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冬瀬澪
冬瀬澪
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Novels by 冬瀬澪

『Rainy Tokyo-レイニートウキョウ-』

『Rainy Tokyo-レイニートウキョウ-』

新人社員の大空未来には、消せない過去がある。 元恋人で、今は取引先のエリート・神城零。 「やり直さないか」 ——大人の余裕でまっすぐ迫る零に、未来の心と身体は揺れる。 一方、不器用な先輩・雨宮悠吾は、彼女への気持ちにうまく向き合えずにいた。 雨の東京で、未来は誰を選ぶのか。 過去を知る男と、今を見る男。 三人の、少しだけ危ない恋の物語。
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Chapter: Rainy Tokyo 第二十八景「二人を包む雨」
悠吾は息を切らせてオフィスフロアに飛び込んだ。 未来の席には、誰もいない。室内を見回す。 作業中の快を見つけて声を張り上げる。 「快! 大空さんは?!」 「悠吾さん?! え、今日直帰じゃ——」 「大空さんは?!」 「い、1時間くらい前に帰りましたよ?な、なんか慌てた風な感じで……」 「ありがとう!」 -☂️- 走りながら、悠吾は電話を掛けた。 数コールしてから、繋がった。 「大空さん? …今、どこにいる?」 呼吸を整えながら話す。 『……』 「大空さん?」 『……あの、私』 その時、電話越しに電車の走る音と踏切の警報音が聞こえた。 「……もしかして、うちの近くにいる?」 『……』 「待ってて。今、そっちにいくから!」 -☂️- 電車を降りる。 けれど、遮断機が直ぐに上がらない。 悠吾は焦れる気持ちを抑えながら、辺りを見回した。 電車が悠吾の前を横切っていく。 大空さん…、今すぐ、君に——会いたい。 風が通り過ぎて、踏切の警報音が途切れた。 踏切の向こう側、白い人影が見えた。 遮断機が上がる。 踏切を渡り終えると、悠吾は目の前の人に向かって言った。 「やっと…会えた……」 「……雨宮さん」 未来が、悠吾を見上げた。 未来の頬に一粒水滴が落ちた。 すっと筋を落としていく。 雨が、降り出した。 「……大空さん。俺、君が好きだよ」 悠吾の前髪からも、雨の雫が落ちていく。 「ようやく…言えた、俺の気持ち」 小さく笑って、未来の顔を見た。 「雨宮さん…。ご、ごめんなさい……」 「え……?」 「……私、零さんとの思い出を、否定できなかった」 雨に濡れた頬に、未来の涙が混じる。 「結局、無かったことになんてできなかった」 声を震わせて俯く。 「きっと、これからも、どこかで思い出す」 雨が未来の言葉に合わせて、強くなっていく。 「そんな私じゃ、雨宮さんの隣になんて——」 未来の言葉が最後まで繋がらない。 悠吾は未来を胸に抱いていた。 「いいんだ。俺は…そんな君を好きになったんだから」 「雨宮さん…」 「君の思い出も、想いも、全部欲しい」 未来の目を見ながら言う。 「過去も、これからも、ひっくるめて…俺にくれないか?」 そのまま、悠吾は未来の唇にキスをした。 一瞬、未来は瞬
Last Updated: 2026-08-16
Chapter: Rainy Tokyo 第二十七景「思い出を置いて」
「悠吾さん? 今日は一ノ瀬さんと汐留出張っすよ」 「え……」 未来の声がフロア内の雑音に消された。 昨晩の気負いが空回った現実に、小さくため息をつきながら、未来は自席のPCに向かう。 電話の音、キーボードを叩く音、誰かの話す声。 自分の周りを様々な音が包むのに、彼の声だけが聞こえない。 -☂️- 課長から渡された作業指示書を見ていると、机の上のスマホが震えた。 ディスプレイを見てみる。 未来は一瞬息を呑んだ。 〈あの窓辺で、君が来るのを待ってる〉 しばらくその文面から目が離せなかった。 未来は震える手でスマホを伏せて、引き出しにそっと仕舞う。 それでも、胸の鼓動は収まらなかった。 午後もずっと未来はデスクに向かっていたが、キーボードを打つ手がなかなか進まない。 PCの時計の表示を見ると、15時を回っている。 引き出しの取っ手に手をかけて、そっと離す。 -☂️- 窓の外が暗くなっている。 時間は19時を過ぎていた。 未来は引き出しからスマホを取り出して、メッセージ欄を見る。 新しいメッセージは来ていない。 けれど……。 未来は鞄にスマホを仕舞うと、席を立つ。 そんな…そんなはずない……。まさか……。 そう思いながら、未来は走っていた。 -☂️- 古い木製の扉を開くと、頭上の鈴が小さくチリンと鳴る。 レコードは止まっている。カウンターの椅子も上がっている。 店内の照明も、半分程落ちている。 未来はそのまま、ゆっくりと奥に向かう。 静かな店内にヒールの靴音が、コツコツと反響する。 窓辺の席の前で、止まる。 「零さん…」 真っ暗な窓の外を、その人はずっと見ていた。 「……やあ、今日も、いい天気だね」 零は未来を見ることなく、ぽつりと言った。 「……なんで」 言いながら、未来の足が一歩前に出た。 視線を落としながら、彼は前を向いた。 「なんで…だろう。無性に、ここで君に会いたくなった」 「会社は…仕事は、どうしたんですか……?」 未来は胸の前で、手をきゅっと握った。 「……」 グレーの瞳に、外を走る車のランプが映る。 「…零、さん?」 その瞳が、悲しげに笑う。 「……息が、出来なくなったんだ」 零はそっと、テーブルの上で手を組み直す。 「そうしたら、思い出した。ここに来ていた頃を…
Last Updated: 2026-08-15
Chapter: Rainy Tokyo 第二十六景「潮風に押されて」
夕刻、アスファルトを焼くような熱もかなり落ち着いてきた。 頭上を走るゆりかもめの窓が、陽の光を反射する。 高架を渡る駆動音が遠ざかるのを、悠吾は見送る。 駅階段の日陰に入って、後ろからついてくる茉夏に声をかける。 「今日はお疲れ様、一ノ瀬さん」 「悠吾さんもお疲れ様です。良かったですね、先方の了解得られて」 階段を上りながら、茉夏が応える。 「ああ、一ノ瀬さんの提案書も分かりやすくまとまってたからね」 「そんな…大したことないですよ」 少し照れたように、手を横に振る。 「いや、大事なことだよ?伝わるか伝わらないかって」 悠吾は渡り廊下で立ち止まり、茉夏の方に向き直る。 「……一ノ瀬さんって、思っている以上にちゃんと考えてるよね。良く見てるっていうか」 「そ、そうですか?」 「これからも、そういうところ伸ばしていくといいと思うよ」 「…あ、ありがとうございます」 茉夏がはにかんだ笑顔を向けた。 駅ホームのアナウンスが聞こえてくる。 「そろそろ帰ろうか。この後直帰だよね」 悠吾は腕時計で時間を確認する。 「じゃあ、また明日——」 「あ、あの!折角なんで…ご飯、行きません?」 言うと同時に、茉夏が悠吾の袖を掴む。 「?……うん、いいよ?」 -☂️- 白いアーチ状の柵が続く、ターミナルのデッキを茉夏と悠吾は歩いていた。 ビル街の夜景が、視線の先にずっと続いている。 ライトアップされたデッキを、ゆっくりと進む。 「わー、凄いですね。ほら、レインボーブリッジが綺麗に見える!」 茉夏の柔らかい髪を、潮風が揺らす。 少しだけ湿度を含んだ空気で、シャツが肌に張り付く。 「楽しそうだね、一ノ瀬さん」 悠吾がそう言うと、茉夏が少しだけ俯く。 「それは、だって…悠吾さんが……」 「俺…?」 悠吾は、その言葉の先が分からず首を傾げる。 「…悠吾さんって、肝心なところは鈍いんですよね」 唇を尖らせて、茉夏はちらりと見てくる。 「……?」 茉夏が柵に掴まって背伸びをする。 深呼吸をして、振り返る。 「だから、わたしもはっきり言います!」 茉夏の声が大きくなる。 「わたし、悠吾さんが好きなんです!」 瞬間、彼女の頬がみるみる紅く染まる。 「初めて見た時から、気になってました!」 悠吾は目を見開いた。わずかに
Last Updated: 2026-08-14
Chapter: Rainy Tokyo 第二十五景「手のなかの星」
指で摘んだ流れ星が、部屋の明かりの中で小さく輝いていた。未来はそれを、ベッドの上でじっと見上げていた。キーホルダーを握り直して、横向きに寝返る。身を屈め、胸の中で抱えるようにして丸まる。窓の外の雨の音を聞きながら、未来はそっと目を閉じた。初めて図書館で見た時よりも、彼が近くに居てくれて、心地よくて。雨の音が部屋を静かに満たしていく。……雨宮さん。口の中で、名前を呟いた。あの時の、ジャケットに残った体温。—……これ、使っていいから—未来の胸の中が少しくすぐったくなった。—……飲む?—手の中の缶コーヒーの温もりよりも、その優しさがずっと温かかった。なのに……。彼の頭を撫でてくれた手が優しすぎた。思い出して、未来は唇を噛んだ。…いっそのこと、全部忘れてしまえたら楽なのに。一瞬そんなことがよぎったが、指の中で、キーホルダーがチャリっと鳴った。初めて彼を見たのも、こんな雨の日だったのを思い出した。-☂️-雨がしとしとと降っている。それはどこか自分の涙のようで。あの人と別れてから、どれだけ経ったか。すごく最近だったような、でも、ずっと前だったような。未来は逃げる場所を探していた。毎日がただ空っぽで、あの人が居なくなった隙間を、持て余していた。道を歩いていると、小さな図書館が見えた。なんとなく、ここなら空っぽの心を埋められるんじゃないか。未来はそんな期待だけで、入ることにした。室内は、静かだった。雨の音が遠くに聞こえる。誰かが本をめくる音や、軽く咳払いをする音。靴の音がコツコツと響く。それだけだった。棚から本を探す。内容なんて何でも良かった。"今"から目を背けられるなら。本を数冊取って、辺りを見回す。外の光が入る窓際の席が目に止まった。座って、本を置いて…。その時、数席空けて、一人座っているのが見えた。未来はほんの少し目を見張った。雨の窓辺で、頬杖をついて、本を読んでいる男性。こちらの視線には全く気づいていない。静かな、自分だけの世界にいる人。そんな印象だった。-☂️-未来が図書館に行く度に、その人は必ずそこにいた。その背中、その横顔。何となく目で追うようになっていった。別に、何かを言ってくれるわけでも、何かをしてくれるわけでもない。でもどこかで未来は、自分の中でこの人と約束を
Last Updated: 2026-08-02
Chapter: Rainy Tokyo 第二十四景「窓辺の席」
空は白く、薄暗い雲が覆っていた。木製のドアを開けると、小さな鈴の音が頭上で響く。店の奥、大きな窓ガラスを目印に真っ直ぐ進む。革張りの深めのソファに、古い木製テーブル。テーブルの天板を、そっと指でなぞる。壁のステンドグラスのペンダントライトが、どこか温かい光を落としていた。久しぶりに座ってみる。けれど、不思議と馴染んだような感覚もあって、零は少しだけ苦笑した。店主はまだ、何も聞いてこない。零は、以前していたように、窓の外を見ていた。-☂️-雨が、降ってきた。ポツリポツリと降り出したそれは、次第に雨量を増し、服や髪を徐々に濡らしていく。悠吾は街中を小走りで彷徨っていた。少しだけ、憤っていた。昨晩の消化不良を晴らすため、気分転換に出かけたのに、この雨だ。空から降る雨を睨みつつ、辺りを見回す。小さな古い店がいくつか立ち並ぶ。その中の一角に、こじんまりとした古い喫茶店があった。不思議と、悠吾はその佇まいに惹かれた。雨も凌げる。そんな軽い思いも手伝って、悠吾はいつの間にかドアをくぐっていた。小さく、鈴がなる。店内は落ち着いた内装で、古めかしいレコードの音と、コーヒーの豆の香りで満たされていた。客は殆ど入っていなかった。だから、奥に座っている人に嫌でも目がいった。悠吾の胸がぎくりとなった。あの金茶の髪、整った顔立ち。——神城零。窓辺に座るその佇まいが、まるで一つの絵のようだった。コーヒーに口をつける所作をゆっくりと見ていた。そして、悠吾は気づいてしまった。グレーの瞳が、いつもと違って、どこか寂しそうな色をしていることに。「お客様、よろしければお好きなお席へどうぞ」店主の声がカウンター横から飛んできた。「あ、はい」思わず応えた。その時、零が、こちらを見た。最初は一拍、目を見張って。けれど、次の瞬間には、悠吾の知っている目に戻っていた。「……やあ、雨宮くん。奇遇だね」「……どうも」「ここ、座ったら? 丁度話し相手でも欲しかったし」さらりと、冷ややかな目で言う。悠吾は少しだけ眉を寄せて、無言で向かいの席に座った。-☂️-「雨宮くんたちのお陰で、プロジェクトも滞りなく進んでいるよ」「それは…良かったです……」悠吾は自分のコーヒーに口をつけながら、応える。「MER:AIさんは優秀な方が多くて
Last Updated: 2026-07-27
Chapter: Rainy Tokyo 第二十三景「遠花火」
夕暮れ時。 薄い橙の空に、ビルのシルエットが立ち並ぶ。 振り返るとスカイツリーが自分を見下ろしている。 悠吾は地下鉄の出口を出ると、少し眩しそうにそれらを見ていた。 夏の熱気の中で、沢山の人が目の前を行き交う。 下駄がカラコロと鳴る音や、遠くのお囃子の音が混ざり合う。 「遅いっすよ!先輩」 雑踏の中から快が現れた。白縞の浴衣に団扇を持っている。 「悠吾さん、私服じゃないっすか。折角の花火大会なのに?」 「あ、いや、俺浴衣持ってなくてさ……」 「ま、いいか。ほら、他の皆は既に集まってますよ」 促されて、快の後をついて行く。 少し開けた場所に出ると、社の若手数人が溜まっていた。 近づきながらメンバーを確認しつつ、視線を動かす。 ちらほら私服仲間がいて、少し胸を撫で下ろす。 男性陣から隣の女性陣を見る。 未来が、いた。 「……!」 悠吾は、一瞬息が止まった。 黄昏時の淡い空を背景に、白い姿が一際浮いて見え、悠吾は目を奪われた。 白く華奢な身体に、白地の浴衣。 紅い金魚の紋様が艶やかに彼女の身体を泳いでいた。 未来がこちらに気づいた。 少しだけ、気まずそうに。 「あ、あの…こんばんは……」 「……こんばんは」 悠吾は、呆けた顔でそれだけを言った。 「悠吾さーん、こんばんは!」 突然横から声を掛けられて、我に返る。 茉夏が駆け寄ってくる。 「一ノ瀬さん、こんばんは」 「どうです?浴衣、似合ってます?」 そう言って、茉夏は目の前でくるっと一回転してみせる。 「ああ、いいんじゃない?一ノ瀬さんらしい」 「ほんとーですかー?良かった、これにして!」 ふと横を見ると、未来が背中を向けて他の女性の方と話をしていた。 -☂️- 花火が上がる音が聞こえた。 空を見ると夕闇の中に、一輪二輪と光の華が咲いている。 雑踏を進むと、風に乗って仄かに火薬の匂いが交じる。 屋台が立ち並ぶ道に入ると、雑踏は更に激しさを増す。 食べ物が焼ける匂い、笑い声、上空の花火の音。 悠吾は久しくこんな空気を味わっていなかった。 子供の頃はそう言えば、お祭りなんかによく行ってたっけ。 一つ一つ屋台を見ていた。 その中に、悠吾はひもくじの店を見つけた。 「悪い、先行ってて」 「え、悠吾さん?!」 流れに逆らうように、悠吾は列
Last Updated: 2026-07-24
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