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第475話

Author: アキラ
「阿弥陀仏」小僧は目の前の男に両手を合わせ一礼した。「章将軍にご挨拶申し上げます」

章衡もまた両手を合わせ、礼を返し、そこでようやく言った。「お坊さん、これはどこへ行かれんとするかえ?」

小僧はありのままを告げた。「慈恩御院家様の命を奉じ、将軍府へ書状を届けに参ります」

「それがしも丁度屋敷へ戻るところ。よろしければ、お坊さんをお送りいたそう」章衡の口調には、穏やかさが滲んでいた。

小僧は当然章衡を見知ってはいたが、これほど穏やかな様子の章衡を見たことはなかった。

心に少々疑念を抱いたが、それでも、道が同じならば乗せてもらってもよかろう、と思った。

法華寺からここまでずっと歩いてきて、彼の足はとうに疲れていたのだ。

すぐさま一礼して礼を述べ、章衡の馬車に乗り込んだ。

馬車の中には、香が焚かれており、清らかで淡い香りが、たいそう快かった。

寺で嗅ぐ線香や蝋燭の匂いよりずっと良い香りだった。

小僧はそう思いながらも、程なくして眠気に襲われ、瞼はますます重くなり、とうとう堪えきれず、傍らへ倒れ込み、昏睡してしまった。

章衡は身を乗り出し、軽く小僧の頬を叩いた。「お坊さん、お坊さん?」

二声軽く呼びかけたが、小僧は全く反応しなかった。

彼はそこで初めて手を上げ、香炉を馬車の中から投げ捨てた。

それから、小僧の懐からその書状を探り出した。

書状を開くと、そこには確かに慈恩御院家様直筆の占いの結果が記されており、悪いことは一言もなく、むしろ喬念の運命は、大いに富み栄えるものだと書かれていた。

彼は冷ややかに鼻を鳴らし、揺れる車の簾に目をやった。その深い眼差しには幾分かの軽蔑の色が浮かび、大きな手でその書状を少しずつ掌で握りしめ、小さな塊になるまで揉みくちゃにし、ようやく窓から投げ捨てた。

それから、彼はあらかじめ人に命じて慈恩御院家様の筆跡を真似て書かせておいた占いの結果を、封筒の中へと押し込んだ。

小僧が目覚めた時、章衡もまた傍らに寄りかかり目を閉じ、まるで眠っているかのようだった。

きっと道中があまりにも遠く、馬車の中がまたあまりにも心地良かったので、こんなにも眠気を誘ったのだろう、とだけ思った。

彼は欠伸を一つし、深くは考えなかった。

両手を高く掲げ、伸びを一つすると、懐に入れていた書状が足元に落ちていたことに気づいた。

彼は書
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