ログイン以前から見えていた。 上司の背中に大きなカマが背負われているのが… 「それ…危なくないですか?」 ある日指摘してみたら、血相を変えた上司が詰め寄る。 「いつから見えていた?誰かに話したか?」 そして有無を言わさずキスをしてきた… それは忘却のキス、そして私を操るキス。 「…何してるんですか、初めてのキスなんですけど!?」 「特異体質か。めんどくさい人間だ!」 身分を隠した上司の正体は、寿命が来た人間に、カマを振って冥界へと誘う死神。 他の人間とキスをされたら正体がバレると知った上司は、恋人になれと言って、同居に持ち込みました… 毎日せっせと繰り返されるキスは、やがて甘くなって… 死神✖人間の恋。 最後はどうなるの…?!
もっと見る「あの……大丈夫なんでしょうか?」「大丈夫って、何が?」「いえ、私だけならいざ知らず……鮫島くんもいる前であんな……」ハッキリと、死神と認めてしまうなんて。「まぁ……確かにやっちゃったわね。でも、今さら後悔しても遅いし」正体を明かしたところで、仕事帰りにめぐみに食事に誘われ、やって来たのは自然派健康おばんざいの店「アトム」だ。「はぁ……鮫島くんの恋はこれで、また遠のきましたね」ため息をついてから気がついた。「そういえば……深海さんのは見えませんけど」「カマのこと?」ちょっと凛花に近づいて、小さな声で言うめぐみ。「そんなもの、人間の目にさらすようなミス、私はしないから」「はぁ、そうなんですか」カマを見られてしまう事が死神のミスであるのなら、どうして蓮はそんなミスを犯したのだろう。そしてもうひとつ……目の前のめぐみを見て、凛花は心の中で密かに思う。それは、仕事帰りだというのに、彼女にはまったく疲れの様子がないということ。普通の女子ならあるあるのメイク崩れも仕事終わりの目の下のクマも、めぐみにはまったく見当たらない。いつ見ても、全方向美人、というわけか。「なぁに?美しさの秘訣を聞かれても、教えられることはないわよ?……だってこれ、全部生まれつきだから」「いえ、そういうことじゃなくて……」これまでどれほど美の秘訣を尋ねられたのだろう。めぐみは不思議そうな顔で凛花を見る。「蓮さんとは、死神仲間だったと、わかったので」「そうよ?彼は私が管理する、いわゆる後輩の死神。私は言うなれば上司ってとこかしら」「……サイコーです!」2人の間に男女のピンク色はないとわかって、凛花の心にはびこっていた嫉妬の雲は、晴れ渡るようになくなっていた。「ところで……あなたはどこまで知ってるのかしら?」「……何をですか?」話の本題に入ろうとしためぐみを、凛花は丸い目で見上げる。「何って、これからのことよ」「これから……?」「はぁ……さすがに蓮の恋人になっただけのことはあるわ」めぐみはため息と共に感想を漏らし、凛花はその間に少しだけ反省する。「あのね?この先の蓮との未来のこと、どうなるのか、気にならない?」「あ、もちろん……気になりますけど、それを考えるとつらくなるので、なるべく考えないようにしてます」「いいえ、それじゃだめよ?」バカなの
「おいで」振り向けば、両手を開いて私を呼ぶ死神。「……どうした?今夜はキスをしたいんだろ?」「なんでわかったんですか……」「なんとなく、心の声が聞こえたような気がした」ベッドに腰掛ける蓮から、少し離れて立つ凛花。その手首を掴んで……蓮は呆気なく引き寄せる。膝をまたぐように座り、正面から抱きしめられて、凛花は思った。「俺が、まったく無傷だと思うか……」掠れた声……蓮は肩口におでこを当てる。「え?死神家業のあとは、どこか痛むんですか?」手か足か……凛花は心配になって傷を探した。「違う。心だ」「……心?」まさか死神から「心」なんてワードが飛び出すとは。「命の期限が来て、カマを振り下ろし、冥界に送るときはいつだって心は痛む。今夜のような幼い命ならなおさら……両親の泣き叫ぶ声に、カマを下ろす手も止まる」「……死神さんも、いろいろ思うんですね」人間の考えなどわからなくて、察することもできないと思っていた。だから蓮の言葉は意外だ。「そんなのは俺だけだがな」両腕の下から掬い上げるように抱きしめられ、凛花の腕は自然と蓮の、首に絡まることを願って。「……そういうの、人間界では優しいって言います」「そうか)「蓮さんのこと、よくわからなくなるけど、他の死神に比べて、優しいのは確かですね」まぁな……と言われ、おしゃべりは終わりだと理解する。肩口から顔を上げた拍子に、蓮の唇にちゅう…っとキスをする凛花。密着するだけのキスは、死神の顔色も少しだけ薔薇色に変える効果があるらしい。「凛花……」抱きしめる蓮のぬくもりは、今夜も少しひんやり。……冬が巡ってきたら、カイロでも持たせてみようと、凛花は呑気なことを思っていた。「昨日は、いろいろと大変だったね」翌日顔を合わせた鮫島も、神妙な表情で頭を下げてくれた。「うん。ショックだったけど、親である友達夫婦の方がつらいだろうから。私は、励ます側に回るつもり」「うん、それがいいね」蓮にもつらい気持ちがあるとわかった以上、これでこの話は終わるはずだった。「ちょっとメグの部屋に行ってくる」そこへ、スーツに着替えた蓮が部屋から出てきた。携帯を見つめ、何やら慌てている様子だが……「……メグ?」深海さんのことだとわかるのに数秒。なんで朝から会社の人、しかも別の部署の人を訪ねるのか……「……課長!や
「凛花……っ」病院に到着するとすぐに康太が飛び出してきた。「絵里奈は……」「手術室……昨日帰って話をしてる最中、急にお腹を押さえて苦しみだして……」話を聞きながら、あちこちに視線を彷徨わせた。もし来ていたらどうしよう……。命の期限を伝える、死神が。「まずは帝王切開で赤ちゃんを産ませるみたいだ。……なぁ、絵里奈になんかあったら俺、どうしよう……赤ん坊が生まれても、俺1人だったら……」「しっかりしな!康太っ」うろたえる康太の肩を叩き、用意された控え室で待っていられるはずもなく、手術室の前に移動した。両手を組み、絵里奈と赤ちゃんの無事を必死に祈った。こんな時は、蓮に会いたくない。会ってはいけない……黒マントの蓮には特に。そう思うそばから……ふと、何かが動いた気がして視線を向けた。黒いものが映った気がする……ハッとして、あらゆる方向を確認すると、手術室の反対側の壁に、黒いマントの裾が波打ったのが見えた。「……どうした?凛花」よほど怖い顔をしていたのだろう。康太が不安そうに声をかけてくる。そうだ……康太には見えないんだ。やがて、はじめからそこにいたかのように現れた。風もないのに揺れるマント……フードを目深にかぶって、わずかに覗く、尖った高い鼻先と、その下の立体的な唇。蓮だ……まさか絵里奈を?……絵里奈の赤ちゃんを、冥界に送ろうというのか。「……やめて」あらぬ方向に向かってよろめきながら歩いていく凛花を、不思議そうに見つめる康太。「どちらも、私にとって大事な命なの。だからお願い……2人だけはやめて。見逃して……お願いだから……」凛花にしか見えない「死神の蓮」は、表情ひとつ変えず、その時を待っているように見える。「……待ってっ……っ!」叫んだのは、そろりと動いた手に、大きなカマが握られたから。康太には、壁に向かって祈りを捧げているようにしか見えない。まるで誰かの足元にひざまずくようにして、必死に頭を下げている凛花。康太に止められても、凛花は何度でも頭を下げた。こちらの声など聞こえないかのような死神の蓮に、絶望しながら。やがて……赤ん坊の泣き声が聞こえた。涙でぐちゃぐちゃの顔を突き合わせ、手術室の前に走る。「生まれた……」……確かに聞こえる、赤ちゃんの泣き声。喜びに浸りながら、まだ不安は消えない。蓮がいるということは、冥
「何度か絵里奈に言われたんだ。……子供を、あきらめたいって」「嘘……」「嘘じゃねぇって。結局話し合って、結婚して子供を迎えて、家族になろうってことになったけど、絵里奈はそれからずっと……浮かない顔をしてる」付き合っている頃より笑顔が確実に減った、という康太の顔は、真剣に落ち込んでいるとわかる。初めて聞く話に、凛花も強いショックを受けていた。「俺、どうしたらいいかわかんなくてさ。……会社の人に相談に乗ってもらった。出産経験のある年上のパート勤務の人で、その人にはすでに中学生の子供がいて、絵里奈の気持ちを教えてくれると思ったんだよ」「それを……絵里奈は浮気だと誤解してるってこと?」「そうだと思う……けど」「けど、なによ?」話は予想できた。もしその通りなら、なかなかの修羅場が待ってる気がする……「最近そのパートの人が、特に用事もないのにメッセージを送ってくるようになった。……内容は大したことない。その日の夕飯の写真とか、旦那さんが遅いって愚痴とか。俺も、絵里奈と会話がないから寂しくて、その人とメッセージのやり取りするようになってさ、気付いたらずっと繋がってる」おはようからお休みまで……付き合いたてのカップルの話として、聞いたことはある。「それは裏切りでしょ、立派な……」「でも話しかけてもかけても、ろくに返事もないんだぜ?理由を聞いてもハッキリしないし……さすがに俺だって不安になるよ」幸せな親友たちのリアルな現実に胸が痛む。康太はともかく、絵里奈はそんな自分のことを打ち明けてくれなかった。康太にそんな態度を取ってしまう心の内を、教えてくれなかった。凛花には、それがショックだった。「……それでもさ、帰ったら話しなよ。なんか、心配ごとはないかって。体調に変化はない?って聞いてもいいかも」飲み残しの康太のハイボールを奪って、シッシッと手で追い払う。「……凛花、なんか知ってるのか?」「いいから。とにかくすぐに帰って絵里奈に話しかけて。答えなくてもずっとしゃべりかけるんだよ?あんたの不安な気持ちを打ち明けて、ごめんって言って!」……その時だ。ふわりと冷たい風が、自分たちの周りを取り囲んだ気がした。とっさに出入り口に目をやるが、お客の出入りはない。「……そ、それで、会社のパートさんとメッセージなんかやり取りしちゃダメだからね?」……そも
「凛花?…仕事が大変でつらい思いをしている人には見えないよ?」「…それはまぁ…癒してくれる人がいるから、っていうか…」「なによ?!彼氏できたの?…いつの間に?」社内コンペを控えていることを神西に指摘されながら…休日のこの日、凛花は幸せ溢れる空間に遊びに来た。ここは郊外のファミリー向けの賃貸マンション。親友の清水絵里奈は、かつて男友達だった康太と生まれてくる子供と、幸せな家庭を築いたのだ。「…彼氏?」「なによ。癒してくれる人って聞けば、誰でも彼氏を想像するでしょ?」「待って…そういうこと、言われてないかも」「なにそれ?…まさか先にヤッちゃったの?」視線を彷徨わせる凛花に、2人
「あの、神西課長…まだお酒が残ってるんですか?」「は…?これは、君が嬉しかったと言ったからだが?」口元に手をやり…無意識に赤い顔を隠そうとしている?…あ、あの死神上司の頬が、ハッキリと赤くなっているのだ。「なんというレアな…」思わず携帯を構えそうになって、さすがに写真は失礼だと思い直す。「俺だって、困っている。君が柔らかくて抱き心地がいいと知ってから、ちょっとおかしい」「え…」これは、神西のストレートな本音だと感じた。「それじゃ、さっきの…キスは?」焦げ臭い匂いに気づいて駆けつけようとしたのに、腕を引かれてキスをされた。あれは…忘却のキスでも操作のキスでもなかった。「
こんな場所で…こんな場面で…気持ちいいと感じてしまうなんて…!神西の唇が、やわやわと自分の唇に触れ、擦れ…吸われ…舐められて…熱い吐息を漏らした次の瞬間、鼻を突く焦げ臭い匂いに気づいた。「ま、待って…」慌てて唇を離した凛花から、おとなしく離れた神西。「…消化器…!」鮫島が慌てて走ってきて、凛花はすぐそばにあった消化器に気づいた。店のスタッフがすぐにそれを持って走っていき、凛花もそれに続いた。「…どうして、こんなところで」それは、いくつかあるテーブルのうちのひとつ。火が上がったのは、比較的小さなテーブルだったという。「…誰も、タバコを吸ってた人はいなかったらしい」「この
「…で、なんでまたスーツなんですか?」「おかしいか?」少しツヤ感のある紺色のスーツ。淡い紫色のワイシャツに、同系色のネクタイが、腹立たしいほど似合っている。似合っているが…風呂上がりにもう一度スーツを着るとは。「…別に、変じゃないですけど…」「それじゃ………」スラックスのポケットに両手を入れ、リズミカルに近づいてくる神西。顎を引いているから上目使いで、口元に不敵な笑みまで浮かべている。「…カッコいいと思ってる?」「…ふん」…さっきまでフルチンだったくせに!「今日はお出かけしないでいろいろ話してもらう約束ですよ?…そんな格好じゃ、リラックスできないじゃないですか!」「そう