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第2話

作者: F
翌日、私は彰司よりも先に目を覚ました。自分が彼の腕の中にしっかりと抱きすくめられ、身動きひとつ取れないことに気づく。

私は指先で彰司の眉や目元をそっとなぞり、その顔を脳内のキャンバスに描き出そうと試みた。けれど、いくら線を重ねても、私の脳裏に彼の顔が具体的なイメージとして結ばれることはなかった。

彰司のまぶたが微かに震え、目を開けるなり私に口づけを落とした。

「よく眠れたか?」

私はこくりと頷き、心からの親愛を込めて「あなた」と呼んだ。

すると彼は、朝から誘惑しているのは君の方だと言い張り、私を押し倒してネグリジェの裾から熱い手を滑り込ませてきた。

結局、ベッドから出られたのは昼過ぎのことだった。

新婚旅行には行かなかった。

ようやく手に入れたお金と時間。私はただ、静かに絵を描いて過ごしたかったのだ。

彼は私の希望を優先し、ほとんどの時間を横で付き添ってくれた。

退屈になると、私のスケッチブックをめくるのが彼の日課になった。

私を腕の中に囲い込み、何を描いたのかを説明させる。

以前描いた「あの雨の夜」のスケッチに差し掛かった時。それは私のスケッチブックの中で唯一、人物を描いたものだった。

彰司の呼吸が突然重くなり、その瞳が赤く染まった。

掠れた声は、絶望の淵で今にも壊れてしまいそうだ。

予兆もなく、彼の頬を涙が伝い落ちる。

彼は絵の中の人物を指差し、私を問い詰めた。「これは誰だ?……君の、最愛の人か?」

私は困惑し、胸がざわついた。

だって、これは彼を描いたものなのに。

そう言いかける前に、彰司は突然私の手首をねじり、ソファに押し倒した。

私を見下ろす瞳は、悲しげで、それでいて狂気じみた執着を湛えている。「昨夜……寝言を言っていたな」

「『本当に迎えに来てくれたんだ』だと?他に想い人がいながら、なぜ俺との結婚を承諾した。

俺をなんだと思っている。

あいつの身代わりか?」

理解が追いつかず、私はか細い声で弁明した。「違うわ……」

「身代わりですらないというのか!」言葉の終わりを待たず、彰司は振り返りもせず部屋を飛び出していった。

激しい音を立ててドアが閉まる。

私はただ呆然とするしかなかった。彼の怒りの矛先がどこにあるのか、まるで見当がつかない。

「私が描いたのは、あなたなのに……」

夜、莉子がやってきた。

彼女は溜息をつき、私の手を握って説明してくれた。

彰司には珍しい持病があり、莉子以外の異性との接触を受け付けないのだという。

手袋越しならまだしも、うっかり触れてしまえば全身に酷い発疹が出てしまう。

「じゃあ、私は?」

私は自分を指差し、困惑した。

夫婦の営みにおいて、彼に異常があるようには見えなかったから。

莉子は、私が唯一の例外だと言った。

私は合点がいった。

ああ、だからあの夜、警察を呼ぶなと言ったのか。

そういうことだったのだ。

莉子は去り際、意味深な視線を私に向けた。

「もし好きな人がいるなら、上手に隠し通すことね」

セレブの世界には、特別な言語体系でもあるのだろうか。

またしても、私には理解できなかった。

また雨が降り出した。

彰司が帰宅した時、彼は全身ずぶ濡れだった。

駆け寄って抱きしめようとした瞬間、逆に彼に強く抱きすくめられた。

あまりの力に胸が苦しい。

持病の発作だろうか?

私は彼の背中に腕を回し、抱きしめ返した。

高ぶる感情をなだめるように、その背中をゆっくりと、優しく叩いてあやした。

強張っていた彼の体が次第に解け、耳元で独り言のように囁いた。

「萌衣、君は俺のものだ。君は俺を選んだんだ。

あいつが誰であろうと、君は今、俺の妻だ。

君は俺のものだ」

彼の体は氷のように冷たかった。私は両手で彼の顔を包み込み、誓うように言った。

「あなただけよ。私には、あなたしかいない」

彰司は聞こえていないかのように、充血した瞳で私を見つめる。

「あいつは、俺よりいい男か?

俺より金を持っているのか?

萌衣、君に最高の生活を与えられるのは俺だけだ。

俺から離れないでくれ」

彼は玄関先で私を押しつけ、急かすように、そして粗暴な口づけを落とした。

「萌衣、君を失うなんて耐えられない」

雨に打たれた彼が風邪を引かないか心配で、私は彼を浴室へ押しやった。

けれど結局、私もそこから出られなくなった。

接吻は熾烈を極め、彰司の体は異常なほど熱を帯びている。

彼はプロポーズの日と同じように、私の前で片膝をついた。

支えにする場所がなく、私は彼の肩に片足をかけ、背中をタイルの壁に押しつけた。

やり場のない手は彼の頭を彷徨い、その髪を掴んで引き寄せるべきか、それとも突き放すべきか分からずに震えていた。

彰司の舌先が執拗に肌を這い、高い鼻筋が何度も私をなぞるように滑る。

肌をなぞる舌先が立てる、生々しい音が、激しいシャワーの音さえもかき消していった。

体の中に巨大な空洞ができたようで、それを埋められるのは彰司だけだと感じた。

泣きながら彼の名前を呼び、私の視界がぼやけていく。

彰司は私をしっかりと抱き上げ、自分にしがみつかせた。

あまりの充満感に、私は悲鳴を上げて反射的に腰を逃がそうとする。

彰司は短く息を吐き、私のお尻を軽く叩いた。

「いい子だ、動くな」

雨の夜の彼は脆く、私に縋りつく子供のようだった。

新婚の彼はどこまでも優しく、和やかな春の風のようだった。

けれど、今目の前にいるこの男こそが、彼の本性なのだと確信する。

傲慢で強引、それでいて壊れそうなほどの脆さと独占欲を孕んだ、本当の彼。

私はそんな彼の執着を拒むどころか、むしろ心地よく感じていた。

私からも、応えるべきかもしれない。

私は彼の首に腕を回し、口づけを返した。

「愛してるわ、あきし」

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