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3-19 それぞれの会食後 1

last update Huling Na-update: 2025-05-10 19:14:53

 21時半――

会食も終わった頃、朱莉は猛に尋ねた。

「あの、そろそろ失礼してもよろしいでしょうか? レンちゃんを寝かせつけてあげたいので」

「ああ、そう言えばそうだったな。すまなかったね、楽しくてついこんな時間まで引き留めてしまって」

「いえ、こちらこそお陰様で素敵な時間を過ごすことが出来ました。ありがとうございます」

朱莉は頭を下げた。

「それでは僕も失礼します。朱莉さん、一緒に帰ろう」

翔は朱莉に声をかけた。

「おい? 翔。今の言い方は何だ? 夫婦なんだから一緒に帰るのは当たり前だろう?」

猛に指摘されて、一瞬翔はハッとした顔つきになったが、すぐに冷静な表情になる。

「いえ、今のはほんの言葉のあやですから、気にしないで下さい」

「会長、それでは私も失礼いたします」

姫宮は深々と猛に挨拶をした。

「ああ、姫宮。これからも翔のことをよろしく頼む」

「はい、承知いたしました」

「ところで翔、明日のお宮参りは何処の神社に行くことになったんだ?」

「え? え……とそれは……」

(しまった……まずいぞ。朱莉さんのことだからきっともう調べてあるだろうけど、何処の神社か確認していなかった)

「水天宮に行く予定です」

猛の突然の質問に翔は戸惑ったが、すぐに朱莉は答えた。

「なるほど。水天宮か……うん。確かあそこは安産祈願で有名な神社だったな。それにしても翔……」

猛はジロリと翔を見た。

「お前……ひょっとすると朱莉さんに神社を探させたのか?」

「あ……そ、それは……」

翔が言い淀んだので、朱莉は咄嗟に口を出した。

「翔さんはお忙しい方なので、私が自分で調べると申し出たんです」

「なんだ。そうだったのか?」

猛は朱莉に笑顔を向け、次に翔に視線を移す。

「翔。お前は少しここに残れ。話がある」

「はい……分かりました」

翔はグッと歯を食いしばるように返事をした。そんな2人の様子を見て朱莉は心配になってきた。

(大丈夫かな……? 翔先輩……)

すると朱莉は突然姫宮から声をかけられた。

「朱莉様、それでは私達はお先に失礼しましょう」

「え? で、でも……」

すると猛が言った。

「大丈夫だ、朱莉さん。車の手配は姫宮がしてくれた。多分もう玄関前に着いてると思うぞ」

「え? そうなんですか!?」

(すごい姫宮さん。いつの間に……。やっぱりとても優秀な秘書なんだ)

朱莉は隣に立っている姫宮を尊
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  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   4-17 危険な誘惑 1

     突然、肩に手を置かれた朱莉は驚いて翔を見上げた。翔の瞳はいつになく真剣に朱莉だけを見つめている。(え? 翔さん?)以前の朱莉だったなら、きっとここで頬が真っ赤に染まっていたことだろう。しかし、今の朱莉には不思議とそのような感覚が湧きあがってこない。ただ、感じたのは戸惑いだ。「あ、あの……?」朱莉の声に、翔はハッとなった。気付けばただ黙って、朱莉の両肩に手を置き、じっと見つめている自分がいた。「い、いや……明日香のことなんだけど……」翔は朱莉の肩から手を離すと、視線をそらせた。「暫くは様子を見ようと思っているんだ」その言葉に朱莉は耳を疑った。「え……? 様子を見る……? ほ、本気で言ってるのですか?」「あ、ああ。お互い少し距離をあければ互いの気持ちに気付くんじゃないかと思ってね」朱莉と視線を合わせず、歯切れが悪そうに翔は口にした。(そうだ。明日香ともう少し離れてみればきっと今の自分の気持ちが見えてくるはずだ。それは明日香にしたって同じことが言えるんじゃないのか?)「翔さん。でもレンちゃんは……? レンちゃんはどうするのですか? あの子は明日香さんと翔さんのお子さんですよ?」「ああ。蓮のことなら大丈夫だ。何しろ蓮は……」そこまで言いかけて翔は口を閉ざした。何故なら朱莉が悲し気な目で自分を見つめていたからだ。「蓮は……明日香の子でもあるし、俺の……鳴海家の跡取りでもある。だが明日香は子供が苦手だし、子育てに向いているとも思えない。今のままでは、双方の為に良くない気がするんだ。それならいっそ………」(朱莉さんにこのままずっと……)しかし、その言葉は告げなかった。「翔さん? お話の続きは?」朱莉は首を傾げた。「い、いや。俺がこのまま引き取って蓮の世話は自分で見ようと思っているよ」(出来れば朱莉さんも隣にいて欲しい。彼女は母性に溢れているし、このままずっと良い母親になってくれるだろう。でも今はそれを告げられない……そんなことをすれば、警戒されてしまう可能性がある。もっと念入りに準備をして、朱莉さんの心を掴んでからでも遅くは無いだろう)この時には既に翔の頭の中から、琢磨が朱莉に好意を寄せている事実等すっかり消え去っていた。ただ、このまま朱莉と一緒に暮らせれば蓮と3人で穏やかな家庭を築けるだろう……そのことしか念頭に無かったのだ。

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