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のちに煙雨すべて散りて

のちに煙雨すべて散りて

By:  桜庭 しおり(さくらば しおり)Completed
Language: Japanese
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氷川叶音(ひかわかのん)と高瀬陵(たかせりょう)の結婚三周年記念日。 彼はすべての友人たちを招き、盛大なパーティーを開いた。 だが、叶音が会場に足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んできたのは—— 陵が片膝をつき、幼なじみの女性に指輪を差し出している光景だった。 沈んだ声で問い詰める叶音に、陵はただ苛立たしげに言い放った。 「ただの罰ゲームだ」 それから、ほどなくして。 彼は幼なじみを庇うため、自らの手で叶音を階段から突き落とした。 そして彼女は、お腹の子を失った。 その時、叶音はようやく目を覚ました。 かつて彼女は、陵に五度のチャンスを与えると決めていた。 しかし、その五度は、すでに全て終わっていた。 「陵、私たち、離婚しましょう」

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Chapter 1

第1話

氷川叶音(ひかわかのん)と高瀬陵(たかせりょう)の結婚三周年記念日。

彼は友人たちを招き、盛大なパーティーを開いた。

だが、叶音が会場に足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んできたのは——

陵が片膝をつき、幼なじみである早見小夜(はやみさよ)に指輪を差し出している光景だった。

広々とした個室に、友人たちの歓声が沸き起こる。

「答えて!答えて!」

「キスだ、キスだ!陵、せっかくのチャンスだぞ。結婚してても小夜のことが好きなの、みんな知ってるんだから!」

「ちょっと、やめてよ!叶音さんに見られたら、まずいよ!」

小夜は恥ずかしそうに顔を伏せた。

「だって、叶音さん、今妊娠してるし……怒らせたらだめだよ」

「陵、ここでビビるな!これは罰ゲームだぞ!いいチャンスだ!キスしなきゃ!」

熱気に包まれた中で、陵は目の前の小夜に心を奪われ、そっと唇を寄せた。

その刹那——

「何をしているの?」

静かだが鋭い声が、扉の方から飛んできた。

場の空気が凍りつく。友人たちは慌てて取り繕い始めた。

「な、なんでもないよ、叶音さん!ただの遊びだから!」

「遊び?キス寸前で?」

冷えた声で問い返す叶音に、友人たちは視線を逸らしながら、次々と逃げ出した。

「俺、用事思い出したわ!」

「俺も……あ、あの、陵さん、叶音さん、結婚三周年おめでとう!」

あっという間に、室内は人気が消えた。

苛立ちを隠しきれない陵は、吐き捨てるように言った。

「もういいだろ。ただの罰ゲームだったんだ。そんなに怒る必要がある?」

叶音はそっと膨らみ始めたお腹に手を当て、その温もりを確かめるようにして、目の前の男を見つめた。胸の奥には、じわじわと失望が満ちていった。

妊娠三ヶ月。今日という日、彼がきっと特別なサプライズを用意してくれていると信じていた。

だが現実は——想像を遥かに裏切る、最悪の裏切りだった。

「陵さん、怒らないで。叶音さん、きっと誤解してるだけだよ」

小夜がお茶の入ったグラスを手に、そっと近づいてきた。

「叶音さん、本当にごめんなさい。さっきのはただのゲームだったんです。陵さんが私を好きだなんて、絶対に信じないでください。みんなの代わりに謝ります」

彼女は、友人たちが口にした言葉を、あたかも自然な会話の一部かのように織り交ぜながら、さりげなく強調した。

差し出されたお茶を見た叶音は、反射的にお腹をかばった。

その瞬間——

「きゃっ、痛い!」

小夜の悲鳴。

彼女は大げさに倒れ込み、熱いお茶が手にかかって、たちまち皮膚が赤く腫れ上がった。

陵は血相を変え、小夜を抱き上げた。

「小夜、大丈夫か!?」

「大丈夫……陵さん、叶音さんを責めないで。きっと、わざとじゃないから……」

叶音は、その光景を見て、思わず笑い出しそうになった。

本当に、見事な演技だった。

自分は彼女に一切触れてなどいなかったのに。

それなのに——

「叶音、自分が何をしたかわかってるのか?怒りを俺にぶつけるのは勝手だ、小夜にまで……!妊娠してるのにそんなことして、もしお腹の子に罰が降りたらどうするつもりだ!」

——この女を慰めるために、自分の子供まで呪うなんて。

言い捨てたあと、陵は小夜を抱き上げたまま、その場を後にしようとした。

叶音は二人の後を追い、階段を降りながら、陵の腕を掴んだ。

「ね、どこへ行くの?今日は私たちの結婚三周年よ。他の女を抱えて帰るつもり?」

「放せ!小夜に何かあったら、絶対に許さない!」

「何かって?ただの火傷でしょう?それに私は触ってもいない。彼女が勝手に転んだだけよ!」

必死に訴える叶音。

だが、陵は、微塵も彼女の言葉に耳を貸さなかった。

三年前も。

そして三年後の今も。

彼の心は変わらず、小夜に向いたままだった。

「まだ言い訳するのか!どけっ!」

怒声とともに、陵は叶音を強く突き飛ばした。

体勢を崩した叶音は——

重力に引かれるように、階段を転げ落ちていった。

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