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第11話

Author: 猫と月の予
母の最期を見届けたあと、私は疲れ果てて実家の母が残してくれた部屋に入った。

小さな部屋だけれど、至る所に温もりと愛が感じられる。

私はベッドに身を投げ出し、また涙が止めどなく溢れ出した。

しばらく泣き続けたあと、ようやく志保に電話をかけた。

「志保、離婚届を作成するために弁護士を探してくれない?」

私のかすれた泣き声を聞き取ったのか、志保は珍しく真剣な声で、静かに尋ねてきた。

「結衣、大丈夫か?」

「母が……亡くなったの」

苦しさと絶望を押し殺して、私は静かに答えた。

志保は驚きのあまり呼吸が乱れ、しばらくして重々しく言った。

「……ご冥福を。おばさんもきっと、君が幸せに生きることを願っているはずだよ」

「しっかり休むんだ。離婚届は俺が準備しておくから」

その後、私は父とともに母の葬儀の一連の手続きを淡々と進めた。

母は実家との関係が悪かったため、父と話し合った結果、あちらには知らせないことにした。

葬儀には、家が倒産した後も付き合いを続けてくれた親しい人たちと、近所の人々が参列してくれた。

志保も私を手伝い、時には素香まで手を貸してくれた。

だが、翌日
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