LOGIN【本編完結しました】番外編もよろしくお願いします♪✴︎あらすじ✴︎ヤドリギ横丁の占いの館『レダの家』には、毎日お悩みを抱えた方がいらっしゃいます。私ことカレンは訳ありまして、店主の占い師レダさんの身代わりをしております。最初は、ハラハラドキドキの連続でしたが、最近、人生相談くらいは人並みに出来るようになりました。――――と、油断していたところへ、元婚約者であるあの方が、何故か、こんな裏通りの占い館へ相談に来られたのです…
View Moreニルス帝国の王都にある下町、ヤドリギ横丁の『レダの家』の看板に明かりが灯った。『レダの家』は占い師レダが営む“占いの館”でかなり古くから、ここに存在している。
噂では数百年前から営業しているといわれているが、店主レダは占い以外の話には一切応じないため、確認のしようもない。結果、この噂は都市伝説扱いとなっている。 また占い以外にも、レダは魔法が使えるといわれているが、その力を見たという者は居なかった。それ故、レダが魔法使いなのかという話も真偽が分からない。 そして今、店内では黒いローブを目深に被った占い師レダが、薄暗くなって行く窓の外を眺めながら、深いため息を吐いている。 「レダ様、どうされたのですか?」 見習いのキュイはレダのフードを引っ張って、彼女の顔を覗き込んだ。 「キュイ、今夜は満月でしょ。あの御方と約束した日なのよ」 姿とは似合わない、可憐な声で答えるレダ。 「レダ様!声っ!」 「あっ、ごめんなさい。声色を変えるの忘れていたわ!」 レダはキュイに謝ると一度、咳払いをしてからブツブツと呪文を唱え始めた。キュイは静かにレダを見守る。 「これで、大丈夫よね?」 「はい」 この占い館の主であるレダは少々ワケありで、フードを目深に被って、顔を隠し、声色を変え、年齢も誤魔化している。一番の理由は客からナメられるから。―――というのは、言い訳で本当は大きな理由がある。
(今のところ、師匠と私が入れ替わっていることを、誰も気づいてないのよね。このまま、師匠が帰ってくるまで隠し通せたらいいけど……。大体、師匠の用事って、いつ終わるの? もう出かけてから半年以上経つし……) いうまでもなく、占いの館へ相談に来る者たちは厄介な悩みを抱えている者が多い。しかし、ここにいる身代わりのレダは占い師の修行もしたことが無い、ズブの素人だ。 今のところ、訪れた者のお悩みを聞き、相槌を打って、頑張りを褒めたたえ、励ますという流れを繰り返し、何とか乗り切っている。 しかし、自分が師匠(レダ)でないと、相談者にバレたらどうなるのか。 (今更だけど、余りにも安易に引き受け過ぎたわよね。それと師匠が私に成りすまして何をするつもりなのか、あの時にしっかり聞いておかなかったのは失敗だったわ) そして、その身代わりのレダの前に、やんごとない身分の大物が現れたのは、つい先日のことだった。 ♢♢♢♢♢♢♢ ――――今から十日ほど前の出来事である。 突然『レダの家』に現れた(やんごとなき身分の)大物客は、躊躇なく店内へ入って来た。そのまま、店主レダに歩み寄り、彼女を上から下まで遠慮なく視線で辿る。レダは緊張のあまり挨拶をするのも忘れて立ち尽くしてしまう。 しばらく沈黙が続き、先に口を開いたのは大物客の方だった。 「次の満月の晩、ここに泊めて欲しい」 大物客、もとい銀髪で見目麗しい男は、唐突にとんでもないことを口にする。レダは一見、平静を装っていたが内心かなり動揺していた。 (こ、ここに泊まるですって!?) 男はスラッとしていて、背が高い。且つ、しなやかな身のこなしから、身体をしっかりと鍛えていることが分かる。意志の強そうな瞳の色は紫と紺色が混ざったような独特な色。身なりはレダと同じく黒いマントを羽織っているが、薄暗い店内の明かりでも上品な光沢を帯びていることが見て取れた。これは、素人目でも高価な布地を使用していると分かる。また、マントの袖口やフードの縁には精巧緻密な刺繍も施されていた。
一方、レダのマントは師匠から借りているマントである。そのため、寸法は合っていないし、布地には歴史を感じさせる毛羽立ちがあり、とてもじゃないがオシャレとは言えない代物だ。 しかし今、レダはそんな身なりの違いに気を回す余裕などなかった。先ほど(やんごとなき身分の)大物客が放った相談内容に首を傾げているのだ。 (それって、相談じゃなくてお願いごとじゃない? 一体、どういう……)二人の疑問はすぐにマーガレットが解決してくれた。「皇子殿下、アデンの丘で素敵なプロポーズをしたらしいね~。上手く行って良かったね~!」 彼女の言葉を皮切りに「プロポーズで新聞の一面を飾るとはな~」、「皇子殿下もプロポーズをするんだな」、「俺も惚れてしまったぜ!」、「断られてたら、凹んでた?」など、好き勝手な言葉が飛び交う。(まさか、ここでプロポーズの話が出てくるなんて……)「アル、私達も皆さんにお礼を言った方がいいかな?」 カレンは場が盛り上がっている間にアルフレッドへ小声でこっそりと尋ねる。「ああ、そうだな」 二人は目深に被っていたフードを後ろに下げて、顔を出した。「うぉ~~~~~~、天使!! 天使が降臨した!!」「皇子殿下も相変わらず麗しいわね~」「悔しい~!!」(悔しい?)「私も二十歳若かったら~!」「いや、若くても無理だろ!」(あの~、ええっと……)「俺はカレン様が三十歳年上でもイケる!」「お前は選ばれね~よ」(何なの!? このノリは……) カレンは隣に立っているアルフレッドの方をチラリと見た。「えっ!?」 彼は口元を押さえて、目を潤ませている。「アル、ど、どうしたの?」「ん、いや、ここまで長い道のりだったと……」「あっら~、皇子殿下はカレンちゃんにベタ惚れだったのかい! いい返事がもらえて良かったね~、本当に!!」 マーガレットは相手が皇子ということも気にせず、アルフレッドの肩をバシバシ叩く。「マーガレットさん!!」 カレンが止めに入ったところで、美貌の皇子の目じりから一筋の涙が零れ落ちた。 場は水を打ったようにシンと静まり返る。 そして……。「うううっ、
「お宿ウミネコの角を右に入って、二軒目だったか?」「ん~、そうです」 カレンは手元のメモを確認して答えた。 今、カレンとアルフレッドはヤドリギ横丁を歩いている。 朝一で本日のランチメニューを占いに来たマーガレットが見習い占い師のカレン(今日はレダが占っていた)に『今日の正午に皇子殿下と一緒に店まで来て欲しい』とお願いしたからだ。(レダさんの後ろに黙って立っていたら、いきなり『カレンちゃん~』って、話しかけてきたからビックリしたわ。しかも、アルを連れて来て欲しいだなんて……) マーガレットはアルフレッド皇子がレダの家に入り浸っているのを知っている。 とはいえ、レダがいる前でカレンにお願い事をして来るのは初めてのこと。 なぜ、店に呼び出されたのか。理由もさっぱり分からない。(レダさんは『行ってらっしゃい~』と笑って送り出してくれたけど……。今回の呼び出しには裏がありそうで怖いわ。マーガレットさんって、フワッと糸口を掴んで来る性質があるらしいし……) 実際のところ、厄介事が起こるときは大抵マーガレットが先触れのような話題を出してくる。 レダはそれを上手く活用しているのだが、カレンは……。(私は深読みするのを忘れて、おしゃべりを楽しんでしまうからダメなのよね~。無駄話を一切しないレダさんのような占い師には一生なれなさそう……)「カレン、あれじゃないか? ほら、看板に……」 お宿ウミネコの角を曲がったところで、アルフレッドが一枚の看板を指差した。『ビストロ・ソレイユ』 白壁のお店にターコイズブルーの看板。白い筆記体で書かれた文字がとてもお洒落だ。「うん、あのお店で間違いなさそう」「あのご婦人……、実在していたんだな……」「?」 カレンは
眺めの良いアデンの丘は夜景の時間だけでなく、お昼も人が多い。「レダ、カフェ・ロッソでお茶でも飲もう」「いいね~。いつ振りだろう」 カールの誘いに乗るレダ。 カフェ・ロッソは昔からアデンの丘にあるお店で、看板メニューはカプチーノとシナモンロールだ。「あ、良い席が空いてる!」 レダは丘の先端に突き出している席を指さした。「急ごう!」 他の人に席を奪われないように二人は急ぎ足で店に入っていく。♢♢♢♢♢♢♢ 皇宮はアデンの丘の向かい側の大きな岩場の上に立っている。そのため、顔を上げるだけで視界に入ってしまう。「ニックは今日も忙しいのかい?」「ああ、しばらく居なかったからね~」 カールは核心を避けて話す。「他国と変な取り決めをしてしまったのを白紙に戻す交渉だけで、数年も掛かりそうだ」「あ~、それは大変だね~」 ニックこと皇帝ニコラスはシュライダー侯爵家に入り込んでいた大魔女ジェシカの手で一年半、深い眠りについていた。 その間の執務は身代わり人形が好き勝手にしていたため、かなり深刻な状態になっているのだという。「アルフレッドが居ても、手が足りなさそうだからね~」 レダは呟きながら、コーヒーカップに手をのばす。 大きな葉っぱのラテアートが施されていて、可愛い。「レダ……」「ん?」「殿下のことを買いかぶり過ぎじゃないか?」「はぁ?」 レダは素っ頓狂な声を出してしまった。「買いかぶり? どういうこと?」 レダは眉を顰める。 今はオフなのでフードは被っていない。風に撫でられて、美しい金色の髪がたなびいている。「部屋を用意したり、手料理を振舞ったりしたことが気に入らないのか?」「違う。殿下は仕事も早いし、気配りもしっかりとしている。とはいえ、大魔女の君が彼を頼る必要はないだろう」
レダとシュライダー侯爵が出かけた途端、貿易商のシューマンが店に現れた。 「レダ、お久しぶり~!」 「あ、シューマンさん! お久しぶりですね。買い付けの旅はいかがでしたか?」 「あれれ~? しばらく会わないうちに随分と僕に興味を持ってくれるようになったね~」 カレンはドキッとする。 ここ最近、レダが『カレンの好きにしていいよ~』と、甘やかしてくれるので、お客様とのおしゃべりを気兼ねなく楽しんでいたのだが……、まさか、そこを指摘されるとは思わなかった。 (シューマンさんとは、しばらく会ってなかったから、突然の変化に驚くわよね~。失敗したわ……) 「……」 「あ~、大丈夫? 僕のせい?」 シューマンはカレンが俯いてしまったので、心配する。 「いえ、大丈夫です。急に馴れ馴れしくしてすみませんでした」 「え~~~、そんなこと言わないでよ。気楽に話してくれた方が嬉しいから」 「そうですか?」 「そうそう! ごめんね、気を遣わせて~」 明るいシューマンの声を聞いて、カレンは顔を上げた。 もちろん、フードをしっかりと被っているので、シューマンの目にカレンの表情が映ることはない。 「今日は何を占いましょうか?」 カレンはテーブルの上の水晶に手を翳す。 「待って! 今日は先にお礼を言わせて!」 「お礼?」 「うん、前回、レダが香辛料を仕入れた方がいいってアドバイスをくれた件なんだけど……。イシュタル共和国とオルセント王国が一時険悪になって国境を閉ざしていた期間があっただろう?」 「あ~、ありましたね」 (レダさんが陰で両国に働きかけて国境を封鎖した時のことね) 「僕がキャラック船で順次ニルス帝国に送っていた香辛料が毎回、予約完売してしまう状態になって、信じられないほどの利益が出たんだ」 (羽振りのいいシューマンさんの言う『信じられないほどの利益』って、想像も付かないのだけど……) 「で、今回はレダにもボーナスというか、御礼!! これを受け取って!」 シューマンは懐から革袋を取り出した。 (まさか!? 金貨入りの袋? えっ、本当に?) 大金かも知れないと動揺しているカレンの前で、シューマンは手際よく、革袋の紐を解いて、中身を取り出す。 「は!? 凄っ!!」 シューマンが差し出したのは大きな真珠がのっている銀色の
「マーガレットさん、おはようございます!」「おはよう、レダ(カレン)! 今日もよろしく頼むよ~」 朝食後に突然、レダが用事で出かけると言い出したため、本日はカレンがレダの身代わり占い師をする。(昨日、レダさんはマーガレットさんを呼び捨てで呼んでいたけど……) マーガレットはカレンから『さん付け』で呼ばれても何も気にしていないようだ。(レダさんが『それくらいの差で偽者と見破られることはない』と断言した通りだわ) レダは不安そうにしていたカレンに『今まで通りのあんたのや
「そうかい。それじゃ、あんたもいつかは死ぬってことだね」 何となく、話が不穏な方向になって来て、カレンはハラハラしてしまう。 いつも朗らかなマーガレットの口から『死ぬ』という言葉が出て来たからである。「ええ、誰でも最後は死にますから……」 何となく言葉尻を濁してしまう、カレン。 想定外の重い話題など対処し切れない。(早く話題をかえよう。死について語れるほど、私は人生経験もないし) カレンは黒いフードを両手で引っ張って、目深に被り直した。「レダ、勝手にフードを引っ張って悪かったね。あんたに当たるのはお門違いだと分かってはいるんだ。―――実は旦那の調子が悪くてね。もう長くないと医者
いきなりドアが開いた。(うわっ! 誰!?)「昼ご飯を持って来たぞ」 バスケットを抱えたアルフレッドだった。「殿下~。急に入って来るから、ビックリしましたよ。お昼ご飯、ありがとうございます!! ちょうどお腹が空いたな~と思っていたので、最高のタイミングです!!」 カレンは満面の笑みで彼を迎える。こんなに喜んでもらえると思ってなかったアルフレッドは、つい照れ笑いをしてしまう。 それでも、彼はカギを締めるのを忘れない。(ああああっ! カギを……)「私、カギを掛け忘れ
アルフレッドとキュイを見ながら、カレンは考え事をしている。 (キュイの水晶のような瞳と艶のある黒髪、そして美しく均整の取れたお顔って、まるでお人形さんみたい……) カレンがキュイに視線を戻すと、彼女は干しブドウをたっぷりとのせたスプーンを慎重に口へ運んでいた。 (ああ~、本当に可愛いわね!―――ん? あれっ!? あっ、違うっ!! 思い出した!! キュイは正真正銘お人形さんよ!! えっ~、どうして、こんなに大事なことを忘れていたの、私!?) キュイと一緒に過ごしているうちに、頭の中から重要なことがスッポリと抜け落ちてしまっていたようだ。 これは単なる忘却なのか、それとも他の原因