Vickie: Médecin par Jour. Zombie Hunter par Nuit [Livre 1]

Vickie: Médecin par Jour. Zombie Hunter par Nuit [Livre 1]

last updateDernière mise à jour : 2021-09-04
Langue: French
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Synopsis

Lorsque la Dre Vickie Anderson s’installe dans une petite ville pour devenir leur médecin local, elle ne réalise pas ce qui l’attend. L'homme doux et sexy dont elle tombe amoureuse se révèle être un vampire, la femme gentille et sage avec laquelle elle se lie d'amitié se révèle être une sorcière et le shérif "hottie" local est un chasseur de zombies! Mais alors, tout le monde le sait aussi. Vickie doit découvrir si elle a ce qu'il faut pour vivre comme médecin le jour et chasser les zombies la nuit.

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Chapitre 1

1

「俺とお前なら、最強になれる」

春の風が木々を揺らす中、弟は兄の言葉を聞いていた。紅玉のような瞳で、兄の銀朱の瞳が向かう先を見る。どこまでも青い空が、葉の隙間から覗いている。

「師匠だって超えられる。妖魔だって龍だって狩れる、最強の狩人に、だ。だろ、|春香《はるか》」

春香と呼ばれた弟は、まだそう大きな肉体をしていない。まだ数えで十一なのだ。

「だが、兄上。大陸に行くんだろう? 武者修行だとか……」

岩の家に並んで腰かける二人。兄の銀髪と、弟の黒髪。

「四年もすれば帰ってくるって。そんときゃ手紙を送る。港で出迎えてくれよ」

兄の名は、|鷹眼《たかめ》。その名に違わぬ鋭い瞳が、再び弟と見える時。二人の夢は、終わる。

◆

鶏の朝鳴きが屋敷に響いた。薄明の空の下で、男たちが動き出す。庭の井戸の周りに集えば、褌姿の彼らは、

「若様、おはようございます!」

と頭を下げて叫んだ。

「ああ、おはよう」

若様。その名を|雷業《らいごう》春香という。彼もまた、褌だけだ。男たちにも負けず劣らず、筋肉質な五尺八寸の体を明るくなり始めた空の下に晒している。肉体から滴り落ちる水はそのままに、縁側へと向かう。

「しかし、若様は早起きでいらっしゃいますな。流石、雷業家の跡取りというだけのことはある」

「お世辞はいい。水浴びを済ませろよ」

総髪の春香は縁側に置かれた手拭いを取り、体を拭き始めた。桃の花が散って、板の上に落ちる。

すっかり水滴を拭った彼は、足の裏を拭いてから縁側に上がる。座敷に入ると、老婆が待っていた。

「朝餉の用意が出来ておりますよ」

「ありがとう。腰の様子はどうだ?」

「ご当主の手配してくださった薬がよく効いております。ご心配なさらず」

腰の曲がった老婆に連れられ、春香は奥座敷へ。既に配膳も終わり、コの字に膳が並んでいた。春香は、上座の斜め前に着く。

「父上、おはようございます」

「うむ」

父、|春成《はるなり》。息子と同じ、紅玉のような瞳と夜の色をした黒髪だ。が、両頬には鱗めいたものが浮かんでいる。そこから首を這い、胸元にまで伸びる。ただの紋様ではなく、死期の近いことを告げる、狩人にとっての砂時計だ。

「兄様、森の様子はいかがでしたか?」

父の鱗が、また増えていることに顔を背けるしかなかった春香は、向かいにいる妹の夏目にそう問われた。琥珀色の目と、銀色の髪は隣の母によく似ている。

「下らん妖魔と会った。一撃で殺せる、大したことのないやつだ」

今日の献立は、麦飯に、蕗の薹の味噌汁。あとは魚の干物と漬物だ。

「いただきます」

合掌して、春香は箸を執った。

「今日、件の留学生が来る」

春成が、ずっしりとした声で言った。

「歴史学者を目指す少女、でしたか」

春香の確認に、父はそっと頷く。

「身の回りの世話はさせるが、春香、お前が近くにいろ」

「俺が、ですか」

父の真っ赤な瞳が、ちらりと春香の体に向けられる。

「お前も今年で十五だ。女を知るには、十分な頃合いだろう」

「しかし、俺は……」

「二年前のことか?」

その声音がいつも以上に質量を持っていて、春香はそれ以上の言葉を発せられなかった。

「いつまでも引きずるな。我々は狩人。迷えば、死ぬぞ」

「……はい」

銀髪の母に、春香は助けを求めるような視線を送る。だが、彼女は何も言わずに食事をしていた。

「それと、鷹眼より手紙が届いている」

鷹眼、と兄の名前が出た時、春香の表情は花が咲いたように明るくなった。

「南の港に、あと一月二月もした頃に戻るとのことだ。会いに行ってもよかろう。世界が如何に広いかを知るに、いい機会だからな」

それから食器の擦れる音ばかりが響いた。だが、春香の顔には確かな高揚があった。

(兄上に会える)

そう思いながら、麦飯を掻き込む。

(また、一緒に稽古ができる!)

自然と、箸も速く動く。大陸から渡ってきた時計は、十五分の時を刻んだ。

「留学生の出迎えは、春香、お前が行け。なるたけ早く、な」

使用人が膳を片付ける中、春成が指示を下した。

「では、家来を幾人か連れて行きたいのですが」

「構わん。好きにしろ」

春成が席を立ったのを見て、朝餉の時間に終わりが来たことを春香は悟った。

私室に戻り、灰色の袴を穿く。黒い羽織を着る。左腰には、真っ赤な鞘で包まれた打刀と脇差を差す。

(留学生……リズ、と言ったか)

玄関に向かい、大陸からやってきたブーツというものを履いた。

(恥ずかしい様は、見せられんな)

庭の厩まで向かう。小鳥の鳴き声や葉の擦れる音は、ここに届くこともない。春香ら狩人を補佐する侍たちが、エイヤ、セイと声を挙げて稽古に励んでいるのだ。そんな彼らに呼び掛けるため、春香はスーッと息を吸った。

「留学生を迎えに行くぞ! 先に着いた三人を連れて行ってやる!」

そう声を響かせれば、上裸の男衆がわっと駆け寄ってくる。わたくしが、いや某が、と言いつつ、まるで雪崩のように厩の前で積み重なった。春香の溜息に、皆失笑するのであった。

さて、四人と四頭は、この|雷天《らいてん》の街から、北西へと進む。速歩の馬上で、侍の一人がこう言った。

「若様も、どんな美人さんが来るのかってドキドキしてるんじゃあないですか?」

「やめてくれ、そういうことではないんだ」

二年前。春香は喪失を経験した。まだ、前を向けそうにはない。

木々の並ぶ街道を抜け、港町へ。山から見下せるだけが全ての、小さな町だ。だが、既に、真っ黒な蒸気船が桟橋の横につけてあった。

「おっと、もう着いてるようですな。急ぎましょう、若」

トトットトッ、と地面を蹴る音を聞きながら、春香は斜面を下った。

木と漆喰の町を進んでいると、汽笛の音を聞きつけて外に出る町民の姿があった。

「なんだい、あのお船は……」

昼時の蕎麦屋から、そんな呟きも聞こえてくる。桟橋に至れば、最早ない。

丁度、舷梯を下る少女がいた。赤い着物に、白い袴、白い帯だ。春香は、その顔をじっと見つめてしまった。金を編み込んだような、肩ほどまでの金髪に、空でも敵わないほどに青く大きな瞳。手綱を握る手に、自然と力が籠る。

が、まずは挨拶をしなければならない。彼は下馬し、手綱を引きながら彼女へと近づいた。

「雷天より参った、雷業春香だ」

「リズ・ユヤデオナです。よろしくお願いします」

リズと名乗った少女は、そっと握手を求める。応じた春香はその手の小ささに、かつての恋を重ねてしまった。

「馬に乗ったことは?」

内心は隠して、彼はリズに尋ねる。

「手綱を握ったことは、ありません」

「そうか。なら乗るといい」

リズを腕の中に納めるような恰好で、彼は馬の腹を蹴った。

「荷物はないのか?」

「今晩、船便が届くそうです」

街の中を抜けていると、リズの金髪は耳目を自然と集めていた。

「その、春香、さん? は既に狩人としてお仕事を?」

「ああ。父の妖魔狩りを手伝うことがある」

「凄いんですね、私と年が変わらないのに……」

馬の列は森の中に入る。

「東方語が随分と上手いようだが」

木漏れ日を受けながら、春香はそう口にした。

「歴史家の卵ですから。広く歴史を学ぶには、広く言語を理解しなければならないんですよ」

「博聞強記、か……」

道程の四分の三を過ぎた頃。太陽も傾いている。開けた泉に立ち寄り、馬に水を飲ませていた。

「歴史家というのは、何をするんだ」

冷水に触れるリズへ、春香は上から尋ねる。

「時に、人は歴史を歪めようとします。それを防ぐために、多くの記録を読み込み、真実を見つけ出す。そういう仕事です」

「随分と重い使命なのだな」

そう彼が呟くように言った時、後方の茂みでガサガサと音がした。と思えば、腐乱した犬の死体のようなものが、飛び掛かってくるのだ。

「きゃあっ!」

リズが声を挙げた刹那、春香は振り向き様に刀を一閃。斬り捨てた。その刃には、稲妻が走っている。

「妖魔か。気づかなかった」

「あ、あれが妖魔なんですね……」

リズは震える声を出す。振り返った春香は、彼女の体が馬にへばりついているのを認めた。

「怪我はないか」

「は、はい。妖魔というのは、確か──」

「──死骸に魂が入り込んだ、怪物。安心しろ、狩人がいる限り、誰も傷つけさせはしない」

脚ががくがくと笑っている彼女を、春香の腕が馬に乗せる。

「急ごう。また出るやも──」

そこで、進行方向の東から激しい蹄の音が響いてきた。

春香も、侍たちも、黙って刀を抜いた。何奴か、と思いながら息を潜める彼らは、すぐにその正体を知る。

「伝令、でんれーいっ!」

森から飛び出すなり、馬を操っていた侍が叫んだ。

「若様! 春成様が、お斃れに!」

「……何?」

刀を納めることも忘れ、春香は低い声で問う。

「敵か、妖魔か⁉」

彼がそう問いを重ねる間に、伝令の侍は跪いていた。

「……病でございます」

病、の三音で彼は全てを理解する。

「|幽世竈食《かくりよへぐい》の病……!」

狩人なら避けられぬ、致命の病。そう、春成は、死んだ。

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