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黄金の林檎を奪われて、私は死ぬことにした
黄金の林檎を奪われて、私は死ぬことにした
Autor: ピーチー

第1話

Autor: ピーチー
アポロン神殿の巫女たちが向ける、哀れみに満ちた眼差しの中、私は顔を上げ、忘却の毒を一息に飲み干した。

冷たい液体が、喉を灼きながら胃の奥へと落ちていく。だが次の瞬間、タルタロスの呪いがもたらしていた魂を引き裂くほどの激痛が、嘘のように消え去った。

これが、毒がもたらした唯一の救いだった。もう、どこにも痛みはない。

その代わり、私に残された時間はあと3日。その果てに待っているのは、ただ星屑へと還ることだけだった。

神殿を後にした私は、その足でメローラの暮らす海辺の館へと向かった。

扉を押し開けた途端、母の怒鳴り声が耳に飛び込んできた。

「クレッサ、いつまでそんな惨めな芝居を続ける気なの!あなた、どこも悪くないのでしょう!」

母は鋭い指先を私の顔へと突きつけた。その瞳に宿っているのは怒りではない。怒りよりもずっと冷たく刺々しい、失望の色だった。

「あなたは神々に祝福された、治癒の巫女なのよ!昔はあんなに優しくて、思いやりのある子だったのに……どうしてここまで堕ちてしまったの!妹の命を救う黄金の林檎を、醜い嫉妬心から奪おうとするなんて!」

父もまた、苦々しい失望を滲ませた声で言葉を重ねる。

「クレッサ、お前はずっと我ら一族の誇りだった。姉として、メローラを慈しみ導いてくれるものと信じていたんだ。まさかお前が、実の妹にここまで冷酷になれるとはな……我々がお前を甘やかしすぎたせいかもしれん」

万力で胸を締めつけられるような息苦しさに襲われた。

毒は、この肉体の痛みを消し去ってくれた。けれど、実の家族に切り捨てられる悲しみだけは、いまだに私の呼吸を奪おうとする。

これが、私の両親だ。

私が死の呪いに蝕まれているという真実よりも、妹が些細な火傷を治すために百年を経た黄金の林檎を必要としたという言葉の方を、彼らは疑いもなく信じたがっている。

目を向けると、メローラは大きな真珠貝のベッドで、力なく身をもたせかけていた。けれど両親の死角に入るや、その口元がにやりと歪む。濃密な悪意と、勝ち誇った色を隠しもしないで。

以前の私なら、怒り狂っていただろう。喉が裂けるまで叫び、服を破ってでも、腐食し始めた魂の刻印を突きつけていたに違いない。

けれど今は、指一本動かす気になれなかった。

言い争ったところで、何一つ変わりはしないのだから。

呪いが魂を喰らい、毒が肉体を溶かしていく。私はただ、深い疲労の底に沈んでいた。

父が再び怒声を上げるより早く、私は静かに口を開いた。

「メローラは、私の治癒の神殿が欲しいのでしょう。信徒たちの信仰も。いいわ、全部あげます」

ふっと、場に沈黙が降りた。

父は凍りつき、母は口をぽかんと開けたまま言葉を失っている。

驚くのも無理はない。メローラはずっと、私の神殿を欲しがっていた。両親もまた、あらゆる手を尽くしてきたのだ——脅し、懐柔、そして罪悪感に訴える言葉。人間である私がこの手で築き上げた聖域を、幾度となく手放させようとしてきた。それでも私は、決して屈しなかった。

だが、今はもう違う。死にゆくばかりの魂にとって、そんなものはどうでもよかった。

私の言葉が本気だと悟るやいなや、母の顔にようやく笑みが戻った。驚きは瞬く間にむき出しの身勝手な歓喜へと変わり、母は私に歩み寄ると、愛おしげに髪を撫でた。

「やっと分かってくれたのね!メローラは生まれながらに神性を宿す子よ。信仰を糧にして育たなくてはいけないの。正直なところ、クレッサ、あなたが運よく海神の後継ぎと結ばれていなかったら、あの神殿はとっくにメローラのものになっていたはずなのよ。これでようやく安心できるわ」

運がよかった。

そのひとことは、頬を叩かれるよりも深く心を抉った。あの神殿を築くために、私がどれほどの血と汗を流してきたというのか。彼らにとっては、それすらもただの「運」にすぎなかったのだ。

私は無表情のまま袖から羊皮紙を取り出し、差し出した。

「なら、血の誓約で封じて」

メローラの瞳に、貪欲な光がよぎった。彼女は自らの指先を噛み切り、羊皮紙へと強く押しつける。

契約の文言がまばゆい光を放ち、私の手の甲から金色の神殿紋が剥がれ落ちて、メローラの額へと吸い込まれていった。

「ああ、クレッサ。ようやく目を覚ましてくれて、嬉しいよ」

いつ以来か思い出せないほど久しぶりに、父が私の肩に厚い手を置いた。その声には、隠しようのない安堵と温もりが滲んでいる。

「お前はやっぱり、我が家の聞き分けのいい娘だ」

私は、彼らが描く幸せそうな家族団らんの風景を、ただ虚しい皮肉を感じながら眺めていた。

なんと滑稽なのだろう。母が私に向けて優しく笑いかけてくれるのは、私がメローラのために命まですり減らすときだけなのだから。

それでも、ひとつだけ疑問が残った。いつの日かメローラの本性に気づき、そして私がもうこの世にいないのだと知ったとき、彼らは、少しでも後悔するのだろうか。

その夜、私は海神の宮殿へと戻った。

運命の伴侶であるゼイルと、息子のフィロンは祭壇のそばにいた。

深海で採れた真珠をひと粒、またひと粒と糸に通し、メローラへと贈る祝福のネックレスを編んでいる。

毒のせいで足音まで軽くなっていたのか、ふたりは私が帰ってきたことにすら気づかず、ただ楽しげに笑い合っていた。

ゼイルが最後の真珠を通し終え、ふと振り返って私に気づく。その口元の笑みは一瞬凍りついたが、すぐに何事もなかったかのように柔らかな表情へと戻った。

「クレッサ?いつ帰っていたんだ?」

彼は作りかけのネックレスを脇に置くと、いつものようにごく自然に腕を広げながら、こちらへと歩み寄ってきた。

私はその手を、思わず避けた。

ゼイルの腕が、行き場をなくして宙で止まる。その瞳に、傷ついたような色がわずかによぎり、やがて彼は疲れたような溜息を吐いた。声が、ふっと和らぐ。

「まだ黄金の林檎のことで怒っているのか?クレッサ、お前はいつだって強かっただろう。メローラにはどうしても必要だったんだ。あのままじゃ、あの子は死んでいた。メローラが元気になったら、お前の好きな東の海のオーロラを見に連れて行ってやるから。いいだろう?」

私は、台の上のネックレスをじっと見つめた。ひと粒ひと粒が海神の魔力を纏っている。メローラが愛してやまない、あの深い海の青だった。

皮肉なものだ。死を目前にして、ようやく知ることになるなんて。五年連れ添った夫が、これほどまでに辛抱強い人だったとは。

昔、私が心を込めて編んだ祈りのブレスレットを「野暮ったい」とあしらった人。彼の影響で、息子のフィロンもいつしか私から心を離していった。

私はこの宮殿に、自分のすべてを注ぎ込んできた。けれど返ってきたのは、冷ややかな無関心だけだったのだ。

以前の私なら、この仕打ちに涙し、取り乱していただろう。

だが今の私は、ただふたりの脇を静かに通り過ぎるだけだった。珊瑚細工の椅子に腰を下ろし、魔法の巾着の中身を静かに整理し始めた。

私の沈黙に、ゼイルは戸惑いを覚えたようだった。ネックレスをビロードの台座に戻し、再びこちらへと近づいてくる。

彼は私の手に触れようとした。その指先はためらいがちに、そっと伸びてくる。

彼の瞳には、何かを探るような、落ち着かない色が揺らいでいた。

「クレッサ、お前に話しておきたいことがあるんだ」

彼はためらうように唇を結び、気まずそうに目を伏せた。少しの沈黙ののち、ようやく重い口を開く。

「お前の妹、メローラのことなんだが」

心臓が、ずんと重く沈む。嫌な予感が胸の奥をかすめた。

そして続いた言葉は、稲妻に打たれたような衝撃だった。

「メローラは林檎を食べたが、魂はまだ弱っている。だから、その……しばらくの間、彼女と仮の婚姻を結ぼうと思うんだ。俺たちの運命の刻印を彼女にも分け与えて、その魂を癒してやりたい」

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