琴音は胸に僅かな苦みを感じながらも答えた。「私は嫉妬深い女じゃありません。むしろあなたのためを思えば、実の子がいた方が後半生も安心でしょう。それに......子供ができた後、彼があなたの寝所に通うかどうかは、私の関知するところではありませんわ」最後の一言には、明らかに怒りが滲んでいた。守は慌てて誓いを立てた。「安心してくれ。子供ができたら、二度と彼女に手は出さない」「約束なんていらないわ。そこまで狭量な女じゃないから」琴音は顔を背け、眉間に不機嫌な色を宿した。さくらは目の前の二人を見つめ、この状況の滑稽さに憤りを覚えた。立ち上がると、琴音を鋭く見据えて声を荒げた。「女に生まれただけで、この世は十分辛いものです。なぜそれを更に貶めようとするのですか?あなたも女でしょう。戦場で敵を倒したからといって、同じ女性をこれほど軽んじていいと?私、上原さくらは、あなたたちの目には北條家の跡継ぎを産むだけの存在なんですか?私には自分のやりたいことも、歩みたい人生もないとでも?この奥深い屋敷で影のような生を送れというの?私を何だと思っているんです?」琴音は一瞬たじろぎ、眉をひそめた。「大げさすぎるのではありませんか」「離縁しましょう」さくらの声は冷たかった。「これ以上の話は無用です。醜い言い合いは避けたいものです」「離縁?」琴音は嘲るような笑みを浮かべた。「まさか、一歩引いて二歩進もうという手かしら?でも、そんな古い手は通用しませんよ。お好きにすればいい。ただし忠告しておきますが、噂が広まれば、傷つくのはあなたの評判だけですからね」都の貴婦人たちが何より重んじる評判――特に侯爵家の令嬢ともなれば、なおさらだと琴音は分かっていた。守も口を添えた。「さくら、離縁などするつもりはない。俺たちの提案は、すべて君のためなんだ」「結構です!」さくらの表情が凛とした威厳を帯びた。「あなたはただ、薄情で移り気だと言われるのが怖いだけでしょう。すべては自分たちのため。それなのに私のためだと言い繕う。その偽善に吐き気がします」守は焦りを見せた。「そんなつもりじゃない。誤解しないでくれ」「はっ」琴音は冷笑を浮かべながら首を振った。「夏の虫に冬の寒さは分からないというけれど、まさにそれね。今になっても貴族の令嬢面をして。もう少し率直に話そうと思ったのに、疑り深
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