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風野うた
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Novel-novel oleh 風野うた

大斧の女戦士ビアンカの結婚(特別任務で辺境伯を探るつもりだったのに気が付いたら円満な結婚生活を送っていました)

大斧の女戦士ビアンカの結婚(特別任務で辺境伯を探るつもりだったのに気が付いたら円満な結婚生活を送っていました)

 ローマリア王国には大斧を振り回し、多くの武勲を立てたビアンカという女戦士がいる。彼女は百七十八センチの長身で軍服をキリッと着こなし、肩口で真っ直ぐに切り揃えられたサラサラの黒髪をいつも靡かせ、切れ長の目元にはこの国では珍しい紫色の瞳。年は二十一。 ――――ある日、ビアンカは王太子に呼び出され、国軍から辺境伯領への移動を命じられる。『これはそなたにしか出来ない特別任務である』と王太子は強調し、何故か彼女には花嫁衣裳が用意された。 ――――リシュナ領(辺境伯領)へ向かったビアンカを待ち受ける運命とは?
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Chapter: いきなり挙式!?結婚1日目・長いバージンロード 1
 正面の扉が閉じられるとビアンカは横に控えていた女性から白バラのブーケを手渡され、ベールを被せられた。一同は既に起立していて、ピサロ侯爵家の父と娘に注目している。 荘厳な造りの教会の内部は想像以上に絢爛豪華だった。 頭上には天使たちが舞う天井画が描かれ、柱や床には大理石をふんだんに使用し、繊細な金の装飾も至るところに施されている。祭壇の先にあるステンドグラスも見たことがないような意匠で……。 きっと、これは著名なアーティストがつくり上げたものに違いないとビアンカは目を凝らす。―――ただ、一番知りたい祭壇の前にいる人物は逆光を浴びており、シルエットが辛うじて分かるくらいで、顔も服装もよく見えなかった。(こんなに豪華で立派な教会がこの辺境の街にあるなんて知らなかった。大体、私の仕事柄、教会に行くことなど皆無、知らなくて当然なのだけども。それにしても……、あの左の壁の巨大な陶板レリーフの迫力!! 凄いなぁ……、天地創造の場面か?) 歩み始めようとするとタイミング良く、柔らかな音楽が流れて来た。前方の右手に楽団がいるようだ。 ビアンカは父親と一歩一歩ゆっくりと進みながら、視線を動かして室内を隈なく観察していく。ピサロ侯爵は彼女の行動に気付いたが、参列者がこちらへ注目しているため、直ぐに注意をするのではなく、慎重にどう対処すべきかを考えた。 この結婚は王位継承権を持っている辺境伯と国内で一番力を持つ貴族と言われているピサロ侯爵家の縁を繋ぐもの。参列者も国内の有力貴族だけではなく、近隣国の王族の代理人、この国と取引のある外国の貴族など名立たるメンバーが集結している。―――要するに失敗は許されないということ。 しかし、ビアンカの思考回路は良くも悪くも戦士仕様のため、一筋縄ではいかない。―――ピサロ侯爵は作戦を考えてから、視線を真っ直ぐ前に向けたまま、横にいるビアンカへ小声で話しかけた。「ビアンカ、前だけを見なさい。参列者がこちらに注目している」「心配しなくとも顔は前に向けています。ベールで隠れているので多少、視線を動かしたとしても参列者には分からないでしょう」 ス――ッ。
Terakhir Diperbarui: 2026-03-05
Chapter: いきなり挙式!?結婚1日目 大斧と短剣 2
 ビアンカは大斧の柄から手を離した。 続けて、大斧を安全な場所へ移動させるため、付き人のジェインが柄に手を伸ばす。 ところが百戦錬磨の女戦士ビアンカの愛用する大斧は想像以上に重く、文官の彼が持ち上げようとしても、ビクともしない。―――その姿を見かねてピサロ侯爵の護衛が一人、後方から加勢をしに駆け寄る。 二人は掛け声を出して、ビアンカの大斧を持ち上げた。そして、慎重な足取りで教会の裏の方へ運んでいく。「父上、絶対に返してくださいよ!!」 ビアンカは大斧を見送りながら、ピサロ侯爵へ強く訴える。しかし、彼は軍人ではないため、彼女の気持ちが全く理解出来なかった。「全く、誰に似たのだか……。そんなに心配しなくとも、式が終われば返却する。ほら、これを受け取れ」 ピサロ侯爵は手よりも少し大きいサイズの短剣をビアンカへ渡した。彼女は手のひらに乗せられた短剣を、ジ~ッと観察する。(短剣の鞘や柄の装飾に宝石が使われている。この短剣、もしかして飾り刀なのでは?―――刃はきちんと研がれているのか……) ビアンカは無造作に鞘から剣を引き抜いた。そして、刃の部分に光が当たるようにかざし、少しずつ傾け、しっかりと研げているかどうかを確かめていく。「ビアンカ、ここでそういうことをするのは止めなさい。民衆が一部始終を見ていることを忘れないように。悪い評判が立ったら、辺境伯に迷惑を掛けてしまうぞ」 ピサロ侯爵は規制線を張られた先に押し寄せている民衆を一瞥する。 教会の前にはかなり多くの人々が集まっていた。(あー、民衆が余りにも静かでその存在を忘れていた……。まぁ、今更だな。大斧を渡したくないと渋るところから全て見られてしまったのだから。それに女戦士の印象など最初から良くもないだろうし……) 人々は目の前で繰り広げられるピサロ侯爵家の父と娘のやり取りを真剣に観察していた。 国を動かす宰相の父と大陸一の戦士で英雄といわれている娘。そんな二人がどんなやり取りをするのだろうかと・・・。『大物親子が何だか楽しそうに会話をしている!?』と好意的に受け止められていたのだが、この父娘は気付いていない。―――結局のところ、ピサロ侯爵の短剣は小さいながらも手入れが行き届いており、刃もしっかりと磨かれていた。ビアンカは剣を鞘に戻すとドレスの左側についているポケットへ柄を下にした状態で入
Terakhir Diperbarui: 2026-03-05
Chapter: いきなり挙式!?結婚1日目・大斧と短剣
 転移完了。 大斧を担いだ花嫁姿のビアンカが、リシュナ領の領都バリードにある魔法陣の上へ降り立つと目の前に一人の男が立っていた。 その男は王国軍魔法師団の一員であるという証の深紅のローブを身に纏っている。(青年にしては若いような……、彼は一体、何歳なのだろう?)「ピサロ侯爵令嬢、お待ちいたしておりました!」「――――いや、その呼び名は新鮮というか、久しぶりというか……。初めまして、私はビアンカ・ルーナ・ピサロだ。貴殿は?」「僕は王国軍魔法師団リシュナ支部所属のサジェ・トラス・ペニーと申します。ペニー子爵家の長男です。ようこそ、リシュナ領へ」 男は幼さを感じさせるような笑みを浮かべる。ビアンカは思い切って聞いてみた。「サジェ殿、随分お若いようだが、年齢を聞いても?」「僕は先月、十五歳になりました」「わっ、若い!!そんなに若いのに、こんなに小競り合いの多い地方へ送られるなんて!!任務をこなすのは大変だろう……」(こういう血なまぐさい土地はベテランが配置されるのではないのか? 王国軍の魔法師団の人事はどうなっているのだ!?)「ええっと、ピサロ侯爵令嬢? 見た目で判断するのは止めて下さい。こう見えて僕は結構、戦えるのですよ」「――――ほう。それは気になる……」 ビアンカはサジェの『戦える』という言葉に反応する。軍に所属していて『戦える』と発言するのだから、十分に力があるということだろう。(サジェ殿が魔法で戦闘するシーンを見る機会があるかも知れないということか?? 何だ!? 急に楽しい気分になって来たぞ!!) ビアンカは戦士たちの血生臭い肉弾戦ではなく、エレガントと評される魔法使いの戦闘を見るのが大好きなのである。「そんなに見つめないで下さい!! 僕は辺境伯に睨まれたくありません。あの御方は・・・」「ん? 辺境伯がどうした?」「いえ、失言です。では、今からお送りしますね」 サジェは懐から杖を取り出した。どうやら、屋敷まで飛ばしてくれるようだ。花嫁衣装で身動きに制限のあるビアンカには大変嬉しい話である。「飛ぶ前に一つお願いが……。サジェ殿、今後、ピサロ侯爵令嬢と呼ぶのは止めて欲しい。気軽にビアンカと呼んでくれ。では、よろしく」「――――呼び捨てでなんて、恐ろしくて呼べませ~ん!!ビアンカ様、ごめんなさい~!!」 サジェの叫び声と共
Terakhir Diperbarui: 2026-03-04
Chapter: いきなり挙式!?結婚1日目・いざ、リシュナ領へ
 「あー、マジか……。苦しいなコレ……」 ビアンカは腹部に力を入れないよう、愛用の大斧を腕の力だけで肩へ担ぎ上げた。 彼女の背中で大斧の刃が朝日を受け、艶めかしく輝く。――――いついかなる時も直ぐに敵を斬れるよう、大斧の刃はビアンカによって、一点の曇りもなく研ぎ澄まされているのだ。 そんな不気味な輝きを放つ大斧を見せつけられ、侍女たちの顔は強張っている。――――こんなに大きな斧を振り上げられたら、身を守る術のない自分たちは簡単に死んでしまう。 侍女たちは死の恐怖をひしひしと感じていたのである。(侍女たちはあんなに細い腕で良くもまぁ、こんなに締め上げるものだ。腹部に筋肉のないご令嬢だったら、こんなに腹回りへ圧を掛けられたら、命の危険があるのではないか? 大方、私なら大丈夫だということで、ここまでしたのだろうが……)「侍女の方々、お世話になりました。ありがとう」 侍女たちはビアンカからお礼の言葉を受けると一斉に壁際へ整列し「行ってらっしゃいませ」と声を揃えた。 純白のウエディングドレス姿で大斧を担いだビアンカはその様子を一瞥すると、静かに部屋を出ていく。(本当に身一つの出発になってしまった。この姿では鞄を持つこともままならない。ああ、マクシムの話が辺境伯に伝わって無かったら、色々なものを貸してくださいというところからお願いしなければならないな……)――――宿舎を出たビアンカはリシュナ領へ転移するため、王宮魔術師団が管理する魔塔へと向かう。王家の所有する魔法陣を利用して、リシュナ領の領都バリードへ転移する許可は昨日、王太子マクシムから貰っているので問題ない。 ちなみにローマリア王国には王宮魔法師団と王国軍魔法師団という二つの魔法師団がある。 簡潔に説明すると王宮に属する者は支援系(防御魔法、治癒魔法など)、王国軍に属する者は攻撃系(攻撃魔法・追跡魔法など)に長けているのだ。(いやー、転移で移動出来るのは本当に助かる!! このドレスを着て馬車で移動なんてしていたら、流石の私もリシュナ領へ到着するころには気を失っているかも知れない) ビアンカは太刀傷を受けた時のように浅い呼吸をしながら、ドレスを破かないよう慎重に歩いていく。残念ながら、パンプスは足のサイズが合わなかったため、いつものブーツを履くことになった。幸い、花嫁のドレスは裾が長いので、
Terakhir Diperbarui: 2026-03-04
Chapter: 何も知らない0日目・プロローグ
「くっそー!! あの野郎!! 何を企んでいるんだ!?」 ビアンカは地団太を踏む。あの野郎とはこの国の高貴なお方、王太子マクシムのことである。 彼とビアンカはこのローマリア王国の貴族子女が通う王立学園の同級生だ。プライベートでは共通の友人も多く、それなりに気安い仲である。 だが、マクシムが結婚したことを機にビアンカは彼と仕事以外で会うことを止めた。これは他国から嫁いで来た王太子妃に配慮してのことである。(正直なところ、マクシムとは恋仲になる可能性もないただの友人だ。しかし、恋愛脳の貴族たちに男女の友情を語っても通じるはずがない。不用意に一緒にいて、ありもしない噂でも立って、王太子妃様を不安にさせてしまったら、それこそ可哀想だ。女の私から見ても王太子妃様は見た目も性格も可愛い御方だからな。あのマクシムには勿体ないくらいに……)――――昨日、ビアンカは王太子から王宮へ呼び出された。『王国軍・指揮官ビアンカ、辺境リシュナ領への転任を命じる。今後はコントラーナ辺境伯の下でこの国を守れ。期限は定めない。出発は明日の朝だ』『殿下、突然のお話で驚きました。もしや、辺境の地で何か異変でも?』『――――ビアンカ、異変は……、起きていない。だが、この任務はそなたにしか任せられない特別任務だ。詳しいことは辺境伯に聞け。よろしく頼んだぞ!』 ビアンカはマクシムが何かを誤魔化しているような気がして、眉間に皺を寄せる。『殿下、私しか出来ない特別任務とは何ですか? 一人で向かうということは国軍を動かすようなことではないということ……。まさか、私にスパイ活動でもしろというのか!?』『ビアンカ、そんなに構えるな。こちらで段取りは整えておく。そなたは向かうだけでいい』(くう~、マクシムは私の質問に答える気が無さそうだな。仕方がない。特別任務の内容は現地で辺境伯に聞くとするか) 彼女はその場で一度、深呼吸をし、覚悟を決めた。『――――分かりました。謹んでお受けいたします』『ああ、気をつけて向かってくれ』――――ここまで思い返して、ビアンカは今の状況を考える。 昨日のやり取りは茶番だったのだろうか? 何故なら今し方、ビアンカの部屋へ押しかけて来た侍女たちが手にしているのはどう見ても純白の花嫁衣裳にしか見えないからだ。(マクシムよ。この花嫁衣裳を着て、私にどうしろというの
Terakhir Diperbarui: 2026-03-04
訳あり侯爵令嬢は成り行きで身代わり占い師をしています(元婚約者の皇子が相談にやって来ました)

訳あり侯爵令嬢は成り行きで身代わり占い師をしています(元婚約者の皇子が相談にやって来ました)

 ヤドリギ横丁の占いの館『レダの家』には、毎日お悩みを抱えた方がいらっしゃいます。私ことカレンは訳ありまして、店主の占い師レダさんの身代わりをしております。最初は、ハラハラドキドキの連続でしたが、最近、人生相談くらいは人並みに出来るようになりました。――――と、油断していたところへ、元婚約者であるあの方が、何故か、こんな裏通りの占い館へ相談に来られたのです…
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Chapter: 満月の夜 4
 半年ほど前、カレン(カレン・マーレ・シュライダー侯爵令嬢)は、この占い館へ抱えきれない悩みを相談するために足を運んだ。その時に本物の占い師レダと初めて出会ったのである。 しかし、レダはカレンの顔を見るなり彼女の相談内容も聞かずに自分の弟子にならないかと唐突に提案して来た。 理由を問えば、カレンの未来を円滑にするためだとレダはいう。だが、その今一つ真意の分からない話にカレンは困惑してしまった。(レダさんは、私に聞かせてはいけない重要な話を避けているのか、あまり詳しく説明してくれない……。だけど、弟子にならないかって話は私に占い師をさせようとしているということだよね?) ここでレダは、更にカレンへ畳みかける。「あんたの置かれている状況をあたしは知っている。あたしはこれからあんたが幸せになるための準備をする。だから、入れ替わろうじゃないか!!」「入れ替わる?」(レダさんの弟子になって修行するのではなく、レダさんと入れ替わる? それって……)「ああ、あたしがあんたの悩みを解決してやるよ。いや、この提案はあたしにも十分な利があるんだ。遠慮はいらない」 こんな無茶な提案、普通のご令嬢なら間違いなく断るだろう。だが、カレンはレダの提案を真剣に受け止め、どうすべきかを考えた。(正直なところ、あの人たちがいる屋敷にはもう戻りたくないわ。レダさんが、私の代わりに屋敷へ戻って、あの人たちをどうにかしてくれるのなら任せてみる?―――だって、私にはこの状況を打破する気力も体力も、もう残っていないもの) この時、カレンはもう限界だった。何が原因かと言えば、父であるシュライダー侯爵が一年前に後妻として迎えたレベッカとその連れ子エマからの激しい嫌がらせを受けていたからである。 持ち物を奪われたり、罵られたりすることは日常茶飯事。その上、義妹エマはカレンの友達の茶会へ勝手に参加し、その高飛車な態度で度々揉め事を起こしていた。 もちろん、エマは反省などせず、自分の主張ばかりを繰り返す。それでいて、先方へお詫びはカレンに押し付けてくるのだから、最悪だ。(『お前の母親以外と結婚をすることなど絶対にない』と、あんなに頑なだったお父様が、急に再婚するって言い出しただけでも驚いたのに。まさか、あんな人たちが家族になるなんて……。―――それでも、彼女たちは貴族生活に慣れていないだけ
Terakhir Diperbarui: 2026-03-04
Chapter: 満月の夜 3
 すっかり夜も更け、満月がヤドリギ横丁を明るく照らす。 コンコンとノックの音がした。 見習いのキュイは静かに扉を開く。フードを被ったアルフレッドが立っていた。静かに室内へと促し、扉を閉めてカギを掛ける。「こんばんは、アルフレッドさま。ここへ来ることを誰かに見られたりはしていませんか?」「こんばんは、占い師どの。心配には及ばない。念のため、皇宮の私室からドアの前まで転移してきた」 アルフレッドは被っていたフード付きマントを脱いだ。すると、頭の上に可愛いモフモフの耳が……。「えっー!?」(頭にケモ耳がついてるー!? 殿下にこんな秘密があるなんて、私、全く知らなかったのだけど!? 今まで隠していたってことよね? それって、かなりの重要機密なのでは……??) レダは両手で口を覆う。驚きのあまり、つい叫んでしまったからだ。「構わない。この姿を初めて見た者は驚くだろうからな。それに今夜は満月。おれを狼男だと勘違いしている馬鹿な奴らが犯行をより確実にするため、媚薬を盛るなどという愚策を考えたのだろうが……。わざわざ教えてはやる必要もないが、俺は銀狼ではなく、正しくは銀狐《ぎんこ》だというのに……」「銀狐《ぎんこ》……、ぎんぎつね!?」(え、待って!皇族に入っている魔族の血って、きつねなの? 嘘っ!? 本当に???) レダは初めて聞いた話をどう受け取ったら良いのか分からなかった。アルフレッドは目の前で老齢の占い師が動揺している様子を目の当たりにして違和感を持つ。「占い師どのは、このことを知らなかったのか?」「ええ、初めて知りました」「そうか、父上からヤドリギ横丁の占い師レダ殿は皇家の秘密を知っているから大丈夫だと聞き、ここへ相談に来たのだが……」 レダの背中に冷たい汗が伝う。アルフレッドのいう占い師レダ《師匠》は、今ここに居ない。いろいろと勘繰られないよう言葉に気を付けながら、レダは事情を話し始めた。「アルフレッドさま、その占い師は先代かも知れません。私が弟子に入って直ぐに師匠は亡くなりました。そのため、私は皇家の秘密を存じません。また、今知った秘密は決して口外しないとお約束します。どうぞご安心くださいませ」(レダのことを聞かれたら、死んだことにしたらいいって、キュイは言っていたけど……。こんな言い訳で、聡いこの人を納得させられるのかしら) 
Terakhir Diperbarui: 2026-03-04
Chapter: 満月の夜 2
「お客さま、ここは占いの館です。宿屋ではございませんので……」 レダは、勇気を出して言い返す。しかし、男はガラス玉のように透き通った瞳で、レダを射抜くように見つめる。「では、占い師殿。俺の未来を占ってくれ。そうすれば、理由を言わなくても、あなたなら分かるだろう」 男は珍しく、“話を聞いてください”と言わない客だった。こうなると、レダはこの男のことを自力で調べないといけない。(もしかして、私、試されてる?) レダは机の下から水晶の球を渋々取り出した。そして、水晶に映る目の前の男へ視線を固定する。「すみませんがお客様のお名前を教えて下さい。フルネームではなく、ファーストネームで構いません」「―――アルフレッド」(ああ、やっぱり……、そうなのね。他人の空似でもなく、間違いなくこの方は……)「では、アルフレッドさまの未来を占います」(はぁ……、仕方がないわ。ここで私情を挟んではダメ!! 相手は私の正体を知らないのだもの。だから、ちゃんとレダとそのお客様として対応しないと。だけど私、占いなんて全然出来ないのよね。こうなったら、それらしく未来を占っているフリをして、彼の記憶を見せてもらうことにしましょう) レダは全神経を集中させ、水晶玉で占いをしているフリを始めた。そして、こっそりと自身の魔力を開放して、水晶の向こう側にいるアルフレッドの記憶を探っていく。(―――これは何処かしら。う~ん、皇宮では無さそうね) アルフレッドの記憶の中に、ある一室の風景が浮かんでくる。 数人の貴族らしき男性たちが『次の満月の夜にアルフレッドへ媚薬を飲ませて用意した女を部屋に送ろう』という作戦を話し合っていた。「アルフレッドさま、とある犯行計画が見えました。ただ、これはわたしが覗き見て、良い内容なのでしょうか?」「ああ、構わない。おれはこの計画を上手く潰したいと思っている」「分かりました。では、具体的にどうして欲しいのかをお聞かせ下さい」「次の満月の晩、俺は敢えて媚薬の入った食事を取り、こいつらに騙されたフリをする。だから、その晩はここへ泊まらせてくれ。そうすれば、あいつらの計画は実行したにも関わらず、失敗に終わる」 レダは、少し思案した。「では、ご自身の寝室には戻らず、ここで満月の日の夜を過ごしたいということでしょうか」「そうだ。レダ殿ならば、俺が媚薬を
Terakhir Diperbarui: 2026-03-04
Chapter: 満月の夜 1
 ニルス帝国の王都にある下町、ヤドリギ横丁の『レダの家』の看板に明かりが灯った。『レダの家』は占い師レダが営む“占いの館”でかなり古くから、ここに存在している。  噂では数百年前から営業しているといわれているが、店主レダは占い以外の話には一切応じないため、確認のしようもない。結果、この噂は都市伝説扱いとなっている。  また占い以外にも、レダは魔法が使えるといわれているが、その力を見たという者は居なかった。それ故、レダが魔法使いなのかという話も真偽が分からない。  そして今、店内では黒いローブを目深に被った占い師レダが、薄暗くなって行く窓の外を眺めながら、深いため息を吐いている。 「レダ様、どうされたのですか?」  見習いのキュイはレダのフードを引っ張って、彼女の顔を覗き込んだ。 「キュイ、今夜は満月でしょ。あの御方と約束した日なのよ」  姿とは似合わない、可憐な声で答えるレダ。 「レダ様!声っ!」 「あっ、ごめんなさい。声色を変えるの忘れていたわ!」  レダはキュイに謝ると一度、咳払いをしてからブツブツと呪文を唱え始めた。キュイは静かにレダを見守る。 「これで、大丈夫よね?」 「はい」  この占い館の主であるレダは少々ワケありで、フードを目深に被って、顔を隠し、声色を変え、年齢も誤魔化している。 一番の理由は客からナメられるから。―――というのは、言い訳で本当は大きな理由がある。 (今のところ、師匠と私が入れ替わっていることを、誰も気づいてないのよね。このまま、師匠が帰ってくるまで隠し通せたらいいけど……。大体、師匠の用事って、いつ終わるの? もう出かけてから半年以上経つし……)  いうまでもなく、占いの館へ相談に来る者たちは厄介な悩みを抱えている者が多い。しかし、ここにいる身代わりのレダは占い師の修行もしたことが無い、ズブの素人だ。  今のところ、訪れた者のお悩みを聞き、相槌を打って、頑張りを褒めたたえ、励ますという流れを繰り返し、何とか乗り切っている。  しかし、自分が師匠(レダ)でないと、相談者にバレたらどうなるのか。 (今更だけど、余りにも安易に引き受け過ぎたわよね。それと師匠が私に成りすまして何をするつもりなのか、あの時にしっかり聞いておかなかったのは失敗だったわ)  そして、その身代わりのレダの前に、やんごとない
Terakhir Diperbarui: 2026-03-04
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