藤堂夫人は深いため息をつくと、もう一度娘に話しかけた。「これからの生活のことは考えたの?他のことはともかくとしても、医療費のことだけでも大変なのよ!それに、お父さんのことは分かっているでしょう。あの人があなたを助けるはずないわ。むしろ......」「どんなことがあっても、生きていけますわ」 なつみは冷たく遮った。「心配無用です。これからは、私が戻ってこなかったと思ってください。あなたの娘、藤堂なつみは、五歳の時に行方不明になったその瞬間に死んだんです」藤堂夫人は結局何も言えず、その場を後にした。なつみはソファに呆然と座り込んでいたが、やがて黙ってラケットを手に取り、外へ向かった。第一高校の近くにある体育館で、ラケットを振る音が激しく響く。体育館内にはエアコンが効いていたが、激しい運動のせいで汗が次々と流れ落ち、前髪を濡らしていた。視界さえもぼやけているようだった。相手のサーブを待つ間、聞き覚えのある声が響いた。「俺にも打たせてくれないか」その声の主は、西川悠人だった。一緒に組んだ即席のパートナー――大学生だと一目でわかる男は特に反対することもなく頷きながらボールを悠人に渡し、自分は脇へ行って水を飲みながら休憩し始めた。 「やっぱりここにいると思った」悠人がなつみに声をかけた。彼女は答えず、ただ彼の手元のボールをじっと見つめていた。「そんなに汗だくだぞ。一旦休めよ」悠人がさらに言った。なつみはしばらく彼を見つめていたが、自分と打つ気がないとわかると、そのまま別のパートナーを探そうと背を向けた。しかし、悠人はすぐに追いかけてきて、彼女の手を掴んだ。「離して!」悠人は彼女の言葉に一切応えず、そのまま彼女の手を引いて別の方向へ歩き出した。「西川悠人!離しなさいってば!」なつみは何度も彼を押し返そうとしたが、悠人の力が強すぎてどうしても振りほどけなかった。最後には彼に強く引かれ、そのまま彼の腕の中へ抱き寄せられてしまった。さらに抵抗しようとしたが、悠人は腕をさらに強く回して言った。「辛いなら、泣いていいんだ。誰も見ていないから」その言葉になつみは動きを止めた。上げかけた手は、結局ゆっくりと下ろされ、ラケットまで地面に落ちてしまった。彼女は歯を食いしば
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