LOGIN結婚式の前日、婚約者の山崎哲也(やまざき てつや)が突然、私にこう言った。 「結婚式は一週間、延期しよう。急な出張が入ったんだ」 哲也の冷たい態度を見ていると、私は昨日の夜、彼の秘書から届いたラインが頭をよぎった。 【結婚式の前に、哲也さんと一緒に世界一周旅行に行きたいの。綾菜(あやな)さん、許してくれるよね?】 そう思いながら私は哲也の言うことを受け入れ、黙って結婚式をキャンセルした。 次の日、哲也と青木莉子(あおき りこ)は、エッフェル塔の下で情熱的に抱き合っていた。 その頃、私は一人で病院へ行き、お腹の子どもをおろした。 3日目。哲也と莉子は、ブルジュ・ハリファの大きな窓の前で肌を重ねていた。 そして私は、哲也の母親の山崎久美子(やまざき くみこ)に、もう哲也とは二度と会わない、と告げた。
View Moreそれを聞いて、私はとっさに体がこわばった。もう完全に吹っ切れたと思っていたのに……哲也を見た瞬間、抑えきれない怒りがまたこみあげてきたのだ。真司はそんな私の様子に気づいたのか、そっと私の手を叩いた。「大丈夫、俺がいる。それに今日こそ、そろそろけりをつけないといけないからな」そう言って、真司は私の目をじっと見つめてくれた。その眼差しは、今まで感じたことのない力を与えてくれた。真司の言いたいことが分かって、私は静かにうなずいた。それから、真司は私を連れて哲也の前に立った。哲也は私の姿を見ると、慌てて叫んだ。「綾菜、やっと会ってくれたんだな。俺が悪かった。本当にずっと後悔していたんだ。もう心を入れ替えたんだ。これからはお前だけに愛情を注ぐから、どうか俺を許して、そばに戻ってきてくれないか。綾菜、お前がいないと俺はだめなんだよ!」その耳障りな言葉に眉をひそめ、私が口を開こうとしたその時、真司が割って入った。「山崎、君のお父さんに免じて山崎家を見逃してやったのに、よくも綾菜の前に顔を出せたな。君が綾菜を傷つけたせいで山崎家がこうなったんだと、俺は警告したはずだがな。俺の警告を忘れたのか」真司のたった数言に、私の心は激しく揺さぶられた。私を傷つけたせいで、山崎家が今の状況になったって、どういうこと?ふと、あることを思い出した。私が入社して間もなく、真司が突然現れたことを。「山崎、これが最後の警告だ。今後、俺の婚約者に二度と妙なことを口にしたら……その時は山崎家を跡形もなく消してやる」そう言う真司の言葉には、紛れもない殺気がこもっていた。すると、哲也は思わず身震いし、何かを言おうと口を開いた。しかし、結局何も言えず、彼はすごすごとパーティー会場を後にしていくしかなかった。哲也が去った後、真司は再び私に視線を向けてきた。私がその場で呆然としているのを見て、真司の瞳に一瞬、焦りの色が浮かんだ。「綾菜、どうしたんだ?大丈夫か?」そんなに心配そうに尋ねる真司の声は、少し震えていた。「社長、さっき、私のために山崎家をここまで追い詰めたって……言いましたよね?」すると、真司は、急に黙り込んでしまった。その時、後ろから誰かが近づいてきた。なんと、長年海外で暮らしていた親友だったので、私は
それを聞いて、私も怯んでしまい、ただ黙って、真司から宣告されるのを待つしかなかった。ところが、真司はまた電話に出た。話の内容はよく聞こえなかったけれど、私の頭の中は「もう終わりだ」という言葉でいっぱいだった。どれくらいの時間が経っただろう。真司がようやく電話を終えた。彼は振り返ると、氷のように冷たい視線を私に向けた。「昨日の件で、会社は大きな損害を被った。よって……」その言葉を聞いて、私は一瞬凍りついてしまいそうになった。この仕事は本当に好きで、自分の居場所を見つけられたと思っていたのに。そう思って、私は慌てて、真司に必死で頼み込んだ。「社長、すみません!こうなるとは思いませんでした!どんな仕事でもやりますので、どうか、クビにだけはしないでください!」「クビにするとは言っていない。ただ、会社からの指示に君が従えるかどうかを聞きたいだけだ」その言葉を聞いて、私は天にも昇る気持ちだった。「もちろんです。どんなことでも、喜んでお受けします」私がそう答えると、真司の瞳の奥に、ほんの一瞬、喜びの色がよぎったのが見て取れたようだった。けれど、その氷のような表情は変わらないままだった。「そうか。では、今から君は俺の恋人だ。来月、俺の実家に挨拶に来てもらう。婚約をしよう」「はい、もちろ……えっ?社長、今、なんとおっしゃいました?」思わず反射的に答えてしまったけど、その言葉の意味を理解した瞬間、私はその場で固まってしまったのだ。一方で、私が固まっているのを見て、真司がこちらへ歩み寄ってきた。「何をぼうっとしている。何か不満でもあるのか?」私がなんとか気を取り直して、顔を上げて真司を見ると、彼は私の様子に眉をひそめているのだった。「会社の評判を回復させるためだ。君が俺の恋人ということになれば、今回の騒動も自然と収まるだろう」言われてみれば、確かにその通りかもしれない。「つまり、恋人のフリをするということですね、社長?それでしたら、私に異存はありません!」私は慌てて背筋を伸ばして答えた。そして、とんでもない勘違いをしてしまった自分を少し恥ずかしく思えた。すると真司は冷たく「ああ」とだけ答えた。だけど、その表情には何か特別な感情が隠れているようだった。こうして、私は真司の恋人役として、様々なパー
「もうわかったから、俺が悪かった。戻ってきてくれ」しかし、私は哲也のその自信に満ちた姿に吐き気を覚えた。「哲也、まさか私があなたじゃなきゃダメだとでも思ってるの?私の彼氏と比べて、あなたに勝ち目なんてあるかしら。家柄?能力?一途なところ?それとも、ベッドでのテクニック?はっきり言わせてもらうわ、あなたは真司さんの足元にも及ばない」そう言われて、哲也の顔はみるみるうちに暗くなったけど、それでも歯を食いしばって強がって言った。「信じない」そんな彼を見て、私は呆れて言葉も出なかった。哲也のそのふてぶてしい態度には、本当に嫌気がさしてならないのだ。私がどう言い返そうか考えているうちに、腰に回された手にぐっと力が入ったのを感じた。次の瞬間、真司が唇を重ねてきたのだった。私は一瞬きょとんとしたけど、すぐに胸が高鳴って、そのキスに応え始めた。そして、一分ほどキスを続けたあと、私たちはようやく離れた。それから、私はその場にひざまずいている哲也を冷たく一瞥して、真司の腕に手を絡め、社長室に向かって歩き出した。それを見て、哲也はかすかに震えていた。でも、まだしつこく食い下がろうと追いかけてきて、私の腕を強く掴んだ。あまりの痛さに、私は思わず声をあげてしまった。すると、真司は眉をひそめ、哲也の手首を掴んで言った。「山崎、彼女が痛がっているのが見えないのか?」そして真司が力いっぱい腕を振り払うと、哲也は勢いよく地面に尻もちをついた。でも、哲也はそんなこと気にも留めない様子で、また駆け寄ってきた。「綾菜、嘘なんだろ?なあ、綾菜。お前がこいつと一緒にいるなんて、ありえない。綾菜、俺は本当に間違ってた。あれから、ずっと反省していたんだ。莉子もクビにしたから。今、俺の心にはお前しかいないんだ。戻ってきてくれないか?すぐにでも結婚しよう。俺のすべてをお前にやるから」しかし、私は哲也が手にしている指輪を見て、鼻で笑った。「哲也、あなたって本当に面倒くさがりね。その指輪、青木さんのために用意したものだって、私が知らないとでも思ってるの?」そう言って、私はまた真司の腕を取り、社長室の中へと向かった。哲也はまだ諦めていなかったけど、真司を前にしては、彼も何もできなかった。真司は哲也を押しとどめると警備員を呼び
これまでずっと、私は哲也に尽くしてきて、もうどうしようもないくらい、彼のことを愛してきた。ここまで青春を捧げたのに、結末がこんなにみすぼらしいなんて。でも、これからは新しい人生を始めるんだ。昔の自分、本当の自分を取り戻すんだ。こうして、私は過去の全てにきっぱりと別れを告げ、実家に戻ると、哲也に関わるものも、一つ残らず処分したのだった。それから半年間、私は心と体を休めることに専念した。あの時の私は、医者が驚くほど危険な状態だった。もう少し無理をしていたら、一生子供が産めない体になるところだったらしい。その後、実家で紹介してもらった新しい仕事に就くと、私はまた新たな運命の荒波へと引きずり込まれてしまったのだ。ただ、今回は今までとは少し違うみたいだ。ただ、今回は今までとは少し違うみたい。私が入社して間もなく、松本真司(まつもと しんじ)という名の新しい社長が就任したのだ。当時同僚たちは、真司のことを陰でこう呼んでいた。「鬼上司」と。それは多分、真司のハイスペックな仕事ぶりからきているのだろう。彼はいつも午前中に下された決断を、午後には着地させるようにと要求していたのだ。そして彼自身もまた、いつも人を身震いさせるほど冷酷な面持ちなのだ。それによって、全社員の仕事量は急激に増えた。もちろん、それと同時に給料も上がったけど。そうして、私が入社して一ヶ月ちょっとで、会社は赤字から黒字に転換した。私も多くのことを学び、社内で確たる地位を築けたのだった。そしてついに、社長秘書にまでなったのだ。一方で、哲也は私が秘書になったことが知れたからか、会社の住所を突き止めて、乗り込んできた。「綾菜、やっと見つけた。俺が悪かったよ。お前と離れてみて、ようやく気づいたんだ。俺に対して本気だったのはお前だけだって。俺が心から愛すべきなのは、お前だけなんだ」哲也は私を見るなりそう言いながら、片膝をついて、持っていた花束と指輪を差し出してきた。「綾菜、許してくれ。もう一度やり直そう、な?」そんな哲也の行動は、当然、同僚たちの注目を集めた。「あれ、山崎グループの山崎社長じゃない?うちの会社とはライバル関係だから、ずっとマークしていたのよ」「すごくロマンチック……和田さんって本当に幸せ者だね。私だったら、絶対プロ