第0638話

——その共犯は、彼女の身近にいて、なおかつ強い恨みを持つ女。

瑠璃は心の中で、その女の正体にぼんやりとした予感を抱いた。そんなとき、電話を終えた辰哉が戻ってきた。

彼は太いロープを持っており、それで瑠璃の足まで縛り上げた。口からは相変わらず下品な言葉が飛び出していた。

「瑠璃、大人しく待ってろよ。俺が戻ってきたら、たっぷり楽しませてやるからな！」

そう言うと、彼は汚れた布を取り出し、彼女の目元をしっかりと覆い隠した。そして鼻歌まじりに工場を出て行き、扉にしっかり鍵をかけた。

瑠璃は何度も縄をほどこうと試みたが、どうしても外せなかった。

……

時は静かに流れ、すでに午前九時を過ぎていた。

役所の正門前。隼人はただ静かに立ち尽くしていた。

彼の目の前を、幸せそうなカップルたちが手をつないで行き交い、婚姻届を終えて、笑顔で建物から出ていく。

それを見るたびに、彼はふと昔の情景を思い出していた。

——彼女も、あの頃の彼女も、あの女の子たちのように、彼に対してひたむきな愛を向けていた。

あの愛しげなまなざしを思い出すたびに、隼人の胸はじんわりと痛んだ。

その想いを、彼は……踏みにじった。そして今、彼女の決断を責める資格など、自分にはない。

ふと時間を見ると、すでに九時三十分を回っていた。

どこかで「来ないでほしい」と願っていた反面、「必ず来る」と信じていた。

しかし——現れない。不安が胸を締めつける。

彼はすぐに瑠璃に電話をかけた。だが——通話中、応答はなかった。

もう一度かけ直そうとした瞬間、一本の着信が入った。

警察だった。

「四宮瑠璃さんの名義の車が路肩に停められており、窓ガラスが破損していました。運転者の姿が見当たりません。ご家族を調べたところ、ご主人とされる目黒隼人さんにご連絡を——」と。

電話の最後まで聞かずに、隼人の顔色は一気に変わった。

——悪い予感が的中した。

彼はすぐさま、幼稚園にいる君秋へ連絡を入れた。

彼のスマホには、瑠璃の位置情報アプリが入っていた。

ほどなくして、君秋は住所を送ってきた。彼はトイレに隠れながら、ひっそりと隼人に電話をかけた。

「パパ、ママになにかあったの？」

ハンドルを握る隼人は心配でたまらなかったが、声は落ち着いていた。

「君ちゃん、心配するな。パパが必ず、ママを連れて帰って