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第44話:高知の別れ、ゆずの香りと徳島への旅立ち

Author: ちばぢぃ
last update Last Updated: 2025-07-11 09:00:16

宗太郎と鮎子は高知に3日目を迎え、四国四県の旅を終盤に差し掛かっていた。広島への帰還を胸に、愛媛でみかん料理を提案し、香川のオリーブ畑で七之助と出会い、高知でかつおのたたきと鍋焼きラーメンを味わった二人は、旅の道すがら愛を深めていた。旅の疲れを癒すのは、互いの存在と各地で出会う温かい味であり、二人の絆はもはや言葉を超えたものとなっていた。

宗太郎と鮎子は高知の宿で朝を迎えた。窓から差し込む朝日が部屋を優しく照らし、潮風がカーテンを揺らす。宗太郎はベッドから起き上がり、隣で眠る鮎子を見つめた。彼女の穏やかな寝顔は、旅の過酷さを忘れさせる安らぎだった。彼はそっと彼女の髪を撫で、旅の終わりと新たな始まりを思った。

「鮎子、あなたの寝顔を見ていると、旅の疲れも癒される。高知での3日間が終わりを迎えるが、あなたと共に見た景色が俺の心に残るよ。次は徳島へ向かうが、あなたとの時間が続くのが楽しみだ。」

鮎子は目を覚まし、宗太郎の声に微笑んだ。彼女は彼の手に自分の手を重ね、愛情を込めて握り返した。朝の光が彼女の顔を照らし、旅の疲れを隠すような美しさが際立っていた。

「宗次さん…おはよう。そなたの声で目が覚めると、毎日が幸せだよ。高知の最後の日、そなたと一緒に過ごせて嬉しい。徳島へ行くのも楽しみだけど、少し寂しいね。」

二人は宿を後にし、高知の街を散策し始めた。朝の市場はすでに賑わいを帯び、魚介の香りと商人の声が響き合っていた。宗太郎は鮎子の肩に手を置き、彼女をそばに引き寄せた。風が二人の髪をなびかせ、旅の終わりを惜しむような雰囲気が漂った。

「 鮎子、あなたのそばにいると高知の風も特別だ。旅の最後にふさわしい味を求め、徳島へ向かう準備をしたい。昨夜の鍋焼きラーメンの温もりがまだ心に残るが、今日は新たな味に出会えそうだ。」

鮎子は宗太郎の胸に軽く寄り、照れながら囁いた。彼女の声には旅への愛着と未来への期待が混じっていた。

「宗次さん…私もだよ。そなたと一緒に歩くこの道、愛おしいよ。子供の話もしたけど、高知で最後の思い出を作り、徳島で新しい一歩を踏み出したい。そなたの温もりが私の支えだ。」

宗太郎は鮎子の頬に手
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