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第7話

Auteur: 美垣 玲子
同時期、藤原グループは正式な発表を行った。お嬢様の帰還を祝う歓迎パーティーを開催し、その模様を全編生中継するという。

藤原家に戻って最初の頃、私は著しい違和感に苛まれた。すべてを一から学び直さなければならなかった。

でも、あれほどの苦労を乗り越えてきた私にとって、新しい学びなど造作もないことだった。

こうして、療養の合間を縫っては勉強に励み、心身ともに生まれ変わったような感覚を味わっていた。

鏡の中のイブニングドレス姿は、ますます母に似てきていた。父はまた、こっそりとハンカチを取り出している。

しかし、パーティー開始を目前に控えたその時、SNSで私に関する投稿が爆発的に拡散され始めた。

「藤原お嬢様騒動 実の息子を切り捨て?過去の闇を隠蔽か」

「藤原さくら 血も涙もない!?相親家を逮捕させた真相」

秘書から報告を受けた時には、すでに私の携帯は着信で溢れかえっていた。

矢島家は徹底的に私を貶めようと決意したらしく、インスタライブを始めていた。

「#拡散希望 実の息子を見捨てた令嬢の真実」

「妊婦の嫁がいるのに......藤原グループお嬢様、相親家を刑務所送り #炎上」

次々と私への非難が飛び交う中、配信で恭一が涙ながらに訴えかけていた。

「母さん、申し訳ありません。私が足手まといで......でも一度だけ、たった一度だけでいいから会わせてください。お願いします、母さん!」

めぐみも涙声で語りかける。

「お義母様、お腹の子はもう三ヶ月なんです。生まれた時、せめておばあちゃんの顔だけでも......私のことはどうでもいいんです。でも、お孫さんのことまで......」

矢島母も配信に顔を出した。

「親戚として、これまでは本当に申し訳ありませんでした。でも、子供に罪はないはず。どうかお会いになってください。みんな、さくらさんに会いたがっているんです」

画面が再び恭一を映し出すと、彼は視聴者の前で土下座を始めた。

「皆様、こんな形でしか訴える場所がなくて......ただ母さんに会いたいんです。育ててくれた母さんに。もし会いたくないとおっしゃるなら、すぐに身を引きます。でも、母さんに会う術がなくて......」

「藤原グループへの就職を拒否されても構いません。それは私たち夫婦の力不足ですから」

視聴者たちは様々なコメントを投稿し始めた。

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