川村拓也(かわむら たくや)のズボンに手をかけていた私の動きがピタリと止まる。ふたりで無言のまま顔を見合わせた。彼の髪は少し乱れ、目はとろんと色気を帯びている。その整った顔立ちには私がさっき塗ったばかりのリップグロスがうっすらと残っていて、まさに「食べごろ」といった無防備な姿だった。拓也は起き上がってドアを開けるべきか、少し戸惑っている様子を見せた。でも、私は逃さじと彼を力ずくで引き戻して自分の下敷きにし、ごくりと喉を鳴らす。「……ただの部屋間違いじゃない?」自分の服を肌からはだけさせながら、彼の首筋に熱いキスを落とし、私は冗談めかして耳元で囁いた。「もしかして、本当の奥さんが来ちゃったとか?」ドアの向こうからはすっかり気配が消えていた。どうやら向こうも部屋間違いに気づいて立ち去ったらしい。拓也の喉の奥から、くくっ、と低い笑い声が漏れた。「お前は犬かよ。がっつきすぎだって」拓也はうちの学部で誰もが認める一番のイケメンだ。顔もスタイルも抜群だし、おまけに性格は底抜けに甘くて優しく、学生起業をしていて稼ぎもいい。なのに、私たちは付き合い始めてもう二ヶ月になるというのに、いまだに一線を越えていなかった。普段から私がどれだけ短いスカートを履いてみせても、分かりやすく誘惑のサインを送っても、彼にはちっとも響かないのだ。だからこそ、この連休を利用してのふたりきりの旅行は私から持ちかけた。ぶっちゃけて言えば、私は彼の身体が欲しくてたまらないのだ。今回の旅行で、絶対に彼を隅々まで私のものにしてやるつもりだった。今日の拓也は、信じられないほど積極的だった。乱れた布地の下へと滑り込ませた彼の手が、私の太ももをゆっくりと撫で上げる。互いの体温が上がり、いよいよこれから……というその時。バンッ、バンッ!再びドアが荒々しく叩かれた。「拓也、中にいるのは分かってるのよ。ねえ、どうして開けてくれないの?」名前を呼ばれた。その言葉が耳に届いた瞬間、私の中にあった熱情は一気に冷水へと変わる。あり得ない、と目の前の彼を真っ直ぐに睨みつけた。「どういうこと?まさか、本当に奥さんがいるの?」拓也の顔に一瞬だけ不自然なこわばりが走る。それでも、彼はすぐに真剣な眼差しを作ってみせた。「詩織、俺がそんな最低な男だと思うか?」
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