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Novels by あるて

雪の精霊~命のきらめき~

雪の精霊~命のきらめき~

容姿端麗、文武両道と完璧を絵に描いたような美少女。ゆき。 だけど中身はれっきとした男の娘! 完璧すぎる才能(ギフト)を与えられたゆきは「人々を幸せにする」使命を忠実に果たすことだけを考え、接する人に優しさと愛を伝える。 プロローグの重い展開から一転し、天真爛漫に育ったゆきがクラスメートや家族と過ごすほのぼの日常。 そして使命達成のひとつの手段として選んだ配信者活動。 家族愛弾けるゆきがあらゆる人に愛し愛され心温まる日常を過ごし、転生なしで無双しちゃいます。
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Chapter: 第193話 水の精霊~命のきらめき~
 リスナーさんの前で復帰祝いの唄を披露し、失敗してしまったあの日から一年以上の月日が過ぎて、わたしは二十二歳になった。 そして今、わたしはある一室にいる。 「わたしはもっとみんなの近くで唄いたい!」 そう宣言してから半年以上、わたしはリハビリとボイトレに励み、そして自分の声を完全に取り戻した。いや超えた。 かつての音域からさらに半オクターブ、広げることができたのだ。 そしてわたしはボイトレに励みながら、ある計画を実現させるためにかつての自分の考えを覆す決断をしていた。「それではその時は全面的にプロデュースをお願いするということで。利益の取り分は書面通りで構いません。よろしくお願いします」 かつて大阪で琴音ちゃんを通じて知り合った女性プロデューサー、五代さんに向かって頭を下げる。「こちらとしてはどんな条件であれ、ゆきさんに来てもらえるなら大歓迎です。でも一体どういった理由で心変わりを?」 芸能界という世界を毛嫌いし、関連するようなところとは極力距離をおいてきたわたしが突然こんなことを言いだしたのだから、疑問に思うのも当然だろう。「確固たる目的のためです。わたしが以前、脳の障害で一年以上昏睡状態にあったのはご存知ですよね?」 黙って頷く五代さん。 ネットどころかオールドメディアでもニュースになったような出来事だから知っているのは当然だろう。いや、その仕事からしてたとえニュースにはなっていなくとも、彼女ならそのネットワークで情報を得ていただろうと思う。「元々わたしは幼いころから脳の障害を抱え、余命も宣告されていたことから生きることに対して諦めの気持ちがありました。だけどそれを変えてくれた人たちがいた」「お姉さん達ですね」 意外な人から突然核心をつかれてしまったことに驚き、わたしは目を見開いた。どうしてこの人がそのことを? わたしの疑問が顔に出ていたのか、五代さんはふっと笑うと以前は見せることのなかった柔和な表情を浮かべた。「ゆきさん、わたしは何も企業利益だけを考えてあなたに声をかけたわけじゃありませんよ。わたし
Last Updated: 2026-04-11
Chapter: 第192話 歌姫の帰還、そして決意
「みんなただいま!」 ようやく帰宅許可が下り、無事退院となったその日。 我が家では家族全員が休みを取って快気祝いのパーティーを準備してくれていた。「「「「おかえり!」」」」 声を聞くだけで分かる、心から待ちわびていた祝いの言葉。 お母さんから始まって、家族全員とハグをした。この辺はアメリカ生活をしていた名残なのかな。 お父さんは少し恥ずかしそうにしてたけど。息子相手なのになぁ。「それで、もう日常生活に支障はないのか?」 より姉が気づかわしげな視線で尋ねてきたので、わたしは元気をアピールするために腕をぐるぐる回してみせた。「この通り、すっかり元気だよ! まだ激しい運動は止められているけど、軽い筋トレくらいなら大丈夫。日常生活の筋力を取り戻すためにも家事は積極的にやってくださいだって。だから明日からはまたわたしがご飯を作るからね!」「……!」 みんな声にならないほどの衝撃を受けている。え、わたしがご飯を作るのってマズイ?「ま、またゆきのご飯が食べられる……」 両手で口を押さえたお母さんが感涙にむせぶ。えぇ、そんなに!? かの姉とあか姉は無言で両手を天高く突き上げている。一片の悔いなし? そしてより姉とひよりに両サイドから抱き着かれてしまった。「一年半ぶりのゆきちゃんの手料理! もう今からお腹が空いてきたよ!」 明日まで待ってたら餓死しそうだね。「いかん、よだれがとまらん」 本当によだれを垂らしてしまうより姉。乙女のする顔じゃないぞ。 でもこんなに待ち焦がれてくれていたとなれば腕が鳴るというもの。明日は目いっぱいご馳走を作ろう。「でも思ったよりも早く退院できましたね」 ようやく気分の落ち着いたかの姉がオードブルの並んだ食卓につきながら、感心したように言って来た。「そうだね。若さもあるけど、それ以上に頑張ったしね」 最初は半年の予定でリハビリプログラムを組
Last Updated: 2026-04-10
Chapter: 第191話 亀の歩み、されど堅実な一歩
 立てるようになってからのリハビリは、想像していた以上に大変だった。 平行棒、杖、歩行器を用いて転倒防止に注意しながら、重心移動や筋力向上、正しい歩行様式を取り戻していくのは一朝一夕にできるようなものではなく、なかなか思うように動いてくれない体に苛立ちを覚えつつも地道に筋力を蓄えていく作業。 下手に頑張りすぎると逆効果になると分かってはいるけど、一日も早い復帰を願う気持ちはなかなか抑えられるものでなく、遅々として進まないリハビリプログラムにヤキモキしていた。「さすが若いだけあって回復が早いですね」 歩行訓練後のマッサージをしてくれながら、理学療法士の飯島さんがそう言ってくれる。「自分では回復が遅く感じてしまい、どうしても焦ってしまうんですけどね」 どうしても頭をもたげてしまう焦りの心。 愚痴をこぼしたところでどうにもならないとは分かっているけど、ずっと優しく指導をしてくれる飯島さんにはつい甘えてしまう。「早くおうちに帰りたいですもんね。でもね、わたしもあなたのファンだから言うけれど、待っている側からすれば焦って戻ってきて取り返しのつかない後遺症が残るくらいなら、何年でも待つから万全な状態で戻ってきてほしいと願うものですよ」 優しい手つきでふくらはぎを揉み解しながら、それ以上に優しい笑顔を見せてくれる飯島さん。 リハビリが始まった当初からわたしのファンを公言していて、担当が決まった時には飛び上がって喜んだそうだ。 そんな熱心なファンをしてくれている彼女の言葉だから信じたいけれど、どうしても不安な気持ちは拭えない。「飯島さんはそうかもしれませんけど……」 八つ当たりにも似た発言だけど、飯島さんは気分を害した気配すらなく、穏やかに話を続けた。「不安になるのも分かりますけどね。ファンを信じるのもアーティストとしての務めじゃありませんか?」 ただの弱気の吐露にも関わらず、温かい表情で返ってきたその言葉に、わたしの中の何かが動いた。 今まで明確に意識したことはなかったけれど、わたしもアーティストの端くれな
Last Updated: 2026-04-09
Chapter: 第190話 表の顔と本音の心
 リハビリをやり始めてから比較的すぐに自力で立ち上がれるようになった。 だけど、そこからが過酷な日々の始まり。 最初は一歩二歩と歩くだけで滝のような汗をかき、心拍数も爆上がりしてしまったのでその時点でリハビリ中止。 その後も数日間はトライしては中止の繰り返しで一向に進まない。 そこで体力の回復が先決だと判断した先生の指示により、立って歩くよりも先に長時間座ることから始めることにした。 ただ座るだけと思って侮っていたけれど、すっかり体力の衰えてしまった体にはこれが存外キツイ。 スマホを触って気を紛らわせているとはいえ、最初は二時間程度で音を上げてしまった。 だけどそれも繰り返すうちにだんだん苦ではなくなっていき、半日座っていられるようになった頃にはかなり体力も回復していたようだ。 その後に始まった歩行訓練でも最初のように滝の汗をかくことはなくなり、ようやく日常生活に向けての第一歩が始まった。「今日はね、リハビリ室の端から端まで歩けたんだよ」 嬉しそうに報告するわたし。「ふーん」 なんだか気のなさそうな返事をするより姉。「あれ? なんか怒ってる? わたしのリハビリが進んでるのが嬉しくない?」「いや、そんなわけないんだけどな。ゆきがどんどん元気になっていってるのはそりゃ嬉しいさ。でもな」 なんだろう。リハビリとは関係なさそうだし、他に何か怒らせるようなことしたっけ?「ゆき、何か報告しておかないといけないことを忘れてないか?」 報告? ずっと病院にいるわたしがリハビリのこと以外で何を報告することがあると言うんだろう?「何のこと?」 本当にわからない。わたしがより姉を怒らせるようなことなんて皆目見当もつかないよ。「茜とのことだ」「ひうっ!」 突然あの日のことを突きつけられて、ビックリすると同時に思い出してしまったので変な声が出た。「なんだその奇声は。茜が自慢気に話してたのは本当だったのか……。てっきりあいつの作り話だと思ってたのに」 カマかけられた! でも本当のことだから嘘をつくのもなぁ。「それで、だ。ゆき」 改めてわたしの方へと向き直るより姉。対して被告人よろしく姿勢を正すわたし。「正妻の立場としてはだな。茜がしてもらった以上は同じことをしてもらう権利があると思うんだが」 いや、あれはわたしの方からやったわけじゃな
Last Updated: 2026-04-08
Chapter: 第189話 蹂躙
「みなさん、こんにちは。どうもご無沙汰してました。雪の精霊、YUKIが今日もみんなに幸せを届けるよ! とまぁかつてのテンプレ挨拶をぶちかましたわけですが。みなさん、本当に長い間お待たせしました! ゆきはこの通り見事復活を果たして今ではピンピンしていますよ。 眠りこけていたおかげですっかり体がなまってしまったので、しばらくリハビリが必要なんですけど、またみんなに歌声を届けられる日が来るのも近いです」 ひよりに撮影許可とノートパソコンを頼んだ次の日、今日の当番だったあか姉が許可を取れた情報と共に届けてくれた。 そのパソコンを使ってさっそく配信予約を取り、夕食後の十九時に配信を開始した。 配信の告知をしたのは昨日なのに、みんな余程待ちかねてくれていたのか同接は60万人オーバー。 倒れる前の50万人を大きく上回る結果となった。「たくさんの人が見に来てくれて、それだけわたしの歌声がみんなに求められているんだと思うと感無量です。変わらぬ応援にとても感謝しています」 あまりのありがたさに思わず涙ぐんでしまう。だって一年以上ものブランクがあって、それでもこれだけの人が集まってくれるのが嬉しくて、ありがたくて。【歌ももちろんだけど、ゆきちゃんの顔が見たかった】【元気そうで安心した】【ゆきちゃんの姿を見たら涙が出てきた】【ほんと、おかえりなさい!】 歌だけじゃなく、わたし自身をも待ってくれていたというコメントに、とうとう涙が溢れてしまった。 あーあ、本当にわたし涙もろくなったよなぁ。男のくせにみっともないとは思うけど、止められないものはしょうがない。「みんな本当にありがとうね。一日も早くみんなの前で唄って踊れるよう、毎日リハビリ頑張ってるんだ! だからほら、一週間でもう立てるようになったんだよ」 そう言ってノートパソコンをテーブルの上に置き、立ち上がろうとするわたし。 まだ安定性には欠けるけど、どうにか自分の足で立ち上がることが出来た。隣であか姉がハラハラしたような顔で見てるけど。【あんまり無理はしないで】【ワイらはいつまでも待ってるから】【生まれたての小鹿みたいになってるやん】【怪我する前に座って!】 うちの姉妹だけでなく、リスナーさん達もわたしには過保護だな。「これくらい大丈夫だって。なんならターンしてみようか?」 調子に乗ってターンをしよう
Last Updated: 2026-04-07
Chapter: 第188話 雪が溶けた後に残るもの
 日々続くリハビリは、思った以上に大変だった。  まずは寝返りや座ることから。最初の内はそれすらも大変で、どうにか寝返りを打てると言った状態だった。 それから座ることも難なく出来るようになったかと思ったら、息つく暇もなく自力で車いすに乗ることを特訓。 これが想像以上に困難なことで、立ち上がろうとしても膝が笑って上手くできない。看護師さんの介添えがあってようやくといったところ。「えへへ。密着出来て幸せぇ」 一部、邪な考えで介助してくれている人もいるけれど。  一度より姉に見つかって、ナースステーションで担当替えを真剣にお願いされていた。できればわたしも替えて欲しい。 でも決して手は出させませんという言質を得て、どうにか引き下がっていたようだ。そこで納得しちゃうのね。  わたしの不安な気持ちと、あの舐めるように見てくる気持ち悪い視線からは解放してくれないのだろうか。 病院も人手不足なのはわかるけど、あんなのを特別病棟に配置して評判に関わったりはしないんだろうかと心配になる。「今まではもうちょっとマシだったんですけどね」 他の看護師がそう言ってフォローしてたけど、正直何の慰めにもなってませんよ? むしろエスカレートしてるってことで余計不安になったわ。 だけど車いすに乗って久しぶりに外へ出たのは気持ちがよかった。すっかり忘れかけていた風の匂い。 そこには微かに草木の匂いが混じり、まもなく訪れる生命が謳歌する夏の気配を感じさせる。でも今日は少し湿っぽい匂いも混じっているから、雨でも降るのかな。 以前と違って色が見えるようになったわたしは、外の景色をいくら眺めていても飽きることがない。 目を凝らせば色というのはあちこちに散らばっていて、普通に暮らしていれば気づかないようなところにも鮮やかな色が潜んでいる。 例えばビルのひび割れから生えた生命力に溢れた雑草の緑。暗いアスファルトの隙間から顔を覗かせるたんぽぽの鮮やかな黄色。 普通の人なら気づくことなく通り過ぎてしまうその景色も、今まで違う世界を見ていたわたしには物珍しい。 部屋にいてもスマホやテレビを見ている時間より、窓の外を眺めている時間の方が長いくらいだ。「なぁに、また外を見てるの?」 今日はひよりの番なのか。「うん、今日も外の景色がキレイだからね」「やっと見えるようになっ
Last Updated: 2026-04-06
水の精霊 ~もっと光り輝いて~

水の精霊 ~もっと光り輝いて~

『雪の精霊 ~命のきらめき~』の続編 前作を読んでいないと、分からない点が多いかもしれません。 雪の精霊、ゆきの氷は溶けて、水の精霊へ。 ハッピーエンドのその後も、人生は続いていく。 命を燃やし続けるゆきの輝きはさらにいや増し、その光はどこまでも広がって、やがて世界を照らしていく。 その歌に救われるもの、ダンスを見て元気をもらうもの。憧れて同じ世界を目指すもの。 世界中に影響を与え続けるその姿はまさに精霊。 その終着点に待つものは。
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Chapter: 第13曲 さらなる飛躍への布石
 会社というのも設立して終わりじゃない。 姉妹たちの雇用手続きは社労士さんに、税金関係は税理士さんにお任せして全部済ませたけど、他にもホームページの作成やら銀行口座の開設、関係各社へのご挨拶など各方面でやることはたくさんある。 本当なら同行するのは秘書兼副社長であるひよりの役目のはずなんだけど、そこは話し合ってるのか四人が順番についてくる。 これじゃ、全員が兼任秘書みたいなものだな。「これだけ従業員から愛されてる社長もゆきくらいだろうな!」 今日の同行役であるより姉がご機嫌な様子で言うけれど、従業員が全員正妻という特殊企業だからでは?「社長がこれだけ従業員を愛してる企業も、うちくらいだよ」「言うようになったじゃねーか」 より姉の男前ムーブを一番近くで見てきたからね。少しはあやからないと。 そんな軽口を叩き合いながら歩いていると、前方に大きなビルが見えてきた。「あそこだね」「あぁ」 そのビルが近づくにつれて口数が少なくなっていくより姉。「緊張してるの?」「全然! と言いたいところだがそういうわけにもいかないみてーだ。やっぱり最重要取引先の上層部と直接会うんだからな」 今日伺うのは五代さんの働く芸能事務所。 いくつかの会社が入ったテナントビルに入り、エレベーターで目当ての会社が入っている五階に向かう。『トラフィック・ハブ株式会社』と書かれた扉の前に立った。『交通の要所』って意味なんだろうけど、それを言うならA transportation hubなんだよなぁ。これも和製英語ってやつかな。 ノックをして扉を開くと、小さなエントランスに電話が一台置かれている。隣に各部署と担当者の内線番号の書いた表が置いてある。 ピラミッド状に校正された、社内ヒエラルキーを感じさせるその表の上の方を探すと五代さんの名前があった。さすが敏腕プロデューサー。内線番号を押し、数コール待つと聞きなれた声が受話器越しに響いてきた。「こんにちは。ゆきです。少し早いけど到着しました」「お待ちし
Last Updated: 2026-04-29
Chapter: 第12曲 本当に大切なもの
 指輪を渡したからといって生活が激変するわけではない。 もともと一緒に暮らしているのだから、それは結婚という形を取っても同じかもしれない。 だけど、気分的な問題ならまた別の話だ。 婚約という形を取ることによって、姉妹たちに絶対的な自信が生まれた。端的に言うと、琴音ちゃんや五代さんに対して寛容になった。「もうあたしらは婚約を交わした身だからな。わははは!」「むきー!」 今日も遊びに来た琴音ちゃんに対して正妻マウントを取っている。 あの日からずっと、姉妹全員婚約指輪を肌身離さず持っている状態。さすがに普段から指にはめたりはしていないけど、それを見せびらかされた琴音ちゃんがわたしに詰め寄ってきた。「わたしも愛人指輪ほしいー!」 なんだ愛人指輪って。 新しいジャンルを作りだすんじゃない。「琴音ちゃんには悪いけど、わたしは愛人を公認した覚えはないんだよ?」「押しかけ愛人でいいもん!」 押しかけ女房みたいに言ってるけど、そんなジャンルもないからね。 それにしても諦めずに食らいついてくるよなぁ。大阪でカッコよく去っていったあの時の哀愁はなんだったんだろう。「琴音ちゃんもめげないよねー。暖簾に腕押しなのに」 ひよりも琴音ちゃんには何気にえぐいよね。「ひとり相撲ですね~」「無駄」 いや、みんな酷かった。「どうしてわたしと五代さんとで待遇が違うんですか!」 当の五代さんは姉妹たちと一緒に食卓でわたしの淹れた紅茶を優雅に飲んでいる。 確かに格差があるよね。「一号と二号では立場が違って当然じゃない」 当然か?「それにわたしは琴音ほどがつがつしてないし。心の愛人で十分に満足してるもの」 心の愛人ってなんだろう。今日はいろいろ新しい言葉が生まれる日だ。 「だってわたしはゆきちゃんともっと触れ合いたいもの!」 なんか生々しいからやめてくれ。「それが贅沢だ
Last Updated: 2026-04-28
Chapter: 第11曲 想いは秘めてちゃ伝わらない
「わぁ、すごいオシャレなお店」 ひよりが感嘆の声を上げている。 イタリア・エミリア・ロマーニャの料理をコンセプトにしたレストラン。 イタリアを思わせるお洒落な空間で、エミリア・ロマーニャ州とフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州の郷土料理をワインと共に楽しめる、割とカジュアルなレストラン。 より姉と行ったようなコース料理のお店も考えたけど、人数が多いから少し賑やかになっても大丈夫なお店を選んだ。「生ハムと微発泡のワインがおススメだよ」 コース料理ではないので、それぞれメニューを見て思い思いの料理を注文。 誰も同じ料理を頼まないのは言わなくても分かる我が家の不文律。違う料理を頼んでシェアした方がいろんな味を楽しめるしね。 カプレーゼ、カルパッチョ、生ハムメロン、パーニャカウダにクロスティーニといった代表的なイタリア料理が所狭しとテーブルに並ぶ。ワインの苦手なひより以外はワイングラスを片手に料理を楽しんでいる。 ちなみにひよりは甘いカクテルを注文。この辺の子供っぽさも可愛いんだよなぁ。「さすがゆき。作るだけじゃなくて選ぶお店も美味しいよな」「一流は一流を知るというやつですね」 料理の味に満足してもらえたようで良かった。このお店、来たことなかったんだけどね。「この後は散歩デートするんだから飲みすぎないでよ」「お酒は嗜むものだからな」 どの口が言ってんだ。 さっきまで二日酔いで死にかけてたくせに。「迎え酒はいいなぁ!」 おっさんか。「ゆきとのデートを控えて無茶飲みなんてしねーよ」 最初のデートのことを忘れてしまってるんだろうか。「公園のベンチで伸びてたのはどこの誰だったっけ」「あん時は初デートで緊張してただけだ。もうあんな失態は演じねーよ」 お酒好きなくせに弱いからなぁ。 気持ちよくなる程度ならまぁいいか。二日酔いにも懲りてるだろうと信じたい。 この後大事な話をする予定だから、せめて正気でいて欲し
Last Updated: 2026-04-27
Chapter: 第10曲 酒は飲んでも飲まれるな
「ぎぼぢわるーい」 言わんこっちゃない。 壮絶に二日酔い中のより姉。他の姉妹は平気な顔をしてるのに。「ほら、これでも食べてもう少し横になってて」 そう言ってラムネを渡す。「なんも食べたくない」「そんなこと言わないで食べてみて。アルコール分解で不足した糖分を補ってくれるから。頭痛や吐き気がマシになるよ」 顔の前に差し出すと、もそもそと動いてラムネを数粒、口に放り込んだ。お布団の中でそんなことするのは行儀悪いけど、かなり辛そうだから目を瞑ってあげよう。「そんな様子じゃ朝ごはんは食べられないね。糖分を補給したらマシになると思うから、お腹が空いたら下りてきて」 万が一に備えて嘔吐袋を横に置いて、より姉の部屋を後にする。 こんな状態になるまではしゃいでいたんだね。それだけ喜んでくれたというのも嬉しかったりするから、ついつい甘くなってしまう。 他の人と飲んできてこんな状態になってたら、もっと冷たくしてるかもしれないけど。 飲んだくれの旦那を持った奥さんの気持ちが分かってしまう。って誰が奥さんだ。 心の中でノリ突っ込みをしながらリビングに下りると、他の姉妹が心配そうな顔で待っていた。「依子さん、大丈夫でした?」「今は死んでる。でもラムネを渡してきたからそのうち復活すると思う。あんな姿をあまり見られたくないと思うから、今はそっとしておいてあげようと思って」 かの姉の問いかけに応えながら、みんなのご飯をよそっていく。ひよりが運ぶのを手伝ってくれたから、すぐに全員分をよそい終わった。おかずはすでに作ってある。「より姉いない。ゆきが言って」「わかったー。それじゃあ、いただきます」「「「いただきます」」」 いつも声掛けをしてくれている長女がいないから、長男であるわたしが声掛け。 こう見えても長男坊なんです。長男坊。「食べないの?」 長男を噛みしめていたら箸が止まってしまっていた。最近妄想癖が強くなったのかな。「食べるよー。うん、今
Last Updated: 2026-04-26
Chapter: 第9曲 祝い酒もほどほどに
「なんでそんなひどいこと言うんですかー!」 より姉の言葉に憤慨する琴音ちゃん。さすがにわたしもそれは言い過ぎだと思う。 彼女だって芸能界のトップに君臨しているのだから、全く役に立たないということはないだろう。 これから何かでお世話になるかもしれない。「いんや。ゆきはあたしらがいれば十分だ。内助の功というやつを見せつけてやる」「まぁた! 正妻の余裕を見せつけてー!」 弱いくせにお酒が好きなより姉。もうどれくらい飲んでるんだろう。 すっかり出来上がってしまっている。 まだそんなに時間たってないんだけどな。「わははは。所詮愛人候補は正妻には勝てんのだ!」 どういうマウントの取り方だよ。 愛人候補ってことは認めてるんじゃないか。「あら、愛人一号はわたしですよ」 五代さんまで参戦してきた!「いつの間に! ちょっとゆきちゃん、わたしというものがありながら、何あちこちに手を出してんの!」 出してません。しかもあちこちて。「ちょっと落ち着いて。愛人なんて作らないから。五代さんも悪ノリしないでくださいよ」「あら。わたしは冗談のつもりなんてありませんよ」 ええぇ。この場でそういうこと言っちゃう?「ほほう。さすがはゆきといったところかぁ」 ほら、より姉がダル絡みしてきたよ。「そこに反応しなくていいから。愛人なんて作ったりしないよ」「そりゃ、ゆきのことは信用してるけどよぉ。でもその気になったら愛人の千人や二千人、簡単に作れちまうだろぉ」 どういうやつだそいつは。 いくらなんでも桁がおかしい。「ちゃんと順番は守りますよ」「あ、わたしもちゃんと守るよ!」 五代さんと琴音ちゃんはちょっと黙っててくれる?「あぁ、ゆきの後ろに列をなして並んでる愛人どもがぁ!」 なんで天を仰いでるのかなぁ。より姉ちょっと飲みすぎじゃない?「ゆきちゃんは自覚がなさす
Last Updated: 2026-04-25
Chapter: 第8曲 新しい門出
 三か月後、スタジオに姉妹たちとわたし、五人が集まった。「それでは、新会社『Fairy's Kin』の設立を祝って、かんぱーい!」『Fairy's Kin』は妖精の眷属という意味でつけた。みんながわたしに力を貸してくれるのだから、これ以上相応しい名前はないだろう。 わたしの音頭でそれぞれがグラスを掲げる。 株式会社の設立と、福利厚生の充実、姉妹たちの仕事の引継ぎなどで必要な期間を過ぎて、今日ようやく起業へとこぎつけた。 代表取締役社長はわたし。副社長にひより。専務はより姉。常務があか姉。映像技術部長にかの姉が就任。 税理士や弁護士、社労士などは五代さんに紹介してもらった。「自分たちで起こした会社となると、自分の城って感じがして気が引き締まるな!」「正真正銘、わたし達の牙城だよ! これから発展させていくのも、先しぼみになるのもわたし達次第なんだからね」 より姉とひよりはご機嫌でこれから先の展望を語っている。「これで四六時中、ゆきちゃんと一緒にいられるんですね」「私生活もカメラに収められる」 かの姉とあか姉は私欲全開だ。 プライベート時間にカメラを回すのはやめてね。どこぞの自主製作映画じゃないんだから。カメラを止めろ。 全員晴れて成人を迎えているので、堂々とお酒を飲んでいる。 みんなそんなに強くはないけれど、お酒を飲んで騒ぐのは好きな方だ。お祭り騒ぎが好きなわたし達らしい。 でもそれくらいの遊び心がないと配信者というエンタメ業界ではやっていけない。「あたし達の夢の第一歩! ゆき一人でもここまで来れたんだ。これからはあたしらもそばにいるから、さらなる発展を遂げていかないとな!」 すでに顔を赤くしたより姉が、希望に満ちた言葉を口にする。「あんまり無茶なことをしても負担がかかるのはゆきちゃんなんだからね。その辺のかじ取りをするのもわたし達の仕事だよ」 ひよりもお酒が入っているはずなのに、言っていることは随分しっかりしている。 末っ子にしては随分たくましく育ったものだ。
Last Updated: 2026-04-24
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