死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?

死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?

last update最終更新日 : 2026-04-27
作家:  桜立風たった今更新されました
言語: Japanese
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概要

コメディ

甘々

溺愛

隠し身分

上司

人外

秘密恋愛

偽装恋人

以前から見えていた。 上司の背中に大きなカマが背負われているのが… 「それ…危なくないですか?」 ある日指摘してみたら、血相を変えた上司が詰め寄る。 「いつから見えていた?誰かに話したか?」 そして有無を言わさずキスをしてきた… それは忘却のキス、そして私を操るキス。 「…何してるんですか、初めてのキスなんですけど!?」 「特異体質か。めんどくさい人間だ!」 身分を隠した上司の正体は、寿命が来た人間に、カマを振って冥界へと誘う死神。 他の人間とキスをされたら正体がバレると知った上司は、恋人になれと言って、同居に持ち込みました… 毎日せっせと繰り返されるキスは、やがて甘くなって… 死神✖人間の恋。 最後はどうなるの…?!

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第1話

1.

「あの…神西課長、大丈夫ですか?」

ついに、言ってしまった。

…言ったそばからもう後悔する。

「…は?」

ゆっくり振り返った顔が怒っていて…

それより言いたいことがあると、その端正な顔に書いてあるのがわかる。

「そんなことより、企画書は?」

「はい!…わかってます。今、マネージャーに提出してちょっと見てもらってるところで…」

「…どうしてそんなまどろっこしい事をする?できたらすぐに俺に出せと、何度言ったらわかるんだ?!」

いつの間にか怒られるこの構図…予想できてたから今まで言えなかった…

「…だって!神西課長、背中に大きなカマを背負ってるから、ずっと気になって!」

マーケティング戦略部の神西蓮【かみにしれん】は、32歳という若さで課長に昇進した強者で、私…鈴原凛花【すずはらりんか】の目の上のたんこぶ…いや、直属の上司だ。

昼休み。外へランチに行く社員で賑わう1階エントランスで、流れに逆らうように前を歩く神西に気づいて、つい声をかけてしまった。私も、コンビニでサンドイッチを買ってオフィスに戻るところだった。

「…今、なんと言った?」

「え、あの…ずっと、危ないなぁって、思ってまして…」

早足で近づいてきて、大きな手が肩を掴む。クールで色気ある目元がたまらない、と言われている顔が、顔面蒼白になっているように見えた。

「とりあえず、こっちへ来い」

「…え、あの…」

勢いよく引っ張られて、サンドイッチが袋から飛び出してしまった。拾うことも許さず、階段を上がり始める神西。

「か、階段ですか?うちの会社、28階ですけど…」

2階あたりまでは何とかついて行ったが、3階になるともう息が切れる…

「ふん…運動もしてないのか。若いからって病気にかからないと思ってるな?」

「…え?運動不足で病気?」

「生活習慣病は、運動不足が原因のひとつだろう?」

だからって、今階段を登らせなくてもいいのに…ちゃんと、運動を習慣化するから…今はエレベーターに乗せてほしい。

心の声は届かず、結局引きずられるようにして、オフィスのある28階に上がってきた。

倒れるように床に座り込み、ゼェゼェと息をする凛花とは違い、神西はまったく息が乱れていない。

…嘘でしょ?あのスピードで階段を駆け上がって、汗もかいていないなんて…

トップアスリートか?

「…早く来い」

再び腕をつかまれ、凛花は無理やり立たされた。そして神西が引っ張っていく方向に仕方なく足を踏み出せば…そこは使われていない会議室。

背中を押され、やや乱暴に中に入らされ、さすがの凛花も怒りの表情で神西を見上げる。

「…いったい、何なんですか?ちょっと乱暴だと思うんですけど!」

汗もかかず、髪も乱れず、息も上がらず…ただ冷たい目で自分を見下ろす上司に、凛花は食ってかかった。

「いつからだ?」

「…は?」

「さっき言ったことだ。いつから、俺の背中にカマが見えていた?」

眉間に深いシワを刻む目元を、凛花は少し怖いと思う。…でも、言ってしまったものは仕方ない。

「2年前入社して、マーケティング戦略部に配属された時からです」

「…初めて会った時から、ということか?」

「あの…初めは、よく見えなかったんですけど…背後に何かが見える、といった感じで」

じっとこちらを見るまなざしに、驚きの表情が混ざった。

「それが、時間が経つにつれハッキリ見えるようになって…それが大きなカマだとわかったのは、」

一歩…神西が近づいてきた。反射的に、一歩…後ろへ下がる凛花。

「大きなカマだとわかったのは、いつだ?」

「3…ヶ月くらい前です…」

もう一歩進んできた神西。凛花はさらに後ろに下がった。

「…それを」

さっきと同じように大きな手が伸びてくる。今度は、両手だ。何とも言えない緊張感で、とっさにその手から逃れるようにさらにさらに後ろへ下がる。…が、背中に冷たい壁の感触が当たった。

「それを、誰かに話したのか?」

「…い、いえ…」

壁が、もう後ろへ下がれない事を知らせる。凛花は余計なことを言った自分を、激しく後悔し始めた。

「だ、誰にも言いませんし、その…もうこんなこと言いません。…忘れます」

ただ、大きなカマを背負う神西を見ても、誰も何も言わないことが不思議だった。

女子社員のほとんどは、神西に憧れて見惚れるばかりで、さりげなくその背中に触れる人もいたから、1人でヒヤヒヤしていた。

今ならわかる。…あのカマは、自分にしか見えていなかったのかもしれない。でもそれはそれでおかしなことだし、自分の目はどうなってしまったのか心配ではあるけど…

「…1人で忘れるのは無理だ」

ついに、神西の大きな手が、自分の両腕にかかった。

切りつけられそうな鋭いまなざしに捕らえられるくらいなら、こんなこと、言わなければよかった。

今も神西の背後に、大きなカマが見えている。

なんで私にはこんなものが見えるのよ…!

ギュッと目をつぶった瞬間、大きな影が…自分の上に降りてきたように感じた。

恐怖とは裏腹に…唇に柔らかい感触を感じる…

これは、もしかしたら…キス?

温度のない唇…なのに長いキスだった。

どうしてキス?…このタイミングでなんでキス?

「…鈴原」

名前を呼ばれ、目を開けた時には、神西はすでに凛花から離れていた。腕を組んで冷たい視線を向けている。

「どうだ…?」

「…は?今のキスでドキドキしたか、とか聞きたいんですか?」

…腹が立った。いきなり脈略のないキスをして感想を言えというのか?

初めてのキスだったのに…

「冗談じゃありませんよ?!女子社員は自分がキスをすれば皆言うことを聞くとでも?…べ、別にそんなものされなくても、言わないでほしければ言いませんよ!…背中のカマのことは!」

まくし立てて脇をすり抜けようとした凛花を、再びつかまえる神西。

「…ちょっと待て。…お前まさか、効かないのか」

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「あの…神西課長、大丈夫ですか?」ついに、言ってしまった。…言ったそばからもう後悔する。「…は?」ゆっくり振り返った顔が怒っていて…それより言いたいことがあると、その端正な顔に書いてあるのがわかる。「そんなことより、企画書は?」「はい!…わかってます。今、マネージャーに提出してちょっと見てもらってるところで…」「…どうしてそんなまどろっこしい事をする?できたらすぐに俺に出せと、何度言ったらわかるんだ?!」いつの間にか怒られるこの構図…予想できてたから今まで言えなかった…「…だって!神西課長、背中に大きなカマを背負ってるから、ずっと気になって!」マーケティング戦略部の神西蓮【かみにしれん】は、32歳という若さで課長に昇進した強者で、私…鈴原凛花【すずはらりんか】の目の上のたんこぶ…いや、直属の上司だ。昼休み。外へランチに行く社員で賑わう1階エントランスで、流れに逆らうように前を歩く神西に気づいて、つい声をかけてしまった。私も、コンビニでサンドイッチを買ってオフィスに戻るところだった。「…今、なんと言った?」「え、あの…ずっと、危ないなぁって、思ってまして…」早足で近づいてきて、大きな手が肩を掴む。クールで色気ある目元がたまらない、と言われている顔が、顔面蒼白になっているように見えた。「とりあえず、こっちへ来い」「…え、あの…」勢いよく引っ張られて、サンドイッチが袋から飛び出してしまった。拾うことも許さず、階段を上がり始める神西。「か、階段ですか?うちの会社、28階ですけど…」2階あたりまでは何とかついて行ったが、3階になるともう息が切れる…「ふん…運動もしてないのか。若いからって病気にかからないと思ってるな?」「…え?運動不足で病気?」「生活習慣病は、運動不足が原因のひとつだろう?」だからって、今階段を登らせなくてもいいのに…ちゃんと、運動を習慣化するから…今はエレベーターに乗せてほしい。心の声は届かず、結局引きずられるようにして、オフィスのある28階に上がってきた。倒れるように床に座り込み、ゼェゼェと息をする凛花とは違い、神西はまったく息が乱れていない。…嘘でしょ?あのスピードで階段を駆け上がって、汗もかいていないなんて…トップアスリートか?「…早く来い」再び腕をつかまれ、凛花は無理やり立たされた。そして
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「…効かない?自分に惚れさせるためのキスだったってことですか?…だとしたら残念ですね?まったく効きませんし、むしろ…」丸い目を頑張ってつり上げて、神西を睨み上げる凛花。「…嫌いになりましたわ!ふんっ!!」つかまれた腕を振りほどこうとするのを、神西は力でねじ伏せる。…このまま離すわけにいくか…!「…ちょっと待て。もう一度…」忘却のキスが効かないとは、鈴原凛花…突然変異の人間か?逃れようとする凛花を抱きしめ、もう一度唇を合わせた。…今度はもう少し長く。…やがて、彼女の体から…フッと力が抜けるのがわかった。そっと体を離し、さっきと同じように凛花の様子を伺うと…意外な反応に神西は頭を抱えた。「…どうして2回もキスをするんですか?」ハラハラと涙が頬を伝っている。なぜキスくらいで鈴原が泣くのか、意味がわからない。「どうして泣く…?」「泣きますよ…いきなりこんな会議室に連れ込まれてキスなんて…」「…キス、されたことが悲しいのか」コクン、とうなずく表情は…わずかながら神西に罪悪感のようなものを植え付けた。「初めて、だったんですよ?なのに、無理やり2回も…ムードもなく、愛もないキスを…」…これは、どういうことだ?キスをされた記憶はあるようだが、背中のカマについての記憶はどうなった?「…鈴原、俺を見てみろ」凛花の正面に立ち、様子を伺う。「はい…何ですか」…背中のカマについて何も言わないということは、忘却のキスが2回目でやっと効いたということ。そんなの聞いたことないが…忘れたならそれでいい。「キスについては突然すまなかった。だがあれは、必要なキスだった。俺にとっては」「…どういう意味ですか?」「わからないならいい。ただ勘違いしないでくれ。君に対して、特別な気持ちはない」人間の女にとって、キスが特別なものだということはわかっている。だが普通、忘却のキスをしたら、キスをしたこと自体を忘れるものなのだ。だがこの鈴原凛花という部下には…「特別な気持ちがないのはこっちだって同じです」神西の言葉に、凛花はふふ…っと笑みをこぼした。「…神西課長はカッコよすぎて、私のタイプではありません。ファーストキスの相手が課長なんて、落ち込みますっ!」神西をキッと睨みつけ、凛花が会議室を出ていく。強めの音を立ててドアを閉めたのは、怒りの表現だろうか。…
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3.
…いったいどういうつもりなのか。本当に部屋にやってきた上司が、部下の部屋で普通にスーツの上着を脱ぐなんて…会議室での話は、役員たちが集まってきて呆気なく終わった。2人で中にいた事をごまかすように、とっさに会議の準備を手伝っているふりをした凛花。…お茶汲みまでさせられたところで、神西に声をかけられた。「ありがとう鈴原さん。もうデスクに戻っていいですよ」ドアを開けてくれる仕草が自然で、意外にジェントルマンだと感心したのに…バシッと強めにファイルを押し付けられた。「…このファイル、あとでよく目を通しておいてください」デスクに戻って確認してみれば…中味は小さなメモ1枚。『寄り道厳禁。帰宅後、すみやかに鍵をかけて俺を待て。帰りの予定は23時』…なかなか男らしい命令調だ。けれどこの時点で、凛花にはまだ余裕があった。なぜなら、住所を尋ねられていないし…他の手段を使っても、神西が私の自宅にたどり着ける可能性は低いから。実は引っ越して日が浅く…まだ新住所を人事部にも総務部にも伝えていないのだ。だから例えば…社内の個人データにアクセスして住所を調べようとしても無理だし、そもそも会社の人に引っ越した話すらしていない。どうやって住まいを突き止める気なのか…凛花はまず来ないだろうと高を括って、のんびり過ごしていた。なのに…メモの通り23時きっかり、部屋のチャイムが鳴らされた。…驚いて、座ったまま1センチくらい飛び跳ねたと思う。そして、本当に神西が来たのか確認したい気持ちが勝って、躊躇なくドアを開けてしまったのだ…「…よし、いるな」夜も遅くなっているのに、ざっくり後ろに流した髪に、乱れひとつ見当たらない。疲れた様子もなく、会社で会った時と同じ様子の神西は、凛花が何か言う前に部屋に入った。…そしてリラックスした様子でスーツの上着を脱ぎ、それを手渡してきたのだ。あまりに自然なので受け取ってハンガーにかける。つい、お食事は…?なんて、聞いてしまいそうだ。「シャワーを借りていいか」「は…」切れ長の瞳に見つめられると、ダメなんて言えない…それでも、わずかな勇気を振り絞って言った。「あ、当たり前みたいに部屋に入ってきて夫みたいに上着渡してきて、シャワーってなんですか?…次はご飯ですか?」…文句の言い方が少し違う気がする。神西もポカン…としているので、次の反撃
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4.否が応でも
「今日から、俺の部屋においで」…妖艶な香りと共に寄り添うのは、神西。「い…いつの間に?」驚く凛花の目が、今朝は注がれなかった自分の背後を見ていると気づく。やはり…忘却のキスの効果は短いと知る。「…忘れ物に気づいて…取りに行こうと思って来た」「…え、何を、忘れたんですか?」「替えの…ネクタイを」取り返しのつくものだったとホッとしたのだろう。凛花はそれでも律儀に言った。「…こんなことになっちゃって…あの、お給料が出たら買ってお返しします」グスッと鼻をすすり、涙ぐむ目元を拭くのを見て、神西はわずかに首をかしげた。なぜ泣く…?引っ越したばかりでたいした荷物はなく、ほかの入居者もいないというので焼き払ったのに。…俺の魔力で。「こ…ここですか?」「そうだ。まぁ古いマンションだが、造りはしっかりしている」薄暗い廊下にオレンジ色の裸電球がぶら下がり、エレベーターの中の明かりも、切れかかってチカチカしている。「ひ、1人の時は…階段が良さそう…」…ここに住む気になったようだ。つい、口角が上がる。5階建ての4階に到着し、一番手前のドアを開け、まずは凛花に入るよう指先で示す。「あの、鍵は…閉めてないんですか?」「あぁ。盗られて困るものはないからな」本当は鍵などなくても、バリアを張れば…誰もこの部屋に入れないからだ。「君は、この部屋を使ってくれ」恐る恐る足を踏み入れた凛花に、神西は後ろから声をかけた。「…ヒィ…っ…!」と驚いた声を上げ、慌てて口元を押さえる凛花。神西が開けたドアの向こうに入っていく。明るさや日当たりなどを求めない死神の住まいは、夏はひんやりとしているが、冬なら極寒の寒さを誇る。「…わぁ…見晴らしがいい部屋ですね」そんな住まいのなかでも唯一陽射しが入る部屋を凛花に与えた。4月とはいえ…まだ寒い夜もある。彼女には長い寿命があり…わざわざ暗い部屋で寒さに耐える必要なはい。…死神でも、それくらいのことは考えるのだ。「シャワーも風呂も、好きなだけ使ってくれ。人間は、温まるのが好きだろう?エアコンも自由に操作して、快適を追求したらいい」「人間は…って、神西さんだって同じ人間じゃないですか!」「いや、俺は…死神だから」「死神って…!」笑う凛花に、自分の名前の由来を話した。「神西は…『しにがみ』を入れ替えて作った偽の名
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5.凛花、実家にて
闇夜に浮かぶ、外壁をツタが絡まるマンション…そこが住まいだと神西に言われた時、すべてが繋がった気がした。背中のカマ、情報もなく部屋にやってきたこと、アパートの突然の全焼…忘却と操作のキス…そして打ち明けられた死神の話。全部の辻褄が合う。…凛花はこれまでのことをすべて忘れていなかった。その中でわかったことがある。…やはり自分は、見てはいけないものを見ていたのだ。同時に…死神なんて存在が、こんな身近にいたなんて、普通に驚きだ。だって上司だよ?…やたら厳しくて怖いのはそのせいか…「…それにしてもなんだか薄暗い明かりしかつかない部屋だな」自分に与えられた部屋の窓から、何気なく階下を見下ろして…ちょうどかき消すように姿をくらます神西の姿を見た。傍らに、黒ずくめ女性が立っていて、巻き起こる風にサラサラのボブヘアが揺れたのが見える。…あの女の人、確か秘書室の…神西課長、どうして一緒にいるの?そして目の前で消えて見せるなんて…自分が死神だって話、あの人にも話したんだろうか。「…わざわざ来なくても、住所を教えてくれれば送るのに。…着払いで」なんちゃって…!と明るく笑うのは、凛花の父、鈴原守【すずはらまもる】。本当だったらアパートに運ぶはずの荷物を実家に取りに来た。時間を合わせて家に居てくれた父と顔を合わせ、軽口を叩き合う。「お父さんのことだから、どうせそうだと思ったのよ!…送料もったいないから、取りに来たの!」「バカだなぁ。着払いなんて冗談に決まってるだろ?…もしかして、住所を教えたくないから取りに来た?」「………そんなんじゃないよ」…いえ、その通りです。まさか、神西と同居しているマンションの住所を知らせるわけにいかない。「あーあ。…ママ、凛花が何やら怪しいことを言うようになりました。ごめんねぇ…一生懸命育てたんだけどさぁ」四季折々の花を咲かせる庭を見渡せる、リビングの一番いい場所に置いてある母の写真は、記憶のまま優しい笑顔を浮かべている。父はよく、そんな母の写真の前で話しかけていた。…ちゃんとテーブルがあって花が飾られ、母が着ていた服まで飾ってある。しかも、季節によって変えるという手の込みよう。母は…私が10歳の時亡くなった。ある朝突然…冷たくなっていた母に、抱きついて泣いたのを覚えている。それからの父は、母の写真と残した服やアク
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6.おとなしくキスだけされてないから
「俺のマンションに来ていいのは鈴原だけだ」「…えっと、どうしてわかったんですか」絵里奈に別れを告げ、車に乗り込みながら、神西と携帯で話す。「…軽く、テレパシーだろうな。キスをする間柄だ。お前の考えが伝わってくることがある」考えてることが伝わるって…私が課長に特別な気持ちを抱き始めていることにも気付かれるってこと?けれど携帯の向こうの神西は、それ以上のことは言わない。なのでもう少し食い下がってみることにした。「…でも絵里奈は、子供の頃からの親友なんです。神西課長をただの上司として紹介するならいいじゃないですか」…そもそも、付き合おうといったのはそっちだ。「内緒にするなら、徹底的にしましょう。会社でもバレないようにします」凛花の言葉に、ため息をつきながらわかった、という神西。どっちのわかった…なのかは、彼のマンションに到着してからわかった。「すべてに対し、秘密にしよう。会社、友達、実家…すべてにだ」「…わかりました」普通、こんなふうに同居に持ち込んでおいて、すべて内緒にするということがどういう意味に取られるか…まったくわかっていないようだ。だいたい、夜になるとほぼ毎晩出かけていく神西が、凛花の部屋に来ることはない。恋人として付き合うと言いながら、毎朝のキス以外、触れ合いなどないのだ。それは、同居した理由が接触を求めているからではないとわかる。なのに同居を強要して自分のそばに置くなんて…私は死神のオモチャか?「俺は今日から車で通勤する」翌朝。同じ会社に行くのに、少し時間をずらし、凛花の後に家を出ていた神西が、車のキーを手にした。「…わかりました」横をすり抜けようとして、サッと腕を取られる。今朝もまた、当たり前のように唇を奪われると思ったら、少し困らせてやりたくなった。「…やめてください」「は…?」腕を引き寄せ、顎を上げられたところで拒否してみる。「俺にとって意味のあるキスだ。…しなければならない」「そんなの知りません」「…おい」胸を押して離れ、玄関を出ようとして、もう一度腕を取られた。「今までおとなしくキスをされていたのにどうした?」やや強めに抱き寄せられ、角度をつけた顔が近づいてくる。…その頬を両手で挟み…ぐいっと押しのけた。「…気持ちよくないから嫌ですよ。もっと感じる熱いキスならしてやってもいいですけど
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7.忘却のキス効果なし。
「…なんだと?」「だから、忘却も操作も、私にはできてません」「いつからだ…?」片手で額を押さえ、神西課長はため息まじりに聞いてくる。「…初めは一瞬忘れましたけど、すぐ思い出しました」「…なんで早く言わないんだ?」「言ってもどうにもならないんじゃないですか?」めぐみに言われたことを思い出す神西。忘却のキスは、し続けなければならない…「…お願いだ。鈴…いや、凛花?」急に雰囲気を変えてにじり寄ってくる神西に、あっという間に抱きしめられた凛花。「誰にも秘密にしてほしい。背中のカマのこと、それから…」「わかってます。私には見えるけど、危なくないんですよね。扱えるのは本人だけだし…」「あぁ…その通りだ」ことさら大きくため息をつくと、神西は凛花にあることを教えた。「人間に正体がバレたことが上に知られると…獣にされてしまうという言い伝えがある」「獣って、狼とか…狐とか狸とか?」「あぁ。家畜…って聞いたこともある」「…家畜!豚とか鶏とか?」つい笑ってしまった凛花を、笑えない神西がじっと見つめた。「…とにかく姿を変えるらしいが、何しろ前例がない。どんなものに変えられてしまうか、わからない」「なるほど。…それが怖いんですね」「怖いって…いうか、困るよな。だって獣か家畜だぞ?…この美しい俺が」眉間にシワを寄せ、ナルシストぶりを見せる神西を、凛花は明るく笑い飛ばす。「言いませんよ。…ただし」「…ただし?」「今夜は出かけないで、もっと死神の仕組みを教えてください」背伸びをして肩を抱く凛花。神西は、イエスと言うより他なかった。約束通り、マンションに帰ると神西が先に到着していて、何やら料理をしていた。「あの…なにを料理しているんですか?」「ニワトリだ」「…にわ…っ!」ドンッとまな板に乗せられたぐったりしたニワトリ…シンクには、レタスが洗ってボールに入れてある。なんか…取り合わせがおかしい気がする。「…ちょっと待ってくださいっ!!」大きめの包丁を上から振り下ろそうとする先に、ニワトリの首…慌ててその腕を取り、包丁も取り上げた。「一羽丸ごと、誰が食べるんですかっ?…だいたい、どうしてニワトリを?」「死神がカマを振り下ろすのは人間だけじゃない」「…は?これ、課長が仕留めたんですか?」「仕留めたってゆーか、寿命だから向こうに
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8.死神とおにぎりTシャツ
「…で、なんでまたスーツなんですか?」「おかしいか?」少しツヤ感のある紺色のスーツ。淡い紫色のワイシャツに、同系色のネクタイが、腹立たしいほど似合っている。似合っているが…風呂上がりにもう一度スーツを着るとは。「…別に、変じゃないですけど…」「それじゃ………」スラックスのポケットに両手を入れ、リズミカルに近づいてくる神西。顎を引いているから上目使いで、口元に不敵な笑みまで浮かべている。「…カッコいいと思ってる?」「…ふん」…さっきまでフルチンだったくせに!「今日はお出かけしないでいろいろ話してもらう約束ですよ?…そんな格好じゃ、リラックスできないじゃないですか!」「そう言われても、スーツ以外の人間の服など…着たことがない」「そんなこと言って…寝る時もスーツなんですか?」…そのわりには毎朝パリッとしているけれど。…そういえば、毎夜出かけていることに気づく。「あの、もしかして…」もしかして寝てないとか?凛花はモデルのような姿で立つ神西の脇をすり抜け、勝手に部屋に入った。「え…嘘…」部屋の中には、ベッドはおろか…家具らしいものは何ひとつなかった。ただ…部屋のコーナーに渡してある棒に、スーツがいくつも吊るしてあるだけ。「…これ、どうしてクローゼットに入れないんですか…」「何のための空間なのか、わからなかったからだ」備え付けのクローゼットを開け、呆れたように言う凛花に、当然のように答える神西。確かにまるっきり空っぽだったが、部屋のコーナーに棒を渡してスーツを吊るすアイディアは出せたのに、クローゼットを使えないところが面白い。「…スーツの保管法は、人間のアイディアをもらっただけだ」こちらの含み笑いに気づいたようだ。アイディアとは…会社で聞きかじったのか、それとも電車で?想像すれば、それもまた凛花の笑いを誘う。「課長、ちょっと来てください」凛花は部屋の入り口にもたれ、腕を組む神西の腕を取り、自分の部屋に連れて行った。「睡眠は必要ないのかもしれませんけど、人間の部屋って普通、こんな感じです」ベッドとデスク、椅子。姿見と本棚。「…散らかりすぎだろ。掃除が嫌いなのか?」ベッドの上に転がるいくつかのぬいぐるみを見て言われた。「デスクにも…なんだこの色とりどりの小瓶は…」「マニキュアとか化粧品ですよ…」手に取られたものを
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9.人間は柔らかい
「でもそれ、私には効きませんよ?」「大丈夫だ。俺が冥界に戻るまでには効くはずだ」「なんか…不安しかありませんけど…」1人残されたとしたら…こんな秘密を知った自分はどうなるんだろう。凛花は複雑な思いでグラスに残ったワインを飲み干した。翌朝…お腹のあたりにずっしりした重みを感じ、目が覚めた。腹痛だろうか…そろりとお腹に手を当てようとして、毛布の上から重たい棒のようなものが乗っていることに気づく。「…は?足…?」ジャージを履いた人の足だと気づいて、驚いて飛び上がる。「あぁ…」次の瞬間、男の低いうめき声が聞こえ、恐る恐る目をやると…自分の後ろに横たわる人物に目が点になった。「…神西課長!どうしてここで寝てるんですかっ??」確か昨夜は、飲み干したワインで突然酔っ払い、私は先に自分の部屋に入ったはず…「…人間の部屋を見習えとか、ベッドがどうとか、言ってただろ?」目を閉じたまま、呂律の怪しい口調で説明する神西。「そりゃ…言いましたけど」「ベッドで寝ろってことではなかったのか?…」「いや…私の…女性のベッドに侵入してくるなんて、人間界では犯罪ですよ?…犯罪!」まくし立てる凛花の声に、徐々に目が覚めてきたらしい。片ひじを立てて上体を起こし「…そうなのか?」と聞かれて固まった。…上半身が、裸ですが?おにぎりTシャツを脱がれてしまった…まどろむことすら許されず、凛花はベッドから起きることになる。「…ずいぶん柔らかいな。鈴原」「やわ…」変な言い方をされて、思わず立ち止まった。…柔らかいなんて言われたことない。自慢ではないが、生まれてこのかた…色恋沙汰なんて興味なくて、ここまで男に関わったのは初めてなんだから…「気持ちよかった」「そ…れは、良かったです」セクハラだと騒ぎ立てることは出来たけど、なんだかそんな気分じゃない。自分に沸き上がる不思議な感情に顔をしかめながら、凛花は洗面室に向かった。今日も代わり映えのないオフィスカジュアルに身を包んだ自分に比べ、神西はパリッとしている。シルバー色のスーツとワインレッドのネクタイ姿が大変麗しい。…昨夜風呂上がりに着ていたスーツとは違うところがニクイ…!「それでは、私は電車ですので」「あぁ」車通勤になったはずの神西を置いて、凛花は頭を下げ、玄関に向かう。なのに後ろからついてくるので不思議に
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10.俺の凛花に近づくな
瞬間ふわっと軽くなった足元。「…行くぞ」指先で呼ばれ、足が意思とは関係なく動く。大股で歩くからなのか、そもそも足の長さが違うからなのか…神西の歩く速度が早くて、小走りしないと置いていかれる。「あの私たち、行きたいカフェがあるんですけど…」「そうなのか」ラーメン店の前で止まった神西に、ゼェゼェと荒い息を吐く凛花が伝える。ふと…背後に近づく人の気配に気づいた。「あら…あなたたちもラーメン?」振り向くと、黒髪のボブヘア…深海だった。「まぁな。昼といえばラーメンかそばだと聞いたことがある」「…何年前の話?情報はアップデートしないとダメよ」神西の胸元をポン…っと叩き、先に店に入る深海。結局カフェの話は無視され、全員でラーメン店に入ることになる。「鈴原は俺の隣だ」「…は?」なぜ隣なのかわからないが、そう言われたので大人しく隣に座った。鮫島は深海に奥を譲り、凛花の前に着席すると、なぜかスッと立ち上がる神西。「鈴原も奥だ…」「あ、私…トイレが近いので、奥じゃないほうがいいんですけど」「ダメだ。トイレの時はちゃんと通してやる」どうしてそんなに席にこだわるのかわからないが、ふと見ると…新海が笑いを噛み殺しているのがわかる。「今度歓迎会をやるんですけど、その人数がわかったので、お店を…ですね、相談しようと思ってまして」全員同じラーメンを頼んだところで、凛花は本来の用件を話し始めた。秘書課の新海には関係ない話だが、忙しい鮫島との貴重な時間だ。彼女もそれとなく話に入れるように配慮しながら、鮫島を見た。「今回、出席人数が多いんだよね。…多分、神西課長が出席されるからだと思います。…ありがとうございます」「鈴原が幹事だからな。…仕方なく行くだけだ」「え…そう、なんですか?」そんな言い方をしたら、仲を疑われるだけだと思うが…「そうだ。俺が行かなければ、虫がつく可能性がある」「虫ってあの、もしかして鈴原さんって、課長の…」…ほら、やっぱり。恋人かと聞かれたらどうするのだろう。凛花は隣に座る人を見上げた。「もしかして課長の…従姉妹とか、親戚とか?」どうしてそうなる?!そこへ深海の笑い声が重なった。「いいじゃない?…親戚でも」含み笑いといい上目使いの視線といい…この人は何か知っているのだろうか。疑いのまなざしを向ける隣で「そうだ
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