LOGIN以前から見えていた。 上司の背中に大きなカマが背負われているのが… 「それ…危なくないですか?」 ある日指摘してみたら、血相を変えた上司が詰め寄る。 「いつから見えていた?誰かに話したか?」 そして有無を言わさずキスをしてきた… それは忘却のキス、そして私を操るキス。 「…何してるんですか、初めてのキスなんですけど!?」 「特異体質か。めんどくさい人間だ!」 身分を隠した上司の正体は、寿命が来た人間に、カマを振って冥界へと誘う死神。 他の人間とキスをされたら正体がバレると知った上司は、恋人になれと言って、同居に持ち込みました… 毎日せっせと繰り返されるキスは、やがて甘くなって… 死神✖人間の恋。 最後はどうなるの…?!
View More「お願いです……まだ死にたくない!」俺を見る事ができた人間は一定数いた。ブルブル震えながら、恐れおののいて立つこともできず、それでも必死に距離を取ろうと後ろへ後ろへ移動していく。「……死にたくない?」ひどく痩せた青白い顔で、細い腕には点滴の針が刺さった跡が痛々しいのに。「私が死んだら……子供が、親が、泣きます。……だから、死ぬわけにいかないんだ!」誰かのために命をつなごうとする人間は強い。……カマを振ってそれを断ち切るのが死神の仕事なのに、俺は何度もそんな人間を見逃してきた。ありがとうございます……後ろ姿にそう言われたことも何度もある。けれど……そんな人間に待っている現実を俺は知っている。だから……自分のやっていることが正しいと思ったことは一度もない。「あの……大丈夫ですか?」カマを振れないでいたある日、人間界に落とされたと知った。諦めた俺は、ソツなく過ごして多少は遊んで……時期が来たら冥界に戻るだろうと思っていたのに、鈍臭い女子社員に声をかけられたのだ。恐る恐る……という感じで見上げるのは、丸い目の女子社員、鈴原凛花。仕事が出来ない目の上のたんこぶ……「…神西課長、背中に大きなカマを背負ってるから、ずっと気になって」「は?お前……これが見えるのか?」あの日から始まった、俺の死神人生のカウントダウン。まさかあの……出来損ないの女子社員に、人間に転生する手助けをしてもらうなんて思ってもみなかった。「え……ここを譲る?」凛花の父親が亡くなって2年。絆と縁から、意外な提案を受けた。「うん。俺たち……死神に戻ろうと思ってさ」「……でも、カマが振れなくて、人間界に落とされるのが嫌で逃げ回ってたって……」「あぁ。ふんわりした戦いだったけど、死神最高幹部にも勝って、それなりに役割もわかったけどさ。逆に、何もはっきりしてないって思ったんだよ。全部中途半端な気がして」絆の言葉に縁も言う。「だからもう一度死神としてやってみようと思って。……聞いたらさ、ずいぶん人手不足らしいよ。……いや、神手不足か!」2人はそう言って、自分たちが運営してきたこの会社を譲るというのだが……「蓮に給料を払えるくらい稼げばいいやってことで、たいした活動もしてないからさ、蓮がやってみたいことに業種を変えてもいいと思う」「もちろん、俺らに金を払う必要なしね
蓮と穏やかな眠りにつき、しばらくたってからのこと。……ベッドが揺れる気配がして、凛花は目を覚ました。「……ルルアが泣いてる。連れてくるから待ってて」先に気づいたのは連。身軽に凛花を飛び越え、暗闇の中ドアに向かっていく。やがて蓮に抱かれてルルアがやってきた。泣いてる、とは言っても少しむずがっていたくらいで、すでに蓮の腕のなかで寝息を立てていた。「……お義父さん、ベビーベッドにもたれるようにして寝てた。帰るまでに何度か起きちゃったのかもな」父にとっては目のなかに入れても痛くない可愛い孫。夜中に何度起こされても翌朝赤い目になっても、すこぶる機嫌よく朝を迎えてくれる人だ。「孫に起こされて寝不足だって、病院のスタッフに嬉しそうに愚痴るんだって……!」「親バカならぬ祖父バカっていうのか?」小さな声で話しながら、声を上げずに蓮と笑い合う凛花。……こんな風に夜中に起こされても笑えるとは、なんて幸せなひとときだろう。凛花はルルアを蓮にまかせ、隣室で眠る父の様子を見に行った。……ベビーベッドに孫がいると勘違いして、また柵にもたれてやしないか気になったから。父は、仰向けで穏やかな表情で眠っていた。ふと……花の香りが鼻腔をくすぐった気がして、見慣れた室内を見渡す。凛花は少し考えて、胸がちゃんと上下しているか確認した。それが……虫の知らせだったのかもしれない。幸せを感じて感謝を抱いて……こんな日常が続くことを願ったのに、日々は突然変化していくものらしい。……翌朝、父は起きてこなかった。救急車を呼び、その場で死亡が確認された。警察が来て事情を尋ねられ、あっという間に葬式の準備が整う。「お父さん、何の迷いもなかったのかな……」「あちらの世界に行くことか……それは、なかったのかもしれないな」祭壇に飾られた笑顔の父。喪服に身を包み、凛花は涙目で見上げた。父の人生を思う……後悔は、やり残したことは、なかったのだろうかと。自分たちは『死の番人』という役割を持っていると自覚したばかりだ。なのに父は、何の迷いもなくあちら側へと行ってしまった。「あぁ……そうか。お父さんは、お母さんがいる世界に行けたのかもしれない」亡くなるときは、親族が迎えに来るという。父の場合はきっと母がやって来たのだろう。「だとしても……突然すぎない?」涙があふれる凛花を、ルル
空を舞うようにして移動していた。どこに到着するのかわからないのに、蓮とつないだ手のぬくもりだけは確かで、恐怖はまったくない。人間たちが夜の街を歩いているのが小さく見える。遅くまで仕事をして家路につく人、気晴らしに酒を飲んだ帰りの人もいるのだろう。私も、ついこの間まであちら側の人間だったのに……本当に、人生は何が起こるかわからない。「あの家だな」凛花に声をかけた蓮は、彼女の腰に手を回し、支えるようにしながら大きな一軒家のベランダに降りた。「……え、大変……」ベランダに倒れている人がいる。手首のあたりから流れている赤い血は、彼女自身のものだろう。とっさに助けようと駆け寄る凛花を蓮は止めた。その視線をたどると、ベランダの端に不思議なものが見える……泣いている女の子だ。年齢は想像した通り、中学生くらい。向こう側が透けてしまって、明らかに様子がおかしい……蓮は口元に人差し指をまっすぐに立て、その少女を見守るようジェスチャーしてきた。きっと、この子の泣き声が聞こえたんだ。いったいどうしたのだろう。先に見つけた血を流して倒れている子と、着ている服が同じだ。……ということは、肉体と魂?死にたい……迎えに来て、お母さん……ここからどうすればいいの、お母さん、助けて……しばらく泣き続けた少女は、今度は母親を呼び始めた。頭に直接入ってくるようなか細い不安そうな声……女の子はこんな事態になって困ってるんだ。母親はきっとすでに亡くなっているのだろう。近くにそれらしい人はいないか、凛花はとっさに目で探す。「だれ……」ふと少女がこちらを向いて、視線を泳がせていた凛花と目が合った。「あ……私は、」「怖がらなくていいよ」しどろもどろになる凛花の代わりに蓮が答える。緊張したように固まる少女は、再びどうしたらいいか困っているように見える。そこで、こちらから話しかけてみることにした。「……この子は、あなただよね」一般的に「遺体」と呼ばれる体を指さして聞いた。「うん……」「自分で、切っちゃったの?」手首からの出血は、明らかにリストカットに見える……けれど、少女の心の声が聞こえてきた。「気づいたら、体の外に自分がいて、こんな風になるとは思わなかった」意図しない出来事?死を望んだわけではないと、少女の悲痛な思いが伝わってくる。「そうだったん
「結婚おめでとう!」やがて結婚式の日がやってきた。集まってくれたのは、絵里奈、康太夫婦、鮫島、無理を言ってめぐみ、そして絆と縁……父は母の写真を持って始まる前から泣いている。「めぐみさん、今日は来てくれてありがとうございます」どうして自分が呼ばれているのか、一番わからないのはめぐみだろうと声をかけた。「ご結婚おめでとう。……嬉しいわ。鮫島くんと同期で、片思いしてた人だって聞いてる」「あ、その後めぐみさんを溺愛しますから心配しなくて大丈夫ですよ?」「え……どうして知ってるの?」頬を染めたところをみると、すでに2人はお付き合いを再開してとてもうまくいっているようだ。めぐみは蓮より先に死神を卒業し、凛花と交わした話はもちろん、死神時代のこともすべて忘れている。でも鮫島くんと仲良くやっているようで、凛花は心からホッとしていた。父と、父に抱かれた母の遺影、そしてごく親しい仲間が見守る中、蓮と凛花の結婚式は滞りなく行われた。フラワーシャワーの中を歩く2人は、過去のことを少しずつ忘れ、この世に溶けるように生きていくのだろう……もちろん、人間として。……それなのに。「……は?背中に羽?」幸せな結婚式から2年が経過した。凛花は蓮の子供を宿し、やがて無事に女の子を出産。ルルアと名付けられた。「多分ほかの人には見えないんだと思います。でも、家族にはハッキリとそれが見えて……」ここは蓮の職場、yukabiオフィス、話を聞いてもらっているのは絆と縁だ。蓮はルルアのベビー服をそっと脱がせ、背中を2人に見せる。ルルアはまだ赤ちゃんなのに、脱がせられた服を前に抱えているのが女の子らしくて可愛らしい……「お2人には、見えます?」「……俺には見えるな」「同じく。俺にも見える」2人にも見えるとわかり、凛花はそれ以外にも話と違うことが起きていると話した。それは、これだけ時間がたっても2人の記憶がなくならないこと。「蓮さんが死神だったことも最高幹部のことも、めぐみさんや鮫島も暮らしてたマンションのことも。……アミルさんのことだって忘れてません。当時の記憶は、いつ頃なくなるんですかね?」ルルアの成長に伴い、いろんな人との交流が生まれるだろう。そうなった時、ほかの人にはない経験の記憶は邪魔になるのではないか。「普通は、もうすでに記憶をなくして……わが
「…なんだと?」「だから、忘却も操作も、私にはできてません」「いつからだ…?」片手で額を押さえ、神西課長はため息まじりに聞いてくる。「…初めは一瞬忘れましたけど、すぐ思い出しました」「…なんで早く言わないんだ?」「言ってもどうにもならないんじゃないですか?」めぐみに言われたことを思い出す神西。忘却のキスは、し続けなければならない…「…お願いだ。鈴…いや、凛花?」急に雰囲気を変えてにじり寄ってくる神西に、あっという間に抱きしめられた凛花。「誰にも秘密にしてほしい。背中のカマのこと、それから…」「わかってます。私には見えるけど、危なくないんですよね。扱えるのは本人だけだし…
「俺のマンションに来ていいのは鈴原だけだ」「…えっと、どうしてわかったんですか」絵里奈に別れを告げ、車に乗り込みながら、神西と携帯で話す。「…軽く、テレパシーだろうな。キスをする間柄だ。お前の考えが伝わってくることがある」考えてることが伝わるって…私が課長に特別な気持ちを抱き始めていることにも気付かれるってこと?けれど携帯の向こうの神西は、それ以上のことは言わない。なのでもう少し食い下がってみることにした。「…でも絵里奈は、子供の頃からの親友なんです。神西課長をただの上司として紹介するならいいじゃないですか」…そもそも、付き合おうといったのはそっちだ。「内緒にするなら、徹
闇夜に浮かぶ、外壁をツタが絡まるマンション…そこが住まいだと神西に言われた時、すべてが繋がった気がした。背中のカマ、情報もなく部屋にやってきたこと、アパートの突然の全焼…忘却と操作のキス…そして打ち明けられた死神の話。全部の辻褄が合う。…凛花はこれまでのことをすべて忘れていなかった。その中でわかったことがある。…やはり自分は、見てはいけないものを見ていたのだ。同時に…死神なんて存在が、こんな身近にいたなんて、普通に驚きだ。だって上司だよ?…やたら厳しくて怖いのはそのせいか…「…それにしてもなんだか薄暗い明かりしかつかない部屋だな」自分に与えられた部屋の窓から、何気なく階下を見
「今日から、俺の部屋においで」…妖艶な香りと共に寄り添うのは、神西。「い…いつの間に?」驚く凛花の目が、今朝は注がれなかった自分の背後を見ていると気づく。やはり…忘却のキスの効果は短いと知る。「…忘れ物に気づいて…取りに行こうと思って来た」「…え、何を、忘れたんですか?」「替えの…ネクタイを」取り返しのつくものだったとホッとしたのだろう。凛花はそれでも律儀に言った。「…こんなことになっちゃって…あの、お給料が出たら買ってお返しします」グスッと鼻をすすり、涙ぐむ目元を拭くのを見て、神西はわずかに首をかしげた。なぜ泣く…?引っ越したばかりでたいした荷物はなく、ほかの入居者