LOGIN以前から見えていた。 上司の背中に大きなカマが背負われているのが… 「それ…危なくないですか?」 ある日指摘してみたら、血相を変えた上司が詰め寄る。 「いつから見えていた?誰かに話したか?」 そして有無を言わさずキスをしてきた… それは忘却のキス、そして私を操るキス。 「…何してるんですか、初めてのキスなんですけど!?」 「特異体質か。めんどくさい人間だ!」 身分を隠した上司の正体は、寿命が来た人間に、カマを振って冥界へと誘う死神。 他の人間とキスをされたら正体がバレると知った上司は、恋人になれと言って、同居に持ち込みました… 毎日せっせと繰り返されるキスは、やがて甘くなって… 死神✖人間の恋。 最後はどうなるの…?!
View More「結婚おめでとう!」やがて結婚式の日がやってきた。集まってくれたのは、絵里奈、康太夫婦、鮫島、無理を言ってめぐみ、そして絆と縁……父は母の写真を持って始まる前から泣いている。「めぐみさん、今日は来てくれてありがとうございます」どうして自分が呼ばれているのか、一番わからないのはめぐみだろうと声をかけた。「ご結婚おめでとう。……嬉しいわ。鮫島くんと同期で、片思いしてた人だって聞いてる」「あ、その後めぐみさんを溺愛しますから心配しなくて大丈夫ですよ?」「え……どうして知ってるの?」頬を染めたところをみると、すでに2人はお付き合いを再開してとてもうまくいっているようだ。めぐみは蓮より先に死神を卒業し、凛花と交わした話はもちろん、死神時代のこともすべて忘れている。でも鮫島くんと仲良くやっているようで、凛花は心からホッとしていた。父と、父に抱かれた母の遺影、そしてごく親しい仲間が見守る中、蓮と凛花の結婚式は滞りなく行われた。フラワーシャワーの中を歩く2人は、過去のことを少しずつ忘れ、この世に溶けるように生きていくのだろう……もちろん、人間として。……それなのに。「……は?背中に羽?」幸せな結婚式から2年が経過した。凛花は蓮の子供を宿し、やがて無事に女の子を出産。ルルアと名付けられた。「多分ほかの人には見えないんだと思います。でも、家族にはハッキリとそれが見えて……」ここは蓮の職場、yukabiオフィス、話を聞いてもらっているのは絆と縁だ。蓮はルルアのベビー服をそっと脱がせ、背中を2人に見せる。ルルアはまだ赤ちゃんなのに、脱がせられた服を前に抱えているのが女の子らしくて可愛らしい……「お2人には、見えます?」「……俺には見えるな」「同じく。俺にも見える」2人にも見えるとわかり、凛花はそれ以外にも話と違うことが起きていると話した。それは、これだけ時間がたっても2人の記憶がなくならないこと。「蓮さんが死神だったことも最高幹部のことも、めぐみさんや鮫島も暮らしてたマンションのことも。……アミルさんのことだって忘れてません。当時の記憶は、いつ頃なくなるんですかね?」ルルアの成長に伴い、いろんな人との交流が生まれるだろう。そうなった時、ほかの人にはない経験の記憶は邪魔になるのではないか。「普通は、もうすでに記憶をなくして……わが
「え、そんな宣言……する?」「動揺させてすみません。でもお義父さんにはきちんと話を通しておきたいと思いました」「わ、わかるけどさぁ、なんて言えばいいのよ。……どうぞどうぞって?困ったなぁ、結婚を許したんだから、ダメとは言えないし……」父はリビングに飾られた母の笑顔の写真に助けを求める。見かねた私は後ろからついていった。「多分だけど……反対ならお母さんが今夜現れるような気がする。そしたらまた考えるから、今夜は蓮さんと同じ部屋で眠らせて」「そ、それって……」「いやだ……!変なこと考えないでよ?」絆と縁の話を聞いて、蓮は慌てて凛花を連れて帰ってきた。そして父が帰ってすぐにこう言った。「お義父さん、凛花さんに僕の子供を産んでほしいと思ってます。先に解決しないといけないことがあるのは理解していますが、すぐにでも彼女が欲しいんです」……そして、冒頭のやり取りに戻る。「そうか。この世には、元死神が溢れかえってる……」「私とお父さんも、相当特殊みたい」「まぁ、そうだろうね。聖なる人を妻にして子供を生んでもらって……その子供も能力があるんだから」父に絆と縁の話を理解してもらって、私たちは結婚することになった。「婚姻届を出して、小さくても結婚式をしてほしい。……幸せなお祝いの場は、聖なる精霊が集まるって聞いたことあるから」父の言葉を尊重することになり、結婚式は小さなレストランを借りて行うことになった。婚姻届は少し緊張したが、不思議なことに「神西蓮」の戸籍は存在し、難なく受理された。そして……それからの蓮はかつての「神西課長」が戻ってきたような精力的な日々を過ごすことになる。オンラインで学べる仕事で役立ちそうな講座を片っ端から受講し、払った金額以上のスキルと技術を早々に習得。やがて事業を展開したい考えを持っていた、絆と縁の会社、yukabiオフィスに就職することができた。「収入の面での心配はもうない。だからその……そろそろどうだろう」二組の布団を敷いて、手をつないで眠っていた2人。ある日蓮が、凛花の手にキスをしながら熱い視線を送ってきた。「結婚式は来週だが……すぐに子供ができたとしても支障はないと思うんだが」「そう……ですね」返事をするやいなや、キスしていた手を引かれ、自分の布団に誘う蓮。「あの、こういう行為のしかたは、覚えてる
「はじめまして。神西蓮と申します」「うわ、イケメンすぎて緊張するぅ……」バイト先に出勤して社長と副社長の秘密を打ち明けられ、凛花も思い切って蓮の話をした翌週、彼を2人に会わせることにした。話は聞かせてあり、体験談をぜひ聞きたいといった蓮。父の賛成も取り付け、会社近くのカフェで落ち合ったところだ。2人にキラキラした目を向けられ、キョトン、とする蓮。人間の姿を手に入れた彼は、ピュアで邪気のない子供のような表情を見せることが多い。そういうことは、社長たちにもあったのか……「改めて自己紹介しとくね。俺は兄で社長の絆【きずな】。こっちは弟で副社長の縁【えにし】。凛花ちゃんが見破った通り、俺たちは双子。あんまり似てないけどな」座ったまま頭を下げる凛花と蓮に、2人は早速経験談を話し始めた。「俺たちが死神稼業から足を洗ったのは、寿命が来ている人間に、カマを振れなかったからなんだよ」「そう。そのせいで人間界に修行に落とされそうになって、それが嫌で2人で逃げ続けて……そのうち幹部たちと戦うことになってさ」「まぁ、勝利したってわけよ」話を聞く限り、その戦いとはいわゆる剣を振り回したりするバトルとは違ったらしい。「戦いがある、とは聞いてたけど、なんていうか……まやかし、みたいなものだったな」「精神的にジワジワ追い詰められる感じ。……あれ、もし人間がされたら確実に病むよ」まさに、病んだ。2人の話に大きくうなずく凛花。蓮が2人に向かって口を開く。「人間の姿を手に入れた後、死神からの接触は?」「1度もない。ただ死神時代の記憶はいつまでも消えないんだよね」「それについては諸説あってさ……」縁の答えに、絆が声を落として身を乗り出す。「結婚すると消えるらしい……!」「らしい、とは?おふたりにも経験談を聞かせてくれる仲間がいるんですか?」たまらず質問する凛花に、絆は笑い出した。「……え?いっぱいいるよ!皆自分からは言わないだけだから」そう言われて思わず辺りを見渡してしまう。若い人が多いけれど、カフェの外には老若男女、たくさんの人が歩いている。……あの中に、死神としての経験を持つ人が、いる?「結婚するとその記憶自体なくなって、本当の人間としての人生が始まるって話。……話を聞いた人も恋人と結婚して、次に会った時死神の話をしたら笑い飛ばされたもん」
「ちょっとこれ……なにごと?」 「あぁ、夕飯……の下ごしらえをしていたつもりなんだけど」 リモートでの仕事を終え、階下に降りてみれば、切り刻んだ野菜らしきクズがスリッパの下で潰れる感触…… 「下ごしらえか、なるほど……」 キッチンから飛び出した野菜のヘタや皮が、リビングの床にも転がっている。 その種類から、サラダと煮物を作ろうとしていたのがわかった。 「そっか……手伝うよ。私も多少は料理できるから、一緒に作ろう」 どんなに失敗しても、面倒なことをされても、それすら愛しい毎日が始まった。 会えなかった日々、会えるかどうかもわからなかった日々を思えば、このくらい何でもない。 危なっかしい手つきで野菜の皮をむく蓮を、ヒヤヒヤした気持ちで見つめながら、凛花は蓮に聞こうとしたことを思い出した。 「そういえば蓮さん、私のT シャツ知らないかな?胸元にハートが描いてあるやつなんだけど」 明日は出勤する予定の日。 朝になってバタバタしたくないので、着るものを決めておこうと服を出しておこうとした。……が、お気に入りのTシャツが見つからない。 「着心地のいいTシャツでよく着てたんだけど、どこいっちゃったかな」 「あ、それなら……」 立ち上がった蓮は、今一緒に寝ている父の寝室に入っていく。 出てきた手に握られていたのは、捜していたTシャツ…… 「蓮さんが持ってたの?」 「あぁ、少しでも凛花を感じながら眠りたくて」 片手を口元にやり、少し照れた様子に心臓が跳ね上がる…… なんて可愛らしい……そしてピュアな愛情表現なんだろう。 「ありがとう……それならこれは、蓮さんが持ってて」 1度抱きしめてからTシャツを差し出すと、蓮は嬉しそうに受け取る。もちろんその頬はほんのりバラ色…… 「私も、蓮さんの服と一緒に寝たいな」 「あ、じゃあ……持ってくる」 もう一度寝室に引き取り、グレーのTシャツを持ってきてくれた蓮。 「今、1度着て、脱いだばっかり」 ほんのり人肌のTシャツを笑顔で受け取りながら、元は父親のTシャツだったと気づく凛花。 まだ人間に戻って日が浅く、彼自身の服はまったくないから仕方ないんだけど……少しだけ何をやってるんだか、と思う自分がいた。 やがて……サラダと煮物、だし巻き卵といった夕食が出来上がった。 勤務時間のこともあり、
「…なんだと?」「だから、忘却も操作も、私にはできてません」「いつからだ…?」片手で額を押さえ、神西課長はため息まじりに聞いてくる。「…初めは一瞬忘れましたけど、すぐ思い出しました」「…なんで早く言わないんだ?」「言ってもどうにもならないんじゃないですか?」めぐみに言われたことを思い出す神西。忘却のキスは、し続けなければならない…「…お願いだ。鈴…いや、凛花?」急に雰囲気を変えてにじり寄ってくる神西に、あっという間に抱きしめられた凛花。「誰にも秘密にしてほしい。背中のカマのこと、それから…」「わかってます。私には見えるけど、危なくないんですよね。扱えるのは本人だけだし…
「俺のマンションに来ていいのは鈴原だけだ」「…えっと、どうしてわかったんですか」絵里奈に別れを告げ、車に乗り込みながら、神西と携帯で話す。「…軽く、テレパシーだろうな。キスをする間柄だ。お前の考えが伝わってくることがある」考えてることが伝わるって…私が課長に特別な気持ちを抱き始めていることにも気付かれるってこと?けれど携帯の向こうの神西は、それ以上のことは言わない。なのでもう少し食い下がってみることにした。「…でも絵里奈は、子供の頃からの親友なんです。神西課長をただの上司として紹介するならいいじゃないですか」…そもそも、付き合おうといったのはそっちだ。「内緒にするなら、徹
闇夜に浮かぶ、外壁をツタが絡まるマンション…そこが住まいだと神西に言われた時、すべてが繋がった気がした。背中のカマ、情報もなく部屋にやってきたこと、アパートの突然の全焼…忘却と操作のキス…そして打ち明けられた死神の話。全部の辻褄が合う。…凛花はこれまでのことをすべて忘れていなかった。その中でわかったことがある。…やはり自分は、見てはいけないものを見ていたのだ。同時に…死神なんて存在が、こんな身近にいたなんて、普通に驚きだ。だって上司だよ?…やたら厳しくて怖いのはそのせいか…「…それにしてもなんだか薄暗い明かりしかつかない部屋だな」自分に与えられた部屋の窓から、何気なく階下を見
「今日から、俺の部屋においで」…妖艶な香りと共に寄り添うのは、神西。「い…いつの間に?」驚く凛花の目が、今朝は注がれなかった自分の背後を見ていると気づく。やはり…忘却のキスの効果は短いと知る。「…忘れ物に気づいて…取りに行こうと思って来た」「…え、何を、忘れたんですか?」「替えの…ネクタイを」取り返しのつくものだったとホッとしたのだろう。凛花はそれでも律儀に言った。「…こんなことになっちゃって…あの、お給料が出たら買ってお返しします」グスッと鼻をすすり、涙ぐむ目元を拭くのを見て、神西はわずかに首をかしげた。なぜ泣く…?引っ越したばかりでたいした荷物はなく、ほかの入居者