MasukShare
第869話 彼は君のことが好きだよ
Bab terkait
離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった 第870話 弱みは田中社長と関係あるのか
三日後、浜白で新エネルギー大会が開催され、各業界のトップたちが空港に到着し、豪利国際ホテルに宿泊した。三井鈴もその一人だった。足早にホテルロビーへ入ると、メディアの視線を無視して進んだが、夏川が声を張って呼び止めた。「三井さん、ちょうど会おうとしてたところですよ」「今、ニュースが入ったんです。石田敦がうちと提携したって本当ですか？」三井鈴は苦笑した。「もうご存知なら、世間全体が知ってるも同然ですね」「やるじゃないですか。彼の前の会社がMTに買収されてからというもの、誰も引き抜けなかったのに、どうやって口説いたんですか？」三井鈴が答える前に、どこからか声が飛んできた。「夏川さんは相変わらず視野が狭いですね。落ちぶれた元社員を拾って何が嬉しいんです？」振り返ると、そこには女物のスーツに身を包んだ大崎雅が、東雲グループの社長を従えて堂々と立っていた。夏川の顔が一瞬こわばったが、すぐに笑顔を作る。「大崎社長、ご無沙汰しております」「本当にご無沙汰ですね。夏川さん、もう浜白まで進出されてるんですか。今度ぜひ、成功の秘訣を伺わせてくださいね」言葉には笑みがあったが、内には皮肉と圧力が滲んでいた。「とんでもない。私はただ三井さんの追い風に乗せていただいてるだけで」「三井さんに、まだそんな風が吹いているとは思いませんでしたが」大崎雅は口元にかすかな笑みを浮かべた。目の前に並ぶと、三井鈴の方が若く美しく、気配も落ち着いていた。「私に風があるかどうかは、今夜の入札でご確認を」大崎雅の口元がわずかに吊り上がった。その視線の先には、石田敦がこちらへ歩いてくる姿があった。「三井さんの恋人は田中さんでしたよね？その田中さんが買収した会社の残党を迎え入れて、彼は怒らないのかしら？」さすがは大崎雅。たった一言で、三井鈴の急所を突いてきた。田中仁はフランスにほぼ一週間滞在し、浜白の案件には一切関わらなかった。その間、金融座談会で雨宮栞里とのスキャンダルも流れた。4千億の資金を狙って、彼女が深夜に田中仁の滞在ホテルを訪れ、3時間語り合ったという。多くのメディアが、三井鈴と田中仁の関係は危機的だと報じていた。この件については、大崎雅もすでに把握しているようだった。「石田さんは優秀な人材です。誰かの残党なんかじゃありません。それに
離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった 第871話 田中仁と雨宮栞里の到着
現れたのは田中仁だった。メディアに囲まれながら堂々と会場へ入ってきた彼の隣には、品のある笑みをたたえた雨宮栞里が寄り添っていた。二人の歩調は自然に揃っており、決して目立とうとはしていない。田中仁は礼儀正しく椅子を引き、彼女を座らせた。その様子はすぐさまメディアのカメラに捉えられ、巨大スクリーンに映し出された。三井鈴は視線を外し、ふとスマホに目を落とすと、画面が点灯し、星野結菜からのメッセージが届いていた――「雨宮栞里は清掃員を装って田中仁の部屋に入ったの。彼女、本気で狙っているわ。あの4000億のためなら手段を選ばない」ロビーでその噂を耳にしてからというもの、三井鈴は我慢できず、記者である星野結菜に確認してみた。そして今、それが事実だと突きつけられた。星野結菜は気まずさを感じたのか、すぐに補足した。「雨宮家の実権者は金融管理局の一員よ。田中仁が彼女に顔を立てるのも無理はない。鈴ちゃん、何かあるなら本人に直接聞いた方がいいわ。黙っていると後悔する」直接聞く？星野結菜は知らない。彼と三井鈴の関係は、もう以前のような距離感ではない。「直接聞く」特権は、もう田中仁に取り上げられていた。「皆さま、こんばんは。私はクリスティーズのオークショニア、加瀬可奈と申します。本日は浜白でお目にかかれて光栄です。これより「太陽光推薦官」の入札を開始いたします。開始価格は4.5億です」ステージに立つ女は、体にぴったりと沿う着物をまとい、優雅にオークションハンマーを握っていた。その姿は洗練され、余裕と品格を感じさせた。加瀬可奈はクリスティーズ副社長。世界最高のオークショニアとの呼び声高く、メディアからは「永遠に優雅、そして飢えを知らない女」と評される。彼女が登場すれば、どんな品でも値を吊り上げる。それほどの影響力がある。今回、彼女を招いたという事実こそが、この大会の本気度を物語っていた。「8億」「10億」「14億」「22億」加瀬可奈はオークションステージに片肘をつきながら、全体を見渡し、微笑んだ。「今宵の浜白は華やかですね。さらに高いご入札をいただける方、いらっしゃいますか？」「40億」会場がざわついた。その声の主に視線が集中する。名乗ったのは、帝都グループの三井鈴だった。背筋を正し、札を高く掲げる。「40億、
離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった 第872話 無償贈与
「90億」三井鈴が静かに札を上げた。少し離れた場所にいた石田敦がそれを見て、そっと近づいて忠告した。「その額は高すぎます。無理に争う必要はないですよ」「80億は帝都グループの予算内。超過分は私個人の名義で出します」三井鈴は一切動じず、視線すら逸らさなかった。彼女が一歩も引かないのなら、加瀬可奈も容赦しない。意味深な笑みを浮かべ、「帝都グループの三井さんから90億のご入札。田中さん、参戦されますか？」会場の全員がその言葉の含みを理解していた。田中仁と三井鈴は共に莫大な資金を動かせる存在。彼がこの場に加われば、これはただの競売ではなく、二人の全面対決となる。そして、最近の熱愛報道の真偽もかかってくる。大スクリーンに映る田中仁の表情は平然としており、加瀬可奈の呼びかけにも反応を示さなかった。その顔を見つめた瞬間、三井鈴の胸がぎゅっと締めつけられた。返答を待つ間に、雨宮栞里が彼に何か囁きかけ、彼は数語だけ返した。そして、彼女が札を上げた。「140億」三井鈴の顔に一瞬、動揺の色が浮かんだ。会場は再びざわめきに包まれる。この入札が田中仁の意向によるものか、雨宮家が豊勢グループから資金援助を得たのか、憶測が飛び交う。加瀬可奈はこの手の駆け引きには慣れている。「三井さん、さらに上乗せされますか？」彼女は札を握りしめたが、石田敦が彼女の手首をそっと押さえた。「だめです。この競売はすでに実質的な価値を大きく超えています。おれはアドバイザーとして、お前が非理性的なパートナーになるのを望まないです」彼は静かにだが、確実に彼女を止めた。三井鈴の顔は青ざめ、加瀬可奈はそこに、わずかな哀れみの色を読み取った。「140億、1回、140億、2回。どなたか、さらに加算されますか？」3回目のハンマーが振り下ろされる直前、委託席の電話入札者が立ち上がった。「200億！」場内はどよめきと同時に拍手の嵐。200億とは！4.5億から200億まで跳ね上がった今回の取引、あまりにも桁違いな争いだった！「200億！？」加瀬可奈でさえ少しよろけ、しかしすぐに笑顔を戻して、「新たな入札者が現れました、200億です！」誰もが驚愕する中で、大崎雅さえも思わず目を見張った。だが三井鈴と雨宮栞里のふたりだけは静かにその場に座り、結果を静かに受け入れていた
離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった 第873話 田中仁に捨てられて
彼女たちはかつてコロンビア大学に通っていた。家庭の背景はまったく異なっていたが、どちらも頑固な性格で、それが共鳴し、軽い挨拶を交わす程度の関係になった。卒業のとき、加瀬可奈の方から三井鈴に「一緒に写真を撮ろう」と声をかけてきた。将来の進路を尋ねられた三井鈴は正直に答えた。「好きな人がいるから、浜白に行くつもり」加瀬可奈は理解できないという顔で、「いいなあ、そんなふうに自由に動ける余裕があって。私にはそんな余裕ないから、欲しいものに向かって努力するしかない」と言った。「目標は？」「最高位のオークショニアになること」加瀬可奈はその野心を少しも隠さず、実際にその夢を実現させた。後に、彼女は三井鈴とのツーショットを「名刺代わり」にして、ハイエンドなオークションの世界に足を踏み入れた。上流階級の面々は彼女と三井鈴の写真を見るなり、二人が親しい間柄だと勝手に判断した。三井鈴の顔を立てない者など、そこには一人もいなかった。その話は、三井鈴が真理子から聞いて知ったことだった。真理子はあからさまに軽蔑していた。「あの人、手段を選ばないから、深入りする価値ないわ」だが三井鈴はそうは思わなかった。加瀬可奈は野心を持った優秀な人材だと感じていた。だからこそ、そのやり方を咎めず、そっと背中を押してきた。人の夢を成す手助けとして。「思った通りね。あなたは、あの頃なりたいと言っていた自分になった。嬉しいよ」昔のことを思い出し、三井鈴は静かに微笑んだ。クリスティーズの副社長という地位は、ツーショット一枚で得られるものではない。きっと血の滲むような努力が、その裏にはあるのだろう。「じゃあ、あんたは？欲しかったものを手に入れたの？」加瀬可奈は三井鈴をじっと見つめた。「あんまり嬉しそうに見えない。200億で称号権を取ったっていうのに、お祝いしないの？」その言葉を聞いた三井鈴は、両手を感知式の水流に差し込み、冷水モードに切り替えた。ひと掬いして顔にばしゃりと浴びせ、自分を落ち着かせた。胸の内をかき乱していた感情が、水と共に静かに沈んでいった。先ほどの会場で、彼女は自分の資金で称号を獲得するつもりだった。だが石田敦に制止されたのもあって、同時に、田中仁が出てくるか、試してみたくなった。そして、彼は動いた。雨宮栞里が動いたのは、彼の指示があったか
離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった 第874話 彼女には本気の考えがあった
「そんなに羨ましいのかしら？」落ち着いた知的な声が背後から聞こえた。振り返ると、ドアにもたれかかっていたのは雨宮栞里。気だるげな調子で続けた。「大崎さんがそんなに羨ましいなら、田中さんをご紹介しましょうか？」当の本人に聞かれてしまい、大崎雅の顔色は明らかに悪くなった。「その必要はないわ。私は自分の力でやっていける」「そうかしら？でも、大崎さんって、何を言ってもすぐ男の話になるわよね。自力って感じ、まったくしないけど？」雨宮栞里の言葉は、核心を突いていた。大崎雅の眉がきつく寄ったちょうどその時、タイミング良く電話が鳴った。彼女はそれを口実にすぐ出て行こうとしながら言った。「何？もう浜白に着いたの？いいわ、私が直接迎えに行く」その言葉に、三井鈴は鏡越しに遠ざかっていく大崎雅をじっと見つめた。キラキラと煌めく豪華なホテルのロビー。三井鈴は雨宮栞里と並んで歩きながら言った。「さっきは助けてくださって、ありがとうございました」「いいですよ。凛から話は聞いてましたわ。あの子、まだ子供でしょ？あなたや次男さんに色々と失礼があったと思います。姉として謝っておきますわ」雨宮栞里はにこやかに微笑みながら、名家の令嬢らしい気品を纏っていた。礼儀正しく、そして丁寧で控えめだった。三井鈴は気持ちが沈んだままだった。田中仁のレクサスはまだ外に停まっていて、窓は少しだけ開いていた。彼は公的な関係者と何か話をしていたが、ほとんど口を開かず、ときおり軽く頷くだけだった。彼女はどうしても気になって訊いた。「最後の一回、140億の入札、あれって田中仁の指示だったんですか？」「もちろんです。雨宮家はそもそも新エネルギー産業には深く関わってないです。称号なんて必要なかったです。でも金融会議が終わったばかりだったし、彼は経済委員として何か示す必要がありました。私は名義を貸して、彼が資金を出す。協力ってわけ」他は誰とも組まず、彼女とだけ手を組んだ。どうしても余計な憶測を呼んでしまう。三井鈴の胸中に渦巻く落胆は、さらに深くなった。言葉は出なかった。雨宮栞里は彼女の表情の変化を注意深く見ていたが、そこにわずかな違いすら見つけることはできなかった。「そういえば、称号獲得おめでとう。私は残念だとは思ってないです。140億は使わずに済みましたし、仁の節約にも
離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった 第875話 もう続ける意味はない
雨宮栞里が田中仁に初めて会ったのは、彼が豊勢グループに入ったばかりの頃だった。当時、田中陽大は彼を鍛えるつもりで、彼が田中家の長男だということを誰にも知らせていなかった。最下層の現場環境は決して良いとは言えず、田中仁が雨宮家との共同プロジェクトを引き継いでからの半月間は、全く進展がなかった。周囲の誰もが、その落ち着いた物腰の少年を侮っていた。その頃の雨宮栞里も、ちょうど雨宮グループに入社したばかりだった。彼女は恵まれた立場にあり、周囲に持ち上げられる存在で、決断と企画だけを担い、厳しい現場経験とは無縁だった。田中仁は一週間もの間、雨宮グループ本社の一階ロビーに座り続けていた。ただ、プロジェクトの責任者に会うためだけに。ある日ついに、雨宮栞里が堪えきれずに声をかけた。「いったい、いつまでここで待つつもり？」少年は返答することなく、ロビーに設置された大型スクリーンの数字をじっと見上げた。「その数字、間違ってる」雨宮栞里は、思わず言葉を失った。そこでようやく彼は、彼女が誰なのかに気づき、軽く頷いた。「御社の社員は、少々高慢ね。でも構わない。時間なら、いくらでもあるから」二人は共に名家の出で、何度も社交の場で顔を合わせていた。当然、面識はあった。「もし、待っても無駄だったら？」「最善は尽す。たとえプロジェクトが失敗しても、悔いはない」雨宮栞里はその時思った。この男には、並外れた粘り強さがある。そして半月後、田中仁の待ちは実を結び、プロジェクトは正式に始動。前例のない成果を上げ、大きな利益を生んだ。その功績によって彼は田中陽大から認められ、少しずつ階層を上り詰め、ついに取締役にまで登り詰めた。彼が取締役の座を手にしたその日、当時のプロジェクト責任者が雨宮グループ本社のビルから身を投げた。理由は、ギャンブルで会社の資金を使い込み、それを返せなかったからだった。雨宮家はその件を知っていたが、公にすることはなかった。けれども雨宮栞里は何か引っかかるものを感じ、独自に調べた。するその男が出入りしていた賭場には、田中仁の資本が入っていた。彼女は背筋が凍るような思いがした。これほど長く沈黙しながら、静かにひとつの命を葬る計算とは、一体どれほどの覚悟と冷徹さが必要なのか。同時に、深い敬意も抱いた。あれほど強靭な芯がある男なら、どん
離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった 第876話 それは原罪じゃない
雨宮栞里は唇を引き、整った顔立ちに苦笑いを浮かべた。「ずっと前から、あなたが誰を想っているかなんて、私には分かってる」少し前、メディアでは二人の破局が盛んに噂されていた。雨宮栞里は内心、喜びを隠せなかった。公の場で彼に会えない日々が続いたが、彼女はホテルのスタッフになりすましてまで彼に近づこうとした。田中仁は冷ややかな表情だったが、追い返すことはしなかった。彼は彼女に2時間の時間を与えた。実際にはその半分以上を仕事に費やしていたが、それでも雨宮栞里は納得していた。今日、彼女はついに我慢できずに訊ねた。「あの日、どうして私との面会を受け入れたの？」深夜に、男女がふたりきり。たとえ仕事の話だったとしても、何かしらの関係が生まれてもおかしくなかった。仮に一夜限りの関係でも、雨宮栞里は構わなかった。だが田中仁は、終始一貫して清廉だった。彼女に興味の欠片も見せなかった。このタイミングでそんなことを訊ねれば、どんな答えであれ相手を傷つけるのは避けられない。だが雨宮栞里は予想していなかった、彼がもっとも容赦のない答えを選ぶとは。「雨宮家は新エネルギー分野に多少関わっている。そのために、情報が欲しかったんだ。それが将来的に彼女の助けになると思った。彼女がどれだけ努力しているか、私はずっと見てきた。だからこそ、業界の一人ひとりを尊重している」雨宮栞里はその場に立ち尽くした。彼女は思わず笑いそうになった。結局、自分と会った理由すら、三井鈴のためだったとは。「彼女の何がそんなにいいの？今夜だって見たでしょ。彼女のために150億を出す男まで現れて、もし本当にあなたを愛しているなら、あの男を近づけたりしない」その言葉を聞いて、田中仁は口元をわずかに持ち上げた。怒りはなかった。「それが彼女の魅力だ。罪じゃない」雨宮栞里は、もう敬意すら覚えていた。先ほど三井鈴に「気があるのか」と訊かれたとき、雨宮栞里はまだ自分の気持ちに確信が持てなかった。けれど今、その想いはよりはっきりと形を成し始めていた。恋人を尊重し、女性そのものを尊重するこの男を、どうして拒むことができるだろう。そう気づいた瞬間、雨宮栞里はそっと微笑んだ。テーブルにある冷めた水を捨て、代わりに温かいお湯を注ぎなおした。「あなたには、傍に信頼できる補佐が必要だと思う。もしよけれ
離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった 第877話 手がかりを提供する
三井鈴は石黑和樹に連絡を取り、安田の祖母の行方について尋ねた。「多少手がかりはあるけど、はっきりしなくてね。だから、あなたには知らせなかったんだ」「どんな手がかり？」「監視カメラに、安田の祖母が買い物してる姿が映ってたんだ。どう見ても誘拐された様子じゃなかった。でも、それ以上の映像がなくてさ、人手も足りなくて、調査は時間がかかってる」石黑和樹はあいまいに言った。だが三井鈴は細かいところまで気を配っていた。「それってどこでの映像？安田家の近く？それとも実家のほう？」石黑和樹は電話口で少し黙り込んだ後、「……その、浜白だよ」と答えた。三井鈴はしばらく沈黙した後、静かに言った。「誰かに言われたんじゃない？私に安田家のことを何も漏らすなって」石黑和樹はまた黙り込み、少しして気まずそうに口を開いた。「今は大崎家が全面的にこの件を担当してるから、当然あっちの指示が優先される。三井さんとは昔からの縁があるからこそ話してるんだ。わかってくれ。安田の祖母は無事だよ」大崎家がこれほどまでに彼女を警戒しているのは、きっと大崎雅と栄原グループの関係だけが理由じゃない。電話を切った後、三井鈴は椅子を回しながら、三井悠希とのチャットウィンドウを開いた。彼から送られてきたファイルには、まだ一度も目を通していない。それに気づいた三井悠希が訊いてきた。「怖くて見られないのか？何をそんなに怯えてる？」三井鈴自身にも、はっきりした理由はわからなかった。三井悠希はすぐに音声メッセージを送ってきた。「先に言っておく。秋吉正男を調べてるのは、もう僕だけじゃない。他にも動いてる勢力がいる」「田中仁なの？」三井鈴は思わず尋ねた。「違う」三井悠希はそう答えると、一件の資料を送ってきた。「この男だ」写真を開いた瞬間、三井鈴の眉がぴくりと動いた。そこに写っていたのは木村明。なぜ彼が？市警本部の食堂にて。「まだちゃんと祝ってなかったな。200億で称号権を取ったんだって？なかなかの規模だ」木村明はトレイを一つ、三井鈴の前に滑らせながら、からかうように言った。三井鈴は苦笑した。「石田さんがもうあなたに話してましたね」「ここじゃ大したもんは出せないけど、三井さんみたいな人には、いいものばかりじゃ飽きるだろ？」「エビの甘辛煮、豚足の煮込み、インゲンと
Bab terbaru
離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった 第878話 高利貸と関わりを持つ
「その人って、あなたにとってそんなに大事な存在か？」さすがは木村検察官、質問が鋭い。三井鈴は箸を握る手に力を込め、一瞬の沈黙の後、まっすぐに答えた。「大切な人ですよ」「ときには、見えないほうが幸せなこともある」「私は何も知らずに踊らされるのが嫌いなんです。木村検察官、私たちは同じものを追っています。だったら一緒にやってみないですか？この幕、引き剥がせるかもしれないです」木村明の持つ内部のコネクションが、彼女には必要だった。彼なら、自分よりもずっと動きやすい。三井鈴が去った後、木村明は写真をつまみ上げてじっと見つめていた。すると近くから話し声が聞こえてきた。「いったい誰なんだよ、あの木村検察官にあそこまでさせるなんて」「学区住宅の規定を急に変えたって話もあるけど、あれも木村検察官が彼女のためだったりしてな？」「まあ確かに綺麗な人だよな。こりゃ、フラれるやつも続出かもな」……三井鈴が帝都グループに戻る途中、その知らせは入った。土田蓮からの電話は切迫していた。「三井さん、大変です！」豊勢グループの委員会が連名で田中仁を弾劾した。理由は、彼の個人口座に高利貸しと見られる海外資金との75億の取引があったこと。この一件は金融業界に大きな波紋を広げた。彼は四千億円もの資金を握り、各大プロジェクトへの投資を進めていた。だが今や、高利貸しとの関係を疑われているとなれば、人々が不安になるのも無理はなかった。ほどなくして、ある経済記者が詳細な調査記事を発表し、彼と高利貸しの関係は混乱を極めていると断じた。信用が命とされるこの業界で、スキャンダルは致命的だ。田中仁はすぐさまフランスに飛び、豊勢グループの本社で記者会見を開いた。監査の導入を要請し、年間の資金出入りをすべて公開。その結果、あの75億は彼の個人資産の動きであり、会社とは無関係と証明された。だが、記者たちがそれで納得するはずもない。世間は噂を信じる。その直後、豊勢グループの株価は再び急落した。三井鈴は田中仁に電話をかけ続けたが、彼はその度に切った。彼女の胸は焦りに燃えていた。この世界で一度でも高利貸しとの関係を疑われれば、それは破滅を意味する。どうにもならず、三井鈴は星野結菜に助けを求めた。「田中仁は、あの75億がどこから来て、どこへ行ったのか
離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった 第877話 手がかりを提供する
三井鈴は石黑和樹に連絡を取り、安田の祖母の行方について尋ねた。「多少手がかりはあるけど、はっきりしなくてね。だから、あなたには知らせなかったんだ」「どんな手がかり？」「監視カメラに、安田の祖母が買い物してる姿が映ってたんだ。どう見ても誘拐された様子じゃなかった。でも、それ以上の映像がなくてさ、人手も足りなくて、調査は時間がかかってる」石黑和樹はあいまいに言った。だが三井鈴は細かいところまで気を配っていた。「それってどこでの映像？安田家の近く？それとも実家のほう？」石黑和樹は電話口で少し黙り込んだ後、「……その、浜白だよ」と答えた。三井鈴はしばらく沈黙した後、静かに言った。「誰かに言われたんじゃない？私に安田家のことを何も漏らすなって」石黑和樹はまた黙り込み、少しして気まずそうに口を開いた。「今は大崎家が全面的にこの件を担当してるから、当然あっちの指示が優先される。三井さんとは昔からの縁があるからこそ話してるんだ。わかってくれ。安田の祖母は無事だよ」大崎家がこれほどまでに彼女を警戒しているのは、きっと大崎雅と栄原グループの関係だけが理由じゃない。電話を切った後、三井鈴は椅子を回しながら、三井悠希とのチャットウィンドウを開いた。彼から送られてきたファイルには、まだ一度も目を通していない。それに気づいた三井悠希が訊いてきた。「怖くて見られないのか？何をそんなに怯えてる？」三井鈴自身にも、はっきりした理由はわからなかった。三井悠希はすぐに音声メッセージを送ってきた。「先に言っておく。秋吉正男を調べてるのは、もう僕だけじゃない。他にも動いてる勢力がいる」「田中仁なの？」三井鈴は思わず尋ねた。「違う」三井悠希はそう答えると、一件の資料を送ってきた。「この男だ」写真を開いた瞬間、三井鈴の眉がぴくりと動いた。そこに写っていたのは木村明。なぜ彼が？市警本部の食堂にて。「まだちゃんと祝ってなかったな。200億で称号権を取ったんだって？なかなかの規模だ」木村明はトレイを一つ、三井鈴の前に滑らせながら、からかうように言った。三井鈴は苦笑した。「石田さんがもうあなたに話してましたね」「ここじゃ大したもんは出せないけど、三井さんみたいな人には、いいものばかりじゃ飽きるだろ？」「エビの甘辛煮、豚足の煮込み、インゲンと
離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった 第876話 それは原罪じゃない
雨宮栞里は唇を引き、整った顔立ちに苦笑いを浮かべた。「ずっと前から、あなたが誰を想っているかなんて、私には分かってる」少し前、メディアでは二人の破局が盛んに噂されていた。雨宮栞里は内心、喜びを隠せなかった。公の場で彼に会えない日々が続いたが、彼女はホテルのスタッフになりすましてまで彼に近づこうとした。田中仁は冷ややかな表情だったが、追い返すことはしなかった。彼は彼女に2時間の時間を与えた。実際にはその半分以上を仕事に費やしていたが、それでも雨宮栞里は納得していた。今日、彼女はついに我慢できずに訊ねた。「あの日、どうして私との面会を受け入れたの？」深夜に、男女がふたりきり。たとえ仕事の話だったとしても、何かしらの関係が生まれてもおかしくなかった。仮に一夜限りの関係でも、雨宮栞里は構わなかった。だが田中仁は、終始一貫して清廉だった。彼女に興味の欠片も見せなかった。このタイミングでそんなことを訊ねれば、どんな答えであれ相手を傷つけるのは避けられない。だが雨宮栞里は予想していなかった、彼がもっとも容赦のない答えを選ぶとは。「雨宮家は新エネルギー分野に多少関わっている。そのために、情報が欲しかったんだ。それが将来的に彼女の助けになると思った。彼女がどれだけ努力しているか、私はずっと見てきた。だからこそ、業界の一人ひとりを尊重している」雨宮栞里はその場に立ち尽くした。彼女は思わず笑いそうになった。結局、自分と会った理由すら、三井鈴のためだったとは。「彼女の何がそんなにいいの？今夜だって見たでしょ。彼女のために150億を出す男まで現れて、もし本当にあなたを愛しているなら、あの男を近づけたりしない」その言葉を聞いて、田中仁は口元をわずかに持ち上げた。怒りはなかった。「それが彼女の魅力だ。罪じゃない」雨宮栞里は、もう敬意すら覚えていた。先ほど三井鈴に「気があるのか」と訊かれたとき、雨宮栞里はまだ自分の気持ちに確信が持てなかった。けれど今、その想いはよりはっきりと形を成し始めていた。恋人を尊重し、女性そのものを尊重するこの男を、どうして拒むことができるだろう。そう気づいた瞬間、雨宮栞里はそっと微笑んだ。テーブルにある冷めた水を捨て、代わりに温かいお湯を注ぎなおした。「あなたには、傍に信頼できる補佐が必要だと思う。もしよけれ
離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった 第875話 もう続ける意味はない
雨宮栞里が田中仁に初めて会ったのは、彼が豊勢グループに入ったばかりの頃だった。当時、田中陽大は彼を鍛えるつもりで、彼が田中家の長男だということを誰にも知らせていなかった。最下層の現場環境は決して良いとは言えず、田中仁が雨宮家との共同プロジェクトを引き継いでからの半月間は、全く進展がなかった。周囲の誰もが、その落ち着いた物腰の少年を侮っていた。その頃の雨宮栞里も、ちょうど雨宮グループに入社したばかりだった。彼女は恵まれた立場にあり、周囲に持ち上げられる存在で、決断と企画だけを担い、厳しい現場経験とは無縁だった。田中仁は一週間もの間、雨宮グループ本社の一階ロビーに座り続けていた。ただ、プロジェクトの責任者に会うためだけに。ある日ついに、雨宮栞里が堪えきれずに声をかけた。「いったい、いつまでここで待つつもり？」少年は返答することなく、ロビーに設置された大型スクリーンの数字をじっと見上げた。「その数字、間違ってる」雨宮栞里は、思わず言葉を失った。そこでようやく彼は、彼女が誰なのかに気づき、軽く頷いた。「御社の社員は、少々高慢ね。でも構わない。時間なら、いくらでもあるから」二人は共に名家の出で、何度も社交の場で顔を合わせていた。当然、面識はあった。「もし、待っても無駄だったら？」「最善は尽す。たとえプロジェクトが失敗しても、悔いはない」雨宮栞里はその時思った。この男には、並外れた粘り強さがある。そして半月後、田中仁の待ちは実を結び、プロジェクトは正式に始動。前例のない成果を上げ、大きな利益を生んだ。その功績によって彼は田中陽大から認められ、少しずつ階層を上り詰め、ついに取締役にまで登り詰めた。彼が取締役の座を手にしたその日、当時のプロジェクト責任者が雨宮グループ本社のビルから身を投げた。理由は、ギャンブルで会社の資金を使い込み、それを返せなかったからだった。雨宮家はその件を知っていたが、公にすることはなかった。けれども雨宮栞里は何か引っかかるものを感じ、独自に調べた。するその男が出入りしていた賭場には、田中仁の資本が入っていた。彼女は背筋が凍るような思いがした。これほど長く沈黙しながら、静かにひとつの命を葬る計算とは、一体どれほどの覚悟と冷徹さが必要なのか。同時に、深い敬意も抱いた。あれほど強靭な芯がある男なら、どん
離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった 第874話 彼女には本気の考えがあった
「そんなに羨ましいのかしら？」落ち着いた知的な声が背後から聞こえた。振り返ると、ドアにもたれかかっていたのは雨宮栞里。気だるげな調子で続けた。「大崎さんがそんなに羨ましいなら、田中さんをご紹介しましょうか？」当の本人に聞かれてしまい、大崎雅の顔色は明らかに悪くなった。「その必要はないわ。私は自分の力でやっていける」「そうかしら？でも、大崎さんって、何を言ってもすぐ男の話になるわよね。自力って感じ、まったくしないけど？」雨宮栞里の言葉は、核心を突いていた。大崎雅の眉がきつく寄ったちょうどその時、タイミング良く電話が鳴った。彼女はそれを口実にすぐ出て行こうとしながら言った。「何？もう浜白に着いたの？いいわ、私が直接迎えに行く」その言葉に、三井鈴は鏡越しに遠ざかっていく大崎雅をじっと見つめた。キラキラと煌めく豪華なホテルのロビー。三井鈴は雨宮栞里と並んで歩きながら言った。「さっきは助けてくださって、ありがとうございました」「いいですよ。凛から話は聞いてましたわ。あの子、まだ子供でしょ？あなたや次男さんに色々と失礼があったと思います。姉として謝っておきますわ」雨宮栞里はにこやかに微笑みながら、名家の令嬢らしい気品を纏っていた。礼儀正しく、そして丁寧で控えめだった。三井鈴は気持ちが沈んだままだった。田中仁のレクサスはまだ外に停まっていて、窓は少しだけ開いていた。彼は公的な関係者と何か話をしていたが、ほとんど口を開かず、ときおり軽く頷くだけだった。彼女はどうしても気になって訊いた。「最後の一回、140億の入札、あれって田中仁の指示だったんですか？」「もちろんです。雨宮家はそもそも新エネルギー産業には深く関わってないです。称号なんて必要なかったです。でも金融会議が終わったばかりだったし、彼は経済委員として何か示す必要がありました。私は名義を貸して、彼が資金を出す。協力ってわけ」他は誰とも組まず、彼女とだけ手を組んだ。どうしても余計な憶測を呼んでしまう。三井鈴の胸中に渦巻く落胆は、さらに深くなった。言葉は出なかった。雨宮栞里は彼女の表情の変化を注意深く見ていたが、そこにわずかな違いすら見つけることはできなかった。「そういえば、称号獲得おめでとう。私は残念だとは思ってないです。140億は使わずに済みましたし、仁の節約にも
離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった 第873話 田中仁に捨てられて
彼女たちはかつてコロンビア大学に通っていた。家庭の背景はまったく異なっていたが、どちらも頑固な性格で、それが共鳴し、軽い挨拶を交わす程度の関係になった。卒業のとき、加瀬可奈の方から三井鈴に「一緒に写真を撮ろう」と声をかけてきた。将来の進路を尋ねられた三井鈴は正直に答えた。「好きな人がいるから、浜白に行くつもり」加瀬可奈は理解できないという顔で、「いいなあ、そんなふうに自由に動ける余裕があって。私にはそんな余裕ないから、欲しいものに向かって努力するしかない」と言った。「目標は？」「最高位のオークショニアになること」加瀬可奈はその野心を少しも隠さず、実際にその夢を実現させた。後に、彼女は三井鈴とのツーショットを「名刺代わり」にして、ハイエンドなオークションの世界に足を踏み入れた。上流階級の面々は彼女と三井鈴の写真を見るなり、二人が親しい間柄だと勝手に判断した。三井鈴の顔を立てない者など、そこには一人もいなかった。その話は、三井鈴が真理子から聞いて知ったことだった。真理子はあからさまに軽蔑していた。「あの人、手段を選ばないから、深入りする価値ないわ」だが三井鈴はそうは思わなかった。加瀬可奈は野心を持った優秀な人材だと感じていた。だからこそ、そのやり方を咎めず、そっと背中を押してきた。人の夢を成す手助けとして。「思った通りね。あなたは、あの頃なりたいと言っていた自分になった。嬉しいよ」昔のことを思い出し、三井鈴は静かに微笑んだ。クリスティーズの副社長という地位は、ツーショット一枚で得られるものではない。きっと血の滲むような努力が、その裏にはあるのだろう。「じゃあ、あんたは？欲しかったものを手に入れたの？」加瀬可奈は三井鈴をじっと見つめた。「あんまり嬉しそうに見えない。200億で称号権を取ったっていうのに、お祝いしないの？」その言葉を聞いた三井鈴は、両手を感知式の水流に差し込み、冷水モードに切り替えた。ひと掬いして顔にばしゃりと浴びせ、自分を落ち着かせた。胸の内をかき乱していた感情が、水と共に静かに沈んでいった。先ほどの会場で、彼女は自分の資金で称号を獲得するつもりだった。だが石田敦に制止されたのもあって、同時に、田中仁が出てくるか、試してみたくなった。そして、彼は動いた。雨宮栞里が動いたのは、彼の指示があったか
離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった 第872話 無償贈与
「90億」三井鈴が静かに札を上げた。少し離れた場所にいた石田敦がそれを見て、そっと近づいて忠告した。「その額は高すぎます。無理に争う必要はないですよ」「80億は帝都グループの予算内。超過分は私個人の名義で出します」三井鈴は一切動じず、視線すら逸らさなかった。彼女が一歩も引かないのなら、加瀬可奈も容赦しない。意味深な笑みを浮かべ、「帝都グループの三井さんから90億のご入札。田中さん、参戦されますか？」会場の全員がその言葉の含みを理解していた。田中仁と三井鈴は共に莫大な資金を動かせる存在。彼がこの場に加われば、これはただの競売ではなく、二人の全面対決となる。そして、最近の熱愛報道の真偽もかかってくる。大スクリーンに映る田中仁の表情は平然としており、加瀬可奈の呼びかけにも反応を示さなかった。その顔を見つめた瞬間、三井鈴の胸がぎゅっと締めつけられた。返答を待つ間に、雨宮栞里が彼に何か囁きかけ、彼は数語だけ返した。そして、彼女が札を上げた。「140億」三井鈴の顔に一瞬、動揺の色が浮かんだ。会場は再びざわめきに包まれる。この入札が田中仁の意向によるものか、雨宮家が豊勢グループから資金援助を得たのか、憶測が飛び交う。加瀬可奈はこの手の駆け引きには慣れている。「三井さん、さらに上乗せされますか？」彼女は札を握りしめたが、石田敦が彼女の手首をそっと押さえた。「だめです。この競売はすでに実質的な価値を大きく超えています。おれはアドバイザーとして、お前が非理性的なパートナーになるのを望まないです」彼は静かにだが、確実に彼女を止めた。三井鈴の顔は青ざめ、加瀬可奈はそこに、わずかな哀れみの色を読み取った。「140億、1回、140億、2回。どなたか、さらに加算されますか？」3回目のハンマーが振り下ろされる直前、委託席の電話入札者が立ち上がった。「200億！」場内はどよめきと同時に拍手の嵐。200億とは！4.5億から200億まで跳ね上がった今回の取引、あまりにも桁違いな争いだった！「200億！？」加瀬可奈でさえ少しよろけ、しかしすぐに笑顔を戻して、「新たな入札者が現れました、200億です！」誰もが驚愕する中で、大崎雅さえも思わず目を見張った。だが三井鈴と雨宮栞里のふたりだけは静かにその場に座り、結果を静かに受け入れていた
離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった 第871話 田中仁と雨宮栞里の到着
現れたのは田中仁だった。メディアに囲まれながら堂々と会場へ入ってきた彼の隣には、品のある笑みをたたえた雨宮栞里が寄り添っていた。二人の歩調は自然に揃っており、決して目立とうとはしていない。田中仁は礼儀正しく椅子を引き、彼女を座らせた。その様子はすぐさまメディアのカメラに捉えられ、巨大スクリーンに映し出された。三井鈴は視線を外し、ふとスマホに目を落とすと、画面が点灯し、星野結菜からのメッセージが届いていた――「雨宮栞里は清掃員を装って田中仁の部屋に入ったの。彼女、本気で狙っているわ。あの4000億のためなら手段を選ばない」ロビーでその噂を耳にしてからというもの、三井鈴は我慢できず、記者である星野結菜に確認してみた。そして今、それが事実だと突きつけられた。星野結菜は気まずさを感じたのか、すぐに補足した。「雨宮家の実権者は金融管理局の一員よ。田中仁が彼女に顔を立てるのも無理はない。鈴ちゃん、何かあるなら本人に直接聞いた方がいいわ。黙っていると後悔する」直接聞く？星野結菜は知らない。彼と三井鈴の関係は、もう以前のような距離感ではない。「直接聞く」特権は、もう田中仁に取り上げられていた。「皆さま、こんばんは。私はクリスティーズのオークショニア、加瀬可奈と申します。本日は浜白でお目にかかれて光栄です。これより「太陽光推薦官」の入札を開始いたします。開始価格は4.5億です」ステージに立つ女は、体にぴったりと沿う着物をまとい、優雅にオークションハンマーを握っていた。その姿は洗練され、余裕と品格を感じさせた。加瀬可奈はクリスティーズ副社長。世界最高のオークショニアとの呼び声高く、メディアからは「永遠に優雅、そして飢えを知らない女」と評される。彼女が登場すれば、どんな品でも値を吊り上げる。それほどの影響力がある。今回、彼女を招いたという事実こそが、この大会の本気度を物語っていた。「8億」「10億」「14億」「22億」加瀬可奈はオークションステージに片肘をつきながら、全体を見渡し、微笑んだ。「今宵の浜白は華やかですね。さらに高いご入札をいただける方、いらっしゃいますか？」「40億」会場がざわついた。その声の主に視線が集中する。名乗ったのは、帝都グループの三井鈴だった。背筋を正し、札を高く掲げる。「40億、
離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった 第870話 弱みは田中社長と関係あるのか
三日後、浜白で新エネルギー大会が開催され、各業界のトップたちが空港に到着し、豪利国際ホテルに宿泊した。三井鈴もその一人だった。足早にホテルロビーへ入ると、メディアの視線を無視して進んだが、夏川が声を張って呼び止めた。「三井さん、ちょうど会おうとしてたところですよ」「今、ニュースが入ったんです。石田敦がうちと提携したって本当ですか？」三井鈴は苦笑した。「もうご存知なら、世間全体が知ってるも同然ですね」「やるじゃないですか。彼の前の会社がMTに買収されてからというもの、誰も引き抜けなかったのに、どうやって口説いたんですか？」三井鈴が答える前に、どこからか声が飛んできた。「夏川さんは相変わらず視野が狭いですね。落ちぶれた元社員を拾って何が嬉しいんです？」振り返ると、そこには女物のスーツに身を包んだ大崎雅が、東雲グループの社長を従えて堂々と立っていた。夏川の顔が一瞬こわばったが、すぐに笑顔を作る。「大崎社長、ご無沙汰しております」「本当にご無沙汰ですね。夏川さん、もう浜白まで進出されてるんですか。今度ぜひ、成功の秘訣を伺わせてくださいね」言葉には笑みがあったが、内には皮肉と圧力が滲んでいた。「とんでもない。私はただ三井さんの追い風に乗せていただいてるだけで」「三井さんに、まだそんな風が吹いているとは思いませんでしたが」大崎雅は口元にかすかな笑みを浮かべた。目の前に並ぶと、三井鈴の方が若く美しく、気配も落ち着いていた。「私に風があるかどうかは、今夜の入札でご確認を」大崎雅の口元がわずかに吊り上がった。その視線の先には、石田敦がこちらへ歩いてくる姿があった。「三井さんの恋人は田中さんでしたよね？その田中さんが買収した会社の残党を迎え入れて、彼は怒らないのかしら？」さすがは大崎雅。たった一言で、三井鈴の急所を突いてきた。田中仁はフランスにほぼ一週間滞在し、浜白の案件には一切関わらなかった。その間、金融座談会で雨宮栞里とのスキャンダルも流れた。4千億の資金を狙って、彼女が深夜に田中仁の滞在ホテルを訪れ、3時間語り合ったという。多くのメディアが、三井鈴と田中仁の関係は危機的だと報じていた。この件については、大崎雅もすでに把握しているようだった。「石田さんは優秀な人材です。誰かの残党なんかじゃありません。それに
