店主は、彼女が東和人だとひと目で察したようで、同郷という親近感からか、声にもどこか温かみがこもっていた。「お嬢さん、見る目があるね。これらの彫刻は全部、私の手作りなんだ。お土産に持ち帰れば、きっと喜ばれるよ」凛はにこりと微笑み、値段を確認してから言った。「じゃあ、これお願いします。包んでもらえますか?」「了解!」店主は品物を包みながら、そっとポストカードを一枚、袋の中に入れた。「言いたいのに言えないことがあったら、これに書いてごらん」凛は少し唇を引き結び、「別にそんなことはない」と返そうか迷ったが、わざわざ渡してくれたものを断るのも悪い気がして、そのまま受け取った。宿に戻ってシャワーを浴びたあと、凛はふと目に入った机の上のギフトバッグに近づき、中からポストカードを取り出した。それにはモルディブの美しい海の景色が印刷されていた。凛はそれをぱたんと机に置いた。どうせ使わないし。……翌朝。時也はきっちり時間通りにレストランにやってきた。だが、ぐるりと見回しても凛の姿はどこにもなかった。朝食をとっていたのは、すみれひとりだけだった。テーブルの上には、コップがひとつと、サラダが一皿だけ置かれていた。「おはよう、瀬戸さん!」すみれがにこやかに声をかけた。「さっきから三周くらい私のまわりをぐるぐるしてたけど、一緒に朝ごはんでも食べたかったの?」時也は眉をひとつ上げ、そのまま椅子を引いて彼女の正面に腰を下ろした。「おはよう、庄司さん」「おはよう」時也は彼女の手元に目をやった。「その牛乳、美味しそうだね」「これ、豆乳だけど」「……」なんとも気まずい空気が流れた。すみれはさらりと豆乳を一口飲んでから尋ねた。「何か話があるんじゃない?」時也は取り繕うこともなく、率直に言った。「凛は?どうして見かけない?」「彼女に用事?」「用事がなきゃ探しちゃいけないの?」すみれは呆れ笑いを浮かべた。「金融業界の人たちって、年末になるとそんなに暇なの?」彼女にはわかっていた。目が節穴じゃない。時也が島に現れたときから、どうも様子がおかしいと感じていた。案の定、ここ数日、彼はことあるごとに凛に話しかけては、あれこれと気を引こうとしていた。その下心は、見え見えすぎて笑ってしまうほどだった。「暇なんか
Read more