La Reina del Norte

La Reina del Norte

last updateHuling Na-update : 2025-05-31
By:  Monica PrelookerKumpleto
Language: Spanish
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En la secuela de Alfa del Valle, la guerra entre lobos y vampiros recrudece, convirtiéndose en todo un desafío para que Mael y Risa estén juntos, y su sueño construir un hogar y formar una familia. Pero un peligro acecha desde la fortaleza de los vampiros en el norte. Un peligro que ignoran, y que bien podría frustrar todos sus sueños y esperanzas, precipitando sus vidas en un abismo del que es casi imposible escapar. Porque si hay algo que la reina de los vampiros no tolera es la derrota. Los lobos se han atrevido a desafiarla, usurpándole territorios y frustrando todos sus intentos de recuperarlos. Y el principal culpable es ese Alfa joven y temerario. Por eso, la reina de los vampiros decide darle una lección que no olvidará jamás.

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Kabanata 1

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「梓、ドアを閉めて」

怜司は玄関に立ち、驚いてソファの下へ逃げ込んだ猫を先に見てから、ようやく私に目を向けた。

千晴は、もうスリッパに履き替えていた。靴箱には同じデザインの男性用もある。急に用意したものではないのは明らかだった。

ドアを閉めて足元を見ると、私には使い捨てのスリッパが一足、置かれていた。

怜司の口調は淡々としていた。

「早く来るなら、どうして言わなかった?」

「メッセージは送ったよ」

「会議中で、スマホを見ていなかった」

そう言うと、彼はスーツの上着を千晴に渡した。

彼女は当たり前のように受け取り、振り返ってウォークインクローゼットに掛けると、慣れた手つきで冷蔵庫から炭酸水のボトルを取り出した。

猫がソファの下から顔をのぞかせた。

千晴はしゃがみ込み、優しく手を差し伸べる。

「モチ、ママが帰ってきたよ」

怜司の眉間にあった険しさが、少し和らいだ。

「あまり甘やかさないでくれ。さっきもまたカーテンを引っかいて駄目にしたんだ」

立ち尽くしたまま、私は指先をゆっくりと手のひらに食い込ませた。

モチという名前だったんだ。この家には、千晴の指紋も、スリッパも、コップもある。それだけではない。彼女の帰りを待つ猫までいた。

私は十数回も来ているのに、置いておく歯ブラシさえ自分で持ってこなければならなかった。

千晴は猫を抱き上げ、ようやく私の存在を思い出したように言った。

「森川さん、誤解しないでね。怜司は仕事が忙しいから、私がたまにモチの世話をしに来てるだけなの」

「たまにって、どのくらい?」と私は尋ねた。

猫の背中をなでる彼女の手が、一瞬止まる。

「週に3、4回かな。遅くなったときは、ゲストルームに泊まることもあるけど」

怜司が眉をひそめた。

「そんなことを聞いて、何か意味があるのか?」

「あるよ」

私は彼を見た。

「怜司、私たち、付き合って3年だよ。私はあなたの家に来るのに、前もって許可を取らなきゃいけない。彼女はいつでも入れて、泊まることまでできる。それって公平だと思う?」

彼はアイランドキッチンへ行き、コップに水を注いだ。

「千晴はモチの世話をしている。自由に出入りできるようにしておく必要があるんだ」

「私は?」

「君には必要ない」

たったひと言。迷いもためらいもなかった。思わず笑いが漏れた。

「恋人なのに、あなたの家に入る必要はないってこと?」

「梓、恋人だからといって、越えていい境界じゃない」

怜司はコップを置き、指先でキッチンカウンターを軽く二度たたいた。苛立ったときの彼の癖だった。

「何度も言っただろう。自分の空間に勝手に踏み込まれるのは好きじゃない。今日、急に来たこと自体、よくないんだ」

「でも、望月さんが来るのはいいのね」

「彼女と君は違う」

千晴は目を伏せ、小声で彼をなだめた。

「怜司、そんな言い方しないで。森川さんが傷つくよ。私の指紋登録、消そうか?これからは管理会社の人に開けてもらえばいいんだし」

消すと言いながら、彼女は動かなかった。

案の定、怜司が止めた。

「その必要はない。モチには君が必要だ。彼女がすねたからって、今までのやり方を変えることはない」

モチは千晴の腕から飛び降り、私を避けて、慣れた様子で怜司の足元に寝そべった。

彼は身をかがめ、その頭をなでた。

3年前、ペットショップの前で、前の飼い主が手放した茶トラの猫を気に入ったことがある。怜司に3回頼んだ。でも、一度も頷いてはくれなかった。それだけは譲れないのだと思っていた。

今ならわかる。譲れるかどうかも、相手次第だったのだ。

私は彼のために買ったネクタイをバッグから出し、キッチンカウンターに置いた。今日は、付き合い始めて3年の記念日だった。早く来たのは、彼を驚かせて喜ばせたかったからだ。

千晴は箱に目をやると、ふと笑った。

「これ、見覚えがある。怜司、もう持ってなかった?」

怜司は箱を開け、ひと目だけ見た。

「ああ。先月、君が似たものをくれた」

千晴は申し訳なさそうに私を見た。

「ごめんね、知らなかったの。あのネクタイ、怜司にぴったりだと思ってつい……」

怜司は箱の蓋を閉め、私の前へ押し戻した。

「返品しておいで。無駄にすることはない」

「今日が何の日か、覚えてる?」

彼は腕を上げ、時計を見た。

「木曜日」

不意に、千晴のスマホが鳴った。電話を終えた彼女は、少し困った顔をした。

「動物病院から、モチの追加の予防接種の時期だって。でも私、夜は用事があって」

怜司は車のキーを取った。

「俺も一緒に行く」

玄関まで来て、ようやく私を振り返る。

「君も早めに帰って。これからは、俺の返事を待ってから来るように」

私はネクタイの箱を手に取らなかった。ただ、小さな声で尋ねた。

「怜司、私もこの家に自由に入れるようになりたいって言ったら?」

彼は2秒、黙った。

「梓、そんなやり方で俺を試さないでくれ」

目の前で、ドアが閉まった。

……

翌日の午後、怜司からメッセージが届いた。

【昨夜の態度は悪かった。だが、急に押しかけてきた君にも非がある。お互い反省して、この話は水に流そう】

私はその文面を長いこと見つめ、【わかった】とだけ返した。

すぐに、今度は店の住所が送られてきた。

【今夜は部署の食事会だ。俺の同僚に会いたいって、前から言ってただろう?18時に来て】

この3年間、彼は仕事関係の集まりに私を連れていったことがなかった。昨夜の言い争いで、少しは変わってくれたのかと思った。

仕事が終わると、私はわざわざ家に戻り、ワンピースに着替えた。

店に着いたときには、個室はもう人でいっぱいだった。怜司の隣に、一つだけ空いた席がある。

そこへ向かいかけたところで、千晴がケーキを提げて入ってきて、笑顔で言った。

「ごめんね。モチの手当てが長引いちゃって」

すぐに誰かが声をかけた。

「黒瀬家の奥様、お席は取ってありますよ」

千晴が頬を赤らめる。

「そんな呼び方しないで。森川さんもいるのに」

一瞬、個室が静まった。十数人の視線が、一斉に私へ向いた。

怜司は何も説明せず、千晴のために隣の椅子を引いただけだった。

「座って」

私はテーブルのそばに立ち、自分のために空けられているように見えた席を見つめた。

同僚が慌てて取りなした。

「森川さんは、こちらへ。弁護士の河原(かわはら)先生をご紹介します。黒瀬さんから伺いましたが、最近、お仕事でもご一緒されているんですよね?」

私はいちばん端の席に座った。

怜司が私を呼んだのは、恋人だと認めるためではなかった。私たちの会社が共同で入札に参加しているから、契約書の確認を担当する弁護士と引き合わせておきたかった。それだけだった。

食事が始まってからも、話題はプロジェクトのことばかりだった。

怜司は黙々と食べ、ときおり顔を傾けて千晴の話に応じていた。

私の取り皿は、ずっと空のままだった。卓上の料理には、ほとんどピーナッツが入っていた。私は重いピーナッツアレルギーだ。

この店を選んだのは、千晴だった。

付き合って1年目に、ピーナッツのソースをうっかり口にして、病院で手当てを受けたことがある。あの夜、怜司は明け方まで付き添い、私のアレルゲンをスマホにメモしていた。

それくらいは、覚えてくれていると思っていた。

けれど彼は、顔を上げて私を見ただけだった。

「どうして食べない?」

「食べられるものが、ほとんどないから」

「好き嫌いはよくない」

千晴が、すぐに店員を呼んだ。

「サラダを一つ追加してください。ピーナッツは入れないで。怜司、森川さんはピーナッツアレルギーでしょう。忘れたの?」

怜司の手がわずかに止まった。

「……最近、忙しくてな」

謝罪はなかった。代わりに、千晴が優しい声で私を慰めた。

「この人、自分の誕生日も忘れるくらいだから、気にしないで。私たち、10年の付き合いだけど、私のアレルギーまで忘れることがあるの」

同席していた一人が笑った。

「またまた。この前、君がマンゴーアレルギーだって、黒瀬さんは取引先から届いた果物を全部送り返したじゃないか」

別の人が続けた。

「黒瀬さんは物忘れがひどいんじゃなくて、大事なことしか覚えないんですよ」

急に、場が静まり返った。言った本人もまずいと気づいたらしく、気まずそうに酒をひと口飲んだ。

ようやく怜司が眉をひそめた。けれど、その相手は彼らではなかった。

「梓、そんな顔をしないでくれ。みんな冗談を言っているだけだ」

何でもないことのように言われた。

まるで私が恥をかかされたのではなく、場違いな態度を取っただけのように。

私は唇の端をわずかに持ち上げた。

「今夜、私を呼んだのは、仕事の話をするため?」

彼は手を拭いた。

「ほかに何がある?」

「同僚の人たちは、私たちが付き合ってるって知ってるの?」

怜司の目が、少し冷たくなった。

「たかが冗談を、わざわざ人前で問題にするのか?

私的な関係を仕事の場に持ち込む必要はない。君はプロジェクトの協力相手だ。感情的になって、仕事の実力まで疑われるようなことはしないでくれ」

心が一瞬で冷たくなった。私は立ち上がり、バッグを取った。

千晴も立ち上がった。

「帰らないで。あなたに謝るよう、私からみんなに言うから」

「結構です」

私は怜司を見て、静かに言った。

「黒瀬さんのおっしゃるとおりですね。私的な関係で、仕事に影響を与えるべきではありません」

怜司の眉が、ぴくりと動いた。

私は初めて、彼が送ってくれるのを待たずに、一人で個室のドアを開けた。

ドアが閉まりかけたとき、中から同僚のひそめた声が聞こえた。

「黒瀬さん、あの子、本当に恋人なんですか?」

短い沈黙のあと、怜司が平然と答えた。

「まだ、どうなるかわからない。千晴の前で余計なことは言わないでくれ」

……

確かに怜司は、仕事と個人的な感情をきっちり分けている。そのことが、よくわかった。

翌日の午後、入札に向けたリハーサルの前に、アシスタントが新しい進行表を手に、驚きもあらわに駆けてきた。

「森川さん、メインのプレゼン担当の名前、どうして変わっているんですか?」

受け取って、目を通す。

進行表の、もともと私の名前があったメインのプレゼン担当の欄には、はっきりと千晴の名が載っていた。

この住宅プランは、コンセプトから300枚を超える図面まで、私がチームを率いて半年かけて作り上げたものだ。千晴は会議を2回、傍聴しただけだった。

私は進行表を握りしめ、そのまま会議室のドアを開けた。

「怜司、説明して」

彼は身をかがめ、千晴のためにプロジェクターを調整していた。私の声を聞いても、淡々と目を上げただけだった。

「急な変更だ。千晴が説明して、君は質疑応答を担当する。彼女はマーケティング部門の責任者だ。君より説明がうまい」

私は進行表を机に置いた。

「核になるコンセプトも、平面図も、模型も、全部私のものよ。望月さんは図面の寸法を確認したことすらない。どうして彼女がメインのプレゼンをするの?」

千晴はノートパソコンを閉じ、静かに言った。

「あなたの手柄を横取りするつもりはないの。最近のあなたは調子がよくないから、本番で取り乱さないか心配だって、怜司が言ってたの」

「私がいつ、取り乱したの?」

怜司が口を挟んだ。

「昨夜、チーム全員の前で俺たちの関係を問い詰めただろう。あれで、協力し合う雰囲気を壊したんだ」

怜司は椅子を引き、私に座るよう促した。

「梓、俺と千晴が親しくしているのが気になるのはわかる。でも、これは40億円の案件だ。君の機嫌を取るために使うわけにはいかない」

彼の口調は、相変わらず落ち着いていた。けれど、ひと言ひと言が、私のデザイナーとしての実力を否定していた。

「だから、私の成果を彼女に渡すの?」

「説明を任せるだけだ」

「じゃあ、誰の名前を載せるの?」

私は進行表の最後のページを開いた。メインデザイナーの欄まで、千晴に変わっていた。

会議室では、誰も何も言わなかった。チームの何人かは俯き、私と目を合わせようとしない。

怜司は眉間をもんだ。

「クライアントは千晴を買っている。彼女の名前を出したほうが、受注しやすい。案件を取れたら、ボーナスも利益の取り分も、きちんと払う」

千晴が、水の入ったコップを差し出した。

「怒らないで。受注できたら、祝賀会であなたのことも話すから」

私は受け取らなかった。

「このプランの初稿、見たことある?」

千晴は答えられなかった。

怜司はとうとう我慢しきれなくなり、冷たい声で言った。

「今日から、君はプレゼンのチームを外れる。残りの資料は千晴に渡して。今後の会議にも出なくていい」

胸が締めつけられた。

「怜司、何の権利があって、私を外すの?」

「俺がこのプロジェクトの総責任者だからだ」

「著作権は私が持ってる」

「契約書に明記してある。プロジェクトの期間中に生まれた設計成果は、共同チームに帰属する」

彼は私のことをよくわかっていた。あのとき、彼と一緒に仕事がしたくて、契約書を一条ずつ確認しなかったことも。

渡すとき、彼が言ったのはひと言だけだった。

「君に損はさせない」

それで、私は署名した。

千晴が私の前へ来て、優しく言った。

「森川さん、恋愛のことで、みんなの仕事を止めないでくれる?怜司だって、プロジェクトのためにやってるの」

私はプロジェクターの接続ケーブルを抜いた。画面が、突然真っ暗になった。

怜司が私の手首をつかんだ。力は加減していても、振りほどくことは許さない握り方だった。

「やめてくれ。ケーブルをつなぎ直して。プロジェクトが終わったら、埋め合わせはする。

千晴がここで足場を固めるには、この案件が必要なんだ。君はもう2つも賞を取っている。今回くらい、なくても困らないだろう」

私は彼の目を見据えた。

「彼女が必要としてるから、私が譲るべきなのね?」

怜司は正面から答えなかった。

「どうして彼女と張り合う?」

ふいに、争う気が失せた。手首の力を抜くと、彼も手を放した。

私は接続ケーブルを千晴に渡した。

「わかった。あなたが説明して」

怜司の表情が、少し和らいだ。

「仕事が終わったら会いに行く。そのとき、また話そう」

「もういい」

私は背を向け、会議室を出た。

エレベーターのドアが閉まる前に、プロジェクトのアシスタントが追いかけてきて、書類の入った封筒を私に押しつけた。

「森川さん、黒瀬さんから処分するように言われた古い資料です。シュレッダーにかけるところだったんですが、森川さんのものが入っているかもしれないと思って」

私は封筒を開けた。いちばん上にあったのは、3年前の新人デザインコンテストでの申し立ての記録だった。

申し立ての対象者は、千晴。申し立てた側にあるのは、私、森川梓(もりかわ あずさ)の署名だった。

そして、対応方針の最後のページに、怜司が直筆で署名した社内メールが一通、挟まれていた。件名は、ただこう書かれていた。

【森川梓に接近し、申し立ての取り下げを促す計画について】

……

3年前、私は新人デザインコンテストに参加した。決勝の前夜、私の応募作品は何者かによって無断で公開された。千晴は、それとほとんど同じプランで金賞を取った。

私は異議を申し立てた。けれど主催者は証拠不十分だと言い、調停を受け入れるよう勧めてきた。

どうすることもできずにいた私の前に、怜司が現れた。

彼は弁護士に連絡を取り、一緒に証拠を整理してくれた。私が高熱を出したときには、一晩中付き添ってくれた。

その後、証拠を保存したドライブが思いがけず壊れ、申し立てを続けられなくなった。

彼は言った。

「もうやめよう。一度のコンテストのことで、いつまでも立ち止まっていなくていい。君には俺がいる」

それが、彼を好きになったきっかけだった。この3年間、彼が私を愛してくれたと信じられる、たった一つの証拠でもあった。

けれど、そのメールの日付は、私たちが初めて会った日の7日前だった。

私は一枚ずつ、めくっていった。千晴が彼に送ったメッセージがあった。

【森川さんは、まだバックアップを持っているかもしれない。叔父様が、この件が大事になれば、会社の次の資金調達に響くって】

怜司の返信。

【俺が彼女に接触する】

【すごく警戒してるけど、うまくいく自信はあるの?】

【愛情に飢えている人間ほど扱いやすい。少し辛抱強く付き合ってやれば、自分から諦める】

最後のやり取りは、私たちが付き合うと決めた翌日だった。千晴が尋ねていた。

【彼女、申し立てを取り下げた?】

怜司は返していた。

【もうすぐだ。なだめるのは簡単だよ】

手の中で、紙がかすかに鳴った。

ちょうどそのとき、スマホの画面が明るくなった。母からの電話だった。

今日は、母が腫瘍の摘出手術を受ける日だった。怜司は、来ると約束していた。

病院に着いたときには、もう看護師から2回、催促されていた。

母は病院のベッドに横たわり、顔色が悪かった。

「怜司さん、渋滞にでも巻き込まれたの?」

「うん。もうすぐ着くよ」

私は非常階段へ行き、怜司に電話をかけた。

1回目は、出なかった。2回目は、切られた。3回目に出たのは、千晴だった。

「森川さん、怜司は今、手が離せないの」

「彼に代わって」

「モチがいなくなって、捜してるの。臆病な子だし、外は雨でしょう。本当に危ないのよ」

私はスマホを握りしめた。

「母は30分後に手術なの。来るって約束したのよ」

千晴は少し黙った。

「でも、手術はお医者さんがしてくれるし、あなたもいるでしょう。モチには、私たちしかいないの」

怜司が電話を代わった。呼吸が少し乱れ、電話の向こうからは雨音が聞こえた。

「梓、お母さんの手術は覚えている。でも、モチがいなくなったんだ」

「今から来れば、まだ間に合う」

「千晴は心配のあまり、喘息の発作を起こした。こんなところに一人で置いていけない」

「じゃあ、私の母は?」

「よくある手術だし、危険性も低い。君がそばにいるなら、それで十分だろう」

少し間を置き、彼は口調を和らげた。

「言うことを聞いてくれ。モチが見つかったら、すぐに行く」

言うことを聞いてくれ。3年前、申し立てを取り下げるよう説得したときも、彼はそう言った。

「梓、言うことを聞いてくれ。もう追及はやめよう。君なら、これからもっといい作品を作れる」

私は冷たい壁にもたれ、尋ねた。

「怜司、最初に私へ近づいたのは、望月さんのためだったの?」

電話の向こうが、急に静かになった。傘をたたく雨音だけが聞こえる。

その沈黙が、すでに答えだった。

「……何を言いたい?」

「そうか、違うか。それだけ答えて」

「昔のことは複雑なんだ。電話では説明しきれない」

「つまり、そうなのね」

怜司の声が低くなった。

「最初に君へ近づいた理由には、確かに彼女が関わっていた。でも、そのあとは違う。梓、そこにこだわりすぎないでくれ」

「証拠の入ったドライブ、誰が壊したの?」

「知らない」

答えるのが、あまりにも早かった。

そばで千晴が泣きながら、モチの名前を呼んだ。

怜司はすぐに言った。

「ひとまず切る。またあとで連絡する」

通話が切れた。

看護師が非常階段のドアを開けた。

「森川さん、お母様が手術室に入られます」

私は頬を濡らしていた涙を拭った。

手術室へ運ばれながらも、母は私を慰めていた。

「怜司さんを責めないでね。仕事は大事だから」

私は母の手を握り、笑顔で頷いた。

4時間後、手術は無事に終わった。

ようやく怜司からメッセージが来た。

【猫は見つかった。お母さんはどう?】

私は返事をしなかった。

昔の申し立ての記録をすべてスキャンし、3年間使っていなかったメールアカウントに再びログインした。

宛先の欄には、コンテストの実行委員会、共同プロジェクトのクライアント、そして業界団体の通報窓口のアドレスを入れた。

添付したのは、当時の手描きの原稿だけではない。怜司の社内メールと、たった今見つけ出したクラウドのバックアップ記録も加えた。

最後に、共同プロジェクトの管理画面を開いた。

設計の使用許諾を取り消す。自分の電子署名を削除する。

画面に、続けて二つの警告が表示された。

【取り消すと、このプロジェクトは入札への参加を継続できなくなります】

【よろしいですか?】

私は確認ボタンを押した。

同時に、怜司から音声メッセージが届いた。

「梓、君の指紋も登録していい。もうすねないでくれ。今夜、病院へ迎えに行く……」

最後までは聞かなかった。

画面の中で、通報メールの送信状況を示すバーが、端まで伸びた。

送信完了。

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cristina buelta gonzález
cristina buelta gonzález
Una saga impresionante. Igual que la escritora
2025-12-08 23:35:56
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Leticia Rodarte
Leticia Rodarte
Fuertisimo de verdad! Me encantaron los q anteceden a este libro pero este esta fuertisimo, excelente escritora .........
2025-09-27 14:25:11
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Mileisis Rodriguez
Mileisis Rodriguez
tremendo libro ...️ estoy encantada gracias querida escritora saludos desde República Dominicana ...
2025-07-12 11:57:07
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Clarelys Tarazona
Clarelys Tarazona
Hipnotizada y encantada! ...️
2025-07-11 23:01:09
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Luci Gc
Luci Gc
Un excelentísimo libro, atrapante con mucho dolor suspenso. Felicidades Monica Entre a checar la continuación y ya está gracias. Bendiciones
2025-06-26 14:42:33
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191 Kabanata
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