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壊しに行ったパーティーの主役は俺だった

壊しに行ったパーティーの主役は俺だった

By:  黒紅嵐柏Completed
Language: Japanese
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ある日、母の手違いで「幸せな家族」っていうライングループに招待されちゃった。 グループのメンバーは三人だけ。母と父、それから「いつき」っていう名前の見知らぬ男の子。 両親はその子の誕生日パーティーの準備ですごく盛り上がってた。でも本当は、明日は俺の誕生日なんだ。もう10年も、ずっと忘れられてる日。 母は言った。【会場はとびきり華やかにして、彼を本当の王子様にしてあげるの】 【お金はいくらでも出すよ。ただ、竜也(たつや)には知られないようにね。うるさいから】父も言った。 俺は黙ってそのやり取りをスクショした。いつか、全部ぶちまけてやろうって思った。 その時、優等生の妹・千葉千佳(ちば ちか)から個人メッセージが届いた。送られてきたのは、母とのやり取りのスクショだった。 【母さん、お兄ちゃんのサプライズ誕生日パーティー、準備はもう終わった?お兄ちゃんを騙すのはこれが最後だって、私と約束したよね】

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Chapter 1

第1話

「京北時間0時30分、浜白行きの飛行機が着陸時に不幸にも事故が発生。死亡者数はすでに136人に達し、現時点確認されている生存者はわずか3人です」

病院の大型スクリーンに映し出されたこの航空事故の速報が、ぼんやりとしていた三井鈴の意識を現実に引き戻した。

事故の生存者の一人である彼女は、脚に包帯を巻かれ、全身傷だらけで集中治療室のベッドに横たわっていた。

手に握りしめた携帯電話からは、「おかけになった電話は電源が入っていないか、電波の届かない場所にあるため、つながりません。しばらくしてからおかけ直しください」という自動音声が流れ続けている。

事故発生から今まで、名ばかりの夫・安田翔平は一度も電話に出なかった。

彼女は、こんな全国を震撼させた航空事故について、彼が何も知らないはずがないと思った。

事故現場には無数の遺体が散乱していた。鈴は思い出すたびに恐怖で喉を絞めつけられるような感触を覚え、呼吸もままならなくなってしまう。

それなのに、結婚して3年になる夫は、彼女が最も助けを必要としている時に、まったくの音信不通だった。

三井鈴は、胸に冷たさが広がっていくのを感じた。

しばらくすると、突然携帯が鳴り響いた。彼女は慌てて我に返り、携帯を取り出すが、画面に表示された「義祖母」という文字を見た瞬間、その目から再び輝きが失われていった。

「……もしもし?」電話に出た彼女の声はかすれていた。

すると、受話器の向こうから聞こえてきたのは、不安げな年配の女性の声だった。「鈴、あんた大丈夫かい?おばあちゃん、心配でたまらなかったよ!翔平そこにいるの?」

電話の主は安田翔平の祖母であり、安田家の中で唯一、彼女を気にかけてくれる存在だった。

「彼は……」

三井鈴の沈黙から何かを感じ取ったのか、彼女は言葉を荒げた。「あのバカ孫!会社の秘書でもある奥さんに出張を言いつけておいて、事故が起きても顔一つ見せないなんてどういうつもりなの!安心して鈴さん、後で私がきつく叱ってあげるわ!」

そして、「今、どこの病院にいるんだい?執事に迎えに寄越すわ」と聞かれた。

三井鈴が病院の場所を伝えると、義祖母はすぐに電話が切れた。

彼女は無言で携帯を見つめたまま、腕に刺さった点滴の針を抜き、全身の痛みに耐えてベッドから降りた。

「何をしてるんですか?足の怪我まだ治っていませんよ。ちゃんと休まないと」

病室に入ってきた看護師は、三井鈴の行動を止めようとしたが、彼女の決意は固かった。

「松葉杖を二本、用意してくれませんか。退院手続きをします」

彼女の目には強い決意があり、誰もそれを疑うことはできなかった。

病院よりも、安田家の旧宅のほうが療養に適していると彼女は考えていた。

さらに、彼女は安田グループの秘書であり、ドバイで開催された医療展示会の準備や人員の確認に携わった鈴には、早急に報告書を提出するという責務があるのだ。

それよりも重要なのは、安田翔平が今どこで何をしているのか、どうしても知りたかった。

看護師が渋々と差し出した松葉杖を受け取ると、彼女は振り返ることなく集中治療室を出て、壁に沿って一歩一歩、病院の支払窓口へと向かった。

だが、ロビーの窓ガラス越しに見慣れた車のナンバープレートが目に入った。その後ろには数台の高級車が続いていた。

それは安田グループの社用車だ。

車から数名が降り、やがて黒いコートを身にまとった男が、女を抱きかかえるようにして車から降りた。その男はいかにも大事そうに、黒いコートで彼女の露出した脚を包み込むようにしていた。

男は急ぎ足で病院の正面玄関へと向かい、三井鈴には気づかなかった。

彼女はその場に立ち尽くし、少し離れた場所から、彼がその女性を抱えて専門外来診察室に入っていく光景を見つめていた。

結婚して3年、彼がこんなにも誰かに深い愛情を注いでいる姿、初めて目の当たりにした。

あの女性はいったい誰なのだろうか?

それが誰であれ、言いようのない痛みが三井鈴の胸に広がっていった。

痛みがあまりにも強すぎて、彼女は息ができなくなりそうだった。

そんな時、廊下を歩く看護師数人がひそひそと話している内容が、すれ違いざまに耳に入ってきた。「あれって、財界ニュースでよく見る安田グループの後継者、安田翔平って人よね?すごい男前じゃない?うちの病院に来るなんてびっくりしちゃった。恋人の産婦人科の検診の付き添いみたいよ?」

「産婦人科?本当?」

「うん、診断書には妊娠12週目って書いてあったよ。でも胎児が安定していなくて、今日は出血があったから、安田さんが連れてきたんだって」

12週……つまり、2ヶ月前から……
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第1話
ある日、母の手違いで「幸せな家族」っていうライングループに招待されちゃった。グループのメンバーは三人だけ。母と父、それから「いつき」っていう名前の見知らぬ男の子。両親はその子の誕生日パーティーの準備ですごく盛り上がってた。でも本当は、明日は俺の誕生日なんだ。もう10年も、ずっと忘れられてる日。母は言った。【会場はとびきり華やかにして、彼を本当の王子様にしてあげるの】【お金はいくらでも出すよ。ただ、竜也(たつや)には知られないようにね。うるさいから】父も言った。俺は黙ってそのやり取りをスクショした。いつか、全部ぶちまけてやろうって思った。その時、優等生の妹・千葉千佳(ちば ちか)から個人メッセージが届いた。送られてきたのは、母とのやり取りのスクショだった。【母さん、お兄ちゃんのサプライズ誕生日パーティー、準備はもう終わった?お兄ちゃんを騙すのはこれが最後だって、私と約束したよね】千佳が送ってきたスクショを見て、俺の心は完全に冷え切ってしまった。サプライズ、だって?俺を騙すのが、これが最後?そうだよな。毎年の誕生日、両親はいつも適当な言い訳で俺をはぐらかしてきた。「竜也、ごめんね、お母さんの会社で急用ができちゃって」「竜也、お父さんは仕事の付き合いがあるから、何か出前でも頼んでおいてくれ」それが今年はたいしたもんだ。ごまかすどころか、息子をすり替えるとはね。俺はスマホを放り投げた。胸に何かが詰まったみたいに苦しかった。また千佳からメッセージが来た。【お兄ちゃん、考えすぎないで。お父さんたちは……】俺はただ【わかった】とだけ返した。考えすぎ?これ以上、何を考えろって言うんだ?事実はもう目の前にある。あの「いつき」の誕生日パーティーこそ、彼らが俺を騙すための「サプライズ」だったんだ。実の息子の俺は、あかの他人の男の子の幸せを引き立てるための、ただの引き立て役でしかないってことか。リビングから、母が声を潜めて電話する声が聞こえてきた。「ええ、青い風船がいいわ。一番大きくて、キラキラしてるものでお願い。樹くんは青が一番好きだから。あの子が喜ぶようにしてあげてね」樹。なるほど、あの男の子の名前は武田樹(たけだ いつき)か。俺はスマホを手に取り、SNSでその名前を検索してみた
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第2話
もう10年もずっと、おざなりな祝い方。金額すら、一度だって変わらなかった。そのお札をぐしゃぐしゃに丸めて、ゴミ箱に捨てた。昨日の気まずい雰囲気のまま、彼らはもう取り繕うことすらしなくなった。部屋から母が電話している声が聞こえた。声が弾んでいる。「会場の飾り付けはもう終わったわ。まるでおとぎ話の世界みたい!」父はベランダで誰かに指示を出していた。「あの1982年もののラフィットを持ってきてくれ。今日は樹くんに、思いっきり楽しんでもらわないとな」一方、俺はまるで幽霊のように、自分の家をさまよっていた。千佳は朝早くに出かけていった。家を出る前、複雑な表情で俺を一瞥した。「お兄ちゃん、何を見ても、私のことだけは信じて」千佳を信じて?彼女も、この茶番に一枚噛んでいるとでも言うのか?俺は鼻で笑うだけで、何も答えなかった。昼ごろ、家の前に一台の車が停まった。作業員が二人、大げさな青いリボンがついた、巨大なプレゼントの箱を運び出している。窓からその様子を見ていた。そうか、彼らにとって、俺はプレゼント一つにも劣る存在だったのか。母は小走りで下の階へ向かい、満面の笑みで荷物を受け取っていた。彼女は作業員に、ぶつけたりしないよう、慎重に運ぶよう指示していた。あのロゴには見覚えがあった。先月発売されたばかりの限定版ピアノだ。値段がべらぼうに高い。俺が10年も使っている古いピアノは、とっくに鍵盤は黄ばんで、音も狂い始めているのに。それとなく母に買い替えを頼んだことがあったけど、いつも、「まだ使えるでしょ。うちは物入りなんだから」と言って、取り合ってもらえなかった。物入りなんじゃない。ただ、俺にはその価値がないというだけだった。心の奥底にあった最後の期待も、これで完全に消え去った。午後、俺は黒いスーツに着替えた。やつれた顔を隠すように、身なりを整えた。あの人たちに、俺の惨めな姿を見せるわけにはいかない。一番堂々とした姿で、彼らとの縁を断ち切ってやる。パーティーの場所は、昨日の母の電話で盗み聞きしていた。街で一番高級なパーティー会場が、貸し切りにされていた。タクシーを拾ってそこへ向かうと、運転手が感心したように話しかけてきた。「今日は何かあるんですか?この先、通行止めになっているのは、どうやら
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第3話
俺は冷たく言い放った。両親の顔から、さっと笑顔が消えた。母の方が反応は早かった。すぐに駆け寄って俺の腕を掴もうとしたけど、俺はとっさに身をかわした。「竜也、どうしてここにいるの?」母の声は震えていた。「ほら、こっちへ来て。紹介するわ、この子はね……」「樹くん、あなたたちの『大切な子』だろ?」俺は母の言葉を遮って、王子みたいな服を着たその子をまっすぐに見つめた。樹の顔からも笑顔が消えた。彼はどうしたらいいか分からない様子で俺を見ていた。その目には少しだけ申し訳なさそうな色が浮かんで、助けを求めるように俺の両親の方を見た。「この方は?」招待客の一人が、不思議そうに尋ねた。父の顔は、みるみるうちに険しくなっていった。そして声を押し殺して俺を怒鳴りつけた。「竜也!ここで騒ぎを起こすな!さっさと帰れ!」「騒ぎを、起こす?」俺は鼻で笑った。「母さん、今日が何の日か忘れたわけじゃないよな?今日は、あなたたちの実の息子の俺の誕生日でもあるんだが」俺は、はっきりと、一語一句、そう言った。会場は、一瞬にして騒然となった。みんなの視線が、面白がって両親と俺の間を行ったり来たりしている。「へぇ、あっちが本当の息子さんだったのか……じゃあ、こっちは一体……」「まったく、どういうことなのかしらね。実の息子の誕生日はほったらかしで、赤の他人のためにこんな盛大なパーティーを開くなんて」「千葉社長も何を考えてるんだか。さっぱり分からん」周りのひそひそ話が耳に入ったのか、両親の顔色が悪くなっていく。母は唇をわなわなと震わせていた。父の目つきは、動揺から激しい怒りへと変わった。「もういい!」彼はテーブルを強く叩いた。「お前は、わざわざこの場をぶち壊しに来たのか!」「ぶち壊す?」俺はスマホを掲げ、録画した動画を再生した。「母さん、場をぶち壊してるのはどっちだよ?俺のためにサプライズを用意してるって言いながら、他の人に王冠を被せたり、ダイヤモンドがあしらわれた時計を贈ったりしてるのは誰なんだ?」スマホの画面には、母が優しく樹に王冠を被せてあげる様子がはっきりと映し出されていた。「樹くん、今日はあなたが主役よ」そのセリフが、スマホのスピーカーを通して、静まり返ったホールに響き渡った。母の顔か
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第4話
俺はぽかんとした。いつも冷静な妹が、全身を震わせている。俺の心臓が、なぜかきゅっと締め付けられた。壇上の母も我に返ると、俺には目もくれずにマイクを手に取った。その表情は、恐ろしいほど硬かった。「お騒がせして、申し訳ありません」招待客たちは顔を見合わせ、ひそひそ話を止めた。母はパーティーをお開きにして、この場をぶち壊した俺を追い出すつもりだと思った。だけど、彼女の次の言葉に、その場にいた誰もがぽかんとした。「今日は、たしかに私の息子の誕生日です。でも、樹くんのではありません」母は一度言葉を切り、人混みの向こうから、まっすぐ俺を見た。「私の実の息子、竜也の誕生日なのです」隣に立っていた樹が何か言おうとしたが、母の鋭い視線に口をつぐんだ。母は息を深く吸い込んで、言葉を続けた。「皆さんはきっとたくさんの疑問をお持ちでしょう。なぜ私たちが、血の繋がらない方のためにパーティーを開き、実の息子をないがしろにしてきたのか、と。我が子には、あまりにも多くの借りがあるからです」彼女の声は、嗚咽をこらえて詰まっていた。「この子が10歳になってから、私と夫が仕事にかまけて、10年もの間、誕生日を忘れてしまっていました。その度に言い訳ばかりして……この子の瞳から、少しずつ輝きが消えていくのを見て見ぬふりをしてきたんです。いつも笑っていた活発な子が、どんどん無口になって、私たちを避けるようになりました。もう私たちに何も期待せず、ついには、私たちの言葉を何一つ信じてくれなくなったのです。私たちは、この子に償いがしたいです。一生忘れられないような、最高のサプライズを贈りたいと思いました。でも、普通にそう伝えても、またいつもの言い訳だと思われてしまうだけです。きっと、信じてもらえないでしょう」母の視線は、ずっと俺から逸らされなかった。俺はその場で立ち尽くし、頭の中が真っ白になった。母は、何を言っているんだ?俺が思い描いていた筋書きとは、まったく違う。「だから、私たちはこんな……馬鹿げた方法を考えました」母は力なく笑った。「私たちはプロのイベント会社にお願いして、そこの担当者さんの息子さんに協力していただき、このお芝居を計画したのです。わざとラインのやり取りを見せ、わざと勘違いさせ、これまでの悲しみや怒りを
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第5話
12歳の俺。一人でケーキを持って、ロウソクが一本だけ立っている。15歳の俺。制服姿で、勉強机に突っ伏して眠ってしまっている。目元には、涙の跡が残っているようにも見えた。18歳の俺。大学の門の前に、たった一人で立っている。後ろでは、たくさんの親子が別れを惜しんでいるのに。俺の後ろ姿は、ひどく寂しそうだった。どれも、俺の知らない写真ばかりだ。いつの間にか、隠し撮りでもされていたのだろうか。どの写真も、俺が誰にも気にかけられず、一人ぼっちで成長してきた時間を、はっきりと写し出していた。写真に合わせて、母の落ち着いたナレーションが流れてきた。「竜也、私の可愛い息子。ごめん。お母さんはいつも忙しいって言ってたわね。会議だの付き合いだの、仕事ばかりで。でも、一番大事な仕事が、あなたの成長を見守ることだって忘れていたの。裕福な暮らしをさせてあげれば、母親の役目は果たせているんだって、お母さんは思っていた。でもある日、あなたの部屋でプレゼントのリストを見つけたの。約束したのに、結局あげられなかったものばかり。その時、自分がどれだけとんでもない勘違いをしていたのか、やっとわかったの。あなたが欲しかったのは、そんなものじゃなかったのよね」スクリーンに、俺の勉強机のアップが映し出された。それは、俺が何気なく落書きしたノートだった。へたくそな観覧車の絵の横に、こう書かれていた。【10歳の誕生日。パパとママと遊園地に行きたいな】カッコいいスポーツウェアの絵の横には、【12歳の誕生日。ちゃんとしたスポーツウェアがほしい】と書かれていた。家族三人が手をつないでいる簡単な絵。その横には、【15歳の誕生日。家族写真が撮れたらいいな】と書かれていた。どれも、とっくに忘れてしまって、心の奥底にしまい込んでいた願いだった。それが今、みんなの前で、こんなふうにさらけ出されている。胸が痛む。だけど、なんだか鼻の奥がツンとして、泣きそうになった。「私たちは、何度も試みたわ。でも、固く閉ざされたあなたの心の前では、どうすることもできなかった。だから今年こそ、あなたにしてあげられなかったことを、全部まとめて返したいと思ったの。ごめん、竜也。こんなやり方で、あなたを傷つけてしまって。お父さんもお母さんも、不器用すぎるのよね。ひどいやり方だって
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第6話
「あのライングループでの会話も、ネックレスも、ピアノも……全部、あなたに見せるための芝居でした」樹はステージの反対側を指さした。幕が開くと、真っ白な新品のグランドピアノが静かに置かれていた。そのボディには、俺のイニシャルである「C.T.」が刻まれている。俺は、もう何も言えなかった。つまり、「幸せな家族」っていうライングループは、この計画のためのグループだったのか。つまり、グループチャットで「大切な子」を指していたのは、俺のことだったのか。つまり、俺の心を突き刺したあの言葉も、全部今日のための台本だったのか。つまり、樹は、ただ雇われただけの、演技が上手な役者だったってことか。そして、この壮大な劇のなかで、俺だけが何も知らされていない主役だった。千佳が俺のスマホを返しながら、小声で言った。「お兄ちゃん、ごめん。私は前から知ってたの。でも、父さんと母さんが言っちゃダメだって。だから、私なりのやり方で教えようとしたんだけど……」彼女が送ってきた、あのラインのスクリーンショットを思い出した。【母さん、お兄ちゃんのサプライズ誕生日パーティー、準備はもう終わった?お兄ちゃんを騙すのはこれが最後だって、私と約束したよね】あの時、俺は、「騙す」という字を見て、ついカッとなって誤解してしまったんだ。千佳は共犯者なんかじゃなかった。ただ、不器用な方法で俺にサインを送ろうとしてくれていたんだ。俺が本当に参ってしまうのを心配して、でも両親との約束も破れなかったんだ。千佳の充血した目を見つめると、胸の中に色々な感情が渦巻いた。「じゃあ、お前も役者だったわけだ」俺は尋ねた。千佳はさらに俯いた。「ごめん、お兄ちゃん。あなたが悲しそうなのを見るたび、本当のことを言いたかった。でもお母さんが、これがあなたに心を開いてもらう唯一の方法だって……」「心を開く?」俺はその言葉を繰り返した。あまりにもバカげている。「人を騙して、傷つけるようなやり方で、俺の心を開くだって?」俺の言葉に、目の前にいる三人は、一斉に顔を真っ青にした。母が一歩前に出た。「竜也、ごめん。お母さんが軽率で、自分勝手だったわ。最後にはうまくいくんだから、それまでの過程では何をしてもいいなんて……こんなやり方が、あなたをここまで苦しめるなんて思わなかった
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第7話
期待しなければ、失望することもない。でも今日、彼らはむごいやり方で、俺の鉄壁だった心の壁を突き崩した。壁は崩れ落ち、その中から、とっくに傷だらけなのに、それでも愛されたいと願う俺が顔を出した。俺は両親を見る。その顔には、隠しようもない苦悩が浮かんでいた。どうすればいいんだ?勝者みたいに、彼らの愚かさと自業自得をあざ笑ってやればいいのか?それとも、聞き分けのいい息子として彼らの胸に飛び込んで、感動の家族再会シーンでも演じればいいのか?頭の中がぐちゃぐちゃだった。いつの間にか周りの招待客は静かにいなくなっていた。だだっ広い会場には、俺たち家族と、気まずそうな顔をした企画者親子だけが残されている。俺は深く息を吸い込んで、父、母、そして千佳の顔を順番に見た。そして、こう言ったんだ。「パーティーも、サプライズも、すごくよかったよ。でも、俺は少しも嬉しくない」俺の言葉は、三人の目に宿りかけた希望の光をかき消した。父は唇を動かしたけど、結局、重いため息をついただけだった。母の涙は、もっと激しくなった。千佳は、どうしたらいいか分からないといった目で俺を見ていた。俺は三人の反応を無視して、くるりと向きを変えると、白いピアノまで一歩ずつ歩いていった。新品の鍵盤が、照明を浴びて柔らかく光っている。ピアノに刻まれた「C.T.」の文字が、はっきりと見えた。手を伸ばし、ひんやりとした鍵盤をそっと撫でたけど、弾こうという気にはなれなかった。「知ってる?」彼らに問いかけるように、でも、自分に言い聞かせるように、俺は静かに言った。「10歳の時、俺は遊園地に行きたかったわけじゃない。たった10分でいいから、あなたたちと一緒に花火が見たかったんだ。12歳の時も、欲しかったのはスポーツウェアなんかじゃない。学校の文化祭で、客席にあなたたちの顔を見つけたかっただけなんだ。15歳の誕生日、俺が願ったのは家族写真じゃない。ただ電話一本でいいから、『誕生日おめでとう』って言ってほしかった。でも、夜の12時まで待っても、スマホは一度も鳴らなかった」俺は、とっくに過ぎ去った事実を、ゆっくりと語った。母は口を押さえて、声を押し殺して泣き始めた。父の背中は、その瞬間ぐっと丸くなった。まるで一気に10歳も老け込んだみ
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第8話
でも両親は、このすべてが、俺の心を少しずつ切り刻むようなものだったなんて、考えもしなかったんだろうな。両親は相変わらず、自分たちが正しいと思うやり方で、愛を表現しようとしてくるんだ。まるで、これまで10年間、自分たちの忙しさだけを理由に、俺の成長から目を背けてきたことと、まったく同じだ。「竜也、じゃあ、私たちはどうすればいいの?どうしたらいいのか、教えてちょうだい。どうすれば、あなたは私たちを許してくれるの?」母は泣きながら聞いてきた。俺は母を見て、静かに首を振った。「分からない。もう疲れたんだ」そう告げると、俺は踵を返した。俺のために用意されたはずの、息の詰まるようなおとぎ話の世界から抜け出したんだ。俺は振り返らなかった。三つの視線が、釘のように背中に突き刺さるのを感じた。でも、俺は一歩も立ち止まらなかった。会場の外は、もうすっかり夜の闇に包まれていた。冷たい風が頬を撫でたとき、自分がいつの間にか泣いていたことに気づいた。俺は家に帰らず、ホテルに部屋を取った。カバンの中でスマホがひっきりなしに震えていたけど、見ずに電源を切った。ふかふかの大きなベッドに体を投げ出すと、会場での出来事が、頭の中で何度も再生された。あの盛大なパーティー。胸をえぐるような、あの映像。そして、俺が冷たく言い放った「少しも嬉しくない」という言葉。とんでもない茶番と、愛情を叩きつけられた衝撃とがごちゃ混ぜになって、息苦しくなった。両親は嘘で俺を怒らせ、さらに大掛かりな「嘘」で、これが愛情なのだと見せつけてきた。この愛を、俺はどう消化したらいいんだ?分からなかった。ただひたすら、疲れていた。俺は天井を見つめたまま、一睡もできなかった。翌朝、ドアをノックする音で起こされた。ホテルのルームサービスかと思ってドアを開けると、そこにいたのは千佳だった。彼女の目の下には濃いクマができていて、手には朝食を提げていた。「お兄ちゃん」千佳はかすれた声で、俺を呼んだ。俺は体をずらして、彼女を部屋に入れた。千佳は朝食をテーブルに置くと、恐る恐る俺の顔色をうかがった。「お母さんが作ったの。あなたが一番好きな、おにぎり」俺は何も言わず、ソファに腰を下ろした。部屋は静まり返っていた。しばらく
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第9話
「あなたがどう思ってるかは知らない。でも、私の中では、あなたはずっと、たった一人のお兄ちゃんだよ」ドアが閉まった。俺は机の上のUSBメモリをしばらく見つ続けた末、ノートパソコンを手に取った。USBメモリの中にはフォルダが一つだけ。名前は「竜也へのプレゼント」となっていた。クリックすると、中には10個のフォルダがあった。「10歳」から「19歳」まで、それぞれ名前がつけられている。俺は震える手で、「10歳」のフォルダを開いた。中には航空券の予約画面のスクリーンショットがあった。行き先は遊園地で、日付は俺の誕生日になっている。それから、一本の動画。母がカメラに向かって、俺にかける言葉を練習しているところだった。「竜也、お誕生日おめでとう。ママが、あなたの一番行きたいところに連れて行ってあげるからね……」動画の中の母は、ぎこちなくて、すごく緊張しているようだった。でも、その予約はキャンセルされていた。理由の欄には、【急な出張のため】とだけ書かれていた。俺は「12歳」のフォルダを開いた。中にはスポーツウェアのデザイン画があった。それは、俺がノートに描いたものだ。その下には、デザイナーとやり取りしたメールの履歴もあった。細かい部分を何度も修正しているのが分かる。そして最後の画像は、倉庫の写真だった。あのスポーツウェアは箱に入れられ、隅っこでほこりをかぶっていた。メールの最後の一通は、母からデザイナーへのものだった。【すみません、息子がいらないと言い出しまして。注文はキャンセルでお願いします】動画の中で母はスマホを手に、疲れきってどうしようもない声で父に言った。「竜也がまたいらないって……私たちは本当に、何か間違えちゃったのかな……」……俺はフォルダを、一つ、また一つと開いていった。ライブのチケット。家族写真の予約票。最新モデルのスマホ。俺が欲しいとつぶやいていたカメラ。毎年、両親はプレゼントを用意してくれていた。そして毎年、そのプレゼントは色々な理由で、後回しにされたり、キャンセルされたり、しまいには倉庫に忘れられていた。でも、一番多かった理由は、俺が、「いらない」と言ったからだった。USBメモリの最後に入っていたのは、昨日の夜の防犯カメラの映像だった。俺が帰ったあとの、パーティー会
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第10話
キッチンから出てきた母は、俺の顔を見るなり、すぐに目元を赤くした。切りたてのフルーツが入ったお皿を持ったまま、どうしていいか分からない様子でそこに突っ立っていた。「竜也、おかえり」俺は頷いて、母の手からフルーツのお皿を受け取った。「お腹すいたんだけど、何か食べるものある?」母は一瞬きょとんとしたけど、すぐに力強く頷いた。「ある、あるわ!すぐに温めてあげるからね!」まるですごく嬉しいことでもあったかのように、母はくるりと背を向けるとキッチンに駆け込んでいった。書斎から出てきた父と千佳も、俺を見ると、どこか恐る恐るといった表情を浮かべていた。「お兄ちゃん……」俺は二人の前に歩み寄り、例のUSBメモリを母に手渡した。「プレゼント、ありがとう」俺は言った。「渡し方が、ちょっと特別だったけどね」USBメモリを受け取った母の手は、震えていた。「竜也、あなたは……」「もう、みんなを許すよ」俺は言った。あのパーティーのせいでも、遅れて届いたプレゼントのせいでもない。あの防犯カメラの映像で、みんなが苦しんで後悔しているのを見たからだ。それに、愛は二者択一の問題ではなく、絶対的な正解も間違いもないのだ、と。どっちかって言うと証明問題に似てる。一生をかけて証明して、間違いを直していくものなんだ。「でも」俺はみんなを見つめて、真剣な顔で言った。「条件がある。一つ目。これからはうちでは、一切の『サプライズ』は禁止。特に、こういう心臓に悪いことは。二つ目。言いたいことがあるなら、直接顔を見て言うこと。勝手に推測したり、芝居がかったりするのはなし。三つ目……」俺は少し間を置いて、キッチンで忙しそうにしている母を見てから、隣にいる父と千佳に視線を移した。「これからの毎週末は、家族で過ごす日にする。残業禁止、付き合いの飲み会も禁止、いきなりいなくなるのも禁止だ」父と千佳は顔を見合わせて、それから示し合わせたように何度も頷いた。「もちろん!全部お前の言う通りにする!」その日の夜、俺たち家族は久しぶりにみんなで食卓を囲んだ。食卓に並んだのは、高いワインでも、豪華なご馳走でもなくて、ありふれた家庭料理がいくつかだけだった。母はひっきりなしに俺のお皿におかずを乗せてくれて、父は俺たちを笑わせようと、自
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