LOGIN本編、完結しました! 番外編は9月から順次公開して行きます。よろしくお願いします。 ローマリア王国には大斧を振り回し、多くの武勲を立てたビアンカという女戦士がいる。彼女は百七十八センチの長身で軍服をキリッと着こなし、肩口で真っ直ぐに切り揃えられたサラサラの黒髪をいつも靡かせ、切れ長の目元にはこの国では珍しい紫色の瞳。年は二十一。 ――――ある日、ビアンカは王太子に呼び出され、国軍から辺境伯領への移動を命じられる。『これはそなたにしか出来ない特別任務である』と王太子は強調し、何故か彼女には花嫁衣裳が用意された。 ――――リシュナ領(辺境伯領)へ向かったビアンカを待ち受ける運命とは!?
View More先日、ユリウスは言った。『タタラ工房で作ってもらった新しい武器にお好きな効果を付与しますよ』と。 ビアンカは何を付与すべきか、じっくりと考えたかった。だから、返事を少し待ってもらっていたのである。「はい、決めました」「では、聞かせて下さい」「『眠り』の効果を付けて下さい」「『眠り』ですか?」 首を傾げる、ユリウス これまで、武器に付与した効果といえば、攻撃力の上昇や体力の回復など、武器使用者のためになるものばかりだったからだ。「はい、大斧でわずかに触れて相手を眠らせられるのなら、命も奪わず、ケガも最小限で済みます」 ビアンカから『眠り』の効果を選んだ理由を聞き、ユリウスは目を見張る。―――最強の女戦士は誰よりも命を尊ぶのか……と。「眠らせて、命を守る……。素晴らしいアイデアだと思います。では、早速、大斧に『眠り』の効果を付与しましょう」 ユリウスは大斧の柄を握り、ブツブツブツと小声で呪文を詠唱する。(こうして欲しいと言ったことを、すぐに実現してしまう……、やはり、ユリウスは凄い) 宙に小さな魔法陣が浮かび上がった。そして、その小さな魔法陣は大斧の中へ、スゥ~と吸い込まれていく。 魔法使いが大好きなビアンカは彼の手際の良さと計り知れない能力に惚れ惚れしてしまう。「完了しました。どうします? 試し斬りをするなら、Xを呼びますが……」「X、まさかの試し斬り要員!?」「ええ、それくらい喜んでするでしょう」 ニヤリと悪そうな微笑みを浮かべるユリウス。「喜んで……?」(そういえば、ユリウスはXにどんな罰を与えたんだ? ん~、聞きたいような……、聞きたくないような……) 王国軍魔法師団の諜報員Xは先日、領都バリードで目立つ行動をしてユリウスを怒らせた。 その結果、彼には厳しい罰が与えられたらしい。ただ、ビアンカは罰の内容までは知らない。「では、次の休憩の時に呼びましょう」「ソウデスネ(X、ガンバレ……)」 ユリウスは向かい側の席に散らばっている書類に手を伸ばす。「ユリウス、仕事は大丈夫だったのですか? ここのところ、かなり無理をしていたでしょう」 ハネムーンの出発ギリギリまで、ユリウスは連日徹夜で仕事を片付けていた。 そして、今朝、ようやくサジェやモルテに留守を任せられる状態になったのだという。「一応、区切りの
絹のような触り心地の銀髪を優しく撫でて、その後は車窓を流れる景色を見つめていた……。 ビアンカは今、ユリウスと馬車に乗っている。(峡谷からだいぶん下って来たな。海沿いの街道に入るには、もう少し掛かるだろうけど……) 視線を車内へ戻してみると、向かい側の席に散乱している書類が目に入る。―――ちなみに、その書類の持ち主は彼女の膝の上で爆睡中だ。(ユリウス、当分、起きないだろうな~~~) あの日、宰相が預かって来た王妃の手紙には『あなた達にハネムーンを用意したから楽しんで来て~』という旨が記されていた。 内容が内容なだけに、ビアンカはその場でユリウスに王妃の手紙を見せたのだが……。『―――出発は一週間後よ! 楽しみにしておいてね!!』と、軽い口調で締め括られた手紙を見て、ユリウスは愕然としてしまう。 なぜなら、彼はリシュナ領の業務、魔塔の業務、ターキッシュ帝国の面倒事を抱えていて手一杯だったからだ。 彼はすぐに日付を先延ばしにして欲しいと王妃へ打診した。 ところが『ハネムーンは今、行かないとダメよ!! それにポリナン公国の大公一族があなたたちの訪問を心待ちにしているの!!』と、あっさり却下されてしまう。 スケジュールの変更で頭を悩ませるユリウスの隣で、ビアンカは『どうしてハネムーン先がポリナン公国なのだろう』と考えた。 真っ先に思い浮かんだのは公子夫妻や魔法使いアントンの姿だ。 ビアンカのファンを公言する夫人と妻に優し過ぎる公子、そして、人を連れ去るのが好きな可愛い魔法使い……。―――ん~、彼らはハネムーンとは関係なさそうだ。 他にポリナン公国の知り合いは居なかったかな~と考えていると……、突然、閃いた!! 王妃がポリナン公国の前大公の弟の娘だったということを。 間違いなくこれが理由だろう。 また、王妃の実家があるということは、彼女の親族もそこに住んでいるということだ。ここで、あることを思いついたビアンカは、ユリウスにお願いごとをした。『ポリナン公国へ行ったら、ユリウスの御爺様と御婆様に会いたいです!』 期待に満ちた目で彼を見つめるビアンカに対して、ユリウスはクールな表情でこう答えたのである。『―――ビアンカ、私はポリナン公国の祖父母と会ったことがありません。それに相手は私のことを知らないと思います』『えっ、どうして?』『
「主神ダイア、何度も言いますが、私は神の力を必要としていません」 ビアンカは改めて、断りを入れる。「しかし、このままではターキッシュ帝国が……、あっ!」 ここで主神ダイアは両手で口を塞いだ。 人の世に関することを神が口にするのはタブーとされているからだ。「ダイア、私達の世界に関与するつもりですか?」 ユリウスは彼の失言を追求した。「すまない。本来、神は人の世に手を出してはならないというのに……。ただ、ビアンカを狙っていると知ってしまったら……」「それは私があなたの娘に似ているからですか?」 ビアンカはつい口を滑らせてしまう。―――今まで、夢の中で見たことは不確かな情報だから……と、口に出すことは無かったのだが、本当に……、つい、ポロッと……、口から出てしまったのである。「そうだ。初めて会った時、あまりにもマイアに似ていて、つい隠れてしまった」(隠れた? ああ、あの時か……) ビアンカは初めて辺境伯城の前に広がる麦畑から、異次元の神殿に行った時のことを思い出す。(ユリウスが半笑いで柱の影に呼びかけて……、主神がここに女性が来るのは久々で~とか言い訳をして出て来た時のことだな) 娘が現れたと思って驚いた主神ダイアの気持ちも分からなくはない。ただ、ビアンカは主神にどうしても言っておきたいことがあった。「確かに私は主神の娘に似ているかも知れません。ですが、私はあなたの娘ではありませんし、マイア嬢の生まれ変わりでもないです。度を越えた特別扱いはしないで下さい」「ああ、ビアンカはビアンカだ……。それでいい」 主神ダイアは両腕を組んで、大きく頷く。「では、これを持って、神の力の件は終わりにしましょう。今後も人間は人間同士で新たな時代を作っていきますから、神様たちはくれぐれも見守るだけにしておいて下さい」 ビアンカは主神ダイアにクギを刺す。「分かった約束する。それから、魔塔主とビアンカだけではなく、私と似ている父上も、いつでも神殿に訪れるがいい。
ピサロ侯爵は自分の気持ちを落ち着かせるため、フゥ~と深呼吸をした。 ユリウスは気持ちの整え方が親子で似ている……と、冷静に観察してしまう。「父上、私は大丈夫です。ご心配なく」「お前はいつも……、本当に……」 ピサロ侯爵はあっけらかんとしているビアンカを見て、気が抜けた。「話を戻しましょう。ダイア、五百年前に女神マリアは何を?」 ユリウスに促されて、主神ダイアは女神マリアから聞いた話を語り始める。 女神マリアは主神ダイアが神の力『カリスマ』を子孫に与え続けることを懸念していた。『カリスマ』は時に不幸を呼ぶ。明らかに国を治める能力のない者が後継者に選ばれて、身に余るほどの力を得てしまうのは危険なことだからだ。 それでもずっと見守るだけにし、口を挟まなかったのはイリィ大陸が概ね平和で豊かだったからである。―――しかし、ついにその時がやって来た……。 五百年前に現れた皇帝カヴァールは皇帝となるべき器を持ち合わせていなかった。 彼は即位と同時に多くの妃を高位貴族から娶り『紫の瞳を持つ皇子だけを産め。それ以外は皇族として認めない』と、彼女たちに命令したのである。 幸か不幸か、四人の妃がそれぞれ一人ずつ紫の瞳を持つ皇子を産んだ。 つぎに皇帝カヴァ―ルは、四人の妃たちの目の前に『後継者に選ばれた者の母親を皇后にする』という餌を吊り下げた。―――彼は四人の皇子たちをゲームの駒にして、妃たちを競わせたのである。 その結果、イリィ帝国の貴族は四つの派閥に分裂した。自分の支持する皇子と妃に力をつけるため、裏金を不当に集めて支援者を増やし、敵陣を貶めようとスパイを放って、足を引っ張り合ったのである。 政治は腐敗の一途を辿り、経済は混乱した。民は重い税金を払うだけで精いっぱいになり、食べるものを買う金もなく、やせ細っていく。―――皇家や貴族への不満に対する暴動を民が始めるまで、左程、時間は掛からなかった。 愚かな皇帝カヴァ―ルのせいで、イリィ帝国は急速に衰退していく。 気
ビアンカは大斧の柄から手を離した。 続けて、大斧を安全な場所へ移動させるため、付き人のジェインが柄に手を伸ばす。 ところが百戦錬磨の女戦士ビアンカの愛用する大斧は想像以上に重く、文官の彼が持ち上げようとしても、ビクともしない。―――その姿を見かねてピサロ侯爵の護衛が一人、後方から加勢をしに駆け寄る。 二人は掛け声を出して、ビアンカの大斧を持ち上げた。そして、慎重な足取りで教会の裏の方へ運んでいく。「父上、絶対に返してくださいよ!!」 ビアンカは大斧を見送りながら、ピサロ侯爵へ強く訴える。しかし、彼は軍人ではないため、彼女の気持ちが全く理解出来なかった。「全く、誰に似たのだか……
転移完了。 大斧を担いだ花嫁姿のビアンカが、リシュナ領の領都バリードにある魔法陣の上へ降り立つと目の前に一人の男が立っていた。 その男は王国軍魔法師団の一員であるという証の深紅のローブを身に纏っている。(青年にしては若いような……、彼は一体、何歳なのだろう?)「ピサロ侯爵令嬢、お待ちいたしておりました!」「――――いや、その呼び名は新鮮というか、久しぶりというか……。初めまして、私はビアンカ・ルーナ・ピサロだ。貴殿は?」「僕は王国軍魔法師団リシュナ支部所属のサジェ・トラス・ペニーと申します。ペニー子爵家の長男です。ようこそ、リシュナ領へ」 男は幼さを感じさせるような笑みを浮かべ
「あー、マジか……。苦しいなコレ……」 ビアンカは腹部に力を入れないよう、愛用の大斧を腕の力だけで肩へ担ぎ上げた。 彼女の背中で大斧の刃が朝日を受け、艶めかしく輝く。――――いついかなる時も直ぐに敵を斬れるよう、大斧の刃はビアンカによって、一点の曇りもなく研ぎ澄まされているのだ。 そんな不気味な輝きを放つ大斧を見せつけられ、侍女たちの顔は強張っている。――――こんなに大きな斧を振り上げられたら、身を守る術のない自分たちは簡単に死んでしまう。 侍女たちは死の恐怖をひしひしと感じていたのである。(侍女たちはあんなに細い腕で良くもまぁ、こんなに締め上げるものだ。腹部に筋肉のないご令嬢
「くっそー!! あの野郎!! 何を企んでいるんだ!?」 ビアンカは地団太を踏む。あの野郎とはこの国の高貴なお方、王太子マクシムのことである。 彼とビアンカはこのローマリア王国の貴族子女が通う王立学園の同級生だ。プライベートでは共通の友人も多く、それなりに気安い仲である。 だが、マクシムが結婚したことを機にビアンカは彼と仕事以外で会うことを止めた。これは他国から嫁いで来た王太子妃に配慮してのこと。 (正直なところ、マクシムとは恋仲になる可能性もないただの友人だ。しかし、恋愛脳の貴族たちに男女の友情を語っても通じるはずがない。不用意に一緒にいて、ありもしない噂でも立って、王太子妃様を