私、相沢佳奈(あいざわ かな)は、新居の外に立ち尽くしていた。大きな掃き出し窓の向こうで、湊浩介(みなと こうすけ)と白石灯里(しらいし あかり)が激しくキスを交わすのが見える。彼は彼女を強く抱きしめ、まるで自身の一部に溶かすかのように、貪るようにキスをしていた。普段のクールでストイックな姿からは、到底想像もつかない情熱だ。大雪に打たれ、服も靴も髪もびしょ濡れで、体は芯から冷え切っている。その冷気は手足から胃の奥にまで染み渡り、内側からかき回されるような吐き気を覚えた。二人が、私が心を込めて選んだ新婚用のベッドに、もつれ合うように倒れ込むのを見て、私は無意識にスマホでその光景を動画に収めていた。だが、次の瞬間にはもうこらえきれず、その場に立っていられないほど激しく嘔吐した。これまで同じベッドで寝ても、浩介が私にキスをしてくれたことは一度もなかった。「潔癖症だから」たったその一言を、私は愚かにも信じきっていたのだ。違う。潔癖症なんかじゃない。ただ、彼がその唇を許す相手が──私ではなかった。それだけのことだった。部屋の中の二人は物音に気づき、同時にこちらへ視線を向けた。不貞を働いているのは彼らの方なのに、私は咄嗟に身を隠してしまった。雪で全身ずぶ濡れになり、凍えた体は震えが止まらない。灯里が帰ってから家に入ろう。そう思って一時間も待ったが、誰も出てくる気配はなかった。くしゃみを一つ。私は凍えてこわばった体を引きずり、ようやく家の中へと入った。新居は暖房が効いていて暖かい。普段は家事を一切しない浩介が、キッチンで料理をしていた。その手際は驚くほど慣れていて、素人でないことが一目でわかる。換気扇がごうごうと音を立てる中、料理のスパイシーな香りが鼻をつく。私には胃に持病があり、辛いものは一切食べられないことを、彼は知っているはずなのに。「お腹空いた?ごめん、料理はまだ……」物音に気づいた浩介が、優しい笑顔で振り返る。しかし、そこに立つのが私だとわかった瞬間、彼の口元の笑みは跡形もなく消え去った。「君か。びしょ濡れじゃないか。さっさと風呂に入って着替えろ。うろつかれると家が汚れる」「……ごめんなさい」私は濡れたダウンジャケットを握りしめ、いつもの癖で謝っていた。浩介が不機嫌そうに
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