も注文していた。本日屋敷に届いたので、明日の夜会に来て行くドレスを侍女達と選んでいた。 鏡の前に立ち、ドレスの裾を軽く持ち上げポーズをとる。 まだ少しあどけなさの残る顔立ちではあるけれど、豊満な胸と細くくびれた腰が妖艶さを醸し出している アンジェリカはとても綺麗だった。 また、本人も自分の美しさを自覚しており、いつも自信に満ち溢れて、自分以外を見下していた。 「そうね、これにしようかしら。このドレスに似合うアクセサリーと靴を用意しておいて。」 「承知致しました、お嬢様。」 アンジェリカは、試着したドレスから着替えると、上機嫌で食堂へ向かった。 食堂には既に伯爵である父が座っていた。 「今日も綺麗だな。アンジェリカ。 ドレスが届いていたようだが、おまえは何を着ても似合うからな。」 「うふ。お父様ったら。いつも本当のことばかり。嬉しいですわ。 ところでお父様…お願いがありますの。」 「なにか欲しいものでもあるのか?」 「さすがお父様。欲しいものはあるのですけれど、今回は少し違いますわ。 私ももうすぐ18になってしまいますの。それで少々焦っておりまして…」 「結婚の事か?お前ももう適齢期になるのだな。 心配せずともお前には最高のお相手を探しているところだ。 今までも多数の婚約の申し入れがあったのだが…どうにも決めかねてな」 「うふふ。お父様は私と離れることが寂しくてお断りしてるのではなくて。 お父様、出会いというのはいつ訪れるか分かりませんわ。明日訪れるかもしれませんし… それで、明日の夜会には最高の状態で臨みたいのです。 なので、あれを一緒に連れて行こうと思いますの」 「なぬ?お前の言うあれとは、もしかしてあの娘のことか?」 「えぇそうですわ」 「いや、しかし…」 「大丈夫ですわお父様。わが家の名誉を傷つけることなんて決していたしません。 ふふ。むしろ逆ですわ… 路頭に迷った平民の娘を引き取って面倒
Terakhir Diperbarui: 2025-11-15
Chapter: 3 私は、常に周囲の顔色を伺うようになった。 特に父や義姉の顔色を。 暴力を振るわれない為には自分はどうしたらいいのか━━常にそのことばかり考えて育った。 おかげで今では、父や義姉に付け入られる隙がないと思う。 常に状況を観察して率先して動いているから。 使用人としては、申し分ないと自負している。 それでもすれ違いざまに、わざとつき飛ばされたり、階段から突き落とされたり、理不尽な嫌がらせは続いていた。 そうして6年の月日が流れ、私は16になった。 この国では18歳になると成人として認められる。 家同士で取り決めた婚約者のいない者達は、16歳頃から頻繁に夜会に出席する。 いわば婚活適齢期だ。 結婚適齢期は18から20くらいと言われており、23過ぎてしまうといきおくれ扱いされ、世間の目が厳しくなる。 男性はともかく、女性の場合は、お相手が再婚だったり、既に正妻がいたり…。 例え問題のあるお相手だったとしても、娘を嫁がせようと躍起になる親に逆らえず、 しぶしぶ受け入れざるをえないのが貴族社会の現状だった。 まぁでも…私には関係のない話だ。 私は一生このまま奴隷のように働かされるのだろう。 何度も逃げようと試みたけれど、 いつも捕まり、 激しい暴力を振るわれた 遂に逃げられないように扉の外側に鍵を取り付けられた。 私の部屋は地下なので、窓もない。それでもジャックが協力してくれて脱出しようと試みたのだけど、捕まってしまった その時は私だけではなくジャックも鞭打ちにされてしまった それからすぐにジャックは姿を消した ごめんなさい。ジャック私のせいでごめんなさい どうか生きていますように… ジャックが何も言わずにいなくなるとは考えられない 心配でどうにかなりそうだった 使用人の人達にも尋ねてみたけれど、皆口を揃えて「知らない」と返答する。 もしかしたら、口止めされているのではないか、と勘ぐってしまったこともあり、知ることが怖くなった ただの言い訳になるけれど、最悪の事態を想像して、それ以上聞く勇気がでなかったのだ。
Terakhir Diperbarui: 2025-11-15
Chapter: 2ギィっと扉が開く音がする。私がいる部屋は使用人達が使っているような部屋ではなく、地下の奥深くの物置のような所だ。扉の建て付けが悪いのか、開閉時に変な音がする 窓もなく、灯りもロウソクしかなく、いつも薄暗い。 「ソフィア、 起きてる?」 「ジャック、どうしたの?」 「どうしたのじゃないよ。見せて。 うわ… 酷いな……。 こんなこと人間のすることじゃない!」 「ここへ来てはいけないわジャック。見つからないうちに早く行って」 ジャックは私、より3つ年上の男の子だった。この邸に来て酷い扱いを受ける私を気にかけてくれるうちの一人。 「大丈夫。すぐに戻れば見つからないから。ソフィア、これを」 「これは、薬? いつも、どうして私なんかに……」 ジャックは私が父や義姉から暴力を受けると、塗り薬をこっそり持って来てくれる。 薬も高いだろうに、私なんかのために。 「本当はきちんと手当てしたいけど……」 「ううん、私なんかのために、いつもありがとう」 「私なんかなんて言わないで。とりあえずこの薬だけでも塗って。少しは痛みがましになるから。ごめん、 俺が、もっと大人だったら…」 ジャックは眉間に皺を寄せて、 いつも自分を責めていた。 ジャックは何も悪くないのに。 「どうしてジャックが謝るの? いつもありがとうジャック」 「あいつら許さない!いつか俺が━━」 「ジャックそんなことを言ってはいけないわ。私は大丈夫だから、ね?もう行って」 「また来る」 そう言い残して、ジャックは部屋から出て行った。 ✳︎ ✴︎ ✴︎ 「ソフィア あなたはきっと幸せになれるから、 だから、約束して。 どんな事があっても、誰かを恨んだりしな いで。 憎しみは憎しみを呼ぶから、 心を強く持って。あなたは━━━」 亡くなる時の母の言葉を思い出す。 「母さんごめんなさい。私は、 憎いです何もかも…」 私は不思議なことに全く父に似ていなかった。 あんな人が父だなんて認めたくない! きっとお母さんを無理矢理自分のものにしたにきまってる! 許せない! かわいそうなお母さん! 義姉とももちろん似ていない。 唯一似ているのは髪の色。義姉と同じ髪色がなぜかとても嫌に
Terakhir Diperbarui: 2025-11-15
Chapter: 1「邪魔よ!」 「痛っ」 突然、突き飛ばされてバランスを崩した。恐る恐る義姉の顔を見上げる 「な~に? その顔は! あなた、まさか文句でもあるの?ほんっとにその顔を見ると虫酸が走るわ! さっさと私の視界から消えてちょうだい!」 「申し訳……ありません」 「ほんっとにトロいんだから」 はぁ 義姉の八つ当たりと癇癪はいつものこと、 ただ黙って耐えるしかない。 私は10歳の時にこの家に引き取られた。それまで母と2人暮らし。決して裕福とはいえなかったけれど、優しい母と穏やかに過ごしていた。いつも忙しい合間をぬっては私との時間を作ってくれた。 気軽に新しいお洋服を買うことは出来ないので、ほつれてるところを修繕してくれたり、野菜の切り方を教えてくれたり、一人で生活するために必要なことを教えてくれた。 嫌なことがあった時は、一緒に歌を歌って明るい気分になれるように励ましてくれた。 今なら分かる。 母は私の前では無理をしていたのだと思う。 心配をかけまいと。 倒れるその瞬間まで……。 私もどこかで働きたかったけれど、子供のうちは遊ぶのが仕事だからと言われていた。 それでも、働いて母を少しでも休ませてあげればよかった。 気づかなくてごめんなさい……。 母が亡くなりしばらくすると、知らない人が迎えに来た。 父親の遣いだと名乗るその人が言うには、母は以前勤めていたお屋敷の主に見初められ、私を身籠ったと。 そのことが知れて奥様は激怒。 母は身重の体で屋敷を追い出されたのだそうだ。 そのお屋敷の主が私の父親だと。 母の訃報をどこから知ったのか、父親が私を引き取りたいと言っているから一緒に来て欲しいと。 その時の幼い自分の行動を思い出すと後悔するばかり。どうして、なんのためらいもなくついて行ってしまったのか。 知らない人に付いていってはいけない、と言われていたのに。 その方に連れられて、このお屋敷に来たときはあまりの広さ、豪華さに驚いた。今までの家とは比べ物にならなかったから。 目を輝かせて興奮する私の心を打ち砕いたのは、初めて対面する父親の一言だった。 「お前はここで死ぬまで働くのだ。まずは躾が必要だな。」 部屋を出て行ってすぐに戻って来た父の手には、鞭が握られていた。
Terakhir Diperbarui: 2025-11-15