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葉山心愛
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Novels by 葉山心愛

夫の一番にはなれない

夫の一番にはなれない

高校の養護教諭・横井奈那子は、6年付き合った恋人に裏切られ、結婚の夢を失う。失意の中、同じく恋人に裏切られた男性・滝川來が同じ学校に赴任してきた。互いにまだ元恋人を想っていると誤解したまま、逃げ道のように“1年限りの契約結婚”をする二人。ぎこちない共同生活の中、生徒たちの悩みや成長に寄り添ううちに、心の距離が少しずつ縮まっていく。——果たして、期限付きの関係は本物の愛に変わるのか。切なく温かな大人の学園ラブストーリー。
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Chapter: 第18話 お騒がせカップル
翌日になると、昨日ひねった足はすっかり良くなっていた。昨日は少し痛かったけれど、たいしたこともなく、湿布を貼って寝たらもう痛みも感じないくらいだった。少し安心しながら出勤したこの日、保健室は朝からいつもよりもにぎやかだった。放課後テストが近いせいか、部活が休みの生徒が多く、その分、保健室に顔を出す子が増えていた。お決まりのメンバー――早苗が最初にやって来て、少し遅れて長野と常盤も姿を見せた。3人とも、どうやら話すために来たという感じがする。「先生〜、やっほ〜!来ちゃった!今誰もいない?」「ええ、いないけど……もうすぐテストでしょ?テスト勉強はしなくていいの?」わたしが笑いながらそう言うと、長野がすぐさま大げさに肩を落とした。「え〜、奈那子ちゃんまでテストの話しないでよ〜!」「もしあれなら、ここで勉強してもいいわよ。 今は保健室使ってる子いないし。体調不良の子が来るまでだったらね」そう言っても、3人の顔には「勉強する気ゼロです」と書いてあった。代わりになぜか質問攻めにあってしまう。「奈那子ちゃんって、何の教科得意だった?」とか、「数学教えてよ〜!」とか。「数学なら、滝川先生に聞けばいいじゃない」そう言うと、常盤がすかさず答える。「滝川っち、きびしーもん!」思わず吹き出してしまう。來のことを「滝川っち」と呼ぶあたり、あっという間に來がクラスの子と打ち解けたのが分かる。彼らの中では、先生と生徒というより、ちょっと年上の兄貴分みたいな存在なのかもしれない。そんな中、早苗が少し真剣な表情で口を開いた。「そういえば昨日、奈那子先生、階段から落ちたって聞いたけど……大丈夫だったの?」「ああ、あれね。数段だけだったから大丈夫よ。心配してくれてありがとう」「そのとき、滝川っちが助けに来てくれたって聞いたけど、ホント?」その言葉に一瞬、息が止まった。どうやら昨日の出来
Last Updated: 2025-11-21
Chapter: 第17話 動揺からの失敗
ここ数日、どうにも落ち着かない。頭の中に、あの望の投稿が何度も浮かんでしまう。『元カノ、別れて半年も経ってないのに別の男と結婚したって。あんな男好きと別れられてほんとよかった』――あの言葉を見るたびに、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。もう関係ないはずなのに。忘れたと思っていたのに。そのせいか、最近よくものを落とすし、人に話しかけられても気づかないことが増えた。來にも気づかれているのが分かる。何かやらかしたあと、ふと顔を上げると、必ず彼と目が合ってしまう。でも、來は何も言わなかった。ただ、静かに見守るように視線をくれるだけ。それが逆に、今はありがたかった。***その日も、授業中で保健室に来た生徒がいなかったため、わたしは巡回しつつ環境を確認していった。いつものように、トイレの除菌や廊下の換気をしていく。授業が終わるチャイムが鳴って、「そろそろ戻らなきゃ」と思って階段を下りた、その瞬間だった。ツルッ。「あっ――」体がふわっと浮いて、すぐにドンと落ちた。下から数段だったから大事にはならなかったけど、足首に鈍い痛みが走る。「先生、大丈夫ですか!?」近くを通りかかった生徒が駆け寄ってきた。わたしは慌てて笑顔を作った。「だ、大丈夫。ごめんね、驚かせちゃったね」本当は少し痛かった。でも、生徒の前で情けない顔はしたくなかった。でも、そのとき、聞き慣れた声がした。「横井先生、大丈夫ですか?」顔を上げると、來が立っていた。心配そうな顔でわたしを見下ろしている。「足、ひねりました?肩、貸しましょうか?」「だ、大丈夫です。平気ですから」そう答えると、周りの生徒たちがわっと笑いだした。「滝川っち、フラれたー!」「先生、男前に助けに来たのに~!」その無邪気な
Last Updated: 2025-11-19
Chapter: 第16話 元カレのつぶやき
洗い物を終えたころ、テーブルの上に置いていたスマホが震えた。画面を見ると、そこには「母」の文字。久しぶりの母からの着信だった。「……もしもし?お母さん?」『あら、奈那子。久しぶりね。元気にしてる?』2か月ぶりの声に、少し胸が温かくなる。でも次の瞬間には、この優しい声がどこか探るようなものに変わった。『結婚生活はどう?ちゃんとやれてるの?』これは、予想していた質問だった。「うん、大丈夫だよ。ちゃんとやってる」そう答えると、母のため息が小さく聞こえてくる。『……ほんとに?奈那子、來くんに迷惑かけてない?』迷惑なんて、かけてない……たぶん。「迷惑かけてない」と答えるとき、少し戸惑ってしまった。『それにね、ずっと気になってたんだけど……。來くんのご両親には、もう挨拶に行ったの?』以前に実家に行ったときには、「來くんのご両親に挨拶に行くときはきちんとしなさいね」と言われた程度だった。だから、こんな質問が突然来るとは思わず、わたしは言葉に詰まり、少し間を置いてから答えた。「……來のご両親、ちょっと忙しくて。なかなか予定が合わないの」『そう……。でもね、奈那子たち結婚式まだ挙げてないでしょう?向こうのご両親にお母さんたちもお会いしていないから、お父さんも心配してるのよ』母の声は責めているわけではなかった。ただ、娘を心配している親の声だった。だからこそ、胸が痛む。「……うん、わかってる。ちゃんと話してみるね」『そう。できれば來くんを連れてまた帰ってきなさい。お父さんも、奈那子の顔を見たがってるから』その言葉に、思わず小さくうなずいた。「來、部活の顧問もしてるから土日も忙しいことが多いの……一
Last Updated: 2025-11-17
Chapter: 第15話 久しぶりの女子会
ゴールデンウィークに入ると、学校は一週間近くお休みになった。けれど、部活動は別。來も数日、部活の顧問として出勤しなければいけなかった。「久しぶりに、涼子とヒロコ……高校のときの友達と会いたいねって話になったんだけど」そう言うと、來はすぐに笑ってくれた。「いいじゃん。行っておいで。楽しんで」あっさりと背中を押してくれるその気楽さが、やさしくてくすぐったい。その日の朝、わたしは休みだったけれど、いつもと変わらずキッチンに立っていた。來のお弁当を準備する手つきも、だいぶ自然になった気がする。「……お弁当、できたよ」來に手渡すと、彼は少し驚いたように目を見開いて、すぐに柔らかな笑顔を浮かべた。「休みなのに、ありがとう」そしていつものように、わたしの頭に手が伸びる。ポン、と優しく触れるその感触に、胸がふわっと温かくなる。このしぐさ、これで何度目だろう。気づけば、当たり前のように撫でてくる。まるで、本当の恋人みたい……いや、もう夫婦なのだけれど。それでも、くすぐったい。「いってきます」「いってらっしゃい」笑顔で手を振る來を見ながら、思わず頬が緩む。ドアが閉まったあとも、しばらく胸の奥に残るぬくもりが、静かに響いていた。しばらくして、わたしは出かける支度を始めた。お気に入りのワンピースを着て、少しだけ髪も丁寧に巻いた。涼子とヒロコに久しぶりに会うこの日を、この数日ずっと待っていた。胸が弾むような、少し緊張するような、不思議な気持ちで家を出た。***約束のお店は、ヒロコが予約してくれた韓国料理屋だった。「前から行きたかったんだよね!」とメッセージをくれたときの勢いのまま、店選びはあっという間に決まった。結婚してから三人で会うのは、今日が初めて。久しぶりの再会
Last Updated: 2025-11-14
Chapter: 第14話 突然の訪問
家に帰ると、わたしは洗濯物を畳んで掃除をした後、早速夕飯の準備に取りかかった。チャーハンの材料を冷蔵庫から取り出していく。今日は來が遅くまで仕事を頑張ってくる日。気合を入れてリクエストのあったチャーハンを作ろう。そう思って、気持ちを切り替えようとしていた矢先だった。カチャ。玄関のドアが開く音がした。え?と手が止まる。もしかして泥棒?と体がこわばった。時計は18時少し過ぎをさしている。だって、來が帰るには早すぎるもの。でも、もしかしたら家庭訪問、中止になったのかもしれない。そう思いながら玄関を覗くと──知らない女性が、玄関の段差に靴を揃えて、家の中に入ろうとしていた。「……え?」その女性と、目が合った。相手も、わたしを見て固まっている。「ど、どちら様ですか?」自分の声が、思ったより震えていた。女性は少し驚いたように瞬きをしてから、丁寧に頭を下げた。「藤原美緒です」──美緒。どこかで聞いた名前だった。それに、どこかで会っているような気もしてきた。その瞬間、彼女が続けた言葉に心臓が跳ねた。「來くんと結婚した方ですよね。はじめまして。來くんのお母さんに頼まれて、おかずを届けに来ました」……思い出した。あの場所――行きつけだった「café&grill LUCE」で見かけた女性だ。來の元カノであり、望と浮気していた彼女――きゅっと息が詰まったように感じた。わたしは、彼女に会う準備なんて全くできていないのに。こんな突然顔を合わせることになるなんて――「ありがとうございます……」そう答えて、紙袋を受け取る手が少し震えた。あのときは、ほとんど顔を見ていなかったから、あまり印象も覚えていな
Last Updated: 2025-11-13
Chapter: 第13話 不穏な返信
その朝は、いつもよりゆっくりとした時間が流れていた。テーブルには焼いた鮭と、お味噌汁と、炊き立てのご飯といった、いつもの簡単な食事が並んでいる。「今日は家庭訪問してから帰るから」味噌汁の湯気の向こうで、來が穏やかに言った。その言葉に、胸がすっと強張る。酒井真央は、まだ一度も学校に来ていない。毎日、母親からの欠席の連絡が続いていた。また昼休みに心配した表情の早苗がやってくるのが、頭に浮かぶ。「……そっか。今日だったよね、家庭訪問。話ができるといいね、酒井さんと」それしか言えなかった。もしかしたら今日の家庭訪問でも、何も変わらないかもしれない可能性があったから。気持ちを切り替えようと、わたしは笑顔を作った。「ねえ、今日の夜ご飯、何がいい?」來は箸を止め、少し考えるふりをしてから、ぽつりとつぶやいた。「豚汁……は、この前作ってもらったしな……」小声でぶつぶつ言う姿が、なんだか子どもみたいだと思った。そんな姿を、可愛い、なんて思ってしまう自分がいる。「あっ、チャーハン久しぶりに食べたいかも」來は急に、思い出したみたいに顔を上げて言った。でも、すぐに真面目な表情に戻る。「帰って疲れてたら無理しなくていいから。連絡して。お弁当でも買って帰るよ」その優しさが、あったかく胸に沁みる。「大丈夫だよ。料理好きだから。チャーハンくらいなら全然苦じゃないもの」本当の気持ちだった。誰かのために作る料理は、ひとりのときよりずっと嬉しい。食べ終わりのタイミングで、來が席を立つ。いつも通りだと思った瞬間――そっと、頭に手が乗った。一瞬だけ、驚いて息が止まる。撫でられたところが、じんわり熱くなる。「ありがとう」何気ない声なのに、心臓がどくんと跳ねた
Last Updated: 2025-11-12
騙されてあげる~鬼上司に秘密の恋心~

騙されてあげる~鬼上司に秘密の恋心~

アメリカ本社のアパレル企業の助っ人として日本に送られることに! 新しい勤め先となった場所で再会してしまった人 それは二度と会ってはならない人物だった…… 加藤麻菜-Mana Kato- × 仲森秀平-Syuhei Nakamori- 7年ぶりに再会した二人に過去の面影はどこにもなかった 「会いたかった……」 どうして……? わたしに優しくするの? 「俺は諦めるつもりないから」 忘れなければならない想いが今動き出す 「計画は進行中だ」 いいよ…… あなたがそれで気が済むのなら 喜んで騙されてあげる でも…… もし許されるのなら…… もう一度あなたを愛してもいいですか――?
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Chapter: 第19話 気遣いが胸の痛みに②
それから数日後に、STAR-MIXの洋服が届けられた。「麻菜ちゃんの担当はこれね」幸さんに言われ渡されたのは、シャツにフリルのスカートという組み合わせのもの。本日からわたしが出したもう一つの提案も実際に行われることになっていたのだ。わたしたち店員がお店の服を着て、接客を行うというスタイルを。それを手に取り、何とも言えない気持ちになる。「あの……幸さん。これ、わたしには似合わないと思うんですけど」普段スカートなんて履かないわたしには、着こなせないこと間違いなしだ。「そんなことないわよ。麻菜ちゃんにはこれが似合うと思って取っておいたの」にこにこと笑いながら言う幸さん。ちゃっかり自分は大人の女性が着こなすようなパンツを選んでいるくせに。確かに似合ってるから何一つ文句はないのだけれど。「それにこれ、若い子がターゲットじゃないですか。わたしには無理です」「何言ってるの!麻菜ちゃんだって十分若いじゃない」バシッと腕を叩かれ、スタッフルームに無理やり入れられる。「男性どもはもう着替えたから入ってくる心配はないと思うけど、一応鍵閉めといた方がいいわよ」外から幸さんの声が聞こえ、念のため鍵を閉めた。そして、もう一度渡された服を見る。「………」本当にわたしがこれを着るのか。あまり乗り気がしないまま、わたしは渋々その服に着替えた。「わーっ!秀平、今ダメだって!」幸さんの賑やかな声が聞こえたと思ったら、ガチャッとスタッフルームの扉が開いた。そして、入ってきた彼とばっちり目が合ってしまう。「……&
Last Updated: 2025-12-02
Chapter: 第18話 気遣いが胸の痛みに①
「STAR☆日本店」を潰されないために、従業員全員が一丸となって必死に働いていた。常にスタッフルームはピリピリとしている。今年中に何としてでも売り上げを伸ばさないと。あと8ヶ月もないから、もっと頑張らないと。そんな気迫が伝わってくる。そして、あたしがした“ある提案”は、ジョンによって順調に進められていた。その結果が入ってきたのは、つい今朝のこと。「麻菜!聞いて喜べ!」「どうしたの?ジョン」いつもテンションの高いジョンだけれど、今朝は一段と高い。ジョンは興奮のあまりか、わたしの腕をペシペシ叩いてくる。「ちょっと、ジョン。痛いんだけど、それ、やめてくれない?」「あははっ、ごめんごめん!それよりビッグニュースがあるんだ!」そして、あまりにも声を張り上げるものだから、周りの人が迷惑そうにこちらを見ていく。ここは、駅のホーム。本当、いろんな意味でのトラブルメーカーかもしれない。「ジョン、ここはホームよ。もう少し静かにしなさい」「これが静かにせずにはいられないんだって!」「だから、静かにしなさいって言ってるでしょ!」「Ouch!!」思い切りジョンの足を踏むと、顔をしかめながら叫んだ。普段、日本語でやり取りしてるから、久しぶりに聞いた。ジョンがとっさに発した英語。しかも久しぶりの英語が「Ouch」だなんて。「音量下げて喋るから、もう踏まないでよ」確かに静かにしなさいとは言ったけど……そこまで声のトーン下げられると、ほとんど聞こえない。よく耳を澄まさないと聞こえないくらいの音量で、ジョンは話を進めた。「だからね、ようやく許可が下
Last Updated: 2025-11-24
Chapter: 第17話 アメリカとの違い②
そして、次に幸さん。「まずウチの店はサービス精神に欠けてると思うんです」「サービス精神?」「はい。従業員のお客様に対する態度もそうですが、お直しのサービスが充実していないようにも思えます」幸さんが言ったのは、洋服のお直しのサービスのこと。サイズが合わなかった時に、洋服を直すサービスのことなんだけど。確かにこの店のお直しのサービスはなかなか利用されていないような気も……「私もそれは思っていたんだ」店長も幸さんに同意する。「これからはお直しのサービスも利用して頂けるように、配慮していこう」少しずつ店の問題点が見えてきた。社長からの忠告は、この店にやる気をもたらしてくれたのかもしれない。そう思った。そして、ジョンの番に。「そうですね……。アメリカ本社と比べてみて感じたのですが」ジョンは少し背筋を伸ばして、語りだした。アメリカ本店と日本店の違いを……「確かにこちらに置いてある商品ですが、どれもアメリカでは売れたものです」ここ、日本店ではアメリカで売れていた商品が、よく並べられていた。つまりアメリカ人好みのファッションだということ。「しかし、日本とアメリカでは違います。アメリカで売れたものが、必ずしも日本で売れるとは限らないと思うんです」ジョンの言うとおりだと思った。ここに来てから、それはわたしも感じていたこと。ここに置いてある商品は日本人の好みと合わない、ということだ。「もちろんこの店にあるものすべて取り換えろとは言いません」ジョンはちらっとわたしたちを見回した。
Last Updated: 2025-11-17
Chapter: 第16話 アメリカとの違い①
わたしとジョンがこの「STAR☆日本店」に助っ人としてやって来て、仕事にも慣れてきた頃だった。店内がざわついたのは。ある人物の登場によって、和んでいた空気が一気に凍りつく。「て、店長!てんちょーっ!!」バタバタと慌てた様子で、店長を呼びに来たのは幸さん。そんなに慌てて一体……「どうした?田端、そんなに慌てて」「店長!そんなに呑気にしてる場合じゃありませんって!」「は、はぁ?」「だから!社長が!社長が血相を変えて店の前に!!」「はぁ!?社長が!?」社長と言うワードに突然顔色を変えた店長は、急いで飛び出していった。向かう先は、社長がいる店の前に。でも、一体どうしたんだろう。社長がわざわざこんなところに?何かあったのかな……妙な胸騒ぎがしたのはわたしだけではなかったらしく、その場にいた全員がこっそりと店長の後をつけた。「社長!わざわざこんなところに……一体何が?」「いやー、突然悪かったね、川端くん」「あ、いえ……」社長の声は穏やかなのだけれど、表情が硬い。これから良くないことが待ち受けていそうだ。固唾を呑んで、社長の次の言葉を待った。「君に忠告しておこう」「はい?」「もし今年中に成果を上げられないようなら、この店は畳んでもらう」「えっ……」え?どういうこと……?今年中に成果を上げないと、この店は潰れる……?この店……STAR☆日本店が
Last Updated: 2025-11-14
Chapter: 第15話 変わってしまった彼とわたし③
「高校の時、わたしと仲森さん……付き合っていたでしょ?」「えぇ……麻菜、今は彼のこと仲森さんって呼んでるのね」「まあ……今は恋人じゃないし。上司と部下っていう関係だから」こうして線引きをしなければ……これ以上、わたしが彼の中に踏み込んではいけない。彼とわたしは上司と部下―――こう何度も言い聞かせてきた。「仲森さんが事故に遭ったことあったでしょ?その事故でわたしたちが気まずくなったことも」「あったわね……でも、あれは……」「その時、たまたま両親からアメリカに帰ろうと思うんだけどっていう話が来たから、わたしはその話に乗った」アメリカ人の父と日本人の母が出会ったのは、アメリカのニューヨークだった。二人は若い頃アメリカに住んでいて、思い出の一杯詰まったアメリカに帰りたくなったらしい。わたしはちょうどいい機会だと思って、一緒にアメリカに行くことにした。彼を忘れるために、彼との関係を断ち切るにはタイミングのいい話だったから。「彼にアメリカにいるって知られたくなかったから、誰にも言わずに日本を発ったの」「そうだったの……」「春菜、今まで黙っていて本当にごめんなさい」深く頭を下げて謝った。親友なのに、何の相談もしないで勝手にいなくなって……「もうやめてよ、麻菜。あの時は本当にどうしてって何度も思ったよ」「うん……」「でも、麻菜が姿を消した理由は分かってた。それに麻菜は頑固だから、一度決めたら自分の意志はつき通すしね」わたしの性格など十分理解していた春菜には、全てお見通しのようだ
Last Updated: 2025-11-13
Chapter: 第14話 変わってしまった彼とわたし②
「二人は付き合ってるわけじゃないんだよね?」「それは、あり得ない」「そっかぁ。でも、麻菜が僕のプロポーズを断り続けてるのって、少なくとも仲森さんが関わっている。違う?」いつもは軽いジョンだけれど、たまに真剣な顔して告白してくることがあった。わたしはどうしても誰とも付き合う気にはなれなくて、ずっと断っていたけれど。それに仲森さんが関わっているかというと……「それは、違う」わたしは嘘を吐く。封印したあの思いを再び思い出すことがないように……「麻菜って本当に嘘吐きだね。でも、僕は諦めないから」「え……諦めないって……」「仲森さんと何かあったとしても、必ず麻菜を僕のものにしてみせるってこと」「そう……。まあ、頑張って」ここまで真剣な顔して言われちゃうと、どう反応したらいいのか分からなくなる。いつもみたいに軽く言われるほうがいいんだけど。それから何故か気まずくなって、会社まで無言になってしまった。「あのさ、麻菜……」会社に着いた時、ジョンが突然立ち止まる。ちょうどジョンが声をかけたのと同じタイミングで、どこかで聞いたような声が聞こえてきた。「麻菜?」「え……?」声をかけてきたのは、スラッと背の高い美人の女性が立っていた。あれ……この人どこかで……「もしかして春菜?春菜……だよね?」「やっぱり麻菜だったんだ!久しぶりじゃない!」「うん。久しぶりだね
Last Updated: 2025-11-12
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