傷だらけの令嬢〜逃げ出したら、騎士様に溺愛されました〜

傷だらけの令嬢〜逃げ出したら、騎士様に溺愛されました〜

last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-21
Oleh:  涙乃Tamat
Bahasa: Japanese
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母が亡くなり、父の遣いを名乗る者が訪ねてきて、貴族の邸宅に引き取られることになったソフィア。 到着早々に伯爵である父と、義姉アンジェリカの容赦ない罵声が、ソフィアの幼い心を打ち砕く。 「おまえはここで死ぬまで働くのだ!」 「邪魔よっ。あなたの顔を見ると虫唾が走るわ」 躾と称して酷い暴力を振るわれるソフィア。耐えて過ごしていたソフィアだったが、意を決して逃げ出した。  そして、治安部隊の騎士グレッグと出会う。                     「ソフィア、何か困っていることはないか?」                                      何かと気にかけてくれるグレッグに、徐々に惹かれていくソフィア。                                   自分の気持ちに正直になってもいいですか?      傷だらけの令嬢ソフィアと、一途な騎士グレッグのストーリー

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ギィっと扉が開く音がする。私がいる部屋は使用人達が使っているような部屋ではなく、地下の奥深くの物置のような所だ。扉の建て付けが悪いのか、開閉時に変な音がする 窓もなく、灯りもロウソクしかなく、いつも薄暗い。 「ソフィア、 起きてる?」 「ジャック、どうしたの?」 「どうしたのじゃないよ。見せて。 うわ… 酷いな……。 こんなこと人間のすることじゃない!」 「ここへ来てはいけないわジャック。見つからないうちに早く行って」 ジャックは私、より3つ年上の男の子だった。この邸に来て酷い扱いを受ける私を気にかけてくれるうちの一人。 「大丈夫。すぐに戻れば見つからないから。ソフィア、これを」 「これは、薬? いつも、どうして私なんかに……」 ジャックは私が父や義姉から暴力を受けると、塗り薬をこっそり持って来てくれる。 薬も高いだろうに、私なんかのために。 「本当はきちんと手当てしたいけど……」 「ううん、私なんかのために、いつもありがとう」 「私なんかなんて言わないで。とりあえずこの薬だけでも塗って。少しは痛みがましになるから。ごめん、 俺が、もっと大人だったら…」 ジャックは眉間に皺を寄せて、 いつも自分を責めていた。 ジャックは何も悪くないのに。 「どうしてジャックが謝るの? いつもありがとうジャック」 「あいつら許さない!いつか俺が━━」 「ジャックそんなことを言ってはいけないわ。私は大丈夫だから、ね?もう行って」 「また来る」 そう言い残して、ジャックは部屋から出て行った。 ✳︎ ✴︎ ✴︎ 「ソフィア あなたはきっと幸せになれるから、 だから、約束して。 どんな事があっても、誰かを恨んだりしな いで。 憎しみは憎しみを呼ぶから、 心を強く持って。あなたは━━━」 亡くなる時の母の言葉を思い出す。 「母さんごめんなさい。私は、 憎いです何もかも…」 私は不思議なことに全く父に似ていなかった。 あんな人が父だなんて認めたくない! きっとお母さんを無理矢理自分のものにしたにきまってる! 許せない! かわいそうなお母さん! 義姉とももちろん似ていない。 唯一似ているのは髪の色。義姉と同じ髪色がなぜかとても嫌に
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私は、常に周囲の顔色を伺うようになった。 特に父や義姉の顔色を。 暴力を振るわれない為には自分はどうしたらいいのか━━常にそのことばかり考えて育った。 おかげで今では、父や義姉に付け入られる隙がないと思う。 常に状況を観察して率先して動いているから。 使用人としては、申し分ないと自負している。 それでもすれ違いざまに、わざとつき飛ばされたり、階段から突き落とされたり、理不尽な嫌がらせは続いていた。 そうして6年の月日が流れ、私は16になった。 この国では18歳になると成人として認められる。 家同士で取り決めた婚約者のいない者達は、16歳頃から頻繁に夜会に出席する。 いわば婚活適齢期だ。 結婚適齢期は18から20くらいと言われており、23過ぎてしまうといきおくれ扱いされ、世間の目が厳しくなる。 男性はともかく、女性の場合は、お相手が再婚だったり、既に正妻がいたり…。 例え問題のあるお相手だったとしても、娘を嫁がせようと躍起になる親に逆らえず、 しぶしぶ受け入れざるをえないのが貴族社会の現状だった。 まぁでも…私には関係のない話だ。 私は一生このまま奴隷のように働かされるのだろう。 何度も逃げようと試みたけれど、 いつも捕まり、 激しい暴力を振るわれた 遂に逃げられないように扉の外側に鍵を取り付けられた。 私の部屋は地下なので、窓もない。それでもジャックが協力してくれて脱出しようと試みたのだけど、捕まってしまった その時は私だけではなくジャックも鞭打ちにされてしまった それからすぐにジャックは姿を消した ごめんなさい。ジャック私のせいでごめんなさい どうか生きていますように… ジャックが何も言わずにいなくなるとは考えられない 心配でどうにかなりそうだった 使用人の人達にも尋ねてみたけれど、皆口を揃えて「知らない」と返答する。 もしかしたら、口止めされているのではないか、と勘ぐってしまったこともあり、知ることが怖くなった ただの言い訳になるけれど、最悪の事態を想像して、それ以上聞く勇気がでなかったのだ。
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「これなんかどうかしら? ねぇ、あなたたちはどう思う?」 「とてもお似合いです。 アンジェリカお嬢様。」 「お嬢様は何をお召しになってもお綺麗です。」 「皆さんお嬢様に見惚れることでしょう」 「うふふ。も~う。みんな正直なんだから。そうよね、まぁ、当然ね。」 アンジェリカは、夜会に着て行く為のドレスを数十着も注文していた。本日屋敷に届いたので、明日の夜会に来て行くドレスを侍女達と選んでいた。 鏡の前に立ち、ドレスの裾を軽く持ち上げポーズをとる。 まだ少しあどけなさの残る顔立ちではあるけれど、豊満な胸と細くくびれた腰が妖艶さを醸し出している アンジェリカはとても綺麗だった。 また、本人も自分の美しさを自覚しており、いつも自信に満ち溢れて、自分以外を見下していた。 「そうね、これにしようかしら。このドレスに似合うアクセサリーと靴を用意しておいて。」 「承知致しました、お嬢様。」 アンジェリカは、試着したドレスから着替えると、上機嫌で食堂へ向かった。 食堂には既に伯爵である父が座っていた。 「今日も綺麗だな。アンジェリカ。 ドレスが届いていたようだが、おまえは何を着ても似合うからな。」 「うふ。お父様ったら。いつも本当のことばかり。嬉しいですわ。 ところでお父様…お願いがありますの。」 「なにか欲しいものでもあるのか?」 「さすがお父様。欲しいものはあるのですけれど、今回は少し違いますわ。 私ももうすぐ18になってしまいますの。それで少々焦っておりまして…」 「結婚の事か?お前ももう適齢期になるのだな。 心配せずともお前には最高のお相手を探しているところだ。 今までも多数の婚約の申し入れがあったのだが…どうにも決めかねてな」 「うふふ。お父様は私と離れることが寂しくてお断りしてるのではなくて。 お父様、出会いというのはいつ訪れるか分かりませんわ。明日訪れるかもしれませんし… それで、明日の夜会には最高の状態で臨みたいのです。 なので、あれを一緒に連れて行こうと思いますの」 「なぬ?お前の言うあれとは、もしかしてあの娘のことか?」 「えぇそうですわ」 「いや、しかし…」 「大丈夫ですわお父様。わが家の名誉を傷つけることなんて決していたしません。 ふふ。むしろ逆ですわ… 路頭に迷った平民の娘を引き取って面倒
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***ノーマン伯の苦悩*** まずいことになった。 あれは、あの娘は、決して人前に出してはならない。 もしも真実が露見すれば、 大変なことになる。 はぁ……母親のいない寂しさを埋める為に、 欲しいものはなんでも与えてきた。 甘やかしすぎたのか? 寂しさを感じていたのは私も同じだった。 私は、妻を心から愛していた。 妻は、あの女を憎んでいた。 亡くなるそのときまで…… 最後の願いだと言われて、私は━━ 取り返しのつかない過ちを犯してしまった。 妻が亡くなった事がショックで、 どうしようもない怒りの矛先《ほこさき》を向けてしまった。 後戻りはできない、 だが、まだ知られる訳にはいかない……。 *** 「ねぇ。ちょっと」 はぁ、と思わずため息がでそうになるのを、ぐっと堪える。 少しでも嫌な顔をすれば義姉の機嫌を損ねるので、平静を装い返答する。 「何か御用でしょうか?お嬢様」 「うふふ。や~ね。他人行儀で。お義姉様でしょ?」 「え??」 いったいどうしたというのだろうか。 義姉のことは、お嬢様と呼ぶように強要されている。 義理でも姉妹なのが許せないし、認めたくないから、と。決して人前では呼ばないように、ときつく言われている。 「うふふ。いいのよ。 予想外にお父様がうるさいから、いいこと? 明日、あなたは具合が悪くて、寝込んだことにしなさい。 部屋には外から鍵をかけておくから。後は侍女のアンの指示に従いなさい。私の言うことは絶対よ!わかったわね?」 「……」 義姉は、私の返答を聞くことなく去って行った。 どういうことだろう? 嫌な予感がして、胸がざわついた。何か良からぬことを企んでいるとしか思えず……。 その夜は、なかなか寝付けなかった。 次の日、いつも通り朝から仕事をするつもりが、待ち構えていたアンさんに義姉の部屋まで連れて行かれた。 義姉の部屋に入るのは初めてだった。 義姉の部屋は、様々な装飾品や家具が置いてあり、一目で高価なものだと分かる。 室内が珍しくて見回していると、アンさん含め数人の侍女達に囲まれた。 身構えていると、抵抗するまもなく浴室へと連れていかれた。あれよおれよというまに服をぬがされた。 バ
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虚な《うつろ》目で窓を見る。 そこには、傷んだ髪を結い上げた痩せ細った娘が映っていた。 「ばかみたい……私……」 何のために生きているんだろう……。 窓に映る自分と見つめ合う。奥二重の目元は母に似ている。 大好きだった母の眼差しを思い出し、思わず泣きそうになる。 否が応でも、幸せだった過去の記憶が流れ込んでくる。 貧しくても母の優しさに包まれていた日々、 かけがえのない思い出──。 溢《こぼ》れそうになる涙を、そっと手で拭う。 その瞬間、手元からふわりと清潔な香りが漂う。 「いい匂い」 この邸に来てからは、水で濡らしたタオルで拭くくらいだったので、入浴したのは実に6年ぶりのことだった。 綺麗に体を洗われたことは、とても嬉しい。 けれど、義姉の気まぐれによるものだから……。 本当に死ぬまでこのままの生活なのだろうか。 予期せぬことだったとはいえ、こうして、邸の外に出られた。 今なら、もしかして? 窓から外を覗くと、 馬車の外には数名の見張りがいた。 とても振り切って逃げられそうにない。 いったい義姉は、私をどうしたいんだろう? 可能性に賭けて、逃げてみる? でも、もし、捕まったら……。 恐怖が体に染みついていて、どうしても震えてしまう。 それでも、このままここにいるのはいや! 今のうちに──。 腰を浮かしかけた時、馬車が動きだした。 飛び降りようか、どうしようかとぐずぐず悩んでいるうちに、馬車は停止した。 結局飛び降りる勇気が出なかった。 扉が開かれ、アンさんの案内で、庭園で待ち構えていた義姉の元へと連れて行かれた。 「うふ、待っていたわ。さぁ、行くわよソフィア、ほら、さっさとしなさい!」 「あ、待ってください」 半ば引きずられるように歩かされる。 華やかな雰囲気を醸《かも》し出している邸が見えてくると、煌《きら》びやかな衣装を身に纏《まと》った人達が多勢集まっていた。 義姉は、私から手を離すと、黙ってついてくるようにと命じる。 胸元を強調した派手なドレスを着た義姉は、魅惑的な笑みを浮かべて歩いていく。 周囲の男性は、義姉に見惚れていた。 言われた通りに黙って歩いていると、義姉が突然よろける。 「きゃぁ!」 近く
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丁寧に手入れされた草花。 自然の匂い。 渇ききった心を潤すように、深く息を吸い込む。 久々に感じる外の空気。 先程までの出来事が夢だったのではないか、と勘違いしてしまうほどに、幻想的な雰囲気の庭園だった。 こんな状況の中でも、新鮮な空気は心を癒してくれる。 もう、消えてしまいたい。 「なにぼーっとしてるの? ソフィアのくせに! 全く!もうっ! あなたのその顔を見る度に虫唾がはしるわ!さっさと消えて! そろそろ夜会を楽しみたいから、あなたは用なしよ。アン、連れて帰って!」 義姉は顎で指示を出す。 やっと、苦痛の時が終わる。 思わずほっとして、強張っていた身体の力が抜ける。 それがまずかった。 気が緩んだのを察知した義姉は、「待って」と呼び止める。 義姉を刺激しないように、必死に顔を取り繕う。 目を合わすこともできずに、ビクビク震えていると、バンッ!という音と共に頬に衝撃がはしった。 「うっ!」 長年強要されていたので、咄嗟の暴力にも悲鳴をあげることはなかった。 声をあげることも許されないなんて……。 「あーもう!ほんとにむかつくわ!」 もう一度頬を叩かれる痛みに備えて、歯を食いしばる。 義姉の機嫌を損ねると、何かのスイッチが入ったように何度も暴力を振るわれるから。 「うっ」 予想通りに義姉は執拗に叩いてくる。 苦痛で顔が歪む。 痛い、やめて、助けて…… 心の中で、誰かにいつも助けを求めている。 何度叫んでも、叶うことのない願い。 私は、ずっとこうして耐えてきた。 地獄のような、この苦痛の時が過ぎ去るのを待つだけ。 自分では、何も行動を起こさずに。 この先もずっと? どうして? このまま耐えるしかないの? 自分の境遇に嘆いてばかりで、何も行動を起こさなかった。 本当にそれでいいの? 前に逃げようとした時は、ジャックを巻き込んでしまった。誰かを巻き込むのはしたくない。 でも、今なら? 今なら、誰も巻き込むことはないのでないだろうか。ここには義姉の味方しかいない。 招待状も持たない私は、義姉がいなければここへ入ることは難しいと思う。 けれど、ここから出ることは可能なのでは? 試してみようか。 子供の頃に住
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「はぁ……はぁ……」 早く逃げなきゃ、もっと早くもっと早く、 出口はどこ? 気持ちは焦っているのに、思うように進めない。 足を動かす度に、着慣れないドレスが、まるで行く手を阻むように足に纏わりついてきて、どうしてももたついてしまう。 それに、こんなにも走ったのはいつ以来だろう。 「急がなきゃ、逃げなきゃ、早く、早く……はぁ……はぁ……」 自分で自分を励ますように、ぶつぶつ呟きながら走り続ける。 「ごめんなさい!すみません!」 「失礼だな!」 ちらほらと庭園を散策している人達にでくわす。 寄り添いながら歩いている人達の間に割り込むように通り抜ける。文句を言われたけれど、振り返る余裕もない。 邪魔してごめんなさい! 出口はまだなの? こっちであっていますように! どうか、お願い…… 「 あそこだわ!」 前方に門が見えてきた。門番が2名いる。 どうか、呼び止められませんように! あと、もう少し! 「お嬢さん!ちょっと!」 門まであと少しという所で、門番の1人がこちらに早足で近づいてくる。 「い…や……」 万事休すなの……?ここで捕まるなんて嫌……。 「はぁ……はぁ……」 立ち止まったものの、出口は目の前だ。 進むしかない。どうしよう……門番を相手にどうやって逃げたらいいの? ただでさえ走り続けて鼓動が激しいのに、緊張から心臓が飛び出しそうになるほどドクンドクンドクンと高鳴る。苦しい……。 そんな私に向かい門番は「こっちへ」とひらひらと手を振る。 動揺して動けないでいる私に、門番は急かすように言葉を続ける。 「大丈夫かお嬢さん? そんなに息を切らして。馬車が通るから危ないよ。早くこっちへ」 ガタガタガタと後方から車輪の音が迫ってくる。 「馬車……?」 振り向くと確かに馬車がこちらに向かってくるのが見える。 大人しく門番に言われた通りに場所を空ける。 馬車が徐行して門を通過する瞬間、門番の目から隠れるように馬車の横に並んで駆け出した。 「外に出られたわ!」 スピードを上げる馬車から離れて、一目散に走った。 「大丈夫、誰も追いかけてきてない、大丈夫」 ちらっと一瞬振り返り後方を確認した後、とにかく前へ前へと足を動かし続けた。
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女性に案内されたのは、年季の入った建物の前だった。 壁には看板が掲げられおり、そこには“三日月亭”と書かれている。三日月のマークが店名の末尾に書かれているのが、可愛らしい。 「ここだよ。さぁ、入って」 女性に促され、中へと足を踏み入れる。 なんだか懐かしくなるような、不思議な感覚がした。 奥から漂ってくる料理の匂いのせいなのか、温かい空気感のせいなのか、母と過ごした日々が思い出された。 目の前のカウンターには、受付と書かれた札がある。 物珍しくて きょろきょろと見回す。食事処なのか、テーブルや椅子が沢山あるのが目に入った。 「あんた、今帰ったよ」と 女性が奥に向かって声をかけると、「あぁ」と野太い男性の声が返ってきた。 家族の人? ご挨拶しなければ。 「お、お邪魔します」 遠慮がちに入口付近で右往左往している私の背を、女性はそっと押しながら、中へと連れて行く。 「そんなに畏まらなくてもいいから、ほらほら、荷物はその辺りに置いとくれ。 そして、あんたはここに座っておくれ。ちょっと、失礼するよ、怪我をみせてもらうね」 「は、はい」 私は言われるがままに椅子に腰掛ける。 「ちょっとだけ、そのまま待っていてくれるかい? すぐ戻るから」 女性はそう言い残すと、奥の方へ姿を消す。 言葉通りにすぐに戻ってきた。両手にタオルや包帯を抱えている。 「お待たせしたね。まず、頬にはこの濡らしたタオルを自分で当ててごらん。少し冷やした方がいい。腫れが引くから。あぁ、でも、傷の手当てが先だね。手の傷に包帯を巻いてからだね。 手の傷を見せてもらうよ。あぁ……血がまだ出てるよ。少し沁みるけど、ちょっとだけ我慢しておくれ」 「あ、あのっ。大丈夫ですからっ」 女性は手際よく草木を掻き分けた時にできた傷を、消毒していく。 「こんなになって……痛かっただろう? あかぎれも酷いね……、こんなに……軟膏があったと思うから後から塗っておこうね。他にも怪我した所があるんじゃないのかい? 」 女性が私の手首の袖を捲ろうとした瞬間、慌てて手を引っ込めた。 「大丈夫です!」 腕を見られたくなくて、隠すように抱え込む。 破れた箇所から肌が露出している。その為、鞭で打たれた痣が露わになっていた。 「……あんた…それ……怪我してるじ
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✴︎ ✴︎ ✴︎ 数ヶ月後──。 私はいつものように、三日月亭の受付に立ち、お客様へ笑顔で声をかける。 ここへ来たばかりの頃は、オドオドしていて、なるべく誰とも目を合わせないように、下を向いて接客していた。 そんな私に、ルイーザさんは優しく、時には厳しく接客の仕方を指導してくれた。 「慣れるまでは失敗はつきものさ、焦って覚えようと無理しなくていい。 ソフィア、あんたに受付は任せる。この宿屋の顔だよ。 お客さんが入ってきて、最初に目にするのはソフィアさ。 だから、とにかくどーんと構えて、笑顔だよ、笑顔。笑顔があんたを助けてくれるから。はは、なーに、ソフィアみたいに可愛い娘に話しかけられて、嫌がる人なんか誰もいないよ。だから、きちんとお客様の目をみて、笑顔でお迎えをよろしくね」 あまり、人目につきたくなかった。けれど、ここで働くからには、そんなこと言っていられない。 それに、三日月亭に訪れるお客様達は、皆、感じが良かった。 「いらっしゃいませ、お泊まりは何日ですか?」 「3日だ。食事も頼む」 「承知しました。ごゆっくりどうぞ」 「ソフィアちゃん、今日もかわいいね~」 「いつもお上手ですね、ありがとうございます!」 主な仕事内容はお客様のご案内や部屋の掃除、洗濯、簡単な料理などだった。 どれも小さい頃から体に染み付いていることばかりなので、そつなくこなせている。 顔馴染みのお客様も増えた。 最初の頃は、義姉に見つかって連れ戻されるのではないかと怖くて、毎日落ち着かなかった。 けれど、日が経つに連れて、段々と恐怖や警戒心も薄れてきていた。 夜中にうなされて、飛び起きることはしょっちゅうあるけど……。 その度に、ここは三日月亭なんだと確認してほっとする。 食事、住む場所、それにお給金まで支給してもらえている。ダンさん、ルイーザさんには感謝してもしきれない。 それに衣服に困ることもない。 亡くなった娘さんのお洋服を、お言葉に甘えて使わせてもらっている。痩せ気味なので、どれもちょっとサイズが大きいけれど、着替えの服があることが本当に嬉しい。 それでも 時々、細々とした小物が必要になる。そう言う時は、目的のお店にのみ買い物に行っている。この宿屋から外出することは、極力控えている。
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