LOGIN容姿端麗、文武両道と完璧を絵に描いたような美少女。ゆき。 だけど中身はれっきとした男の娘! 完璧すぎる才能(ギフト)を与えられたゆきは「人々を幸せにする」使命を忠実に果たすことだけを考え、接する人に優しさと愛を伝える。 プロローグの重い展開から一転し、天真爛漫に育ったゆきがクラスメートや家族と過ごすほのぼの日常。 そして使命達成のひとつの手段として選んだ配信者活動。 家族愛弾けるゆきがあらゆる人に愛し愛され心温まる日常を過ごし、転生なしで無双しちゃいます。
View Moreはらり。
はらり。
音もなく雪は降り続ける。
どれくらい時間がたったのだろう。体に降り積もる雪を振り払う元気もない。
キラキラと美しい結晶で形作られた雪は容赦なく小さな体から体温を奪っていく。
手足は寒さでとっくに麻痺しており、声を出すことすらままならない。寒いという感覚すらわからなくなってきた。
向かいのマンションから悲鳴のような声を聞いた気がする。
そんなことはどうでもいい。
眠い。
なんだかだんだん暖かくなってきたような気がする。
このまま目をつむればどうなってしまうんだろう。もう痛いことやこわいこともなくなるかな。
だったらこのまま眠ってしまってもいいかも。起きているのももう疲れた。
さっさと寝てしまおう。
そしてわたしは自分の意識を手放す。
何も聞こえない。静寂に支配されていく。
意識が遠ざかるのを感じていると、誰かに抱きあげられたような気がした。
きっと気のせいだろう。
わたしを見てくれる人なんていない。いつだってわたしはひとり。
ひとりでただ眠るだけ。
考える力も失ったわたしは深い闇に落ちていくような感覚に身をまかせた。
声が聞こえる。
「おきて。ねぇおきてよ」
誰かが呼んでいる?
「はやくおきて」
やっぱり呼んでいる。わたしに言っているの?
目を開いた……ような気がする。
目の前に羽根の生えた小人がふわふわと漂っているのが見えたから。
少し光っている。
「あなただれ?妖精さん?ここはどこ?」
声が出た。と思う。
体の感覚もあいまいで現実感がない。夢?にしてはリアルだ。
妖精さんの羽根の色や少し長くて尖った耳、可愛らしい顔まではっきり認識できる。
ただ自分自身についてはまるで水に溶けてしまったかのように不安定な感じがする。
人間には魂と言うものがあると本で読んだ。わたしは今、魂になっているのかもしれない。
「妖精とはちょっと違うかな。私は神様のお手伝いをしている精霊だよ。ここがどこかについてはちょっと難しいかな。この世とあの世の境目、よりはちょっとこの世に近いところ」
自分自身のことを確認しているとそう答えてくれた。
こんな雪の日に現れたのだからきっと雪の精霊だろう。
ここがどこなのかについては聞いてもさっぱり分からなかったけど。
ホタルのように視界の中をさまよいながら精霊は続ける。
「このまま寝ていたらだめ。あなたには使命があるんだから」
「しめいってなぁに?」
「やらなくちゃいけないこと!天命とか役目とか言ったりすることもあるけど、とにかくあなたはこのまま寝ていたらダメなの!」
「わたしがやらなきゃいけないこと?」
「そう!あなたには人間が幸せになるのを手伝うっていう使命があるの!このまま寝たら死んじゃって使命を果たせなくなっちゃう!」
「わたし死ぬの?」
死んでしまったら天国ってところに行くんだっけ。
「だから死んじゃダメだってば!今から私があなたに力を注いでちゃんと起きられるようにしてあげる。目が覚めたらしっかり使命を果たすんだよ!」
やりなさいって言われたことはちゃんとしないと怒られる。
また痛いのはいやだ。わたしは素直にうなずいた。
「じゃあ今からあなたの体に入るから、しっかりがんばってね!」
言うだけ言うと、雪の精霊はわたしの胸のあたりに吸い込まれるようにして消えてしまった。
そうか、これからわたしは雪の精霊として生まれ変わるんだ。
そう思った途端また気が遠くなり始める。
そしてわたしの意識はまた途絶えた。
目が覚めた。まず白い天井が目に入った。周りはベージュのカーテンに囲まれていて全然知らない部屋。真っ白なシーツが敷かれたベッドの上にいる。
体が温かい。手足の感覚もはっきりしている。
「よかった!目が覚めた!」
知らない人がわたしの顔を覗き込み涙ぐんでいた。ものすごくキレイな人。
ここが天国なのかな。
「天使様?」
おもわずそうつぶやいた。
「この人がアパートのベランダで倒れている君を見つけて警察を呼んでくれたんだよ」
そう声をかけられて隣に一人、男の人がいたことに気が付いた。その知らないおじさんがわたしのそばに来た。
この人がその警察って人かな。絵本で見た警察に似た服を着ているからきっとそうだろう。
というかここはどこなんだろう。よくわからなかったけど、わたしの手を握って微笑みかけてくれているこの天使様が連れてきてくれたんだということだけは理解した。
「ありがとう、天使様」
その温かい手の温もりを感じながら天使様にお礼を言う。
「天使だなんて照れるわね。でも残念だけどわたしは天使なんかじゃなくてね、おばさんの名前は広沢明子。あなたのおうちの向かいのマンションに住んでるの。雪に埋もれかけてるあなたの姿を見つけてお巡りさんを呼んで助けてもらったのよ。本当に無事でよかった」
どうやら天国じゃないらしい。わたしはまだ生きているということなのか。
それにしてもキレイな人。それにすごく優しい笑顔。心がポカポカする。
思わず見とれていると警察のおじさんがまた声をかけてきた。少し申し訳なさそうな顔をしている。
「君にとってはツライ話になるかもしれないけど落ち着いて聞いてね。君のお母さんは警察に逮捕されたからもう会うことはできないんだ。君がこれからどうなるかなんだけど、警察と児童相談所が相談しておそらく施設へ入ることになると思う」
しせつってなんだろう。
それにわたしのお母さんってだれだっけ。
思い出せない。顔も。名前も。わたしにもお母さんがいたんだって思った。
寒かったこと、体の感覚がだんだんなくなっていき、眠くなって寝てしまったことは覚えている。
もちろん夢?のことも。
だけどそれより前の事が何も思い出せない。
何も言わず考え込んでいるとそれまで黙ってい聞いていたおばさん、明子さんが警察のおじさんに言った。
「待ってください。施設ってそんな。他に誰か身寄りや家族はいないんですか?」
「残念ながらこの子は私生児で父親はおらず、母親の方にも他に身寄りはいないようでして。以前から何度も児童相談所に注意を受けたり一時保護もされたりしていたんですがね。その時は反省した振りをして引き取っていくんですがその後も一向に改善されないということが続きましてね。今回こんな事態になってさすがに親権はく奪と言う判断になったんですわ。現在家庭裁判所にてその手続き中です」
明子さんは驚いた表情で黙り込んでしまう。しばらくの沈黙のあと、明子さんは何かを決意したような表情で顔を上げた。
「この子はうちで引き取ります。」
警察のおじさんが驚いた。
「本気ですか?どうして縁もゆかりもないこの子のためにそんなことを?」
「うちにも同じ年頃の子供が2人いるんですけど、もう一人欲しいとちょうど主人とも話していたところなんです。わたしがこの子を見つけたことも何かの縁でしょう。なによりこんな小さな子にこれ以上辛い思いをしてほしくありません」
どういうこと?むずかしい話はまだわからない。
意味がわからずに黙っていると明子さんはさっきと同じ優しい笑顔でわたしに尋ねてきた。
「あのね、おばさんがあなたのお母さんになってあげたいと思うんだけど、あなたはイヤかな?」
驚いて声が出ない。
この人がわたしのお母さんになってくれるの?
見ているだけで心がポカポカする素敵な笑顔のこの人がわたしのお母さん……。
イヤだなんて思うはずもない。
今まで一緒に暮らしていたであろうお母さんのことは相変わらず全く思い出せないけど、痛いことや怖いことがたくさんあったことだけは頭じゃなく体が覚えている。
この人がお母さんならそんなことはないだろうと確信できる。
「イヤじゃない。おばさんがお母さんになってくれたら嬉しい……と思う」
「そう。そう言ってくれるとわたしも嬉しいわ。あなたのこと、必ず大切にするから。これからよろしくね」
大人の事情とやらですぐにというわけではなかったけど、こうしてわたしはこの広沢明子さんという人の子供になることとなった。
何も覚えていないわたしにとってはその日が雪の精霊として生まれた日ともいえる。
あれはきっと夢なんかじゃない。
あの精霊さんと神様のおかげでわたしはまた生まれることができた。温かいお母さんに巡り合うこともできた。
ちゃんとお礼をしないといけない。
わたしには雪の精霊の生まれ変わりとしての使命があると言っていた。
どうやったらその使命を果たせるのかはまだわからないけど、それがわたしのやらなきゃいけないことだ。
こうして命を拾ったわたしは生まれ変わったと同時に神から大いなるギフトを授かったことをもう少し後になって知る。
しかし表には裏があるように、権利には義務がともなうように、与えられたものには代価が伴う。
これは稀有な才能を神様からもらったわたしがその代償としての十字架を背負いながら、命の灯を大きく輝かせ、その人生を一気に駆け抜けようとしていく刹那の物語。
病院から帰ったころにはすっかり深夜だった。 家族のみんなはもう就寝してしまっている。よかった。 正直既に全身が痛い。やはり全力で動いたことのツケがしっかりと回ってきている。 歩くだけでも辛い今の状態を、誰にも見られずにすむのはありがたい。 なんとか自分の部屋にたどり着き、着替えもせずそのままベッドに倒れこんだ。 目を閉じると浮かぶのは姉妹たちの怯えた表情。まさかわたしがあんな顔をさせることになってしまうなんてね。 自嘲気味に笑いながら、自分の覚悟を決める。 明日、みんなに伝えなきゃ。 翌朝、痛む体をどうにか引きずり、朝食を作ろうとリビングに下りていく。階段を一段下りるたび、全身を駆け巡る痛み。 どうにか下の階にたどりつき、キッチンを覗くとお母さんがすでに朝食を作っていた。 家族の前で痛そうな姿を見せるわけにはいかないので、姿勢を正し痛みをこらえてお母さんに近付く。「どうしたの? 朝食ならわたしが作るのに」 お母さんは何も言わずにちらりとわたしを見ただけで朝食を作り続ける。「お母さん?」「わたしが何も気づかないとでも思っているのかしら? 手足を動かすだけでも辛いんでしょう。部屋に戻るのもキツイだろうからそこのソファーで横になっていなさい」 そうか。全部を知ってるお母さんには強がっても意味ないよね。ちょっと怒ってる?「ごめんなさい、ありがとう」 素直に厚意を受け取ってソファーに転がる。そこまでの一連の動作だけでもきつかったけど、横になってしまえば随分と楽になった。 昨日は遅くなったのでまだ少し眠い。気だるさを感じたわたしは横になったまま目を閉じた。「ゆき、朝ごはんができたわよ」 お母さんに揺り起こされて気が付いた。いつの間にか眠っていたらしい。やはりまだ疲労が抜けていないのかもしれない。 どうにか起き上がり、テーブルの方を見て驚いた。 姉妹たちが全員揃ってもう席についている。お母さんが起こしに
心肺停止? でも今でもゆきは元気にしてるじゃねーか。「ゆきは一度死んでいるのよ」 そんな……。ゆきの姿を思い浮かべる。あいつが一度死んだ? その事実がまだうまく呑み込めない。 他の姉妹を見ても、みんなショックを受けて固まってしまっている。 今の元気なゆきの姿からは想像もつかない。ひとつだけ心当たりがあることと言えば……。「あなた達、4分間の壁って聞いたことある?」 突然母さんが質問を振ってきた。全員が首を横に振る。「そう。これから何かの役に立つこともあるかもしれないからよく覚えておいて。人間はね、心肺停止から3分で生存率が50%に下がる。 そして4分を過ぎると高い確率で脳に障害が残ったり、下手をすると植物状態になったりするのよ」 脳の障害……。まさか!「あの子の心肺停止の時間は6分。奇跡的に息を吹き返したけど、なんらかの障害が残ることは間違いないとまで言われたわ。 幸い、言語や行動に大きな障害が残ることはなかった。それでもあの子の世界から全ての色は消えてしまった」 やっぱり……。ゆきの目はそんな事情で……。 ひとり知らされていなかったひよりが驚いた表情のまま硬直している。その気持ちは分かる。あたしだって最初に聞かされた時はなんて声をかけていいか分かんなかったもんな。「ひより以外はみんな聞いていたみたいね。ひより。気持ちをしっかり持って。ゆきの目はね、全ての色が見えないの。 普通は色覚障害というと光の三原色のうちひとつかふたつが見えないだけでなんらかの色は見えるのだけど、ゆきの場合は全色盲といってすべての色が見えず、完全に白と黒しかない世界に住んでいるのよ」 驚きのあまり固まっていたひよりが目に涙をいっぱいに溜めながら声を上げた。「でも! ゆきちゃんは普通に生活してたよ? 信号の色もちゃんとわかってるもん!」「あの子の本棚見たことある? その中に色彩図
パトカーと救急車が家の前に停まり、警察官や救急隊員が忙しなく動き回っているせいで近所の人の目をひいてしまい、外はにわかに野次馬でごった返すほどに注目されてしまった。 強盗が入ったなんて一大事だもんね。 みんなそれぞれ警察から事情聴取を受け、最後にわたしの番が回ってきた。 他の姉妹には聞かれたくないので玄関先に移動して聴取を受けることにした。担架に乗せられ、運ばれていく男の姿が見えた。「いてーよー。なんなんだ、あの女ー。化け物かよ」 やかましい。誰が化け物だ。それだけ話せる元気があるなら十分だろ。 もっと恐ろしい目に遭わせてやればよかったと、背中がチリっとするのを感じた。「やれやれ、ゆきさんの実力は知っているけれど随分な無茶をしたね」 わたしの気配を察したのか気安い感じで話しかけてくる警察官。 担当に当たってくれた警察官は顔見知り。同じ柔道場に通う松田巡査だった。 事情聴取ということだったのでわたしが帰ってから見聞きしたことを簡単に説明した。「なるほどね。事情は大体わかったよ。犯人は強盗未遂ってことで厳罰を食らうだろうけど、その前に治療してやんないとだ」 苦笑交じりに冗談っぽく語る松田さん。普通ならわたしが過剰防衛に問われてもおかしくない。 脱臼した肩は元に戻しておいてやったけど。 戻すときも痛いってうるさかったな。「松田さん、強盗未遂じゃないです。強盗致傷、もしくは強殺未遂ですよ」 そう言ってまだ血がついたままの左腕を見せた。「なるほど」 そう言って傷口をじっと見つめる松田さん。やがてため息をこぼしながらやれやれと言った様子。「ゆきさん、これ絶対に狙ってやったでしょ。ま、これならちゃんと正当防衛が成り立つか。それにしても薄皮一枚だけ切らせるとかどんな動体視力してんだか。一応写真も撮るし、病院に行って治療も受けてもらわないといけないよ。診断書はもらっておいてね」 すっかり血も止まり、凝固しかけているのを見て心底感心したようだ。「承
開け放たれた玄関のドアから中の様子を伺う。 静かだ。 だけど、その静けさの中にひよりのすすり泣くような声を確かに聴いた。 全身が熱くなる。今まで抱いたことのないような感情が体を支配する。 突如響いた悲痛な声。「いやぁ! 誰か助けて!」 ひよりの声にさらに体が熱くなる。燃え上がってしまいそうだ。「おら、うるせぇよ! いい加減諦めて大人しくしろや!」 強盗だ。見知らぬ男の声で確信に変わった。心の奥底に秘めていた何かに火がついた。 気配を殺し、音をたてないようにしながらリビングのドアを開ける。 そこに広がる光景をみて我を忘れそうになった。 リビングの床に転がるひより。その上に馬乗りになっている年配の男。手にはナイフ。 他の姉妹とお母さんは隅に固まって身動きが取れない状態。下手に動いたらひよりが何をされるか分からないからだ。 姉たちがわたしの存在に気が付いた。救いを求める瞳。よほど脅されたのだろう、あのより姉ですら涙を流して怯えている。 こちらを見ないようジェスチャーで合図するとみんな慌ててわたしから視線を逸らした。わたしの存在を確認して少し安堵した様子。 幸い男には何も気づかれなかったようだ。男から見えていないということはひよりからもわたしは見えていない。まだひよりは恐怖の中にいる。早く解放してあげないと。 足音を忍ばせ、男の背後まで近づいたときに聞いた言葉。「へへへ。前から目をつけてはいたがこんなに上玉ぞろいとはついてるぜ。じっくり楽しませてもらうとしようか」 その反吐の出そうなセリフを聞いた瞬間に、わたしの中の決して切れるはずのなかったものが音を立てて弾け飛んだ。「おい、何やってんだ」 突如、背後の至近距離から聞こえた声に驚いた男はすかさずナイフを持った手をこちらに向ける。「誰!……だ?」 言い終わる前に男の体は宙を舞っていた。振り返るときの勢いを利用したものの半ば強引に投げたため筋肉が