本当はあなたを愛してました

本当はあなたを愛してました

last updateLast Updated : 2025-08-20
By:  涙乃Updated just now
Language: Japanese
goodnovel16goodnovel
Not enough ratings
7Chapters
11views
Read
Add to library

Share:  

Report
Overview
Catalog
SCAN CODE TO READ ON APP

ゴーテル男爵家所有の商会で働く平民の美青年ルーカスは、近所に住むリナとは幼馴染み。 学園も職場も同じで、何をするにもいつも一緒だった。誰よりもお互いのことを想いあっていて、 いずれは結婚するだろうと信じていた二人。 そんなある時、リナは取引先のエミリオから食事に誘われる。 小さい頃からルーカス以外の男性と交流を持つこともなかったリナ。断りづらい事もあり、軽い気持ちで応じてしまう。 やましい気持ちなどなかったのに……。 その現場を目撃したルーカスから、浮気したと責められ別れを告げられる。 浮気などしていないので、ルーカスを想いつづけるリナ。 きちんと話し合いたいのに、ゴーテル男爵の末娘のサラが商会を毎日訪れるようになり、ルーカスとの距離はどんどん離れていく。            別れを決断したルーカスと、受け入れられないリナ。二人が出した答えは……。

View More

Chapter 1

1 誤解

「別れよう。リナ」

特別に話し合いの為に使用を許可された応接室で、私はルーカスとソファーに向き合って座っている。

「どうして……?」

私は何も悪いことをしていないのに、突然別れを切り出されるという現実が信じられないでいる。

ルーカスは何か誤解しているだけ。

だから謝ったらきっと許してもらえるはず。また元通り、私達は恋人に……。

「リナ、君を信じられないんだ。僕は、浮気は許せないんだ。もう無理だよ。」

ルーカスは私とは一切目を合わすことはなかった。いつもの柔らかい雰囲気のルーカスはそこにはいない。私を軽蔑視したまるで汚いものでも見るように、嫌悪感を剥き出しにしていた。

「ルーカス、私は浮気なんてしてないわ。私はルーカスのことが──」

「止めてくれ!もう僕の名前を呼ばないでくれ。浮気してない?じゃあ、昨日の昼は誰と一緒にいた?3日前は? エミリオと一緒にいただろ、違うのか?」

「一緒にいたわ。でも、それはただ食事をしたりしてただけよ。浮気なんて誤解だわ」

ルーカスに問われたその日は、私はたしかにエミリオと一緒にいた。でも、それはルーカスの思っているような関係じゃない。ただの誤解なのに……

「僕の気持ちが分かる?リナが、エミリオと楽しそうにいる所を何度も見かけたよ。これからは、ただの従業員同士として、やっていこう」

「待って!ルーカス」

ルーカスは最後まで目を合わすことはなかった。振り向きもせずに言いたい事だけ言うと、去って行った。

私達の関係はこんな事で壊れる関係だったの…?

今までずっと一緒に、どんな時も乗り越えてきたじゃない。楽しいことも辛いことも、一番にお互いに話してた。これからも、ずっとずっと続くものだと思ってたのに。

私とルーカスは家が近いこともあり、小さい頃から何かと一緒にいることが多かった。

ルーカスの父は、男爵家が経営する街で大きな商会の支店の運営を任されており、ルーカスは父の手伝いをしている。

私の父はその商会の従業員だ。小さい頃から父にお昼ご飯を届けたり、忘れ物を届けたりしていたので、従業員の方とは小さい頃から顔見知りだ。

ルーカスと私は学園も同じで、卒業してからはルーカスは父の後継者としての勉強の為に、私は慣れ親しんだ所で働きたかったので、従業員として働かせていただいている。

私とルーカスは明確に婚約はしていないが、いずれは結婚するだろうとお互いに思っていた。

今までは……。

私達のことは、あっという間に広まっていた。皆が知っている公認の仲であったことが災いした。ギクシャクした雰囲気から

もしかして別れたのかと詮索する者がいたり、噂好きの女性から問いかけられたり。

ルーカスは平民だが容姿が整っていたので、私を疎む者がこれ幸いと噂を流したのだと思う。

私を取り巻く環境は一変した。浮気をした者として孤立していった。

突然父は地方の支店へと異動が決まった。どんなに孤立していても、何も聞かずに守ってくれた父の存在が救いだった。だがもう父もいない。出発する直前まで父はずっと私の事を気にかけていた。

辞めることも考えたけど、私は商会と終身雇用契約を結んでおり、違約金が払えない為辞めることもできない。

そもそも、なぜ終身雇用契約など結んだのかというと、そちらの方が待遇が良かったのと、ルーカスといずれは一緒になると思っていたから。

今更後悔しても遅いけど。

それでも、心を無にして過ごすしかないと思っていた。

サラお嬢様がくるまでは。

そう、この商会はゴーデル男爵家が経営している一部だ。ルーカスの父は男爵家から運営を任されている。サラお嬢様は視察と称して商会に滞在することが増えていった。

誰の目から見ても、明らかにルーカスに会いに来るために。

ルーカスは優しい。そう、誰に対しても。

私は、毎日ルーカスとサラお嬢様が一緒にいる所を見るはめになった。

Expand
Next Chapter
Download

Latest chapter

More Chapters

Comments

No Comments
7 Chapters
1 誤解
「別れよう。リナ」 特別に話し合いの為に使用を許可された応接室で、私はルーカスとソファーに向き合って座っている。 「どうして……?」 私は何も悪いことをしていないのに、突然別れを切り出されるという現実が信じられないでいる。 ルーカスは何か誤解しているだけ。 だから謝ったらきっと許してもらえるはず。また元通り、私達は恋人に……。 「リナ、君を信じられないんだ。僕は、浮気は許せないんだ。もう無理だよ。」 ルーカスは私とは一切目を合わすことはなかった。いつもの柔らかい雰囲気のルーカスはそこにはいない。私を軽蔑視したまるで汚いものでも見るように、嫌悪感を剥き出しにしていた。 「ルーカス、私は浮気なんてしてないわ。私はルーカスのことが──」 「止めてくれ!もう僕の名前を呼ばないでくれ。浮気してない?じゃあ、昨日の昼は誰と一緒にいた?3日前は? エミリオと一緒にいただろ、違うのか?」 「一緒にいたわ。でも、それはただ食事をしたりしてただけよ。浮気なんて誤解だわ」 ルーカスに問われたその日は、私はたしかにエミリオと一緒にいた。でも、それはルーカスの思っているような関係じゃない。ただの誤解なのに…… 「僕の気持ちが分かる?リナが、エミリオと楽しそうにいる所を何度も見かけたよ。これからは、ただの従業員同士として、やっていこう」 「待って!ルーカス」 ルーカスは最後まで目を合わすことはなかった。振り向きもせずに言いたい事だけ言うと、去って行った。 私達の関係はこんな事で壊れる関係だったの…? 今までずっと一緒に、どんな時も乗り越えてきたじゃない。楽しいことも辛いことも、一番にお互いに話してた。これからも、ずっとずっと続くものだと思ってたのに。 私とルーカスは家が近いこともあり、小さい頃から何かと一緒にいることが多かった。 ルーカスの父は、男爵家が経営する街で大きな商会の支店の運営を任されており、ルーカスは父の手伝いをしている。 私の父はその商会の従業員だ。小さい頃から父にお昼ご飯を届けたり、忘れ物を届けたりしていたので、従業員の方とは小さい頃から顔見知りだ。 ルーカスと私は学園も同じで、卒業してからはルーカスは父の後継者としての勉強の為に、私は慣れ親しんだ所で働きたかったので、従業員として働かせていただい
last updateLast Updated : 2025-08-18
Read more
2 後悔
今までは早めに商会へ行き、ルーカスとその日の業務内容を話し合うのが日課だった。ルーカスが業務に専念できるように雑用や補佐の役割を進んで申し出ていた。日中は忙しいからそれが2人だけで過ごせる大切な時間だったから。 ただその日の予定を話すだけだけど、自分が認められた気がして、いつかこうして2人でこの商会を切り盛りする時がくるのだと、未来へと期待が膨らんでいた。 そう、そこが私の場所なんだと、他の誰にも侵すことの出来ない場所なのだと勘違いしていた。何があっても誰にも奪われることのない私の場所だと。 「おはようございます。サラお嬢様、若旦那様」 「あら、リナおはよう。」 朝の挨拶を終えると早々に退室する。 あそこは私の場所だったのに… サラお嬢様の来られる頻度は日に日に増した。今では毎日来られるのが当たり前になった。そして、毎朝ルーカスと行っていた業務連絡は私ではなくサラお嬢様の役目となっている。 ルーカスのことは、もう名前で呼ぶことは許されない… 軽く挨拶こそするものの、直接的な指示はサラお嬢様から行われるので、あれからルーカスとはまともに話せていない。 もう一度きちんと話し合いたい。 だって私達の絆はもっと強いものでしょ。 唯一の救いは旦那様(ルーカスの父)は私に対して今までと変わらず接してくれること。私とルーカスのことについては一切触れてこないけど。表面上は何も変わらない。私に興味がないのかもしれないけれど。 そしてサラお嬢様。 サラお嬢様は私にも優しかった。 周囲から孤立する私を見兼ねて、人手が必要な時は真っ先に声をかけてくれ、成果を上げた時は皆の前で褒めてくれ、共に食事を摂ってくれたり、必要以上に何かと接してくれた。 サラお嬢様に頼りにされていると認識されて、周囲からは浮気した女 と距離を置かれていたものが、少しづつではあるけど、表立って罵声を浴びることはなくなっていった。 サラお嬢様が嫌な女ならよかったのに……。 サラお嬢様は私とルーカスの関係を知らなかったようだった。 私は思い切ってサラお嬢様に他の支店に異動できないか相談をしてみた。 「ごめんなさい、リナ。ルーカスから聞いたのだけど、あなた達のこと。私が側にいてリナはつらいわよね。まぁ、他の支店へ?確かにリナにとっては居心地が悪いわよね。お父様に相談
last updateLast Updated : 2025-08-18
Read more
3 終わったこと
商会の一日は慌ただしい。午前中は取引先へ配達へ行く者、仕入れ先卸し先を確認する者、ミスがないかのチェックなど、午後からは次の日の配達の確認準備と詰まっている。 明確な休憩時間は決まっておらず、キリの良いところで一息つくようにしている。旦那様も適度に休憩を挟みながら働いた方が仕事の効率がよくなるとおっしゃっている。 私は一息つこうと休憩室へと向かった。休憩室には先客がいるようだ。扉が少し開いており中から話し声が聞こえる。私も中へ入ろうと扉へと手をかけたが、そのまま開けることはできなかった。 「ねぇルーカスはどう思う?」 サラお嬢様? もしかして中にルーカスもいるの? 私は立ち聞きするつもりはなかったのだけど、何故か凍りたように動くことが出来なかった。 聞きたくもないのに、容赦なく私の耳に声が飛び込んでくる。 「あ、どうって?」 「もぅルーカスったら、ふふふ。アーノルドの話を聞いてたの?」 休憩室には数人の従業員もいるようだ。アーノルドさんは父と同年代の方だ。 「サラお嬢様、その質問はルーカス坊ちゃんには酷な質問ですよ。坊ちゃんすみません。こんな話聞かせるつもりはなかったのですが」 「アーノルドさんは愛妻家ですもんね~。」 「いや、まぁ、わしらは長年連れ添ってますからな。なのに、わしに嘘をついて出かけていて」 「奥さんは、お友達と出かけると言ってたらしいんですけど、実際は男友達と会ってたのですって」 「まぁ、でも学園の同期生同士で久々に集まったらしいんですよ。わしに誤解されるのが嫌で黙ってたらしいんですがね。その中に妻の初恋の人がいたもんで。」 「やだ~もうアーノルドさん、結局は惚気ですか~」 若い従業員の女の子は、恋バナが大好きで盛り上がっていた。 「食事をするくらい、いいじゃありませんか」 これは……ルーカスの声? 「だって、奥さん誤解されるのが嫌な程アーノルドさんの事を想ってたってことですよね?」 な…に…を言ってるの? ルーカス、私には浮気だって話も聞いてくれなかったじゃない。 「ルーカスは優しいのね。じゃあリナはどうだったのかしら。あら、私ってばごめんなさい」 どうしてここで私の話になるの? あなたには関係ないじゃない。 これは私とルーカスの問題だし、みんなの前で言うことではないでしょ。 どうして人の心に土
last updateLast Updated : 2025-08-18
Read more
4悪意か善意か
最近サラお嬢様に対して、疑問に思うことが増えた。サラお嬢様は、本当に善意で私に接してくれているのだろうか。 最初から小さな違和感はあった。けれど、それは私の醜い嫉妬心からくるものだと思った。別れる前ならともかく、ルーカスと別れた後に、私に対して嫌がらせをする意味はないと思う。そもそも、私とサラお嬢様とでは住む世界も違うのだから。 人の善意を嫌がらせだと、悪意だと疑ってしまう自分の醜さに驚く。私はこんな人間だったのか。 でも、本当に私のことを心配しての発言なのだろうか? 毎年この時期になると、隣街で大きなパーティーが開かれる。許可された商会は、パーティの際、貴族の邸宅内の庭園に出店することができるのだ。出店することができれば、貴族の方の目に留まり、その後の新たな取引先へと進展することもある。その為競争率が高いので、この時期になると、主催者の当主の方との交渉に赴くのだ。 毎年、旦那様が父達ベテラン世代の方と共に交渉に赴いていた。出店を許可されることもあれば、ダメな時もある。 交渉が成立した場合は、売り上げも上がるので、従業員へも臨時にお給金が支給される。その為、この交渉役のメンバーには、旦那様が不可欠な存在だった。旦那様がしばらく留守になるので、その間は商会は臨時休業となっていた。 「ルーカス、今年の交渉役はお前に任せる。ゴーデル男爵様の希望でサラお嬢様も一緒にとのことだ。残りのメンバーの選抜はサラお嬢様と相談して決めなさい。決まったら私へ報告するように」 「今年は商会はお休みしないのね」 「隣街へ泊まりがけでしょ」 皆、誰が同行するのか知りたくて、ヒソヒソと話していた。父がいないので、きっとベテラン世代のアーノルドさんが選ばれるだろうと誰もが思っていた。 「リナ、ちょっといい?」 「はい、お嬢様」 私は、サラお嬢様から応接室へと呼び出された。 応接室には、ルーカスもいた。 ソファーには、サラお嬢様の隣にルーカスが座っていた。私は向かいのソファーへと腰を下ろす。 久しぶりに間近で見るルーカスは、相変わらず素敵だった。一瞬、目が合ったような気がしたけれど、ルーカスは無反応だった。 「リナ、先程の件なのだけれど、お願いがあるの。ルーカスと一緒で心強いとはいえ、大役を任されて私達も緊張しているの。邸からメ
last updateLast Updated : 2025-08-18
Read more
5エミリオ
はぁ今日も疲れた。 あれから隣街へと交渉へ向かうメンバーが発表された。サラお嬢様、ルーカス、アーノルドさん、そして、お嬢様の世話役として私。 従業員の間で恰好の噂のネタとなった。 ルーカスに付き纏うリナ、 3角関係だとか、 サラお嬢様は騙されているんだとか、周囲は執拗に私を悪者に仕立てていく。 私は、一緒に行くことを望んでもいないのに。 このまま真っ直ぐに帰りたくなくて、 行くあてもなく、ただ遠回りをして歩いていた。 「リナ?」 この声はもしかして……。 振り返ると、こちらへ向かって歩いてくる笑顔の青年の姿があった。 「━━エミリオ」 今、一番会いたくない人。 ルーカスと別れることになった原因の人。 こんな言い方は、失礼ね。 エミリオは、何も悪くないのに。自分の性格の悪さに嫌気がさす。 「あれ、リナの家ってこの辺りなの?」 エミリオは、戸惑う私を気にすることなく、気軽に話しかけてくれる。 「ううん、ちょっと歩きたくて。」 「何かあった?」 お願い優しくしないで。 今、優しくされると、あなたに縋ってしまう。そんなことしたくない。エミリオの問いに何も答えられないでいた。 「あ、そうだ、この辺りによく行く店があるんだけど、良ければ一緒にご飯どう?何か元気ないし、そういう時は美味しいものを食べると元気でるから。あれ、単純かな俺」 屈託のない笑顔が眩しい。エミリオは取引先のお店に勤める従業員だ。うちの商会へ品物を届けてくれたり、新商品の営業に来たりと何かと顔を合わせる機会が多い。 こんな風に帰り道に会うこともあった。 取引先の方だし、何度か食事の誘いを受けたことがある。 今までは……。 でも、ルーカスに誤解されたこともあるし、さすがにもう断わろう。 「エミリオ、私━━」 「荷物重そうだね? 持つよ、さぁ行こう、ね?」 野菜などを購入していた私は、買い物袋を持っていた。エミリオはヒョイッと私の手から買い物袋を取ると、先に歩きだす。 断るつもりだったのに、買い物袋を持つエミリオを追いかける形となり、結局お店まで一緒に来てしまった。 窓辺の席に案内されて、私達は隣り合わせで座った。 どうして来てしまったのだろう……。 こういう曖昧な態度が、ル
last updateLast Updated : 2025-08-18
Read more
6隣街へ①
隣街へと出発する日になった。 とうとうこの日が来てしまった。 本当に行きたくない… でも、アーノルドさんがいるのが救いだった。 朝、出発の挨拶をして、皆に見送られながら私達は隣街へと出発した。 隣街へは馬車での移動になる。 護衛の方は前方と後方におり、盗賊などの襲撃に備えていた。 盗賊を恐れて、商会のロゴの入っていない、一般用の馬車を借りている。 なるべく目立たないようにサラお嬢様も平民の装いだった。治安が悪い訳ではないけれど、この時期は商会の出入りが多いので、それに伴い盗賊に狙われる危険も増える。特に今回はサラお嬢様も同行する為、警備には力を入れている。 馬車の中では、サラお嬢様とルーカス、向かい側にアーノルドさんと私が隣り合わせで座ってていた。 耐えきれない空気感だったらどうしよう、と胃の辺りを押さえながら、不安でたまらなかった。 が、意に反して、馬車が動き出すと、和やかな雰囲気となった。 サラお嬢様が普段と同様に、気さくにルーカスやアーノルドさんや、私にも話しかけてくれる。 それに相槌をうったり、答えたりする形ではあるけれど、表向きは楽しく過ごすことができた。 私とルーカスは、お互いに目を合わせないようにしている。どうしてもぎこちない雰囲気になってしまう。 サラお嬢様は、そんな私達の様子など気にも留めていないようだった。お嬢様の考えていることは分からない。きっと、貴族の方は、私達とは感覚が違うのかもしれない。 隣街へ到着した後は、サラお嬢様達は交渉の為に貴族邸へと向かうことになっている。 私は交渉の場には参加しないので、宿で待機したり、自由に過ごして良いと言われている。 皆を見送った後、ほっと胸を撫で下ろし安堵する。 このまま宿にいようかなとも考えたけれど、せっかくなので、少し街を歩いてみることにした。 この時期は、様々な商会の方達が訪れているので、街には活気が溢れてる。 父から聞いた通りだった。とても賑やかで、確か柑橘系のジュースが名物だと言っていた。 ちょうど喉が渇いたので、私はグレープフルーツジュースを購入した。程よい酸味が喉を潤す。 周囲を見回すと、同じようにドリンクを片手にお店を見てまわっている人が多い。皆、お土産を購入するのだろう。 お土産……。 そうだわ、エミリオに、何かお土産を買って帰ろう。
last updateLast Updated : 2025-08-19
Read more
7隣街へ②
宿に戻ってから、しばらくすると皆が戻ってきた。 出迎えた皆の顔は明るい。その表情から、交渉が上手くいったのだと感じられた。 「ルーカス、やったな!」 「アーノルドさんのアドバイスのおかげですよ。それに、今回の一番の功績はサラだ」 「ふふ、たまたま知り合いだったからよ。私1人では上手くいかなかったわ。 リナ、今戻ったわ。」 「お疲れ様でした。」 私は皆に労いの言葉をかける。 どうやら当主様は、サラお嬢様のお知り合いだったようだ。サラお嬢様の人脈は、この先もきっと役に立つのだろう。 「出店が決まったのですね。おめでとうございます」 「あぁ、皆で祝杯を上げよう!」 「アーノルドさんは、自分が飲みたいだけでしょ?」 「支払いは私が持つわ。皆、好きに飲んで。私は、部屋に戻って休むことにするわ」 こういう時は自分がいると気を遣うだろうし、盛り上がれないでしょ?と言われて部屋に戻って行った。 お嬢様がそんなことを言うなんて意外だった。てっきり、ルーカスと一緒にいるものだと思っていたのに。 お嬢様を見送った後、ふとルーカスに視線を向ける。 ルーカス…? どうしてそんな顔をしているの? 「リナも、さぁおいで」 「アーノルドさん、あのっ、私は━━」 せっかくのお誘いだったけれど、 私はサラお嬢様が心配なので、自分も部屋に戻ると伝えた。 アーノルドさんがいるとはいえ、やはりルーカスと一緒にいるのは気まずい。 「じゃあ、男同士で盛り上がろう!ルーカス」 アーノルドさんは、お酒が大好きなので意気揚々とルーカスの肩を抱いて行った。 それにしても、あの時のルーカスの顔……。 サラお嬢様が部屋に戻ると言った時、一瞬だけど右の口角が上がっていた。 昔から知ってる私だから分かる。あれは、ルーカスが嬉しい時の癖。 あまり表情が豊かではないから、分かりにくいけれど。 ルーカスは、サラお嬢様が来ないことが嬉しかったの? ルーカスに聞くことも出来ないから、憶測でしかないけど。でも、どうして? 喧嘩でもしたのかな。 答えが分からず悶々としながら、部屋へと戻った。 私の部屋はサラお嬢様の隣だ。お嬢様の着替えの手伝いが必要だろうと思い、介助をしようと扉をノックした。 「リナ、着替えなら良かったのに。」 私は、お嬢様が入浴を終えるのを待ち、着替えを手
last updateLast Updated : 2025-08-20
Read more
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status