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第3話

مؤلف: 福うらら
この瞬間、浩介に対する私の想いは、完全に冷めきった。

知り合って十五年、付き合って十年。たとえ飼い犬だって、そこには情が生まれるはず。それなのに、この仕打ち!

考えが変わった。

結婚はキャンセルしない。式から逃げるのは、私のほうだ。

浩介が私を捨てる計画を立てていた時、私の気持ちなど微塵も考えなかっただろう。

ならば、私が彼の都合を考える義理はない。結婚式当日、惨めな道化を演じるのは、彼の番だ。

目の奥が熱くなるのをこらえ、私は119番に電話した。

救急車に乗るやいなや、高熱で痙攣を起こして意識を失ったらしい。目を覚ました時、看護師が言った。

「本当に、早く救急車を呼んで正解でしたよ。一人でいたら、命の危険もありましたよ」

その言葉と同時に、浩介から電話がきた。

「会社で急用ができた。そっちには戻れないから、自分で薬でも買って飲んでおけ」

それだけを一方的に告げると、彼は慌ただしく電話を切った。心配の言葉一つなく。

かつて彼がただの風邪を引いた時でさえ、私は片時もそばを離れなかったのに。

彼が家族を亡くし、毎晩悪夢にうなされていた時、私は夜通しその背中をさすり続けたのに。

恩に着せるつもりなど毛頭ない。彼を愛していたから、尽くすのは当然だった。見返りなど、求めたこともなかった。

それなのに、私が高熱で死にかけている時に、彼は生理痛の女に付きっきりだと?

……笑わせる。

私は躊躇わなかった。スマートフォンを手に取り、浩介の宿敵である大友聡(おおともあきら)に連絡を入れる。

「大友社長。以前から湊家の株にご興味がおありでしたよね?私の持ち分、お売りします」

……

二日後、退院した私のもとに、ウェディングフォトの店から電話があった。

「相沢様、挙式まであと二十日を切りました。今から五日以内で撮影のご都合がつく日はございますか?これ以上遅れますと、お式に写真が間に合わなくなってしまいます」

「主人に確認して、折り返します」

浩介に電話をかけると、着信拒否された。メッセージも既読にならない。私は直接、彼の会社へ向かった。

秘書課の同僚に聞くと、「今日は白石特別補佐の入社日でして。社長が歓迎会を開くため、皆さんを連れてホテルに向かわれました」とのことだった。

ホテルの名を聞き、タクシーに飛び乗る。

私が彼の特別補佐になった時、会社は火の車で、歓迎会どころではなかった。休みなく働き、一日に二食とれれば上等、睡眠は五時間以下という毎日。

それなのに、灯里の入社祝いは、私の婚約披露パーティーよりもずっと豪華だった。

宴会場が祝賀ムードに包まれる中、私に気づいた浩介が飛んできて、有無を言わさず腕を掴み、外へと引きずり出した。

「今日は義姉さんの晴れの席だ。ここで騒ぎ立てて、彼女に恥をかかせるな!」

「彼女が、あなたの特別補佐に?……では、私はどうなるの?」

必死に平静を装っても、声は無様に震えてしまう。

高熱で生死の境を彷徨った私に、彼がよこしたのは「休暇だ、休め」という一方的なメッセージだけ。

今日ここに来なければ、自分が解雇されたことすら、知らずにいたなんて。

彼の底知れぬ非情さに、奥歯を噛みしめる。

浩介は苛立たしげに舌打ちすると、ティッシュを一枚、私の目元に乱暴に押し付けた。

「泣くな、みっともない。お前も長年尽くして疲れただろう。だから、ゆっくり休ませてやろうと思ったんだ。これは、俺なりの優しさなんだよ。

そもそも、君は名の知れない大学で情報学部を少しかじっただけの素人だ。名門を卒業し、専門も合致する義姉さんとは、元々の出来が違う。彼女こそ、俺の右腕にふさわしい」

浩介は、まるで言い聞かせるように続ける。

「君はもう、何もしなくていいんだ。これからは『湊家の奥様』という立場で、楽に暮らせばいい」

……今更、学歴で私を切り捨てるというの?

では、私があなたの盾となって、接待の酒を飲み干し、胃に穴が空いて倒れたあの夜は?

あの時は、私の学歴など、気にもしなかったくせに。

浩介は私が黙っているのを見て、また騒ぎ出すとでも思ったのか、苛立ちを滲ませる。

「佳奈、いい加減にしないと……」

「わかったわ」私は、苛立ちを募らせる彼の言葉を遮った。「辞める。すぐに辞めるから。それで、いいんでしょう?」

私はきつく拳を握りしめ、喉元までせり上がった熱い言葉を、すべて飲み干した。

私の意外なほど素直な態度に、浩介はあからさまに安堵の表情を浮かべる。

「ああ、最初からそうやって物分かりが良ければ、話が早いんだ。用がないなら、さっさと失せろ」

早く灯里のもとへ戻りたいと、その目にはありありと書いてあった。

私は、去ろうとする彼の腕を掴んだ。

「待って。ウェディングフォトの店から連絡があったの。今週、時間はとれないかなって……」

「出張だ。無理に決まってるだろう」

「……そっか。わかった」

ホテルを出たその足で、私は淡々とウェディングプランナーに電話をかけた。

「お世話になっております。一点、ご相談なのですが。結婚式当日にスクリーンで流す映像を、こちらのデータに差し替えていただけますでしょうか」

私は手元にあった浩介と灯里の不貞の証拠を、一つの動画ファイルにまとめ、プランナーに送付した。

恥も外聞もない彼らのために、私が体面を繕ってやる義理など、どこにもないのだから。

浩介が「出張」と偽っていた七日間、彼と灯里は、示し合わせたようにSNSの更新を止めていた。だが、友人経由で回ってきた灯里の裏アカウントには、すべてが記録されていた。

二人は、女神が舞うようなオーロラの下で熱いキスを交わし、写真には「#永遠に二人きり」というタグが添えられていた。

一週間後、浩介から電話があった。おそらく、ドレスの件で私を言いくるめるためだろう。

案の定、彼は言った。

「クライアントとの交渉が難航していてな。とても戻れそうにない。

それで、お義姉さんに頼んだ。君よりセンスは確かだし、体型もほぼ同じだ。彼女にいくつか見繕ってもらって、国内に送らせるから」

いつもの、有無を言わさぬ口調。

だが、私の心はもう、凪いでいた。受話器の向こうの声は、まるで知らない外国語のように響く。

感情を一切乗せずに、私はただ、「わかった」と答えた。

後日、灯里から写真が送られてきた。何着ものドレスを試着し、ついでに浩介とウェディングフォトまで撮ったようだ。

【写真がないと格好つかないでしょ。時間がない二人のために、私が手伝ってあげた。当日はAIであなたの顔に替えれば使えるわ。感謝してね】

写真の中の浩介は、私とのキスは拒んだくせに、灯里とはキス寸前の距離で微笑んでいる。

スマートフォンの画面を、静かにブラックアウトさせる。もう、見る価値もない。

私は受話器を取り、家政婦に淡々と指示を出した。

「私の荷物以外、この家にある女性ものの衣類、化粧品、私物は、すべてゴミとして処分してください」

私は自分の荷物だけをトランクに詰め込むと、迷いなく新居のドアを閉めた。

その足で大友聡と会い、私が持つ湊家の全株式を、彼に売却する。

これで、彼への義理はすべて果たした。

……

式の前日、浩介が灯里を伴って帰国した。

私にウェディングドレスを渡す、というのが名目だった。灯里は「ブライズメイドだから」と微笑み、自分のドレスまで用意周到に準備している。

灯里が私のために「選んだ」というドレスは、肌の露出が激しい、品のないサテン生地。大事な部分がかろうじて隠れるだけのデザインは、まるで高級娼婦の衣装だ。

一方、彼女自身は、勝利を宣言するかのようにオートクチュールの豪華なドレスに身を包み、頭にはダイヤモンドのティアラを輝かせている。どう見ても、私より彼女の方が主役だった。

「……花嫁は、きれいだな」

口先だけでそう言った浩介の目は、愛おしげに灯里だけを捉え、二人の間だけで通じるように、微かに笑いかけていた。

一ヶ月ぶりに顔を合わせたというのに、彼は十分と経たずに席を立ち、そわそわと灯里を促して出て行った。

去り際、彼は思い出したように付け加えるのも忘れなかった。「明日は時間通りに迎えに行く。君の友人たちには、馬鹿な真似はするなと釘を刺しておけ。新郎をからかうような悪趣味な余興は、反吐が出る」

「ええ、わかっているわ」

心配には及ばない。私の招待客は、誰一人として式には来ないのだから。

浩介たちが去った直後、私は長年かけて築き上げた大口顧客のリストを開き、「最後の一手」を打った。

「私、会社を移りましたので、ご挨拶も兼ねて、皆様にはより有利な条件での新規お取引をご提案できます。ぜひご検討ください」

その夜、私は眠れなかった。目を開けたまま、朝を迎える。

結婚式当日、花嫁が逃げたと知った時、浩介はどんな顔をするだろう?

自分が不倫相手だと暴露される映像を、灯里はどんな気持ちで見るのだろう?

翌朝早く、私はスーツケースを一つだけ引き、駅へ向かった。

新郎が花嫁を迎えに来る、まさにその時間。私は、滑り込んできた電車に乗り込んだ。

その瞬間、無数の着信とメッセージが、スマホに殺到した。

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