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第5話

Author: 桜庭 しおり(さくらば しおり)
陵は、複数の不動産を所有していた。

けれど、その中で叶音の名義になっている家は、たった一軒だけだった。

その家は、すぐ隣の住宅街にある。妊娠がわかったとき、高瀬家の家族が彼女のために用意した贈り物だった。

いま、彼と離婚を決意している——せめて、ここ数日は静かに過ごしたい。

小夜も、陵も。もう、視界に入れたくなかった。

だから、叶音は提案した。

「隣の住宅街に空き家があるでしょう。早見さんに使ってもらえばいいんじゃない?」

「……あそこは、お前の名義だろ」

陵は眉をひそめた。いつもなら渋るはずの叶音が、こんなにあっさり譲ろうとすることに、わずかの違和感を覚えた。

「必要なら、使ってもらって構わないわ」

そう言い残し、叶音は踵を返して階段を上がろうとした。

「粥、食べないのか?」

背後からかけられた声に、彼女は一度だけ振り向いた。

「いらない」

叶音は、もともと海鮮が苦手だった。特に、海鮮を入れた粥は。

寝起きに階段を降りると、リビングには誰の姿もなかった。

そこにいたのは、後片付けをしている家政婦だけ。

「奥さま、旦那さまと早見さまは、隣の住宅街の家に行かれましたよ」

「……うん」

ただ、それだけ。心の中には、何の感情も湧かなかった。

しばらくして、陵から電話がかかってきた。

「今夜は帰れない。小夜が暗いのを怖がるから、付き添ってやる」

「わかった」

あまりにも素直な返事に、電話の向こうで陵が一瞬だけ戸惑った。

「ごめんな、叶音。小夜は子供みたいに怖がりで、夜ひとりじゃ眠れないんだ。だから今夜はここにいてやる。明日はお前の誕生日だろ?必ず帰るから」

「うん」

叶音は短く答え、通話を切った。

静まり返った家の中で。彼女は、無言でリビングを見渡した。

壁には、子供の写真やイラストがぎっしり貼られている。

妊娠を願って、陵の母が飾ったものだった。

妊娠しにくい体質の叶音は、長い間、漢方薬を飲み続け、ようやく子どもを授かったのだった。

けれど今——その子は、もういない。

そして、陵との離婚も、心に決めていた。

ならば、これらの写真も、もはやここに存在する理由はない。

叶音は脚立を取り出し、壁に貼られた絵や写真を、一枚一枚、無言で取り外していった。

慌てた家政婦が駆け寄る。

「奥さま、そんな高いところに登ったら……お腹のお子さんが……!」

「もう、いいの」

静かで、けれどはっきりとした声だった。

取り外した全ての絵をゴミ袋に詰め、家政婦に処分を頼んだ。

その後、叶音は弁護士に電話をかけ、翌日家に来るよう依頼した。

弁護士は彼女の依頼に応じて契約書を作成した。

「高瀬さん、本当に……何も主張されないということでよろしいですね?」

「はい。何もいりません」

彼女は、もう陵とこれ以上、何一つ関わりたくなかった。家も、車も、財産も——何もかも要らなかった。

お金に困っているわけじゃない。

ただ、陵のお金を、自分のものにする必要はなかった。

「わかりました。こちらの内容をご確認いただければ、すぐに印刷したします」

「お願いします。印刷が終わったら、署名のために事務所へ伺います。それと……離婚の件は、しばらく夫には内密にしておいてください」

「……承知しました。それでは、失礼します」

弁護士は、言いかけた言葉を飲み込み、深く一礼して立ち去ろうとした。

扉を開けたそのとき、陵が帰ってきた。

この弁護士は、普段から高瀬家の会社の案件を担当していたため、家で顔を合わせるのは少し違和感があった。

「上野先生?どうして家に?」

「ええ、奥さまに呼ばれまして……それでは、失礼します」

弁護士はそそくさと立ち去った。

「弁護士呼んで、何してたんだ?」

「大したことじゃないわ」叶音は淡々と答えた。

ちらりと陵を見上げた彼女の視線の先には、疲れ切った彼の顔があった。

目の下には、深いクマができている。

「昨日、よく眠れなかったの?」

なんとなく問いかけると、陵は笑いながら答えた。

「小夜がさ、怖がりのくせにホラー映画を観たいって言い張ってさ。一晩中、付き合わされたんだ……だから、ちょっと疲れた」

楽しそうに話す陵。

彼自身も気づいていなかっただろう。

小夜の話をするとき、彼は本当に嬉しそうに笑っていた。

あんな笑顔、最後に叶音に向けて見せたのは、妊娠を伝えたあの日。

それ以来、彼女には、一度も向けられたことがなかった。

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Comments (1)
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亜矢
妻の妊娠が分かっているのに、意味不明な旦那の行動
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