死を予知する能力を得た私が、頭上のカウントダウンを見た

子どもの頃から、私は他人の頭の上に「死のカウントダウン」が見える能力を持っていた。最初に祖父の頭上にその数字を見つけたとき、恐る恐る両親に伝えた。けれども、両親はただ微笑むだけで、それを子どもの空想話として受け流した。しかし、その翌日、再び祖父に会うと、彼は白い布をかぶせられたまま静かに横たわっていた。周囲の大人たちは涙を流しながら嘆き悲しんでいたが、幼い私はその光景の意味を理解できなかった。それから間もなくして、今度は父の頭上にカウントダウンが浮かび上がった。怖くなって父に伝えたが、父は一瞬驚いたような表情を見せたものの、すぐに笑顔を取り戻した。その夜、いつも通り会社から帰ってくるはずだった父は戻らず、代わりに鳴り響く電話の音が家を包み込んだ。電話を取った母の顔はみるみるうちに青ざめ、大きなお腹を抱えたまま急いで家を飛び出した。しかし、玄関の階段で足を滑らせて転倒した瞬間、母の頭上に「24時間」の数字が現れた。その日、妹が生まれた。しかし、母は出産時の大出血で帰らぬ人となった。病室の外でぼう然と立ち尽くしていた私に、三番目の兄が怒りに駆られ私を突き飛ばした。「お前は化け物だ！父さんも母さんも、お前が呪い殺したんだ！」冷たい床に手をついた瞬間、幼い手のひらに鋭い痛みが走り、血がじわりとにじんだ。泣きたくて仕方がなかったけれど、周りを見渡しても、誰も私に手を差し伸べてくれる人はいなかった。大人たちの目に浮かぶのは、ただ恐怖と嫌悪だけ――それだけだった。声を殺し、唇をきつくかみしめながら、自分の力で床から立ち上がり、汚れたスカートを払って、自分を励ました。壁際に小さく体を丸め、膝を抱きしめて、震える声ですすり泣いた。「お父さん……お母さん……」そのまま眠りに落ち、目を覚ましたときには、もう誰もいなかった。みんな私を置いて行ってしまったの？私なんて、必要ないってこと？不安と孤独に押しつぶされそうになりながら立ち上がろうとしたものの、長い間しゃがんでいたせいで足がしびれ、再び床に崩れ落ちた。静まり返った病院の廊下には、点滅する蛍光灯が孤独な私を淡々と照らしていた。体中が痛くてたまらなくなり、ついに声を上げて泣いてしまった。あの日を境に、私の世界はすっかり変わってしまったのだ。

彼らの背中が遠ざかるのを見送りながら、先ほどまで胸にあった緊張とわずかな喜びが一気に冷え込み、氷の底に沈められたような感覚に襲われた。彼の目に映る私はこんな存在なのだろうか――悪人、殺人犯、そのどちらにも見えるのだろう。胸が鋭く締めつけられるように痛んだ。胃も、じわじわと灼けるような痛みが広がっていく。台所に向かい、何か口に入れようと思ったが、そこにあったのは硬く乾燥した半分の饅頭だけだった。仕方なくそれを手に取り、クルミを二つ割って口に運んだ。だが、それだけでは空腹感を満たすことなどできなかった。使用人が廊下を通りかかった。私に気づくと、わざとらしく目をそらし、ため息をついた。私が饅頭を手にしているのを見て、驚いたふりをして声を上げる。「えっ！お嬢様、それを召し上がったんですか？あれ、捨てるつもりだったものですよ。浦田さんや楓奈お嬢様たちは早起きなので、朝食を少し早めに用意しました。もしお嬢様が何か召し上がりたいものがあれば、今すぐにお作りしますよ」彼女の困ったふりをした表情が、私の心に冷たい棘のように突き刺さった。私は無表情のまま彼女の申し出を断り、胃から広がる刺すような痛みをこらえながら部屋へ戻った。この家は私を受け入れない。その事実は、使用人たちでさえ私を陰湿に扱うことを許しているのだ。胃の灼けるような痛みが、抑えていた感情を揺り動かす。震える手で痛み止めの薬を取り出し、口に放り込んだ。冷たい水で無理やり流し込むと、少しだけ楽になった気がした。私は服を着替え、薄く化粧をし、少しでもまともに見えるように努めた。まず向かったのは葬儀用品店だった。残された時間はたった一日。骨壷をカスタマイズすることはできないため、好きな模様を選んで、それを「自分の家」として決めた。選んだ骨壷を抱えながら街を歩く間、驚きや困惑の混じった視線を感じた。けれども、私は気にせず次の目的地へ向かった。途中、三番目のお兄さんの浦田昴翔が通う学校の前を通りかかった。ちょうど授業が終わり、校内からは若者たちの明るい笑い声が響いていた。私は、溢れる青春の光景を羨望のまなざしで見つめた。10歳以来、私は学校という場所から遠ざかっていた。立ち去ろうと顔を上げると、ちょうど昴翔が車から降りて学校へ向かおうとしているのが目に入った

胸に押し込めていた言葉をついに口にした瞬間、私は自分の心臓の音をはっきりと聞いた。ずっと、生も死も超越した存在だと思い込んでいた。けれども今、この瞬間だけは、この世界をもう少しだけ見ていたいと思ってしまう。部屋は静まり返り、急促な自分の呼吸音だけが響いていた。彼が何も言わずに電話を切るだろうと覚悟したその時、冷たく響く声が耳に届いた。それは私を天国から地獄へと突き落とす言葉だった。「織音、お前はこんな嘘をついてまで俺たちに哀れんでもらいたいのか？俺たちを家に戻らせるために、手段を選ばないんだな。どうせ俺たちが昔みたいに簡単に騙されると思ってるんだろ？忘れるなよ。父さんも母さんも、おじいちゃんも、お前がどうやって殺したのかを」胸の奥が鋭く抉られるようだった。違う、違うんだ！そんなことはない！心の中で必死に叫んだが、喉からは一言も出てこなかった。頬を伝う涙が床に落ちる音だけが、静寂の中で小さく響いた。私は操られた人形のように、同じ言葉を繰り返すしかできなかった。「嘘じゃない。お願い、お願いだから、これが最後でいいから……」だが、電話は無情にも切られた。その直前、受話器越しに微かに聞こえたのは楓奈の楽しげな笑い声だった。「駿介兄ちゃん！」と嬉しそうな声だった。先ほどまでの興奮は、今では完全に虚無へと変わっていた。私は硬直したまま食卓に戻り、彼らが楓奈に向けた優しい表情を思い出しながら、独り言を呟いた。その呟きに気づかないうちに、笑い声が混じり始めた。最初は静かな笑いだったが、それは次第に大きくなり、最後には嗚咽が混じる狂気じみた響きへと変わっていった。時計の針は無情に進み、時間は一分一秒と過ぎていった。しかし、誰一人として帰ってくることはなかった。夜が更け、残された時間はわずか三分となっていた。私は自分の人生を振り返り始めた。しかし、その人生はあまりにも単純で、振り返るようなこともほとんどなかった。生まれた瞬間から、私の人生は悲劇そのものだった。カウントダウンが始まり、私は静かにテーブルに伏せた。傍らには、自分用の骨壷と遺影が置かれている。5、4、3、2、1――カウントダウンが終わり、私は世界が完全な静寂に包まれるのを感じた。部屋の空気は張り詰め、呼吸音さえも消えてしまったかの

女医さん、写真館の受付嬢、それに肉まん屋の店主――彼らは皆、私にほんの少しの安らぎを与えてくれた人たちだった。そんなことをぼんやりと思い返していると、浦田家の他の家族たちが次々と駆けつけてきた。その気配を察したのか、駿介の表情は、瞬く間にいつもの冷たく無感情なものへと変わっていった。「お姉ちゃん……お姉ちゃんが、どうしてこんなことに……？」楓奈は口元を手で覆い、目を潤ませながら震える声でそう呟いた。その泣き声に、周囲の者たちの胸が締め付けられるようだった。昴翔は彼女をそっと抱き寄せ、小声で慰めた。「楓奈、泣くな。人にはそれぞれ運命があるんだ」運命だなんて――そんな戯言、聞きたくない！私は運命なんて信じない。けれど、運命というものがあるならば、それは私をあざ笑い、ただの不吉な存在に仕立て上げた。その時、昴翔の口元に浮かぶほのかな笑みに気づいた。彼は笑っている――私が死んだことを、本当に喜んでいるのだろう。私の身体は彼らに囲まれたままだった。遺影と骨壷を見つめる彼らの間に、長い沈黙が落ちた。その静寂を破ったのは駿介だった。「今日の午後、織音から電話があった。自分がもうすぐ死ぬから、最後に一緒にご飯を食べてほしいって」彼は悠真に目を向け、問いかけた。「彼女はお前たちにも同じことを言ったのか？」悠真は珍しく気まずそうな表情を浮かべた。朝出かける前に私に言ったことは、すべて嘘だった。彼らが外出したのは、楓奈が飼っている猫の誕生日を祝うためだったのだ。結局、私は猫にも劣る存在だったのだ。胸に手を当てたその瞬間、私は奇妙な感覚に気づいた。私はすでに死んでいるはずなのに、なぜこんなに胸が痛むのだろう？楓奈は彼らに慰められ、二階へと連れられていった。部屋に残った三人は、しばらく何も言わずに座り込んでいた。悠真は私の遺影をじっと見つめ、どこかうつろな目で呟いた。「俺たち……何か間違っていたのか？」その言葉に、残った二人はわずかに頷いた。昴翔も続けて口を開いた。「彼女は自分のためにこれを準備していたんだ。きっと、自分の時間がもう残されていないことに気づいていたんだろう。覚えてるか？昔、彼女が言ってたこと。父さんや母さんの頭の上に……カウントダウンの時間が見えたって」昴翔が最後の言葉を言うの

彼らは翌日、私の遺志に従い、火葬場へと私を送った。豪華な火葬炉の中、私は自分の身体とともに焼却炉の中に入り、火に包まれていく様子を静かに見つめていた。炎が私の身体を飲み込み、少しずつ灰へと変えていく。燃え盛る炎の中、外からすすり泣く声が微かに聞こえた気がしたが、私はそれを気に留めることはなかった。こうして私は、生前に選んだ骨壷に無事収まることができた。もし彼らが私の遺志を理解せず、私の希望を無視したならば、私は彼らの夢に潜り込み、後悔させるつもりだった。だが幸いにも、すべてが順調に進み、これ以上彼らと関わる必要もなく済んだ。駿介は私の骨壷を丁寧に抱え、そのまま墓地へと運んでいった。彼の後を漂いながら、私は周囲を見回した。清らかな山と川の景色で、美しく静かな場所だった。彼は私の写真にそっと触れ、唇を動かして何かを呟いた。耳を澄ませてみると、小さな声で「ごめん」と言っているのが聞こえた。謝罪……それが今さら何の意味を持つのだろう？私はもう彼らに何の期待も抱いていない。ましてや、私はすでに死んでいる。謝るのなら、せめて死んだ後にしてほしいものだ。しかし、それでもなぜか、私の魂は浦田家の人々の近くを漂い続けていた。ある時は駿介の周りを、またある時は悠真の周りを彷徨う。これが死後の運命なのだろうか？私には確かめる術がなかった。私は駿介が私の名前を冠した基金を設立するのを見た。その基金は山間部の女の子たちを支援するために使われるのだという。彼はさらにチャリティーオークションを開き、その収益をすべて基金に寄付した。そのオークションを通じて、私の名前が公の場に初めて現れた。それまで世間の人々は、浦田家にこんな長女がいたことさえ知らなかったのだ。会場では、人々が小声で囁いていた。「浦田家の長女なんて、もうずっと前に亡くなったんじゃなかったの？」それ以来、浦田家の人々は熱心に善行に取り組むようになった。おそらく、自分たちが積み重ねてきた罪を償いたいのだろう。そして、私の命日からちょうど一年後、彼らは再び私の墓前に集まった。悠真は、毛玉だらけになったあのマフラーを今も首に巻いていた。墓前には朝露を纏った新鮮な花束が供えられ、墓石の埃もきれいに拭き取られていた。私は自分の身体が徐々に透明になっていくのを感じた。もう