圭介の視線が床に注がれた。そこには――粉々に砕けたガラスの試験管が散らばっていた。彼はすぐに室内へと入り、香織の様子を上から下まで見渡した。「大丈夫か?」香織は首を振った。「大丈夫よ」圭介は眉をひそめた。彼女の顔色は明らかにおかしかった。「何か検出したのか?」彼女は力なく作業台に寄りかかり、かすかな声で答えた。「確かに毒だったわ。由美からもらったサンプルから、コニインの成分を検出した」「コニイン?」圭介が尋ねた。「何だ?」香織は説明した。「毒草よ。一株から抽出される毒量で、牛2頭を殺せるほど強力なのよ」ただ、誰が院長に毒を盛ったのかがわからない。元院長は研究所で慕われており、恨みを買うような人物ではないはずだ。「誤食の可能性は?」「ありえないわ」香織は断定的に言った。「この毒草は国内に自生していないから。それに……」彼女の声が震えた。「この毒の作用は最初、全身倦怠感や心拍数の低下、脳缺氧を引き起こし、昏睡状態に陥らせる。その後、心臓への血液供給が不足して死に至るの。症状が……手術失敗による死亡と酷似している。明らかに医療知識を持つ人物の仕業よ」圭介は目を細めた。「君を狙った犯行か?」現状の分析ではそうなる。経験豊富な法医学者でなければ、中毒死と判断できず、心不全による死亡と誤認されるだろう。そうなれば、自分が移植した人工心臓のせいにされる。その時、すべての責任は自分一人に降りかかる。でも、誰がそんなことを……「もう遅い。一旦帰ろう」圭介は彼女の肩を抱き、「考えるのは明日にしろ」と言った。香織は頷いたが、内心は恐怖に駆られていた。まるで――見えない罠の中に、気づかぬうちに足を踏み入れてしまったかのように。しかもその罠の正体すら、いまだに何も見えないままだった。家に戻り、圭介がシャワーを浴びている間、香織は由美から電話を受けた。「検査結果は出た?」「ええ、コニインの毒よ」香織は結果を伝えた。由美もこの毒の特性を知っているようだった。「明雄が言ってたわ。院長が昏睡した時の病院の監視カメラを確認してみて。もし消されてなければ、何か手がかりがあるかも。何かあればいつでも連絡して。私たちでできる限りのことはするから」香織はベランダに出て、壁にもたれかかった。肌寒い風が吹
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