Chapter: 愛を育もう!!結婚6日目・ユリウスの居ない朝 4「ビアンカ様、少しは攻撃して下さ~~~い!」「おおおお! その強気、嫌いじゃないぞ!!」 プラドはビアンカを挑発して来た。これは今回の対戦で初めての出来事だ。(やはり、この子は面白い。よし、君の願い通り、攻めてやろうじゃないか!) ビアンカは利き手ではない左手で木剣を握り、剣先を彼の鼻の高さまで上げる。 プラドもビアンカの木剣の先と触れそうな位置まで右手で握っている木剣の剣先を上げた。(よし、剣先の動きをそのまましっかりと見ていろ。集中、集中だ! プラド!!) 次の瞬間、ビアンカは持っていた木剣を大きな動きで後方へ下げ、同時に右足で大きく前に踏み込み、彼の右手首を掴んだ。「えっ!!!」 ビアンカの行動が理解出来ず、プラドは右手に木剣を握ったまま茫然としてしまう。 ビアンカは膝を落としながら、つかんだ彼の手首を自分の肩に乗せ、右回りに担ぎ上げて……。(東洋の体術、背負い技の応用編だ!) ドッシーン!!! プラドは美しい軌道を描いて地面に叩きつけられた。「勝負あり!」 ルイーズの声が響き渡る。 修練場に歓声が沸き上がった。これはビアンカを相手に粘ったプラドを称える声も含まれている。(ここまでの対戦でこの軍の問題点はだいたい分かった。まず出身地や男女で分けているこの班分けは大失敗だ。年齢性別に関係なく運動能力に合わせて分け直し、各々の能力を伸ばす訓練プログラムを作った方が良い。そして、座学も取り入れ、多種多様な武術、武器、戦法などの知識をしっかりと学ばせる。二、三か月もすれば、かなり良くなるだろう)「おや、ビアンカ、いい顔をしているねぇ~。あと三人で終わりだよ!!」 ルイーズはビアンカに近づいて、肩を叩く。「体術を使って良いというルールは決めて無かったよね~~~~?」 それ反則ギリギリだぞ……と暗に指摘する、ルイーズ。「ルイーズ、くだらないことを言うな。これがもし実
Last Updated: 2026-06-22
Chapter: 愛を育もう!!結婚6日目・ユリウスの居ない朝 3 本日の対戦相手はA班とC班の兵士だ。 彼らは辺境伯がビアンカと結婚すると知ってから、今日までこの対戦を目標にして日々鍛錬を積んで来た。 少しでも高みに登りたいという一心で……。 しかし、現実は甘くなかった。 指揮官ルイーズが『始め!」と合図した後、ほとんどの兵士が一手目で武器を遠くに飛ばされてしまう。 この状況を昨日から見続けているもう一人の指揮官、ホーネットは悶々としていた。―――『国軍のレベルが猛烈に高いのか?』或いは『リシュナ領軍が弱過ぎるのか?』と。「ルイーズ、ビアンカ様は国軍の中でどのくらいの強さだ?」 彼は試合の合間に隣にいるルイーズへ質問する。「ん? どうしたんだいホーネット?? 国軍の中のビアンカの強さ?―――バカな質問だねぇ~」 ホーネットを一瞥して、再び前を向いたルイーズは苛立ちをあらわにしたまま、話を続ける。「あいつは己の武功で英雄って呼ばれるようになったんだ。どのくらいなんて聞くまでもないだろう。―――もしかして、あんたも女が強いのは気に入らないタイプなのかい?―――いるんだよね~~~、そういう男……」「い、いや、そういうつもりでは……」「そうかい。ならば、この目で見たものが真実だ! あたしはあの子以上に強い戦士を見たことがない。それでも順位が必要だというのなら断言してやる。あいつの強さはこの国、いや、この大陸で一番だ!!」「そ、そうか……」 ルイーズの鋭い指摘で、ホーネットは己の奥深くにあった差別意識を自覚する。 今の今まで、ホーネットは国軍にビアンカよりも強い男たちがいると信じていたのだ。だから、彼女の強さを無視して、国軍のレベル云々ということばかり考えていたのである。 ホーネットはルイーズのアドバイス通り、偏見を捨て、この目で見たものを信じてみることにした。 すると、立て続けに五人の兵士が、一手目で武器を遠くへ飛ばされてしまう。
Last Updated: 2026-06-21
Chapter: 愛を育もう!!結婚6日目・ユリウスの居ない朝 2 ビアンカはパストラミビーフの挟まったクロワッサンサンドを手に取る。 先ほどから漂っているバターの香り、手触りだけで分かる生地のパリパリ感、深紅のジューシーな肉、鮮やかなグリーンのレタス……。 何もかもがビアンカの食欲を誘う。(食べやすい朝食にして欲しいとリクエストしただけなのに!! こんなに豪華なサンドイッチが出てくるなんて……、最高だ!!) パクッと噛り付くとクロワッサンのパリパリッという音が耳を擽る。 次に来るのは柔らかなパストラミビーフの柔らかな食感と旨味タップリの肉汁。最後にホースラディッシュが鼻の奥をツンと刺激して逃げていく。「うっま~~~~!!」 ビアンカは一口、一口、美味しさを噛みしめる。「ユリウスと結婚して良かった~~~~!!!」(朝訓練の前にこんなに美味しい食事を食べられるなんて、幸せ過ぎる!!) ユリウスが不在で寂しさを感じていたビアンカだったが、クロワッサンサンドのおかげで少しずついつもの調子を取り戻していく。(―――リシュナ領軍との対戦試合もあと半分か~。今日はどんな兵士が出てくるのだろう……。面白い戦い方をする奴が居たらいいなぁ~~) ふと、ビアンカはユリウスから『リシュナ領軍の司令官になりませんか?』と言われた時のことを思い返す。 現在のリシュナ領軍の司令官は辺境伯爵のユリウスだ。 彼の仕事をビアンカに任せてもらえるのはとても光栄なこと。ただ、安易に引き受けたくはない。司令官という仕事と一度、真剣に向き合って答えを出したい。(折角、ユリウスがチャンスを与えてくれたのだから、私もその期待に応えられるように頑張ろう。先ずは兵士たちをしっかりと観察するぞ!!) ビアンカは二つ目のサンドイッチに手をのばした。♢♢♢♢♢♢♢♢ リシュナ領軍との対戦試合、二日目。 本日は司令官ユリウスが不在のままスタートすることに。 そこで、ユリウスの代わりに王国軍魔法師団リシュナ領支部のサジェと魔塔のモルテという魔法使いが本日の対戦試合の見届
Last Updated: 2026-06-20
Chapter: 愛を育もう!!結婚6日目・ユリウスの居ない朝 1 コン、コン、コン。 ビアンカはパチッと目を開けた。(音がしたような、しなかったような……) いつも寝室のドアをノックされた時はユリウスが返事をする。 しかし、今はしんとしていて……。(ユリウス、もしかして、まだ寝ているのか?) 寝起きの悪い彼なら十分在り得る。 ビアンカは身を起こし、天蓋のカーテンを少し開いて、部屋の様子をうかがう。 外はまだ日が昇っていないようだ。 室内も就寝時は小さなランプを一つ灯しているだけなので薄暗い。そのまま、窓際に置かれたベッドの方へ視線を動かしてみると……。(えっ、あれれれ!? ユリウスがいない!!! だから、ノックに反応しなかったのか~。ということは……) ビアンカは自分が返事をしなければならない状況にあると気付く。「ドアの前に居るのは、アンナか?」「はい、その通りでございます。ビアンカ様、お部屋へ入っても宜しいでしょうか?」「どうぞ」 ビアンカは天蓋のカーテンを開け放って、ベッドから降りる。 アンナはワゴンを押して、部屋へ入って来た。――――ふわりと香ってくるバターの香り。 ビアンカの素直なお腹はグゥ~と可愛らしい音を立てた。 アンナはニッコリと微笑み、ビアンカは照れ笑いを浮かべる。(空腹といえば、昨夜……、ユリウスは夜食でステーキを二枚も平らげて……。あの時間にステーキ……。いや、本当に若いよなぁ~) ビアンカは『一緒に食べませんか?』と彼に誘われたが、寝る前にステーキを食べるほど、お腹は空いてなかった。(丁重に断ったら、ちょっと寂しそうな顔をして……。少し胸が痛んだというか、何というか……。でも、真夜中にステーキは流石にキツイ!
Last Updated: 2026-06-19
Chapter: 課題が厳しい!!結婚5日目・真夜中の呼び出し 3「父上!! どうして、そんな大事なことを……、もっと早く……教えてくれなかったのですか……」 ドン!! ドン!! マクシムは声を震わせて不満を吐き、テーブルをこぶしで叩いて、―――脱力した。 今までして来たユリウスへの嫌がらせや、リリアージュへの愚かな言動が脳裏をかすめる。―――手に入らないものを求めているとも気付かずに……、何と愚かなことしてしまったのだろうか。 その上、マクシムは近々、王太子の位を返上する。 これは国王や王妃、宰相夫妻の進めていた計画をすべてダメにしてしまったということだ。「相手が誰であろうと機密を漏らすわけにはいかない。ユリウスとビアンカが無事に夫婦となったから、お前に情報を解禁した。ただ、それだけだ」 国王の横でピサロ侯爵が大きく頷いている。「もしかして……、子供のころからビアンカに大人数の影が付いていたのは、ユリウスの婚約者だったからですか?」「そうだ。王家と侯爵家で影と護衛を付けていた」 国王が肯定し、ピサロ侯爵も「その通りです」と答えた。「ああああ~、私は何ということを……」 マクシムはテーブルの上に突っ伏す。―――コンコンコン。 執務室の雰囲気が非常に重くなったところで、ドアをノックする音がした。「私です」 聞こえてきたのはユリウスの声である。タイミングが良いのか悪いのか、微妙なところだ。「入れ」 ユリウスが部屋へ入るとテーブルを囲んで、国王、宰相、マクシムが座っていた。だが、マクシムだけ、頭を抱えてテーブルに突っ伏している。 ユリウスは先にしなければならないことがあるので、このおかしな状況はスルーすることにした。「宰相閣下、この度のこと、深くお詫び申し上げます。私が至らなかったためにビアンカが事件に巻き込まれてしまいました。申し訳ご
Last Updated: 2026-06-18
Chapter: 課題が厳しい!!結婚5日目・真夜中の呼び出し 2 マクシムはビアンカがネーゼ王家の血を引いているというくだりまでは、そういうこともあるだろうと素直に飲み込んだ。しかし、続けて語られたイリィ帝国の後継者の話についてはすんなりと受け止められなかった。―――後継者に神の力を分け与える? そんなのただのおとぎ話だろう。仮に皇帝が神の力を持っていたとしたら、イリィ帝国は滅んでいないはず……。「宰相、紫の瞳を持つ者たちはこの五百年の間、母国もないのに争って後継者を決めていたのか?」「いいえ、この五百年間、イリィ皇家の後継者争いは起きていません。それは紫の瞳を持つ赤子が一人も産まれなかったからです。ですから、我が娘ビアンカとターキッシュ帝国の第四皇子テオドロスは五百年ぶりに産まれた後継者候補なのです」「―――そうか」「はい」 国王は今までビアンカがどのように狙われて来たのかということを、まだ半信半疑のマクシムに話して聞かせた。 命を狙われ始めたのは生後一日目からだったということも……。―――神の力に関することは一旦置いて、ビアンカが執拗に命を狙われていたということはマクシムも理解した。「ビアンカが戦士として覚醒したのは……、身を守るという意味では良かったのかも知れません。ただ、親としては……」 ピサロ侯爵は険しい顔でビアンカが国軍に入った時の心中を吐露した。 ただ、マクシムは以前から、ピサロ侯爵がビアンカを国軍に入れたくなかったとボヤいていたのを知っている。ということは……。「もしかして、父上(国王)がビアンカを国軍に引き込んだのですか?」「ああ、そうだ。ビアンカに国軍の官舎へ入ることを勧めたのは私だ。日々、屈強な兵士たちに囲まれている環境の方が屋敷にいるよりも安全だろう?」「確かにそうかも知れませんが……」 ビアンカが国軍の官舎に入ったため、マクシムはビアンカと会う機会が一気に減少したのである。 のちに
Last Updated: 2026-06-17
Chapter: 番外編・カールとニック 最近カールは皇帝の補佐のような仕事をしており、しばらく屋敷に帰ってない。「屋敷に戻っても可愛い娘はいないし、レダも……。というか、どうして、殿下は私の家族と一緒に暮らしているんだ?」 心の声がつい漏れ出てしまう。 どう考えてもおかしい。 カレンとアルフレッドは婚約者同士ではあるが、結婚式の予定もない。 なのに、義理の母も一緒に三人で同居? ズルすぎるだろ! カレンの夜間護衛? レダがいるのに護衛が必要なのか!?―――腑に落ちない。「カール、どうした? 険しい顔をして……」 ニックこと皇帝ニコラスは微笑みながら彼に問う。 聞かなくても理由は分かっているが……。少しでもピリピリとした執務室の空気を改善したかったのである。「陛下、ご子息をどうかしてください。私だけのけ者です」 カールはアルフレッドのことをワザとご子息と言った。殿下と言いたくなかったからである。「うちの息子がすまない。カレン嬢に夢中で……」 ニックはレダの名を出さなかった。これ以上、拗らせたくなかったからだ。「夢中……。だからといって、婚前に同居なんて……」「ああ、それなら、いっそのこと結婚させるか?」 ニックは子供たちの結婚式を想像した。 皇后に似て、綺麗な顔立ちをしているアルフレッドと、レダと瓜二つのカレンが並んでいる姿は人々を魅了するだろう。 最近、良くないニュース続きのニルス帝国としても、おめでたい報告を国民に出来るのは非常に良いことだ。「結婚……? 早すぎる!!」 反対の言葉と共にカールは勢いよく立ち上がった。ニックは驚いてビクッとする。「そ、そうか? 二人とも成人しているのだから、そんなに早くもないと思うのだが&hel
Last Updated: 2026-06-02
Chapter: 番外編・差出人不明の手紙 4カレンは相手を知らないので、相手に見つけてもらうしかない。 正直なところ、もう半分くらい無理かもと思い始めている。それくらいアデンの丘の広場は人でごった返していた。 カレンはサクロの丘の上にある皇宮の方を見る。 巨大な皇宮は闇夜のなかでも、多くの明かりが灯されて、とても美しく浮かび上がっていた。 (殿下の生まれ育った皇宮……。私も今後はあの宮殿で暮らしていくことになるのよね) カレンはボーッと巨大な建物を眺める。 (殿下から、あれだけ毎晩一緒がいいと粘られたら、私が皇宮から『レダの家』に通った方が良さそうな気がする……) 「アルは明日帰って来るのかしら」 海軍の演習は一週間とアルフレッドは言っていた。 いつでも呼び出していいと言われたが、カレンは彼に連絡を取っていない。 手すりに頬杖をついて、アルフレッドのことを考える。 彼と離れていても、カレンの心はいつもあたたかな毛布で包まれているようだった。彼の底なしの優しさと愛情の毛布に。 「私もアルにぬくもりを与えられる?」 (少しは素直になりたい。殿下のように……。心をポカポカと温められるような愛の言葉を私も言えるようになるかしら) ボーン。 カレンが考え事をしていると午前0時を知らせる鐘が鳴り響いた。 (あ~、日付が変わった。ええっと……、私は何時までここにいたらいいの? まだ、夜と言えば夜だけど……) 夜に来て欲しいとカードに書かれていたため、カレンは終わりの見極めに悩む。 「!?」 後方から、誰かがカレンのフードを引き下ろした。サラサラサラと金髪の長い髪がフードの外へ零れ落ちる。 (誰!? お手紙をくれた人? それとも、人違い?) カレンはゆっくりと振り返った。 「あ、えっ?」 目を見開く、カレン。 後ろに立っていたのはアルフレッドだった。 (何で正装なの!? 猛烈に目立っているのだけど!!) 周囲も皇太子が現れたとザワツキ始めている。 (ああああ~、大きな騒ぎになってしまう) 「殿下、早く立ち去りましょう」 カレンはアルフレッドの袖をつかんで、小声で囁く。 しかし、彼は首を横に振って、彼女の提案を断る。 (―――どうして?) 次の瞬間、アルフレッドは彼女の前に跪いた。 一瞬だけ、周りから悲鳴が上がったものの、
Last Updated: 2026-05-31
Chapter: 番外編・差出人不明の手紙 3 アルフレッドはカレンの涙にくちびるを寄せて優しく吸った後、羽が触れるくらいの軽い口づけをした。「カレン、やはり一週間も留守にするのは心配だ。毎晩、転移魔法を使って帰って来ようか?」(また、私のことを心配して、そんなことを……)「心配してくれてありがとうございます。でも、司令官がお仕事を抜けて家に帰るのは良くないですよ」「―――そうだな。だが、寂しい時は無理をしないでくれ。何とかするから」「はい」 カレンは涙を手の甲で拭って笑顔を作ってみせる。「途中で会いたくなったら、レダどのに頼んで俺を呼んでくれ。直ぐに帰ってくるから……」 アルフレッドはカレンをギューッと抱き締めた。「一人で泣いたりするなよ」「―――はい」(そんなに優しくされたら……)「では、行ってくる」「―――はい」 アルフレッドはカレンの頬にくちづけをしてから、部屋を出て行った。―――ポタ、ポタッ、ポタ……。 大粒の涙が床に落ちる。 もう我慢の限界だった。涙が止め処なく溢れて来る。「うっ、うううっ」(何も言えなかった……。『気を付けてね』の一言も……)♢♢♢♢♢♢♢ アルフレッドが出かけてから五日後の朝。 いつものようにマーガレットが一番乗りで占いにやって来た。「レダ、見習いちゃん、おはようさん! そろそろ新月だね~。新月は夜中に目が覚めたときに何も見えないから困るんだよ~」(ああ~、新月! あの手紙のことをすっかり忘れていたわ!!) カレンはマーガレットの世間話で差出人不明の手紙のことを思い出す。―――マーガレットが帰った後、カレンはレダに尋ねてみた。「レダさん、次の新月って何日ですか?」「ん?
Last Updated: 2026-05-31
Chapter: 番外編・差出人不明の手紙 2 要するにアルフレッドは従来のルールを覆そうとしているのだ。カレンと一緒に居たいがために……。「殿下、今後もここから皇宮へ通い続けるというのは流石に……どうかと思いますよ。。皇子宮の方々も主が毎晩不在では困るでしょう? どう考えても、私がここから皇宮に出勤した方がスマートですよね?」「それは別居婚ということか!?」 アルフレッドはカレンの肩に乗せていた頭を上げて、カレンを見つめる。(近い、近い、近いわ!! しかも、目が怖い……。殿下、怒ってる?)「絶対に嫌だ!! 離れて暮らすくらいなら、俺はこのレダの家を破壊する!!」「な、何を言い出すの? そんなこと……」「俺なら出来る!!」(殿下がいうと本当に出来そうな気がして……怖いわ) カレンは悪寒がした。 なにより『レダの家』には多くの秘密が詰まっている。それに……。「ダメです!! このお家が無くなったら、レダさんはどこに住むのですか!!」「シュライダー侯爵邸でいいだろ!」 アルフレッドは即答する。「それは!」 カレンは反論するために勢い良く最初の言葉を口にしたものの、―――後が続かない。 シュライダー侯爵邸でレダが暮らすのも悪くないと思ってしまったからだ。(実はお父様とレダさんが屋敷で一緒に暮らすのは、何の問題もないのよね~。本当の夫婦だし)「―――そうかも」「だろう」「ただ、そうなってくると……。マーガレットさんが困りますよね~」「ああ、あのご婦人か!」 アルフレッドの脳裏にマーガレットの顔が浮かぶ。―――未だにアルフレッドはマーガレットのことをレダの仕込みではないかと疑っている。 留守番中のカレンへ世間の情報を届けるために用意された駒だったのではないかと……。「ランチメニューを考えるだけだろう。心配なら、皇宮のランチメニューを一か月分ずつ伝えておけばいいんじゃないか?」「それはダメですよ。いつもマーガレットさんが朝市場で仕入れたものを聞いて、メニューを一緒に考えているのですから」「案外、大変だな……」 アルフレッドは密かに『料理が出来なくても、メニューを考えることは出来るんだな』と思ったが、もちろん、口に出さない。「はい、大切な仕事です」「でも、毎日一緒に寝たいから、別居は嫌だ!」 話は結局、振り出しに戻ってしまう。「殿下、珍しく粘りますね」 カレン
Last Updated: 2026-05-29
Chapter: 番外編・差出人不明の手紙 1 ある日の朝、カレンが目覚めると枕元に一通の手紙が置いてあった。 厚みのある赤い封筒に金の封蝋。カレンは破かないようにと指先で丁寧に開けていく。 カレンの部屋にはペーパーナイフがないのである。(これからもここで生活していくのなら、一度、シュライダー侯爵邸(実家)に戻って、必要なものを取って来た方がいいわね) カレンは何を取って来ようかなと考えた。幼少期にレダがカレンに贈ってくれたぬいぐるみのデュラは是非持って来たい。 封蝋を剥がし、中にある紙を取り出すと便箋ではなくカードだった。紙からフワリとローズの甘い香りが漂ってくる。(なんてオシャレな演出なの? 封筒には差出人の名前が記されていないわね。カードの方に書いてあるのかしら) カードにはお決まりの挨拶文もなく、短いメッセージだけが記されていた。『カレンへ。つぎの新月の夜、アデンの丘で』「えっ、これはどういう……」 あまりにも情報が無さ過ぎて、カレンは困惑してしまう。 結局、名前はどこにも記されてなかった。「誰からの手紙なの……?」 つぎの新月の夜の日付は確認すれば分かるだろう。―――しかし、夜というのは……?(一体、何時に行けばいいの? 陽が沈んだ後? それとも夜中???) カレンは他に何か書いていることがないか、カードをくまなく確認する。すると、右下に小さな文字で他言無用と書いてあった。「他言無用!? 怪しいわね……」 最初は両手で丁寧に持っていたカードを、カレンは右手の親指と人差し指で摘まんだ。(どうする? 怪し過ぎるから無視する?) フルフルとカードを揺らしながら、指定された場所へ行くか、行かないかを悩む。―――と、そこへコンコンとドアをノックする音が聞こえて来た。「カレン、起きているか?」 アルフレッドの声だ。カレンは手に持っていた
Last Updated: 2026-05-28
Chapter: その日は突然やって来た 5 (最終話)貴族の家では社交に忙しい実母のために乳母を雇うのが一般的だ。そのため、産まれてくる子供を乳母に育ててもらっても何の問題も無い。 また、ニックも生まれてくる子は必ず守ると何度もレダに言ってくれた。 レダはカールとニックの心強い励ましに勇気づけられ、天から授かった子を産む決意をしたのである。 ♢♢♢♢♢♢♢ 「そこからは……、ご存じ通りの別居生活だよ。母親が死んだという話は当初、使用人たちの中でこっそりと噂されていたことなんだけどね。誰かが、幼いカレンに告げてしまって、そのままに事実のようになってしまったんだ。一日も娘のことを想わない日は無かったよ。それにアルフレッド、子供のころから変わらず、カレンを大切にしてくれてありがとう」 レダの感謝の言葉を、アルフレッドは胸に手を当てて丁寧に受け取った。 「レダさん、その見た目って本当に今のレダさんなのですか?」 「ああ、そうだよ」 「ということは、私も年を取らないってこと?」 「多分ね」 「どうしよう!! 殿下が先に死んじゃう~!!!」 カレンは頭を抱える。 「いや、いやいや、カレン。そこは『お父様が先に死んじゃうのは悲しいわ』って、いうのではないのかい?」 「お父様は……、どうでもいいです!」 カレンはクールに言い放つ。 「娘が冷たい……」 シュライダー侯爵は悲しそうな表情を浮かべて、レダに抱きつく。 (お父様、もう開き直っているわね。娘の前で堂々とレダさんに甘えるなんて!) 見た目だけは帝国一のハンサムと言われているシュライダー侯爵、そして、カレンと同じ顔をしているレダ。二人がイチャついている姿をみているとカレンは変な感じがしてしまう。 (私とレダさんの見た目が似過ぎているのが問題なのかしら……) 物思いに耽っていると肩をトントンと叩かれた。 「カレン、大切なことを忘れてないか?」 「えっ、何を?」 「俺はこの国の皇帝になる。―――ということは?」 (皇帝……、そうだった! 殿下は次期皇帝……。で、銀狐の皆さんみたいに退位後もニルス帝国のために働くのよね……って、あ!) 「寿命が長い?」 「そう、その通り。だから、俺たちがお別れすることはない」 カレンは「良かった~!!」と安堵の笑みを見せる。 シュライダー侯爵はカレンとアルフレッドの様子を眺めていた。彼の耳元へ、レダ
Last Updated: 2026-05-25