ログインヤドリギ横丁の占いの館『レダの家』には、毎日お悩みを抱えた方がいらっしゃいます。私ことカレンは訳ありまして、店主の占い師レダさんの身代わりをしております。最初は、ハラハラドキドキの連続でしたが、最近、人生相談くらいは人並みに出来るようになりました。――――と、油断していたところへ、元婚約者であるあの方が、何故か、こんな裏通りの占い館へ相談に来られたのです…
もっと見る「カレン、レダどのがここに来るらしい」「えっ!?」「お疲れさま、荷物の件は無事に終わって良かったね~」 衝立の向こう側から聞こえてくる、レダの声。タイムラグゼロである。 レダは指先をひょいと振って衝立を消し、カレンたちと半日振りの対面をした。 偽アルフレッド(人形)もレダの隣に立っている。 今のレダは一応、カレンに変装している(ことになっている)ため、いつもの真っ黒なローブ姿ではない。美しく輝く金色の髪はリボンを一緒に編み込んでオシャレに結い上げられ、ドレスもすみれ色の柔らかな生地を使用した若々しいデザインのものを着用していた。 ちなみにカレンも同じドレスを着ている。(これは私と交代するということ?)「レダさん、夜会を抜けるつもりなのですか?」「う~ん、抜けるというか、修羅場が予想以上に長くてね~。居心地の悪さが半端ないんだよ」「修羅場……」「というわけで、あたしはいつもの姿に戻らせてもらうよ。あとはよろしく!」(あ、やっぱり入れ替わるんだ……) レダは指をパチンと鳴らして、いつもの黒いフード姿になった。後ろにいたアルフレッド人形も白い人形に戻されて、レダの懐へ。「レダどの、状況を教えてくれ」「いや~、状況もなにも……。アウローラが他国から来たご令嬢の一人一人に、エドリックを横に連れて挨拶して回っているんだよ~。『私がエドリック王子の婚約者アウローラです。以後、お見知りおきを~!』って、そりゃ~、いい笑顔を浮かべてね。でも、目は全く笑ってないんだ。あれは見ているだけで怖いよ……、クックック」(ローラさん、あいさつ回り……。良かった~! 流血事件とかじゃなくて……)「カレン、良からぬことを考えただろ」 アルフレッドはカレンの頬を人差し指でプニッと押した。タイミングが良過ぎて、アルフレッドに心を読まれ
「カレン、そろそろ準備はいいか?」 衝立の向こう側から、アルフレッドが急かしてくる。 今、この部屋に居るのは、カレンとアルフレッドの二人だけだ。 何故なら、エドリックが使用人たちに、夜会の間は自室(エドリックの部屋)への立ち入りを禁じたから。 この指示は諸々の機密(今回の任務)を守るために出した。しかし、その弊害でアルフレッドとカレンは夜会の準備を自分たちでしなければならなくなってしまったのである。(―――後ろのボタンが止められなくて困っているって、素直に言った方がいい? まさか、レダさんから急いで身なりを整えて、夜会会場へ来るようにと言われるなんて思わなかったわ。この半年間で色々と身の回りのことも出来るようになったけど、流石にドレスを一人で着るのは難しいわね) 本来、カレンとアルフレッドは荷物の転移任務が終わった後、この部屋で夜会が終わるまで待機する予定だった。 このタイミングでレダに呼び出されたということは『レベッカたちを捕縛し、エドリックが隣国リビエル公国の大公メローに釘を刺す』という段取りが上手く行かなかったのだろう。 アルフレッドは下手したら、黒魔女レベッカとレダの全力魔法合戦が勃発するのではないかと心配している。 出来るなら、最悪の事態は回避したい。 だから、カレンに何度も声を掛けてしまったのである。「殿下、大変申し訳ないのですが、手の届かないところを手伝って欲しくて……」「分かった。入るぞ」 アルフレッドが衝立の横から現れた。カレンはアルフレッドの目の前で、クルリと回転して背を向ける。「後ろのボタンを留めて欲しいのですが……。すみません」 カレンは申し訳ない気持ちで一杯だった。 アルフレッドは露わになった彼女の真っ白で一点の曇りもない美しい背中をあまり見てしまわないよう、ドレスのボタンに意識を集中する。(緊急事態とは言え、皇子様に着替えを手伝わせていいの? これ、不敬じゃない?) カレンは手伝いをお願いしたも
「上手くいきました!!」 取りあえず報告だけは口にしたが、まだ、意識はミイラだけ残る部屋の中にあった。―――と、ここで、ニルがカレンの意識の中へ直接、語り掛けて来る。『カレンさま、そのまま意識を繋いでいてくれる? 次は僕がミイラを処理するから』『はい、承知しました』 ミイラの残る部屋へ、ニルらしき銀狐が現れた。(えっ、どうやって、ここへ入って来たの??) 疑問を感じつつ、カレンは見守る。ニルはミイラに触れることなく、その身体から白銀色の粒子を放った。(ニルさまが殿下みたいなことをしているわ) 粒子はミイラたちを包み込んで輝きを増していく。そして、パンッと弾けるような音が鳴った瞬間、ミイラたちは消滅した。「カレンさま、もう戻ってきていいよ」 ハッキリとしたニルの声が聞こえて、カレンは意識をバルの店内に戻す。 ゆっくりと瞼を開けると皆がカレンの肩や腕を掴んでいた。何とも言い難い光景につい笑いが込み上げてくる。(魔力って、こうやって渡すのね……。予想外だったわ、フッ)「ウフフフッ……。皆さま、ご協力いただきありがとうございました! 無事に完了しました!!」「ミイラも黄泉送りしておいたから、ご心配なく!」 ニルが付け加える。「これで、あたしたちの任務も完了!!」 ミトラはジョッキを掲げて、宣言した。「アルたちは夜会の助っ人に行くのか?」 レックはポートウェルの手を取って、彼をダンスの時のようにクルリと回す。無茶振りだったのにポートウェルの動きは優雅だった。「ああ、今、レダどのに確認したら、すぐに来いと言われた」 アルフレッドの言葉を聞いて、ヴェルジュは眉を寄せる。「『すぐに』って、何かトラブル?」 ニルが心配そうに聞いて来た。「ああ、それは……。この国のアウローラというご令嬢が……
「大丈夫だ。エールで酔うことはない」「もう! あと一杯だけですからね!!」 カレンに念を押され、アルフレッドは渋々頷く。「うわ~っ。アルに注意するなんて、強者過ぎるー!!」「ポートウェル、うるさい!」 ポートウェルがいきなり大声で叫んだので、ヴェルジュが注意する。 オシャレな眼鏡でインテリな雰囲気を醸し出していたヴェルジュの奇行が、カレンは何となく気になってしまう。(ポートウェルさま、お口を押さえて青ざめている……? ヴェルジュさまに注意されたからでしょうけど、この様子から察するに、ポートウェルさまは元々軽口を叩くようなタイプではないのかも。―――そもそも、殿下がエールを飲んだりするから悪いのよ……。私だって、人前で注意なんかしたくないわ……)「カレンさま、そろそろ、倉庫の場所の確認をして下さいませんか?」 ヴェルジュは優しい口調でカレンに進言する。(そうね。のんびり考え事をしている場合ではなかったわね)「分かりました。早速、取り掛かります」 カレンはレモネードのジョッキをテーブルに置いてから、目を閉じて集中した。 バルの賑わいが徐々に遠のき、自分の中にある世界へ入り込む……。 真っ暗闇だった視界に古代遺跡の全体像がパッと浮かび上がってきた。(多くの建物が見えて来たわ。次は地下……) 地面の下に潜ってみる。地上に繋がっている階段を見つけた。その階段の下へ意識を向ける。 階段の先に大きな部屋があった。扉を通り抜けて、室内を確認していく。(金貨の麻袋と宝石、壁際の棚には薬品の瓶、それと……)「えっ!? 嘘……」「カレン、どうした?」 アルフレッドは心配になって声をかける。(殿下の声! ああ、私が驚いて声に出したから~)
ニコラス陛下とシュライダー侯爵を見送って、しっかりとカギを掛けてから、ダイニングに移動した。 アルフレッドはテーブルの上にバスケットを下ろし、中から食事を取り出していく。 皇宮から持って来ただけあって、色とりどりの食材が使われていて、目で見ているだけで楽しい気分になって来る。 こんな食事はいつ以来だろう。カレンは感動のあまり、その場で立ち尽くしてしまった。「カレン、栄養のありそうなものを持って来た。無理せず、食べられるものだけ食べてくれ」「殿下……、ありがとうございます!!こんな
ニルス帝国の海岸線の左端にあるヴェルマ公国は観光業に力を入れている小国である。風光明媚な岩山が連なる大自然と海岸沿いに続くリゾート施設の他、各種の公営ギャンブル場を積極的に経営し、大公が莫大な利益を得ているというのは有名な話だ。 しかし、お金のある所には悪い輩も集まって来る。彼らが世界一と名高いニルス帝国の海軍を手にしたいという野心があってもおかしくはない。―――と、カレンは考えていたのだが……。 ニコラス陛下とシュライダー侯爵のやり取りを聞いていると、ヴェルマ公国との問題はそういう話ではないようだ。「父上(ニコラス陛下)
シュライダー侯爵はふざけた口調で話し掛けて来たニコラス陛下に、フッと何かを諦めたような表情を見せる。 旧友の良い反応に気を良くしたニコラス陛下は更に絡みつく。「カール、お前は何処に転がされていた? 私は皇都の外れにある西の離宮の一室だ。しかも、床の上だぞ。目が覚めて、起き上がろうとしたら節々が痛いし、身体は埃まみれ……。酷いだろう?」「はぁ~? 床に転がされていた!? 最悪じゃないか、ニック。―――オレが目覚めたのは、皇宮の禁書庫内にある三人掛けのソファーだ。まあ、床に比べたら随分マシだな、ブッ、ククッ、アハハハ」(え~!? 陛下とお父様って、ファーストネームで呼び合うような関係だっ
「ええ、俺にとっても婚約者を挿げ替えられるという大事件が発生していますからね。徹底的に敵を炙り出して懲らしめますよ」 アルフレッドの言葉には、怒りが込められていた。(レダさんは全てを知っていたから、私がここへ来るなり飛び出していったのね。私だけを心配していたのでは無くて、国を心配していたのだわ) カレンは、自分のことしか見えてなかったと反省する。「カレン、どこかでシュライダー侯爵が目覚めているかもしれない」「それなら心配は要らない。彼は目覚めたら、必ずここへ来る」 ニコラス陛下は自身満々に答える。カレンとアルフレッドは彼の根拠が分からない自信に首を傾げた。「お前達に、彼と私の話を