Chapter: 第18話 お騒がせカップル翌日になると、昨日ひねった足はすっかり良くなっていた。昨日は少し痛かったけれど、たいしたこともなく、湿布を貼って寝たらもう痛みも感じないくらいだった。少し安心しながら出勤したこの日、保健室は朝からいつもよりもにぎやかだった。放課後テストが近いせいか、部活が休みの生徒が多く、その分、保健室に顔を出す子が増えていた。お決まりのメンバー――早苗が最初にやって来て、少し遅れて長野と常盤も姿を見せた。3人とも、どうやら話すために来たという感じがする。「先生〜、やっほ〜!来ちゃった!今誰もいない?」「ええ、いないけど……もうすぐテストでしょ?テスト勉強はしなくていいの?」わたしが笑いながらそう言うと、長野がすぐさま大げさに肩を落とした。「え〜、奈那子ちゃんまでテストの話しないでよ〜!」「もしあれなら、ここで勉強してもいいわよ。 今は保健室使ってる子いないし。体調不良の子が来るまでだったらね」そう言っても、3人の顔には「勉強する気ゼロです」と書いてあった。代わりになぜか質問攻めにあってしまう。「奈那子ちゃんって、何の教科得意だった?」とか、「数学教えてよ〜!」とか。「数学なら、滝川先生に聞けばいいじゃない」そう言うと、常盤がすかさず答える。「滝川っち、きびしーもん!」思わず吹き出してしまう。來のことを「滝川っち」と呼ぶあたり、あっという間に來がクラスの子と打ち解けたのが分かる。彼らの中では、先生と生徒というより、ちょっと年上の兄貴分みたいな存在なのかもしれない。そんな中、早苗が少し真剣な表情で口を開いた。「そういえば昨日、奈那子先生、階段から落ちたって聞いたけど……大丈夫だったの?」「ああ、あれね。数段だけだったから大丈夫よ。心配してくれてありがとう」「そのとき、滝川っちが助けに来てくれたって聞いたけど、ホント?」その言葉に一瞬、息が止まった。どうやら昨日の出来
Last Updated: 2025-11-21
Chapter: 第17話 動揺からの失敗ここ数日、どうにも落ち着かない。頭の中に、あの望の投稿が何度も浮かんでしまう。『元カノ、別れて半年も経ってないのに別の男と結婚したって。あんな男好きと別れられてほんとよかった』――あの言葉を見るたびに、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。もう関係ないはずなのに。忘れたと思っていたのに。そのせいか、最近よくものを落とすし、人に話しかけられても気づかないことが増えた。來にも気づかれているのが分かる。何かやらかしたあと、ふと顔を上げると、必ず彼と目が合ってしまう。でも、來は何も言わなかった。ただ、静かに見守るように視線をくれるだけ。それが逆に、今はありがたかった。***その日も、授業中で保健室に来た生徒がいなかったため、わたしは巡回しつつ環境を確認していった。いつものように、トイレの除菌や廊下の換気をしていく。授業が終わるチャイムが鳴って、「そろそろ戻らなきゃ」と思って階段を下りた、その瞬間だった。ツルッ。「あっ――」体がふわっと浮いて、すぐにドンと落ちた。下から数段だったから大事にはならなかったけど、足首に鈍い痛みが走る。「先生、大丈夫ですか!?」近くを通りかかった生徒が駆け寄ってきた。わたしは慌てて笑顔を作った。「だ、大丈夫。ごめんね、驚かせちゃったね」本当は少し痛かった。でも、生徒の前で情けない顔はしたくなかった。でも、そのとき、聞き慣れた声がした。「横井先生、大丈夫ですか?」顔を上げると、來が立っていた。心配そうな顔でわたしを見下ろしている。「足、ひねりました?肩、貸しましょうか?」「だ、大丈夫です。平気ですから」そう答えると、周りの生徒たちがわっと笑いだした。「滝川っち、フラれたー!」「先生、男前に助けに来たのに~!」その無邪気な
Last Updated: 2025-11-19
Chapter: 第16話 元カレのつぶやき洗い物を終えたころ、テーブルの上に置いていたスマホが震えた。画面を見ると、そこには「母」の文字。久しぶりの母からの着信だった。「……もしもし?お母さん?」『あら、奈那子。久しぶりね。元気にしてる?』2か月ぶりの声に、少し胸が温かくなる。でも次の瞬間には、この優しい声がどこか探るようなものに変わった。『結婚生活はどう?ちゃんとやれてるの?』これは、予想していた質問だった。「うん、大丈夫だよ。ちゃんとやってる」そう答えると、母のため息が小さく聞こえてくる。『……ほんとに?奈那子、來くんに迷惑かけてない?』迷惑なんて、かけてない……たぶん。「迷惑かけてない」と答えるとき、少し戸惑ってしまった。『それにね、ずっと気になってたんだけど……。來くんのご両親には、もう挨拶に行ったの?』以前に実家に行ったときには、「來くんのご両親に挨拶に行くときはきちんとしなさいね」と言われた程度だった。だから、こんな質問が突然来るとは思わず、わたしは言葉に詰まり、少し間を置いてから答えた。「……來のご両親、ちょっと忙しくて。なかなか予定が合わないの」『そう……。でもね、奈那子たち結婚式まだ挙げてないでしょう?向こうのご両親にお母さんたちもお会いしていないから、お父さんも心配してるのよ』母の声は責めているわけではなかった。ただ、娘を心配している親の声だった。だからこそ、胸が痛む。「……うん、わかってる。ちゃんと話してみるね」『そう。できれば來くんを連れてまた帰ってきなさい。お父さんも、奈那子の顔を見たがってるから』その言葉に、思わず小さくうなずいた。「來、部活の顧問もしてるから土日も忙しいことが多いの……一
Last Updated: 2025-11-17
Chapter: 第15話 久しぶりの女子会ゴールデンウィークに入ると、学校は一週間近くお休みになった。けれど、部活動は別。來も数日、部活の顧問として出勤しなければいけなかった。「久しぶりに、涼子とヒロコ……高校のときの友達と会いたいねって話になったんだけど」そう言うと、來はすぐに笑ってくれた。「いいじゃん。行っておいで。楽しんで」あっさりと背中を押してくれるその気楽さが、やさしくてくすぐったい。その日の朝、わたしは休みだったけれど、いつもと変わらずキッチンに立っていた。來のお弁当を準備する手つきも、だいぶ自然になった気がする。「……お弁当、できたよ」來に手渡すと、彼は少し驚いたように目を見開いて、すぐに柔らかな笑顔を浮かべた。「休みなのに、ありがとう」そしていつものように、わたしの頭に手が伸びる。ポン、と優しく触れるその感触に、胸がふわっと温かくなる。このしぐさ、これで何度目だろう。気づけば、当たり前のように撫でてくる。まるで、本当の恋人みたい……いや、もう夫婦なのだけれど。それでも、くすぐったい。「いってきます」「いってらっしゃい」笑顔で手を振る來を見ながら、思わず頬が緩む。ドアが閉まったあとも、しばらく胸の奥に残るぬくもりが、静かに響いていた。しばらくして、わたしは出かける支度を始めた。お気に入りのワンピースを着て、少しだけ髪も丁寧に巻いた。涼子とヒロコに久しぶりに会うこの日を、この数日ずっと待っていた。胸が弾むような、少し緊張するような、不思議な気持ちで家を出た。***約束のお店は、ヒロコが予約してくれた韓国料理屋だった。「前から行きたかったんだよね!」とメッセージをくれたときの勢いのまま、店選びはあっという間に決まった。結婚してから三人で会うのは、今日が初めて。久しぶりの再会
Last Updated: 2025-11-14
Chapter: 第14話 突然の訪問家に帰ると、わたしは洗濯物を畳んで掃除をした後、早速夕飯の準備に取りかかった。チャーハンの材料を冷蔵庫から取り出していく。今日は來が遅くまで仕事を頑張ってくる日。気合を入れてリクエストのあったチャーハンを作ろう。そう思って、気持ちを切り替えようとしていた矢先だった。カチャ。玄関のドアが開く音がした。え?と手が止まる。もしかして泥棒?と体がこわばった。時計は18時少し過ぎをさしている。だって、來が帰るには早すぎるもの。でも、もしかしたら家庭訪問、中止になったのかもしれない。そう思いながら玄関を覗くと──知らない女性が、玄関の段差に靴を揃えて、家の中に入ろうとしていた。「……え?」その女性と、目が合った。相手も、わたしを見て固まっている。「ど、どちら様ですか?」自分の声が、思ったより震えていた。女性は少し驚いたように瞬きをしてから、丁寧に頭を下げた。「藤原美緒です」──美緒。どこかで聞いた名前だった。それに、どこかで会っているような気もしてきた。その瞬間、彼女が続けた言葉に心臓が跳ねた。「來くんと結婚した方ですよね。はじめまして。來くんのお母さんに頼まれて、おかずを届けに来ました」……思い出した。あの場所――行きつけだった「café&grill LUCE」で見かけた女性だ。來の元カノであり、望と浮気していた彼女――きゅっと息が詰まったように感じた。わたしは、彼女に会う準備なんて全くできていないのに。こんな突然顔を合わせることになるなんて――「ありがとうございます……」そう答えて、紙袋を受け取る手が少し震えた。あのときは、ほとんど顔を見ていなかったから、あまり印象も覚えていな
Last Updated: 2025-11-13
Chapter: 第13話 不穏な返信その朝は、いつもよりゆっくりとした時間が流れていた。テーブルには焼いた鮭と、お味噌汁と、炊き立てのご飯といった、いつもの簡単な食事が並んでいる。「今日は家庭訪問してから帰るから」味噌汁の湯気の向こうで、來が穏やかに言った。その言葉に、胸がすっと強張る。酒井真央は、まだ一度も学校に来ていない。毎日、母親からの欠席の連絡が続いていた。また昼休みに心配した表情の早苗がやってくるのが、頭に浮かぶ。「……そっか。今日だったよね、家庭訪問。話ができるといいね、酒井さんと」それしか言えなかった。もしかしたら今日の家庭訪問でも、何も変わらないかもしれない可能性があったから。気持ちを切り替えようと、わたしは笑顔を作った。「ねえ、今日の夜ご飯、何がいい?」來は箸を止め、少し考えるふりをしてから、ぽつりとつぶやいた。「豚汁……は、この前作ってもらったしな……」小声でぶつぶつ言う姿が、なんだか子どもみたいだと思った。そんな姿を、可愛い、なんて思ってしまう自分がいる。「あっ、チャーハン久しぶりに食べたいかも」來は急に、思い出したみたいに顔を上げて言った。でも、すぐに真面目な表情に戻る。「帰って疲れてたら無理しなくていいから。連絡して。お弁当でも買って帰るよ」その優しさが、あったかく胸に沁みる。「大丈夫だよ。料理好きだから。チャーハンくらいなら全然苦じゃないもの」本当の気持ちだった。誰かのために作る料理は、ひとりのときよりずっと嬉しい。食べ終わりのタイミングで、來が席を立つ。いつも通りだと思った瞬間――そっと、頭に手が乗った。一瞬だけ、驚いて息が止まる。撫でられたところが、じんわり熱くなる。「ありがとう」何気ない声なのに、心臓がどくんと跳ねた
Last Updated: 2025-11-12
Chapter: 第47話 暴走した彼は誰も止められないそれから幸さんの気が済むまで、愚痴を聞いて。気付いたらもうすぐ日付が変わろうとしていた。「幸さん、大丈夫ですかね?一人で帰っちゃいましたけど」自棄になって、幸さんの顔はかなり赤く染まっていた。あんなにお酒に強いのに、珍しい。「大丈夫だろ、アイツの彼氏にさっき連絡しといたし」帰り際、仲森さんが携帯をいじっているのは知っていたけど。幸さんの彼氏に連絡してたんだ。「なら大丈夫ですよね。幸さん、彼氏さんと仲直りできるといいんですけど」「そーだよなぁ。アイツらには早く仲直りしてもらわないと、愚痴聞かされるこっちの身がもたねーし」こんなこと言ってる仲森さんだけど。また二人が喧嘩した時は、こうして愚痴聞いてあげると思う。だって、彼は本当に優しい人だから。相手の気が済むまで、ずっと付き合ってあげると思うの。「それよりさぁー。はい」「………はい?」何やら手を差し出してくる仲森さん。この手は一体……なに?「久しぶりに手繋いで帰ろう」「え……手、繋いでって……え?」戸惑うわたしを余所に、表情一つ変えずに手を掴んだ彼。触れた瞬間、手にジワリと汗がにじんだ。「な、仲森さん!ちょっ!手、離してくださいって!」「麻菜、久しぶりじゃね?こうして手繋いで帰るの。高校生以来?」わたしの抵抗も敵わず、逆に握る力を強めてきた。「なんか、懐かしいなぁ。麻菜もそう思わない?」わたしも思っていた。まるで昔を思い出させるこのシチュエーション。
Last Updated: 2026-03-11
Chapter: 第46話 動き出した彼それから彼の行動はさらに積極性を増していった。周りも驚くほどに、彼はわたしに関わってくるようになった。「麻菜、今日これから飲み行かない?」仲森さんからの突然のお誘い。これにはわたしも戸惑いを隠せなかった。だって、こんなに直球に誘われることなんて今までなかったから。「あ、あの……今日は幸さんと約束があって」用事がなくても断るつもりでいたけれど、今日はちょうど幸さんとの約束があった。幸さんと飲みに行く約束が。「ふーん。アイツとねぇ。おーい、田畑ー!」すると、突然幸さんの名前を呼んだ仲森さん。「何よ、大声出して」「今日さ、麻菜と飲みに行くんだって?」「そうよー」「じゃあ、俺も行くから」「あっそー。了解ー!」何なんだ、このあっさりした会話は……。幸さんなんて迷うことなくOKしちゃったし。関わらないように努力はしているものの、ここ最近はこうしてその努力はあっさりと砕け散っている。今日の飲み会……どうなっちゃうんだろう。「麻菜ちゃーん!ボーっとしてないで、早く行くわよー!」「あっ、はーい!今行きまーす!」幸さんの呼びかけにハッと我に返って、並んで待つ二人の元へ駆けていった。わたしってこんなに流されやすかったっけって最近嫌になる。またこうして仲森さんの隣を歩くなんて。流されやすすぎよね、わたし。「麻菜って昔から意識飛んでたよなぁ。よくボーっとしてたし」「えっ……そんなことないです……今もたまたま」昔から仲森さんはわたしのことをボ
Last Updated: 2026-03-09
Chapter: 第45話 ダメだと分かっていてもねぇ、どうしたらいいの?わたしはこれから彼とどう接したらいい?仲森さんから予想外な告白を受けた次の日。もちろん冷静ではいられなくて、わたしは頭が混乱する中仕事場に向かっていた。『麻菜……好きだ』高校生で彼から初めて告白された時と同じように、真っ直ぐな告白だった。いつでもわたしの心は彼に乱されっぱなし。仲森さんがわたしのことを今でも想っていてくれていたなんて。そんなこと……思ってもみなかった。彼をあんなに傷つけたのに、それなのにって。わたしは……どうするのがいいんだろう。何をするのが一体正解なんだろう。一晩ずっとこのことばかり考えていた。「……どんな顔して会えばいいのよ」それと同時に問題なのが、何故あの時……わたしはすぐに断らなかったのだろうということ。告白の返事を、あの時すぐに出来たはずなのに出来なかった。もう、わたしは彼の隣にいる資格なんてない。だから断るべきだったのに……あの時、隠してきた想いが断るという行為を邪魔したんだ。ずっとダメだダメだと自分に言い聞かせてきたのに。彼からの告白で、それが一気に砕け散ったような気がした。断らないとダメという思いと、素直になってもいいのかなという思い。二つの思いがわたしの心を支配している。それでもわたしは、なるべく彼と関わるのはよそうと心に決めて、会社に足を踏み入れた。「……お、はようございます」運の悪いことにウチの
Last Updated: 2026-03-06
Chapter: 第44話 あり得ない告白②「もう無理なのか?麻菜……」「え……?」「もう……あの頃みたいに秀ちゃんって呼んではくれない?」仲森さんが、いつもと違う。彼の熱い瞳がわたしを捕えた。思わず足を止めてしまいそうになった。「麻菜の笑顔をもう見ることは許されないのか?」「な、仲森さん?あの……」もう一度顔を歪ませると、彼は再び口を閉ざした。頭をクシャッと掻くと、わたしの一歩前を歩き階段を上り始めた。仲森さんの表情は見えないけれど……何だか、彼の背中が泣いている気がした。「仲森さん……それじゃあ……」仲森さんが口を開かないまま部屋の前に着いてしまい、彼に別れを告げ家の中に入ろうとした時。ドアノブにかけた手を掴まれてしまった。「な、仲森さん!?」さっきとは打って変わって、彼の強く熱い視線がこちらに向けられた。「待って、麻菜。まだ話は終わってない」「あ、え……?あの……」ギュッと力を込めて握られた右手。その拍子にドクンと、大きく胸が高鳴った。「麻菜、俺……昔と一緒だから」「え……?」昔と一緒って……どういうこと?そう思った時には、もうすでに彼に抱きしめられていた。再会してからこうして抱きしめられるのは二度目。こんなことダメだって分かってるのに……
Last Updated: 2026-03-04
Chapter: 第43話 あり得ない告白①流川さんとのデートの後の初めての出勤の日。この日はちょうど彼も出勤日だったらしく、会社の最寄りの駅で偶然会ってしまった。「おはよう、麻菜ちゃん」「……お、おはようございます」正直言うと、あれから流川さんと会うのに抵抗があった。『君のこと本気になりそう』告白ともとれるこの言葉を聞いてから、わたしはおかしい。今も顔を見ただけなのに、胸が熱くなっている。「そう言えば、今日は一緒じゃないの?」「え?誰のことですか?」「麻菜ちゃんと一緒に来たって言う……ジョンって人」「あぁ……いつも一緒ってわけじゃないですから」流川さんは全く気にしてないみたいだった。わたしばっかり意識して……バカみたい。それから他愛ない話をしながら、二人で並んで出勤した。ちょうどデパートの社員用出入り口のところで、仲森さんに会った。彼もちょうど出勤したところだったのだ。「あ……」お互い顔を見合せたまま固まった。わずか数秒なのに、わたしにとってはかなりの時間に感じた。「麻菜ちゃん?」何も話さずただ仲森さんを見つめていたわたしに、流川さんが声をかけた。仲森さんも流川さんも、まるでお互いなんて見えていないみたいだ。お互いの存在をかたくなに無視している。「麻菜」流川さんに呼ばれ、再び彼の隣へ行こうとすると。真剣な眼差しの仲森さんに呼び止められた。「おはよう」わたしの頭を軽く撫でた仲森さんは、スッとわたしの横を通り過ぎた。
Last Updated: 2026-03-02
Chapter: 第42話 違うぬくもり②「暗いから足元気をつけて」こういう気遣いも女性が惹かれる理由だろうなぁ。絶対、流川さんモテるだろうし。そして、2時間半後———。流川さんとわたしは再び、彼の車に乗りあるところへ向かっていた。あるところというのは、わたしもまだ知らなくて。「流川さん、何処に向かってるんですか?」「次はね……ご飯食べに行こうと思って。でも場所は秘密ね」やっぱり秘密か。予想はしていたけれど、流川さんはお楽しみが好きらしい。もうすぐ18時になるところだから、着く頃にはちょうどいい時間帯かな。「麻菜ちゃん、食べられないものとかある?」「食べられないものですか?いえ、ないですよ」「そっか、ならよかった。これから行くところ、もの凄く料理美味しいから」「そうなんですか!楽しみです!」昔からよく食べ物に釣られやすいと言われ続けてきたけど。たった今、それを実感した。わたし、本当に食べ物に釣られてるし……そして、着いたのはイタリアンレストランだった。「麻菜ちゃん、イタリアン大丈夫?」「あ、はい。大丈夫です」「麻菜ちゃんは初めてだよね?ここ、最近できたばかりらしいから」「え、あ、はい」少し返答に渋ってしまったのは、このイタリアンレストランが……以前に来たことのあるレストランだったから。しばらくアメリカにいたから、おそらく流川さんはわたしは行ったことないだろうと思ったんだ。今さら言えないよ。前に幸さんに連れてきてもらいましたなんて。テーブルに着くと、優しく細められた瞳がずっとこちらを見ていた。
Last Updated: 2026-02-27