LOGINアメリカ本社のアパレル企業の助っ人として日本に送られることに! 新しい勤め先となった場所で再会してしまった人 それは二度と会ってはならない人物だった…… 加藤麻菜-Mana Kato- × 仲森秀平-Syuhei Nakamori- 7年ぶりに再会した二人に過去の面影はどこにもなかった 「会いたかった……」 どうして……? わたしに優しくするの? 「俺は諦めるつもりないから」 忘れなければならない想いが今動き出す 「計画は進行中だ」 いいよ…… あなたがそれで気が済むのなら 喜んで騙されてあげる でも…… もし許されるのなら…… もう一度あなたを愛してもいいですか――?
View More『麻菜、キミに決めたよ』
この一言で全てが変わってしまった。
わたしが選ばれたことによって大きく運命が動き出したと言っても過言ではない。
17歳からここ、アメリカに住み始めて早7年。わたし、
7年もいるのに、英語が苦手で話すことすら出来ない。
そんなわたしの支えとなってくれたのが今の上司で、わたしを指名した人……。大学を卒業し、この上司の紹介でこの企業に就職を決めた。
わたしが勤めるのはアパレル業界でも有名な「STAR☆」という会社。レディースが主だが、最近はメンズやキッズにも焦点を当て全米で注目を浴びている企業の一つ。
昔から洋服が大好きだったわたしは、この企業への就職が決まった時、跳びあがる程嬉しかった。
ずっとこの会社で働いていこう。このアメリカ本社で……
わたしには他に行くあてもないし、一生アメリカで生きていこうと思っていた。
そう思っていたわたしの願いが一瞬にして打ち砕かれてしまった。
「ジョン!どうしてわたしを指名したのよ!!」 わたしが怒りをぶつけるのは、わたしを指名した張本人。わたしの上司のジョン・テイラー。
どうしてわたしがアメリカ人の彼に日本語で話しているのかというと、彼は日本語が得意だから。アメリカへ来たばかりに友人となった彼は、英語が話せないわたしの通訳となってくれた。
そして、その彼が今は上司。「STAT☆日本店」の売り上げが伸び悩んでいて、本社から売り上げを上げるべく助っ人として白羽の矢が立ったのがこのジョンだった。
「仕方ないだろう?一人が困難だと思ったら、誰か一人だけなら連れて行ってもいいって許可もらったんだから」「だからって、どうしてわたしなのよ!!下っ端のわたしなんかより、有能な人を連れていけばよかったじゃない!」
どうしてもアメリカ本社にいなければならないという理由はない。 ただ……送られる先が日本というのが問題なのだ。
もう二度と戻ることはないと誓った日本に行かなければならないということが……。 「君も十分有能だ。それに……」 ジョンはわたしの肩をそっと引き寄せ、わたしの髪をすくった。 「君と離れるのは辛いんだ。僕は君がいないと生きていけない」 耳元でこう囁く彼は、どんな女性も虜にしてきたプレイボーイだ。わたしにもよく「好きだ」と言ってくるけれど、それが本気なのかは定かでない。
普段の彼から考えると、おそらく遊びだ。
「はいはい」 たとえ彼が本気だったとしても、それに応えるつもりは全くない。彼の扱いに慣れてきたわたしは、こうして適当に受け流すことが多い。
「麻菜も嬉しいだろう?また僕と一緒にいられて」
「はぁ?嬉しいじゃなくて疲れるの間違いじゃないの?」
確かに友人として一緒にいるのは楽しいし、上司としての彼はとても頼りになる。でも、わたしの楽しいと彼の楽しいの基準が違いすぎていて、一緒にいて疲れるのも事実だ。
「全く麻菜は……素直じゃないんだから」「大きなお世話よ」
「そういうツンケンしてるところも可愛いよ」
口角を上げ、顔を近づけてくるジョン。キッと彼を睨んでから、わたしは彼の足をこれでもかというくらい強く踏んだ。
「何するのよ!そういうことするなら、二度と口きかないって言ったでしょ?」「いてて……だからって、足踏むことないだろう……いってー」
痛そうに顔をしかめながら、踏まれた方の足を上げプラプラと動かしているジョン。ヒールのある靴で踏んだから、かなり痛いみたい。
「僕がこんなに好きだって言ってるのに、麻菜はいつも冷たいんだから」「バッカじゃないの!?わたしは、もう恋愛はしないの。何度も言ってるじゃない」
「そんな寂しいこと言うなよ。僕と恋愛しよう?」
「絶対お断り!!」
これ以上関わると面倒なことになりそうなので、フンっとそっぽを向いて歩きだした。本当にジョンは本気なのか冗談なのかよく分からない。
わたしに好きだと言ったと思ったら、平気で他の女とデートをしてる。別にジョンのことをどう思ってるわけでもないから、わたしには関係ないのだけれど。
「あっ、麻菜。今週末に日本に行くから準備しといて」「……分かった」
わたしが行くことで話が進んでしまい、断るに断れなくなってしまって……結局わたしがジョンと一緒に行くことになった。
何も起きなければいいのだけれど……
特にあの人に会ってはならない。
絶対に……
「久々の日本なのに嬉しくないのかい?」「……別に」
飛行機に乗り数時間、日本に近づくにつれ、気分がどんどん落ち込んでいく。どうして今、自分がこの飛行機に乗っているんだろうと今更になって後悔してきた。
本当ならずっとアメリカ本社で頑張っていくつもりだったのに、この隣の男のせいで。日本行きを決めたのに、無理やりにでもアメリカに戻りたくなってくる。
全てがこの男のせいだと思い、キッとジョンを睨み溜息を吐いた。 「おいおい、そろそろ機嫌を直してくれよ。向こうで暮らす手はずは全て僕が整えただろう?」「わたしはそれにも文句があるんです!」
「文句?僕はお礼される覚えはあるけど、文句を言われる覚えはないよ」
「確かに住む家を見つけてくれたのには感謝するけど、どうしてジョンと隣同士なのよ……はぁ」
そう……ジョンがわたしと二人分の家を見つけてくれたのはいいのだけれど……
よりにもよって、ジョンと隣同士なのだ。
「よかったね、麻菜。これからは僕と会社でも家でも一緒だよ」
「何が一緒だよ、よ!一緒って言っても隣同士、一緒に住むわけじゃないんだから家でも一緒はおかしいでしょ」
「あー、そうか。麻菜は僕と一緒に住めなくてそんなに機嫌が悪いんだね?」
「はぁ!?」
毎度のことながら、ジョンの思考回路が理解できない。どこをどう考えたら、そんな結論に辿り着いたのか説明していただきたい……
「それならそうと早く言ってくれれば、同じ部屋を用意したのに」「用意しなくていい」
「そんな照れなくても」
「照れてないから」
日本に着くまで眠ることが出来ず、ジョンと他愛もないことで言い合っていた。久しぶりの帰国が楽しみで、興奮して眠れなかったわけではない。
あんな最悪の形で日本を離れてしまったから、帰ることに後ろめたさを感じるのだ。
そして、ついに到着してしまった日本。
久しぶりに戻ってきた日本は、懐かしくて切ない……そんな匂いがした。
それから数日後に、STAR-MIXの洋服が届けられた。「麻菜ちゃんの担当はこれね」幸さんに言われ渡されたのは、シャツにフリルのスカートという組み合わせのもの。本日からわたしが出したもう一つの提案も実際に行われることになっていたのだ。わたしたち店員がお店の服を着て、接客を行うというスタイルを。それを手に取り、何とも言えない気持ちになる。「あの……幸さん。これ、わたしには似合わないと思うんですけど」普段スカートなんて履かないわたしには、着こなせないこと間違いなしだ。「そんなことないわよ。麻菜ちゃんにはこれが似合うと思って取っておいたの」にこにこと笑いながら言う幸さん。ちゃっかり自分は大人の女性が着こなすようなパンツを選んでいるくせに。確かに似合ってるから何一つ文句はないのだけれど。「それにこれ、若い子がターゲットじゃないですか。わたしには無理です」「何言ってるの!麻菜ちゃんだって十分若いじゃない」バシッと腕を叩かれ、スタッフルームに無理やり入れられる。「男性どもはもう着替えたから入ってくる心配はないと思うけど、一応鍵閉めといた方がいいわよ」外から幸さんの声が聞こえ、念のため鍵を閉めた。そして、もう一度渡された服を見る。「………」本当にわたしがこれを着るのか。あまり乗り気がしないまま、わたしは渋々その服に着替えた。「わーっ!秀平、今ダメだって!」幸さんの賑やかな声が聞こえたと思ったら、ガチャッとスタッフルームの扉が開いた。そして、入ってきた彼とばっちり目が合ってしまう。「……&
「STAR☆日本店」を潰されないために、従業員全員が一丸となって必死に働いていた。常にスタッフルームはピリピリとしている。今年中に何としてでも売り上げを伸ばさないと。あと8ヶ月もないから、もっと頑張らないと。そんな気迫が伝わってくる。そして、あたしがした“ある提案”は、ジョンによって順調に進められていた。その結果が入ってきたのは、つい今朝のこと。「麻菜!聞いて喜べ!」「どうしたの?ジョン」いつもテンションの高いジョンだけれど、今朝は一段と高い。ジョンは興奮のあまりか、わたしの腕をペシペシ叩いてくる。「ちょっと、ジョン。痛いんだけど、それ、やめてくれない?」「あははっ、ごめんごめん!それよりビッグニュースがあるんだ!」そして、あまりにも声を張り上げるものだから、周りの人が迷惑そうにこちらを見ていく。ここは、駅のホーム。本当、いろんな意味でのトラブルメーカーかもしれない。「ジョン、ここはホームよ。もう少し静かにしなさい」「これが静かにせずにはいられないんだって!」「だから、静かにしなさいって言ってるでしょ!」「Ouch!!」思い切りジョンの足を踏むと、顔をしかめながら叫んだ。普段、日本語でやり取りしてるから、久しぶりに聞いた。ジョンがとっさに発した英語。しかも久しぶりの英語が「Ouch」だなんて。「音量下げて喋るから、もう踏まないでよ」確かに静かにしなさいとは言ったけど……そこまで声のトーン下げられると、ほとんど聞こえない。よく耳を澄まさないと聞こえないくらいの音量で、ジョンは話を進めた。「だからね、ようやく許可が下
そして、次に幸さん。「まずウチの店はサービス精神に欠けてると思うんです」「サービス精神?」「はい。従業員のお客様に対する態度もそうですが、お直しのサービスが充実していないようにも思えます」幸さんが言ったのは、洋服のお直しのサービスのこと。サイズが合わなかった時に、洋服を直すサービスのことなんだけど。確かにこの店のお直しのサービスはなかなか利用されていないような気も……「私もそれは思っていたんだ」店長も幸さんに同意する。「これからはお直しのサービスも利用して頂けるように、配慮していこう」少しずつ店の問題点が見えてきた。社長からの忠告は、この店にやる気をもたらしてくれたのかもしれない。そう思った。そして、ジョンの番に。「そうですね……。アメリカ本社と比べてみて感じたのですが」ジョンは少し背筋を伸ばして、語りだした。アメリカ本店と日本店の違いを……「確かにこちらに置いてある商品ですが、どれもアメリカでは売れたものです」ここ、日本店ではアメリカで売れていた商品が、よく並べられていた。つまりアメリカ人好みのファッションだということ。「しかし、日本とアメリカでは違います。アメリカで売れたものが、必ずしも日本で売れるとは限らないと思うんです」ジョンの言うとおりだと思った。ここに来てから、それはわたしも感じていたこと。ここに置いてある商品は日本人の好みと合わない、ということだ。「もちろんこの店にあるものすべて取り換えろとは言いません」ジョンはちらっとわたしたちを見回した。
わたしとジョンがこの「STAR☆日本店」に助っ人としてやって来て、仕事にも慣れてきた頃だった。店内がざわついたのは。ある人物の登場によって、和んでいた空気が一気に凍りつく。「て、店長!てんちょーっ!!」バタバタと慌てた様子で、店長を呼びに来たのは幸さん。そんなに慌てて一体……「どうした?田端、そんなに慌てて」「店長!そんなに呑気にしてる場合じゃありませんって!」「は、はぁ?」「だから!社長が!社長が血相を変えて店の前に!!」「はぁ!?社長が!?」社長と言うワードに突然顔色を変えた店長は、急いで飛び出していった。向かう先は、社長がいる店の前に。でも、一体どうしたんだろう。社長がわざわざこんなところに?何かあったのかな……妙な胸騒ぎがしたのはわたしだけではなかったらしく、その場にいた全員がこっそりと店長の後をつけた。「社長!わざわざこんなところに……一体何が?」「いやー、突然悪かったね、川端くん」「あ、いえ……」社長の声は穏やかなのだけれど、表情が硬い。これから良くないことが待ち受けていそうだ。固唾を呑んで、社長の次の言葉を待った。「君に忠告しておこう」「はい?」「もし今年中に成果を上げられないようなら、この店は畳んでもらう」「えっ……」え?どういうこと……?今年中に成果を上げないと、この店は潰れる……?この店……STAR☆日本店が