凛はイチゴをひと口かじり、目尻をほころばせながら小さく笑った。「おいしい」その笑顔を見つめながら、敏子はふと、彼女が帰ってきたときの少しやつれた姿を思い出した。胸の奥がじんと熱くなり、思わず彼女の手を取り、自分の温かい手で包み込んだ。そして顔にかかった髪をそっとかきあげながら、じっと見つめてぽつりと言った。「……痩せたわね」凛は口いっぱいにイチゴを頬張っていて、ほっぺたがふくらんだまま、目を丸くして首を振った。「そんなことないよ、さっき体重測ったら、先週より1キロ太ってたんだから。見た目がスリムなだけ。手を触ってみて、ちゃんとお肉あるよ」わざと困ったような顔をして、茶目っ気たっぷりに続ける。「むしろ、ちょっとダイエットでもしようかな〜なんて……」その言葉が終わらぬうちに、慎吾が眉をひそめた。「ダイエットなんて、女の子がするもんじゃない。お前はもう十分細いんだ。これ以上痩せたら、骨と皮だけになっちまうぞ」最近の若い子たちは、SNSや動画でダイエット成功者なんて見てすぐに影響される。食事を抜いたり、ひどい時には痩せ薬まで使う。そういう話を聞くたびに、慎吾は頭が痛くなるのだった。凛は目をきらきらと輝かせながら、母の腕にぐにゃりと甘えるように寄りかかる。「わかってるって。ちょっと言ってみただけだよ〜」敏子は娘の額を軽くコツンと叩いて、ふくれっ面で言った。「言うだけでもダメよ。今度帰ってきて、また痩せてたら許さないからね。覚えときなさい!」凛は笑みを浮かべたまま、小さくうなずいた。「わかったって」敏子は寄りかかってくる娘の重みを感じながら、その髪を指でやさしく梳いた。そして、ずっと胸にしまっていた問いを、ようやく口にする。「……この何年か、外ではちゃんとやっていけてたの?」凛の目がふと揺れる。そしてまるで何でもないことのように、あっさりと答えた。「うん、大丈夫だったよ」「あの人は?一緒に帰ってこなかったの?」この質問は、ついに来た。凛は視線を落とし、静かに、けれどはっきりと告げた。「……もう別れたの」あの頃、父が退院したあと、母とふたりでわざわざ帝都まで来てくれた。けれど、彼女の頑なな態度に心底あきれて、ふたりは帰っていった。それ以来、父は激怒し、彼女との関係を断絶。6年もの間、連絡すら一切途絶えていた。だか
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