LOGIN母が亡くなり、父の遣いを名乗る者が訪ねてきて、貴族の邸宅に引き取られることになったソフィア。 到着早々に伯爵である父と、義姉アンジェリカの容赦ない罵声が、ソフィアの幼い心を打ち砕く。 「おまえはここで死ぬまで働くのだ!」 「邪魔よっ。あなたの顔を見ると虫唾が走るわ」 躾と称して酷い暴力を振るわれるソフィア。耐えて過ごしていたソフィアだったが、意を決して逃げ出した。 そして、治安部隊の騎士グレッグと出会う。 「ソフィア、何か困っていることはないか?」 何かと気にかけてくれるグレッグに、徐々に惹かれていくソフィア。 自分の気持ちに正直になってもいいですか? 傷だらけの令嬢ソフィアと、一途な騎士グレッグのストーリー
View More「邪魔よ!」
「痛っ」 突然、突き飛ばされてバランスを崩した。恐る恐る義姉の顔を見上げる 「な~に? その顔は! あなた、まさか文句でもあるの?ほんっとにその顔を見ると虫酸が走るわ! さっさと私の視界から消えてちょうだい!」 「申し訳……ありません」 「ほんっとにトロいんだから」 はぁ 義姉の八つ当たりと癇癪はいつものこと、 ただ黙って耐えるしかない。 私は10歳の時にこの家に引き取られた。それまで母と2人暮らし。決して裕福とはいえなかったけれど、優しい母と穏やかに過ごしていた。いつも忙しい合間をぬっては私との時間を作ってくれた。 気軽に新しいお洋服を買うことは出来ないので、ほつれてるところを修繕してくれたり、野菜の切り方を教えてくれたり、一人で生活するために必要なことを教えてくれた。 嫌なことがあった時は、一緒に歌を歌って明るい気分になれるように励ましてくれた。 今なら分かる。 母は私の前では無理をしていたのだと思う。 心配をかけまいと。 倒れるその瞬間まで……。 私もどこかで働きたかったけれど、子供のうちは遊ぶのが仕事だからと言われていた。 それでも、働いて母を少しでも休ませてあげればよかった。 気づかなくてごめんなさい……。 母が亡くなりしばらくすると、知らない人が迎えに来た。 父親の遣いだと名乗るその人が言うには、母は以前勤めていたお屋敷の主に見初められ、私を身籠ったと。 そのことが知れて奥様は激怒。 母は身重の体で屋敷を追い出されたのだそうだ。 そのお屋敷の主が私の父親だと。 母の訃報をどこから知ったのか、父親が私を引き取りたいと言っているから一緒に来て欲しいと。 その時の幼い自分の行動を思い出すと後悔するばかり。どうして、なんのためらいもなくついて行ってしまったのか。 知らない人に付いていってはいけない、と言われていたのに。 その方に連れられて、このお屋敷に来たときはあまりの広さ、豪華さに驚いた。今までの家とは比べ物にならなかったから。 目を輝かせて興奮する私の心を打ち砕いたのは、初めて対面する父親の一言だった。 「お前はここで死ぬまで働くのだ。まずは躾が必要だな。」 部屋を出て行ってすぐに戻って来た父の手には、鞭が握られていた。 何をされるのか怖くて固まっていると、容赦なく鞭で叩かれた。 「痛い!やめて!やめてください!いやいやー!」 咄嗟に逃げようとするも、父に殴られて床にうつ伏せで倒れこんだ。背中に馬乗りになられ何度も何度も何度も執拗に殴られた。 その仕打ちがどれくらい続いたのかは分からない、 ぷつりと意識が途絶えたから。 意識がもどった時には、暗い部屋の床に寝かされていた。 体中が刺すように痛い。殴られた所は腫れ上がり、鞭で打たれた所も水膨れができ、服も破れていた。痛みから起き上がることもできなかった。 いったいなぜこんな仕打ちを受けるのだろう? 混乱してる私の元へ、義姉と名乗る女性が訪れた。 「汚いっ。こんな地下なんて来たくないのに。あなたね。あの女の娘というのは」 金髪の輝く髪に染みひとつない綺麗な肌。吊り上がった目で、私を見下ろす義姉。きつい印象の女性だった 「ふふっ。いい気味。あなたにお似合いね。いいこと?これからは私の言うことは何でも聞いてもらうわ。分かるわね?あなたなんか生きる価値もないのだから。お父様をたぶらかした下品なあの女そっくり」 ヅカヅカと寝ている私の側に近づいてきてしゃがみ込んだ。 おもむろに手を振り上げたかと思うと、勢いよくその手を振り下ろした。 頬を叩かれたのだと認識するまもなく、何度も何度も繰り返される。 室内には、バン!バン!バン!と、乾いた音が響き渡る。 経験したことのない痛み。 どうしてこんな仕打ちを受けているのか分からない。 恐怖と混乱。 「やめて……やめて……おねがい……」 消え入りそうな声を遮るように、義姉は嘲笑いながら罵声を浴びせてくる 「うるさいわね! いいこと? 声を上げるなんて生意気なのよ!躾が足りないのね」 ヒュッと何かが空気を切る音がしたかと思うと、身体に激痛が走った。 鞭だと気づいて、両腕で咄嗟に顔を庇ったものの、防げるはずもなく、腕に焼けつくような痛みが襲いかかる。 成す術もなく、ただ悲鳴をあげることしかできなかった……。 「いやぁ!」 「あなたバカなの?声を上げるなと言ったのよ!耳障りなのよ!」 「うっ!」 痛みと恐怖で、歯をくいしばり、ただひたすら黙ってこの地獄のような時が終わるのを待った。 「今日はこのくらいかしら。分かったわね!」 カツッ、カツッ、カツッと靴音が遠ざかる。 義姉が行ったようだ。 痛みからか恐怖からなのか、ガタガタと全身が震えている。恐る恐る両腕を顔から外した。激痛を通り越して感覚が麻痺している。 それから、声を上げると余計に酷くなること、 ただ黙って耐える方が、暴力を振るわれる時間が短いこと、 逃げようとすれば余計に酷く鞭で打たれ、食事も抜かれることを、身を持って学んだ。煌びやかに着飾った貴族達が本日の主催者へ挨拶の列を作っている。 「フォルスター侯爵様、本日はお招きいただきましてありがとうございます」 「リリアーナ様は侯爵夫人に似て、とてもお美しいですね。ぜひ私共の息子を紹介━━」 「おかしいですね?客観的に見てもリリアーナは私に似ているのだが?妻からも自分よりも私に似ていると常々言われている。あなた方の目はふし穴か? それとも私の容姿を愚弄しているのか?」 エドフォード侯爵は、ギロリと目線を動かし威嚇する。 「い、いえ! た、た、確かに侯爵様にそ、そっくりでございます! そ、それでは、失礼致します! いくぞっ」 挨拶もそこそこに、逃げるようにその場を去る貴族達。 エドフォードの逆鱗に触れることがあってはたまらないと、以降の貴族達は余計な事を口走ることもなかった。 あわよくば、息子をリリアーナの婚約者にと考える者も多い。滅多に社交の場に姿を表すことのないリリアーナがいるので、取り入る機会を窺っていた貴族達にとっては絶好のチャンスのはずだった。 「あなた、いくらリリアーナが可愛いからとはいえ、そのようなお顔をされていたら、皆が怯えてしまいますわよ」 笑っているのを隠すように、扇子で口元を覆いながら、レティシア侯爵夫人は夫へ苦言を呈する。 「別に普通にしているだけだ」 「うふふ、わざと怖いお顔をされているのでしょう? でも、あと少しの辛抱ですわよ、ねぇ? リリー」 「リリアーナ、本当に良いのか? 今ならまだ取りやめることもできる。お前が望むなら、断ることもできる」 「お父様? 王家からの申し出を断るおつもりですか?」 周囲に聞こえないように、リリアーナも扇子で口元を覆い小声で話す。 「相手が誰であろうともだ。私は、私達は、お前の幸せを誰よりも願っている」 「うふふ、リリー、子離れができないこの人にあなたの気持ちをきちんと伝えてあげて」 レティシア夫人に背中を後押しされるように、リリアーナは侯爵に向かい言葉を紡ぐ。 「お父様、私はアレクを、アレクセイ様をお慕いしております。私はとても幸せです」 「そうか、お前のその笑顔を見て安心した」 「どうか、心配なさらないで。お父様、その前に、ソフィアのお披露目をお願いしますわ。新しい家族の一員を」 「そうだな
※第二部 21 ソフィアside⑤の後 ✳︎✳︎✳︎ 「髪が……私の髪が……なんでよ!なんで私がこんな酷い目に合わないといけないの!」 アンジェリカはグレッグによって切り捨てられた自身の髪の毛を拾い胸に抱き締める。 「あぁ……」 かつては毎日念入りに手入れされていた髪━━ここしばらくは匿われていたとはいえ、逃亡生活のせいで充分なケアができなかった。 それでも、ソフィアなんかとは比べものにならないくらい価値がある私の髪よ。 大きな宝石があしらわれた髪飾りをつけて、夜会に参加していた時に思いを馳せる。 ちょっと話しただけで、殿方から沢山の贈り物が届いたわ。私に気に入られようと必死にアピールしてきてたのよ。私は選べる立場の人間なの! なのに……なによあの騎士は! 「どうしてよ!……私は何も悪くないのに!」 虚な目を動かすと、先程の銀髪の騎士がソフィアを抱きしめているのが見える。 アンジェリカは、自身の親指をギリギリと噛み締めた。 「ソフィアのくせに!全部あんたのせいよ!」 グレッグとソフィアが抱き合っている姿を見ながら、ぶつぶつとアンジェリカは毒を吐く。 グレッグの傍に置かれた剣から、キラリと鈍い光が放たれる。 その瞬間、アンジェリカは我に返る。 「いやよ……殺されるなんていやよ……」 先程グレッグに剣を向けられた恐怖が甦る。 あの男は私を殺す気だわ 思い通りにさせない! アンジェリカは物音を立てないように立ち上がる。淑女教育は厳しく受けてきた。音を立てないように動くなんて、簡単なことよ。 こんな時に役に立つなんて皮肉だけれど。 アンジェリカは息を押し殺しながら、部屋からそっと抜け出すことに成功した。 (あはは!やったわ!そんな貧相な女に気を取られるなんて愚かな男。容姿は綺麗かもしれないけれど、その時点で大した男ではないわね) 最初はゆっくりと歩いていき、距離が取れた後は一目散に駆け出した。 「許さない!許さない!許さない! どうしてこの私がこんな目に…… 覚えてなさい馬鹿なソフィア!絶対に許さないんだから!」 人の気配がする度にアンジェリカは物陰に隠れてやり過ごした。 薄暗い地下なので上手く進めていたが、邸に辿り着いてからが厄介だった。 複数の騎士が邸の
22 ソフィアsideの後 グレッグ独自の妄想理論です ✳︎✳︎✳︎ グレッグはソフィアを横抱きにして、部屋から出ようとして立ち止まる。 「ソフィア、ジャック殿を探しに行く前に、確かめたいことがある。 ストックホルム症候群を知っているか?」 「ストック……? す、すみません、聞いたことがありません」 「知っている者の方が少ないかもしれない。 ストックホルムとは、とある国の地名らいい。 ここではない、どこか別の異世界のことを書き記した文献に記載されていたのだ。」 「異世界ですか?」 「あぁ、異世界で実際に起こった事件に由来するそうだ。 誘拐や監禁など、犯人の拘束下に置かれた 被害者が、長時間共に過ごすうちに、犯人 に対して特別な感情を抱いてしまう状態の ことだ。 恋愛感情を抱く者もいるらしい。 もしかしたら、ソフィアも…… ジャック殿に対して……恋心を抱いてしまったのではないかと…… すまない……今はそんなことを言っている時ではないと分かっているのだが…… ソフィアに捨てられるのではないかと 不安なのだ……」 「捨て……? グ、グレッグ様どうなさったのですか? 私がグレッグ様以外を好きになるなんてありえません! あ、あの、私ったら何を言って……恥ずかしい… グレッグ様は、色々なことにお詳しいのですね。 ですが、その症候群には私は当てはまらないと思います。 ジャックは、そもそも犯人ではありませんし……お世話になった方ですし」 「だが、長時間拘束された状態で、非日常的な経験を過ごしている…… 精神的負担も大きかっただろう。 それでだな、ソフィア、その……考えたのだが、私も同じ状況を経験した方がいいと思う。 そうすることによって、ソフィアの気持ちが理解できるし、どのようなケアが必要かも分かるはずだ。 ソフィア、つまりだな……コホン……私を縛ってくれ」 「えっ!縛るだなんてできません。わ、私は大丈夫ですのでっ」 「ソフィア、心的な負担を負っていることは、本人が気づかない場合もある。 何も縄で縛って欲しいと言っているのではない。 このままの状態で、首に腕をもっと強く回して……そして」 グレッグ様は私のことを…好…きですよね…?」
※グレッグの独自理論です。事実とは異なります ✳︎✳︎✳︎ ソフィアの部屋にて グレッグとソフィアは並んでソファーに腰掛けている。 「ソフィア、タッピングセラピーを知っているか?」 「タッピングセラピーですか? いいえ、聞いたことがありません…… それはどういったセラピーなのでしょうか?」 「タッピングセラピーとは、感情や感覚をつかさどる経路を、タッピングすることで、扁桃体を落ち着かせるのだ。 つらい記憶や、心理的ストレスを緩和する効果がある。 それでだな…ソフィア。 私は、タッピングセラピーの心得がある。 試させてもらえるか? ソフィアのつらい記憶を、忘れさせたい のだ。 傷ついた心を、私に癒させてほしい。 ソフィアはただ黙って、身を任せてくれた らいいから。」 「グレッグさまは、博識なのですね。私のためにありがとうございます」 「では、オホン……最初に念を押すが、これは治療なのだ。決してやましい気持ちはない」 「分かり……ました。よ、よろしくお願いします」 「では、ソフィア始める。 途中で辞めると効果が半減する。 なので、私が終わりの合図をするまで我慢してほしい。 ソフィア、まずここに座ってもらえるか?」 グレッグは、ソファーの上で胡座を組んで座り直してソフィアを誘う 「えぇっ⁉︎ そ、そこ……でないといけないのでしょうか…」 「あぁ、これも治療の一貫なのだ」 「そ、そ、そこに……座るのですね……?」 グレッグは躊躇うソフィアの腕をとると、ぐるんと回転させながら自身の足の上に座らせる。 ソフィアを背中から抱きしめて、その肩の上に顎をのせる 「まずは、耳からだ」 「ひゃっ⁉︎ あ、あの、」 ソフィアは座っている場所も落ち着かないのに、背中に密着したグレッグの顔が急接近してきて、あわあわするばかりだ。 「ソフィア、動かないで……じっとして…」 グレッグは、ソフィアの背後から耳を軽く喰んでいく。 「動かないで」と、耳元で時折囁きながら、ゆっくりと喰んでいく。 耳、頬、首元へと順番に唇を落としつつ、喰んでいく そして、首筋を舌でなぞると、ちゅうと勢いよく吸い付き始める ソフィアはチクリと首筋に軽い痛みを感じて、両手でそっとグレッグを押し退けようとする 「いゃっ、グレッグ様、待