凛はちらりと確認した。村井新一(むらい しんいち)、スターズ法律事務所のシニアパートナーで、瀬戸家の専属弁護士として名高い敏腕だった。乱れた髪をそっと耳にかけ直し、凛は小さく礼を述べた。「ありがとう」瀬戸家は国内でも屈指の弁護士チームを抱えている。その彼らが前に出てくれることで、面倒な手続きをいくつも省くことができた。もはや凛にとって、これはお金で片付くような問題ではなかった。時也が顔をこちらに向けた。漆黒の瞳に微かに笑みを浮かべながらも、その奥には少し真剣な色が宿っていた。「俺は善人じゃないし、むしろまともな人間ですらない。被害者がお前だったから、こうしているだけだ……」夜風が吹き抜ける中、凛は彼の目を避けて、静かに海の方を見つめた。「さっき、なんて言ったの?聞き取れなかったわ」時也はふっと笑った。「そっか。聞き取れなかったなら、もう一度言おうか。聞きたい?」凛は黙っていた。その必要はない。……同じ夜の下、ホテルのウォーターヴィラの一室。晴香は鏡に向かい、真剣な表情でパックを貼っていた。やっぱり高いものには理由がある。以前は手が出なかったパックや美容液も、いまは欲しいと思えば、いくらでも手に入る。海斗のサブカードが手元にある以上、どれだけ使っても彼がとがめることはなかった。この高級品を使い始めてから、肌の調子まで良くなった気がする。海斗はソファに腰を下ろし、ひっきりなしに振動し続けるスマートフォンに眉をひそめた。「晴香、携帯鳴ってるよ」「ああ、それ出なくていいよ。どうせまた担任からでしょ、ほんっとにうるさい!毎日毎日……」「担任?」「そう。出発前にちゃんと休暇届を出したのに、何度も電話してくるのよ。そこまでする必要ある?」そう言いながら、晴香はうんざりしたように目をくるりと回した。「……で、その休暇届って、ちゃんと承認されたのか?」「たぶんされたと思うけど?されなくても別に問題ないし。もう海外に来ちゃってるんだから、大丈夫よ。みんなこんなもんよ」海斗は何も言わなかった。「ちょっと外の空気吸ってくる。続けていいから」「えー、行かないで、もう少しで終わるから、ちょっとだけ待ってて……」だが、返ってきたのは彼の背中だけだった。海斗の脳裏にはまた凛の姿が浮かんでいた。大学時
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