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第13話

Author: 金運御守
翔太のアシスタントが位置情報を特定し、人手を向かわせた。それを知り、ようやく裕美はほんの少しだけ胸をなで下ろした。

彼女の少し血の気を失った唇を見つめながら、翔太は眉をわずかにひそめ、無意識のうちに彼女の手の甲に触れて軽く叩いた。

その温もりが伝わってきて、裕美は自分がまだ翔太の袖をつかんでいたことに気づき、慌てて手を離した。

「ありがとう……」

翔太は微笑んで首を横に振り、大丈夫だと示したが、指先がそっと軽く握り返し、先ほどの感触を惜しむようだった。

「でも、一つ気になることがあるんだ」

裕美が尋ねた。「何?」

「俺が受け取った報告では、君と妹さんはあまり仲が良くないらしいね。ついこの前も、オークション会場で君のお母さんの形見――この腕輪を奪ったじゃないか」

翔太ははっきりと言わなかったが、裕美にはその意図が伝わっていた。

――どうして、まだ彼女を助けようとするの?

裕美は自分に問いかけた。なぜ芳子からの別れのメッセージを見たとき、反射的に助けなければと思ったのだろう。

もしかすると、あの夜、水に落ちたときにかすかに見えた、自分に向かって泳いでくるあの姿のせいかもしれない。

あるいは、病院で芳子が口にした言葉や、苦しみに濡れた彼女の涙が、前世の自分を思い出させたのかもしれない。

裕美は生まれ変わってから芳子と顔を合わせたすべての瞬間を思い返した。

あの日のオークション会場でさえ、芳子は彼女に対して侮辱的な言葉ひとつも口にしなかった。

むしろ、彼女の人格を執拗に攻撃し、その痛いところを繰り返し踏みにじってきたのは、常に拓真だった。

彼女には芳子が何のためにそんなことをしたのか分からなかった。

けれども、最後の瞬間に母の形見を自分に返そうとしてくれた――その思いだけを信じて、裕美は今回だけは賭けてみようと思った。

……

裕美が病室のドアを押し開けると、芳子は顔色を失ったままベッドに横たわり、静かに天井を見つめていた。

「宅配便を送ったのはあなたなの?」

芳子は微動だにせず、何も答えなかった。しばらくして、ただ瞳だけがゆっくりと彼女の方を向いた。

「メッセージを見たわ。どうして自殺するの?」

芳子はゆっくりと目を閉じ、それでも彼女の言葉には反応しなかった。

裕美はその拒むような態度を見つめ、そっとため息をついた。

「あの
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