เข้าสู่ระบบ本編、完結しました! 番外編は9月から順次公開して行きます。よろしくお願いします。 ローマリア王国には大斧を振り回し、多くの武勲を立てたビアンカという女戦士がいる。彼女は百七十八センチの長身で軍服をキリッと着こなし、肩口で真っ直ぐに切り揃えられたサラサラの黒髪をいつも靡かせ、切れ長の目元にはこの国では珍しい紫色の瞳。年は二十一。 ――――ある日、ビアンカは王太子に呼び出され、国軍から辺境伯領への移動を命じられる。『これはそなたにしか出来ない特別任務である』と王太子は強調し、何故か彼女には花嫁衣裳が用意された。 ――――リシュナ領(辺境伯領)へ向かったビアンカを待ち受ける運命とは!?
ดูเพิ่มเติม第1章
「愛しているよ、ラヴェル。僕の心にいる女性は君だけだ」 ラヴェル・カレスト・ブランソンは、化粧台の鏡に映る自分の姿をぼんやりと見つめていた。 昨日の朝、仕事へ出かける前に腰へ優しく腕を回してくれた夫、カイル・スティーブンスが口にした甘い言葉が、今では毒を持つ蜂の群れのように耳の中を飛び交っている。 なんて見事な役者なのだろう。 カイルは、自分の醜い秘密がまだ安全に隠されていると思っているに違いない。 まさか、自分がこの十年間築き上げてきた幸せな結婚生活という幻想が、真夜中を境に粉々に砕け散っていたなどとは、夢にも思っていないだろう。 ラヴェルは手首に着けたクラシックなカルティエの時計に目をやった。 すでに朝の九時だった。 カイルは昨夜から帰宅していない。 まさに、彼が入念に取り決めていた通りだった。 ラヴェルの手が激しく震えた。 バッグから白紙を一枚取り出す。 胸は、見えないハンマーで殴られたかのように苦しかった。 昨夜起きたこと――二人の十回目の結婚記念日、その日に起きた出来事が、頭の中で何度も繰り返されていた。 午後十一時四十五分ちょうど。 ラヴェルはスティーブンス・コーポレーションの静かな廊下を歩いていた。 手には小さな箱を抱えている。 中に入っているのは手作りのレッドベルベットケーキ。 大学時代、二人が道端の屋台でよく食べていた、カイルが昔から大好きなケーキだった。 数時間前、カイルからメッセージが届いていた。 外部監査のため、一晩中残業しなければならないという内容だった。 献身的な妻だったラヴェルは、新しい一日が始まる最初の瞬間に彼を驚かせたいと思った。 十年間共に歩んできた人生を祝うため、誰よりも先に彼を抱きしめるのは自分でありたかった。 しかし、CEO執務室のわずかに開いたドアを押し開けた瞬間、彼女の世界は崩れ落ちた。 ケーキの箱が手から滑り落ちそうになった。 身体中の筋肉が強張り、血液が一瞬で凍りついたように感じた。 CEO専用の椅子に座っていたのは、ジェシカ・ヘップバーンだった。 カイルの専属秘書。 ラヴェルがいつも礼儀正しく仕事のできる女性だと思っていた、友人とさえ考えていた女性が、夫の膝の上に座っていた。 ジェシカの仕事用スカートは腰までずり上がっている。 欲情に満ちた表情で、ジェシカは顔を仰け反らせ、カイルに貪るように首筋へキスをされていた。 「ねえ……やめて、ジェシカ。まだ仕事がたくさん残っているんだ」 カイルは囁いた。 だが、その手は秘書の腰を乱暴に掴み、さらに自分へ引き寄せていた。 「ダーリン、会いたかったわ。あなたが私に触れてくれなくなって、もう一週間よ」 ジェシカは甘えるような声で訴えた。 その声に、ラヴェルの胃は吐き気を催した。 返事を待つことなく、ジェシカはカイルの唇を塞いだ。 そして何よりもラヴェルの心を打ち砕いたのは、カイルがそのキスを貪欲なほど強く返したことだった。 まるで何年も砂漠をさまよい続けていた男のように。 ラヴェルはドア枠をあまりにも強く握りしめ、自らの手を傷つけた。 それでも叫ばなかった。 二人を責めることもしなかった。 なぜ? 彼女の血管には、ブランソン家の血が流れているからだ。 十年前、このろくでなしのために自ら捨てた、冷酷なビジネス一族の血が。 ヒステリックに泣き崩れる代わりに、ラヴェルは深く息を吸った。 震えていた手が、次第に落ち着いていく。 彼女は携帯電話を取り出し、フラッシュを切った。 そして、カイルとジェシカの顔がはっきりと写る写真を三枚撮り、さらに十秒間の動画を一本撮影した。 ――証拠。 突然感情を失ったかのような頭の中で、それでも恐ろしいほど冷静に考えていた。 ――武器を持たずに戦場へ足を踏み入れてはいけない。 その後、彼女は振り返った。 冷静で、それでいて凍りつくほど冷たい足取りで廊下を戻る。 そして、レッドベルベットケーキをゴミ箱へ投げ捨て、その忌まわしい建物を後にした。 鏡に映る腫れた目を見つめながら、ラヴェルは拳を握りしめた。 悲しみはすでに消え去り、代わりに燃え上がる怒りと傷つけられたプライドが残っていた。 十年! ラヴェルは二十歳だった頃を思い出した。 世間知らずだった天才。 ウォートン・ビジネス・スクールを卒業したばかりの彼女は、カイルが自分と一緒に自分自身の帝国を築くと誓ったことだけを信じ、強大なブランソン家との縁を断つことさえ厭わなかった。 この十年間、彼女は常に舞台裏にいた。 五年前、流動性危機によってスティーブンス・コーポレーションが倒産寸前に追い込まれたとき、カイルはAlpha Crimsonという謎の投資家が奇跡をもたらしてくれたのだと思っていた。 カイルは知らなかった。 Alpha Crimsonがラヴェルの別名だったことを。 会社全体のリスク管理戦略を一から立て直したのはラヴェルだった。 三週間連続で眠らずに働き続け、その末に二人の最初の子供を流産した。 それさえも、カイルに罪悪感を抱かせないため、ラヴェルは意図的に秘密にしていた。 彼女はこの男のために、自分の健康も、キャリアも、名誉ある家名さえも犠牲にした。 「相手を間違えたわね、カイル」 ラヴェルは囁いた。 その声は低く、危険なものへと変わっていた。 そこには、もうか弱さの欠片も残っていなかった。 ラヴェルは、二人が初めて借りた三メートル四方ほどの小さなアパートで、カイルが言った言葉を思い出した。 カイルは彼女を抱きしめて、こう言った。 「ラヴェル、もし僕が君を裏切ったら、僕を無一文にしてくれ。僕たちが一緒に築いたものを全部奪っていい。だって君がいなければ、僕は誰でもないから」 「もちろんよ」 当時、ラヴェルは笑って答えた。 今、その言葉を現実にするつもりだった。 ラヴェルは決意に満ちた足取りで家を出た。 最初の目的地は普通の法律事務所ではなかった。 戸籍登録局だった。 今日、正式に離婚を申請するつもりだった。 カイルが秘書との情事を終えるより先に、離婚届を彼のデスクへ置きたかった。 ほどなくして政府庁舎へ到着すると、彼女はそのまま婚姻・離婚手続きの窓口へ向かった。 ラヴェルは眼鏡をかけた中年の職員の向かいに座った。 「おはようございます。どのようなご用件でしょうか?」 職員が丁寧に尋ねた。 「離婚を申請したいのですが」 ラヴェルは答えた。 その声は落ち着いていて平坦で、迷いなど一切なかった。 職員は頷き、用紙を取り出した。 「承知しました。身分証明書、ご主人の身分証明書、それから婚姻証明書の原本をご提示いただけますか?」 ラヴェルは書類を差し出した。 すでに、長く厄介な法廷闘争になる覚悟はできていた。 上場を控えている会社のイメージを守るため、カイルが手続きを複雑にしてくる可能性があることも分かっていた。 しかし、職員が二人の身分証明番号をシステムへ入力すると、眉をひそめた。 眼鏡を調整し、コンピューター画面を凝視する。 それから手元の書類を確認し、再び画面へ視線を戻した。 「何か問題でも?」 ラヴェルが尋ねた。 ビジネスで培った勘が、職員の表情からただならぬ異変を感じ取っていた。 職員は咳払いをし、困惑と深い同情が入り混じった、何とも言えない表情でラヴェルを見た。 「失礼ですが……お名前はラヴェル・カレスト・ブランソン様で間違いありませんか?」 「そうです」 職員は重いため息をつき、モニターをラヴェルのほうへ向けた。 「ラヴェル様、どうやら新たに離婚を申請する必要はないようです」 ラヴェルは眉をひそめた。 胸が激しく鼓動し始める。 突然、言いようのない不安が彼女を襲った。 「どういう意味ですか? 私は夫のカイル・スティーブンスと離婚するために、ここへ来たんです」 職員はゆっくりと首を横に振った。 そして、国民戸籍データベースに紐づけられた法的情報の一行を指差した。 「ラヴェル様、カイル様との離婚届を提出することはできません」 職員は告げた。 「なぜなら、国の公式記録によれば、お二人の婚姻関係はずっと以前に終了しているからです」 ラヴェルは凍りついた。 その言葉が突然、喉に詰まった。 「……何ですって? そんなのあり得ない! 冗談はやめてください! 私たちは……十年間、毎日一緒に暮らしてきたんですよ!」 「冗談ではありません、奥様」 職員は極めて真剣な口調で答え、画面の日付欄を指差した。 「こちらをご覧ください。カイル・スティーブンス様とラヴェル・カレスト・ブランソン様の名義で発行された離婚証明書は、八年前に正式に発行され、お二人が署名されています」 「法的には、お二人は八年前から離婚しているのです」 ラヴェルの周囲の世界が、突然その動きを止めたように感じられた。 顔から血の気が引き、青ざめていく。 離婚? 八年前から? そんなことが、どうして可能なの? もし八年前にすでに離婚していたのなら…… 毎晩カイルが抱きしめていた女は、一体誰だったの? そして、十年間自分が捧げてきたものには、一体どんな意味があったというの?―――これは半年ほど前の出来事である。「母上……、いったい、どうしたのですか!?」 ノックの音で目覚めたビアンカが、急いで私室のドアを開くと、おんぼろの国軍官舎の廊下にド派手な出で立ちの貴婦人がひとり立っていた。(いやいやいや、場違い感が半端ない!! 早朝だというのに、バッチリメイクの上、羽飾り付きの帽子まで被っている……)―――貴婦人の正体はビアンカの母、アデリーナである。「ビ~ちゃん、もう、細かなことは気にしなくていいの!! とりあえず、部屋の中に入れて頂戴!!」 オホホホ~と笑顔で押して、彼女の部屋へ侵入しようとするアデリーナ。 そして、若干引き気味のビアンカ……。(いや、気にするだろ。面と向かって会うのは二年ぶりだぞ!? それにどうやってここまで侵入したんだ? もしかして、父上の力を借りたのか? それ、職権乱用だぞ!) 意味不明な状況だったが、廊下で騒ぐわけにもいかず、ビアンカはアデリーナを部屋へ入れた。 国軍の官舎は階級によって広さや調度品が違う。 ビアンカの私室は指揮官を務めているということもあって、一般の兵士よりも広く、少しだけ質の良いベッドと小さめのソファーセット、そして、上等とは言えない机と本棚がある。 ただ専用の洗面所はあるものの、洗面台とトイレのみで風呂はついていない。 入浴する時はひとつ下の階にある女性兵士専用シャワールームへ行かなければならないのだ。「ビ~ちゃんのお部屋は……、まさか、これだけなの?」 アデリーナは信じられないという表情で室内をウロウロしている。(母上、遠慮も何もないな……) ピサロ侯爵夫人こと、アデリーナ・セーラ・ピサロの生家はローマリア王国を支える四代公爵家の一つであるフォルトナ―ゼ公爵家だ。 四代公爵家というのは、ジョバンヌ公爵家、カナック公爵家、ポーリア公爵家、そして、フォルトナ―ゼ公爵家の
先日、ユリウスは言った。『タタラ工房で作ってもらった新しい武器にお好きな効果を付与しますよ』と。 ビアンカは何を付与すべきか、じっくりと考えたかった。だから、返事を少し待ってもらっていたのである。「はい、決めました」「では、聞かせて下さい」「『眠り』の効果を付けて下さい」「『眠り』ですか?」 首を傾げる、ユリウス これまで、武器に付与した効果といえば、攻撃力の上昇や体力の回復など、武器使用者のためになるものばかりだったからだ。「はい、大斧でわずかに触れて相手を眠らせられるのなら、命も奪わず、ケガも最小限で済みます」 ビアンカから『眠り』の効果を選んだ理由を聞き、ユリウスは目を見張る。―――最強の女戦士は誰よりも命を尊ぶのか……と。「眠らせて、命を守る……。素晴らしいアイデアだと思います。では、早速、大斧に『眠り』の効果を付与しましょう」 ユリウスは大斧の柄を握り、ブツブツブツと小声で呪文を詠唱する。(こうして欲しいと言ったことを、すぐに実現してしまう……、やはり、ユリウスは凄い) 宙に小さな魔法陣が浮かび上がった。そして、その小さな魔法陣は大斧の中へ、スゥ~と吸い込まれていく。 魔法使いが大好きなビアンカは彼の手際の良さと計り知れない能力に惚れ惚れしてしまう。「完了しました。どうします? 試し斬りをするなら、Xを呼びますが……」「X、まさかの試し斬り要員!?」「ええ、それくらい喜んでするでしょう」 ニヤリと悪そうな微笑みを浮かべるユリウス。「喜んで……?」(そういえば、ユリウスはXにどんな罰を与えたんだ? ん~、聞きたいような……、聞きたくないような……) 王国軍魔法師団の諜報員Xは先日、領都バリードで目立つ行動をしてユリウスを怒らせた。 その結果、彼には厳しい罰が与えられたらしい。ただ、ビアンカは罰の内容までは知らない。「では、次の休憩の時に呼びましょう」「ソウデスネ(X、ガンバレ……)」 ユリウスは向かい側の席に散らばっている書類に手を伸ばす。「ユリウス、仕事は大丈夫だったのですか? ここのところ、かなり無理をしていたでしょう」 ハネムーンの出発ギリギリまで、ユリウスは連日徹夜で仕事を片付けていた。 そして、今朝、ようやくサジェやモルテに留守を任せられる状態になったのだという。「一応、区切りの
絹のような触り心地の銀髪を優しく撫でて、その後は車窓を流れる景色を見つめていた……。 ビアンカは今、ユリウスと馬車に乗っている。(峡谷からだいぶん下って来たな。海沿いの街道に入るには、もう少し掛かるだろうけど……) 視線を車内へ戻してみると、向かい側の席に散乱している書類が目に入る。―――ちなみに、その書類の持ち主は彼女の膝の上で爆睡中だ。(ユリウス、当分、起きないだろうな~~~) あの日、宰相が預かって来た王妃の手紙には『あなた達にハネムーンを用意したから楽しんで来て~』という旨が記されていた。 内容が内容なだけに、ビアンカはその場でユリウスに王妃の手紙を見せたのだが……。『―――出発は一週間後よ! 楽しみにしておいてね!!』と、軽い口調で締め括られた手紙を見て、ユリウスは愕然としてしまう。 なぜなら、彼はリシュナ領の業務、魔塔の業務、ターキッシュ帝国の面倒事を抱えていて手一杯だったからだ。 彼はすぐに日付を先延ばしにして欲しいと王妃へ打診した。 ところが『ハネムーンは今、行かないとダメよ!! それにポリナン公国の大公一族があなたたちの訪問を心待ちにしているの!!』と、あっさり却下されてしまう。 スケジュールの変更で頭を悩ませるユリウスの隣で、ビアンカは『どうしてハネムーン先がポリナン公国なのだろう』と考えた。 真っ先に思い浮かんだのは公子夫妻や魔法使いアントンの姿だ。 ビアンカのファンを公言する夫人と妻に優し過ぎる公子、そして、人を連れ去るのが好きな可愛い魔法使い……。―――ん~、彼らはハネムーンとは関係なさそうだ。 他にポリナン公国の知り合いは居なかったかな~と考えていると……、突然、閃いた!! 王妃がポリナン公国の前大公の弟の娘だったということを。 間違いなくこれが理由だろう。 また、王妃の実家があるということは、彼女の親族もそこに住んでいるということだ。ここで、あることを思いついたビアンカは、ユリウスにお願いごとをした。『ポリナン公国へ行ったら、ユリウスの御爺様と御婆様に会いたいです!』 期待に満ちた目で彼を見つめるビアンカに対して、ユリウスはクールな表情でこう答えたのである。『―――ビアンカ、私はポリナン公国の祖父母と会ったことがありません。それに相手は私のことを知らないと思います』『えっ、どうして?』『
「主神ダイア、何度も言いますが、私は神の力を必要としていません」 ビアンカは改めて、断りを入れる。「しかし、このままではターキッシュ帝国が……、あっ!」 ここで主神ダイアは両手で口を塞いだ。 人の世に関することを神が口にするのはタブーとされているからだ。「ダイア、私達の世界に関与するつもりですか?」 ユリウスは彼の失言を追求した。「すまない。本来、神は人の世に手を出してはならないというのに……。ただ、ビアンカを狙っていると知ってしまったら……」「それは私があなたの娘に似ているからですか?」 ビアンカはつい口を滑らせてしまう。―――今まで、夢の中で見たことは不確かな情報だから……と、口に出すことは無かったのだが、本当に……、つい、ポロッと……、口から出てしまったのである。「そうだ。初めて会った時、あまりにもマイアに似ていて、つい隠れてしまった」(隠れた? ああ、あの時か……) ビアンカは初めて辺境伯城の前に広がる麦畑から、異次元の神殿に行った時のことを思い出す。(ユリウスが半笑いで柱の影に呼びかけて……、主神がここに女性が来るのは久々で~とか言い訳をして出て来た時のことだな) 娘が現れたと思って驚いた主神ダイアの気持ちも分からなくはない。ただ、ビアンカは主神にどうしても言っておきたいことがあった。「確かに私は主神の娘に似ているかも知れません。ですが、私はあなたの娘ではありませんし、マイア嬢の生まれ変わりでもないです。度を越えた特別扱いはしないで下さい」「ああ、ビアンカはビアンカだ……。それでいい」 主神ダイアは両腕を組んで、大きく頷く。「では、これを持って、神の力の件は終わりにしましょう。今後も人間は人間同士で新たな時代を作っていきますから、神様たちはくれぐれも見守るだけにしておいて下さい」 ビアンカは主神ダイアにクギを刺す。「分かった約束する。それから、魔塔主とビアンカだけではなく、私と似ている父上も、いつでも神殿に訪れるがいい。
ビアンカは大斧の柄から手を離した。 続けて、大斧を安全な場所へ移動させるため、付き人のジェインが柄に手を伸ばす。 ところが百戦錬磨の女戦士ビアンカの愛用する大斧は想像以上に重く、文官の彼が持ち上げようとしても、ビクともしない。―――その姿を見かねてピサロ侯爵の護衛が一人、後方から加勢をしに駆け寄る。 二人は掛け声を出して、ビアンカの大斧を持ち上げた。そして、慎重な足取りで教会の裏の方へ運んでいく。「父上、絶対に返してくださいよ!!」 ビアンカは大斧を見送りながら、ピサロ侯爵へ強く訴える。しかし、彼は軍人ではないため、彼女の気持ちが全く理解出来なかった。「全く、誰に似たのだか……
転移完了。 大斧を担いだ花嫁姿のビアンカが、リシュナ領の領都バリードにある魔法陣の上へ降り立つと目の前に一人の男が立っていた。 その男は王国軍魔法師団の一員であるという証の深紅のローブを身に纏っている。(青年にしては若いような……、彼は一体、何歳なのだろう?)「ピサロ侯爵令嬢、お待ちいたしておりました!」「――――いや、その呼び名は新鮮というか、久しぶりというか……。初めまして、私はビアンカ・ルーナ・ピサロだ。貴殿は?」「僕は王国軍魔法師団リシュナ支部所属のサジェ・トラス・ペニーと申します。ペニー子爵家の長男です。ようこそ、リシュナ領へ」 男は幼さを感じさせるような笑みを浮かべ
「あー、マジか……。苦しいなコレ……」 ビアンカは腹部に力を入れないよう、愛用の大斧を腕の力だけで肩へ担ぎ上げた。 彼女の背中で大斧の刃が朝日を受け、艶めかしく輝く。――――いついかなる時も直ぐに敵を斬れるよう、大斧の刃はビアンカによって、一点の曇りもなく研ぎ澄まされているのだ。 そんな不気味な輝きを放つ大斧を見せつけられ、侍女たちの顔は強張っている。――――こんなに大きな斧を振り上げられたら、身を守る術のない自分たちは簡単に死んでしまう。 侍女たちは死の恐怖をひしひしと感じていたのである。(侍女たちはあんなに細い腕で良くもまぁ、こんなに締め上げるものだ。腹部に筋肉のないご令嬢
「くっそー!! あの野郎!! 何を企んでいるんだ!?」 ビアンカは地団太を踏む。あの野郎とはこの国の高貴なお方、王太子マクシムのことである。 彼とビアンカはこのローマリア王国の貴族子女が通う王立学園の同級生だ。プライベートでは共通の友人も多く、それなりに気安い仲である。 だが、マクシムが結婚したことを機にビアンカは彼と仕事以外で会うことを止めた。これは他国から嫁いで来た王太子妃に配慮してのこと。 (正直なところ、マクシムとは恋仲になる可能性もないただの友人だ。しかし、恋愛脳の貴族たちに男女の友情を語っても通じるはずがない。不用意に一緒にいて、ありもしない噂でも立って、王太子妃様を