「帰らないでほしい」――初めて聞いた日向の弱い部分に触れ、思わず頷いてしまったけれど――。今からどうしていいのか、正直よくわからなかった。日向と私は、恋人でも夫婦でもない。けれど、まったくの他人……そういうわけでもない。そんな曖昧な関係の私たち。何かを話さなければ。そう思いつつも、結局リビングのソファに座り、日向が何気なく再生した映画を見つめるしかなかった。けれど、ストーリーはまったく頭に入ってこなかった。日向の気持ちは、こないだ少し聞くことができた。私のことが大切だったということもわかったし、彼にも事情があって姿を消すしかなかったこと。そして今、その原因を取り除こうとして、忙しい日々を送っていること。そんな彼に、私は何ができるのだろう。そう思う反面――泊まるということは、もしかしたら何かあるのかもしれない……そんなことも思ってしまう。……ダメだ、考えるのはやめよう。そう思って、私は映像に集中しようとした。日向も映画に集中しているのか、黙ったまま、目線だけを画面に向けていた。しばらく映像に意識を向けようと頑張ってみたものの――やっぱり無理。触れそうで触れないこの距離が、余計に緊張する気がする。『私はソファで眠るから、日向はベッドで休んで』そう言おうとした。けれど、そのとき――ふっと、右の肩に重みを感じた。「……日向?」思わず小さな声で呼びかけてみるが、返事はない。そしてその代わり、かすかな寝息だけが耳に届く。「寝てる……?」息をのむようにして、私は日向の方を見た。穏やかな表情を浮かべて、今、自分の肩にもたれかかって眠っている。心臓がどくん、と大きく跳ねる。見てはいけないものを覗き込むような気持ちで、私は彼の横顔をじっと見つめていた。長く伸びた睫毛。眠っているときだけが見せる、無防備な表情。昔から大好きだった彼――不意に、胸の奥がきゅう、と苦しくなった。いつも完璧で、誰からも尊敬される日向の、少し垣間見える弱さを知ってしまった今、どうしても彼の隣にいたい。少しでも支えたい。そんな気持ちになる。いなくなってしまった日向を信じるのは、やっぱり怖い。でも、だからといって日向から離れたいとは思わない。「日向のバカ……」そう呟いても、日向は夢の中だ。これで今までのことは許してあげるから、どうか頑張って。そう思
Last Updated : 2025-06-07 Read more