離婚は無効だ!もう一度、君を手に入れたい のすべてのチャプター: チャプター 1401 - チャプター 1410

1465 チャプター

第1401話

陣内皐月はもちろん認めなかった。彼女がその箱を開けると、中にはヒスイのブレスレットが入っていた。ひと目見て、数億円は下らない高級品だと分かった。箱の中にはカードが入っていて、そこに一行の文字が書かれていた。【これからの人生が幸せでありますように。横山成一より】陣内皐月は驚きで呆然としていたが、その様子を見た藤堂群はすぐさま鼻で笑った。「ほら、やっぱり横山のやつだな。とぼけても無駄だよ。動かぬ証拠が出てきたんだ。皐月、どうするつもりだ?」陣内皐月はプレゼントを見て、最初はしんみりした気分になったが、藤堂群の話で感傷的な気分は吹き飛んでしまった。そして、仕方なく藤堂群に尋ねた。「で、どうしたいの?」藤堂群は前方の道路に集中しながら、顎に手を当てて考え込んだ。そして、真面目な顔でいくつか要求を出し始めた。そのどれもが顔が赤くなるほど恥知らずで、限界を攻めるような要求ばかりだったそう言うと、彼は陣内皐月の方を向いて尋ねた。「どう思う?」藤堂群は陣内皐月が怒り出すと思っていた。ある意味において、彼女はベッドではまだ保守的なところがあるからだ。ところが、陣内皐月は少し考えてから、こう言った。「新婚初夜なら、付き合ってあげてもいいわ」藤堂群は驚き、運転していた車は少しふらついた。そして、彼は歯を食いしばりながら心の中で思った――結婚って、マジで最高。......車は藤堂邸へと向かっていた。彼らは陣内蛍を迎えに行き、一緒に新居を見に行った。1200坪もある大きな邸宅には、使用人が6人、料理人が4人、庭師と警備員がそれぞれ2人、そして陣内蛍の家庭教師が2人......と、とにかくたくさんの人が雇われていた。陣内皐月は邸宅を見終えると、藤堂群に言った。「贅沢すぎるわ」陣内皐月は心の中で計算した。B市の高級住宅街にあるこの邸宅は少なくとも200億円はするだろう。それに使用人の人件費も合わせると、藤堂家の邸宅と遜色ない。彼女はこんな贅沢な暮らしをするのは良くないと思った。しかし、藤堂群は気に留めない。「他の人と比べる必要はないだろ?普通は二人で結婚するけど、俺たちは三人で結婚するんだ。当然、これくらい大掛かりになるだろ」陣内皐月が呆れて苦笑いしたその時、子供部屋から陣内蛍の歓声が聞こえてきた――藤堂群が彼女に牛柄の
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第1402話

藤堂言は微笑んだ。「ええ、お正月頃には生まれる予定だよ」成田栄治は心の中で計算した――お正月には、彼はもう海外に移住しているはずだ。藤堂言の子供にすぐにお祝い金を渡すことはできない。宮崎瑛二が気にしなければ、名付け親になりたかった。でも、成田栄治には宮崎依桜がいる。彼は宮崎依桜にとって名目上の実の父親なのだから。宮崎依桜は成田栄治のことが大好きで、「栄治さん」と挨拶をした。成田栄治は宮崎依桜の頭を撫で、ポケットから飴を取り出した。結婚式の引き出物に入っていたものだ。宮崎依桜は飴を受け取ると、1つを剥いて口に入れた。成田栄治は思わず宮崎依桜を抱きしめた。――この子は彼と藤堂言の子供同然であり、心の支えでもある。宮崎依桜から手を離すと、まだ少し感傷的な気分が残っていた。その間、成田栄治の妻はずっと隣に立っていた。彼女は谷口佳代(たにぐち かよ)という。仕事関係の友人からの紹介で知り合い、大人同士、3ヶ月付き合って問題がないと感じたので結婚したのだ。結婚式の夜、成田栄治は泥酔した。酔った勢いで谷口佳代と関係を持ったが、どうしても我慢できなくなり、藤堂言の名前を叫んでしまった。谷口佳代はそれを聞いて、黙って成田栄治の肩を抱き寄せた。今、彼女は落ち着いて藤堂言と向き合っていた。谷口佳代は自分が成田栄治と結婚することでいい物質生活を手に入れたことをよく理解しており、この程度のことは我慢できると思っていた。彼女は怒るどころか微笑み返した。成田栄治が、「さあ、帰ろう」と言うまで、ずっとその様子だった。谷口佳代は藤堂言と宮崎瑛二に微笑みかけ、宮崎依桜に手を振った。宮崎依桜も彼女に手を振り返した。夫婦はホテルを出て車に乗り込むと、谷口佳代は静かに言った。「宮崎さんと奥さんはとても幸せそうだったね」成田栄治はタバコを1本取り出し、唇に挟んだ。しかし、妻が車内にいたので火は点けず、ただ淡々と答えた。「確かに幸せそうだった。双子を妊娠しているそうだ」谷口佳代は微笑んで言った。「それは素晴らしいね」明るい口調だったが、羨望の気持ちが込められていた。成田栄治は彼女の方を向き、深い眼差しで言った。「俺たちにも子供ができるさ」谷口佳代は微笑んだまま、成田栄治の手からタバコを取り上げた。「だったら、タバコはやめないと。羽さんと
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第1403話

かつての恋人同士の再会。沈黙だけがそこを支配していた。九条羽の瞳は底知れぬ漆黒に沈み、対照的に杉山晴の小さな顔からは完全に血の気が引いていた。彼女は立ち尽くしたまま、あまりに気高く遠い存在となった彼を、ただ呆然と見つめるしかない。その脳裏には、かつての甘い記憶が走馬灯のように駆け巡っていた。「羽、あなたがお金持ちだったらよかった。ううん、私にお金があったらよかったんだわ!」「羽、もし私がお金持ちだったら、あなたに大きな会社を作ってあげる。そしたら、もうバスケができなくて悩むこともなくなるわ。私は裏方に回るから、あなたが社長になるの......」「羽、私......いつもそんな夢ばっかり。お金を稼ぐのは本当に大変......」......冬のログハウス。若い二人は一枚の毛布にくるまり、しっかりと抱き合っていた。杉山晴は九条羽のたくましい肩に顔をうずめ、何かを呟いた。彼女の目には、九条羽には見えない悲しみがあった......今日で杉山晴はここを去る。2000万円を受け取り、海外でトレーニングを受けて女優になる。たくさんのお金を稼いで、九条羽に会社を作ってあげる。その時になったら、真実を打ち明けられるだろう。彼がバスケができなくなったのは、自分のせいだって......杉山晴は貧乏にうんざりしていた。底辺の暮らしの中で、彼女は育った。父親は重度のギャンブル依存症で、母親は男を次々と家に連れ込む奔放な生活を送っていた。その母親が身を売って稼いだ金さえも、父親は残らず博打につぎ込んでしまう。そんな泥沼のような環境で、彼女は幼い頃から人間の醜悪な本性を嫌というほど見せつけられてきたのだ。14歳の時、両親は喧嘩の末に互いを傷つけ合い、命を落とした。杉山晴は祖母の杉山弘子(すぎやま ひろこ)と二人きりになった。生活のため、不良たちとつるむようになり、喧嘩やタバコを覚えた。毎日、傷だらけになって家に帰り、杉山弘子にタイムセールの肉や野菜を買って帰った。学校は中退こそしなかったものの、就学支援金で授業料が免除されているのをいいことに、ろくに登校もせず、ただ籍を置いているだけの自堕落な日々を送っていた。容姿に恵まれていた杉山晴は、女優になればお金に困らない、祖母の目の治療もできる、そう思っていた。杉山晴が16歳の時、杉山弘子の目は
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第1404話

九条羽はそういった世界とは無縁だったが、九条家の人間として商売の仕組みは知っていた。仕事のためなら仕方ないと思う人間もいるだろうが、相手が杉山晴となると、厚かましいとしか思えなかった。九条羽は杉山晴を見ながら、わざと軽く問いかけた。「他に何かあるのか?」杉山晴の体は小刻みに震えた。大塚雅はようやく状況を理解した。杉山晴と九条羽を交互に見ると、この若きIT会社の社長の目には嫌悪と嘲笑が浮かんでいて、かなり気まずい雰囲気になった。大塚雅はさすがに修羅場を潜り抜けてきただけあって、すぐさま別の話題へと切り替えた。だが、九条羽は微塵も取り合う様子を見せない。彼はノートパソコンを開き、視線すら向けぬまま冷徹に言い放った。「杉山さんはうちのS・Tテクノロジーのイメージに合わない。村上、お引き取り願え」......村上秘書も状況を察した。社長とあの女優には何かあった。そして、あまり良い別れ方ではなかったのだろう。村上秘書も仕事のできる人間だったので、いつかまた会うこともあるだろうと考えた。社長は冷淡だったが、憎しみは愛情の裏返しでもある。だから、村上秘書は杉山晴を丁寧に送り出した。杉山晴を送り届け、村上秘書が戻ってくると、九条羽はパソコンの画面を見ながら淡々と告げた。「わざわざ説明する必要はない。取るに足らない人間だ」村上秘書は頷いた。「承知いたしました。それにしても社長、あの杉山さんは確かに華もありますし、今が旬の女優です。ですが、しがらみの多いこの世界で、あのように『裏の接待』を頑なに拒んでいては、生き残るのも容易ではないでしょうね。さっきエレベーターの中で、杉山さんの目は真っ赤でした。でも、あのマネージャーはファンに会うんだからしっかりしろ、と厳しく言っていました。芸能界は厳しい世界ですね」九条羽は何も言わず、パソコンの画面を見つめていた。村上秘書は静かに部屋を出て行った。重厚なドアが静かに閉まり、かすかな音を立てた。九条羽はドアの方を見つめ、物思いに沈んだ............夕暮れ時、空から小雨が降り始めた。九条羽は階下に降り、高級車に乗り込み、タバコに火をつけた。半分ほど吸ってから火を消した。以前はタバコを吸わなかったが、杉山晴が吸っているのを見て、試しに吸ってみたのだ。ニコチンが肺
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第1405話

......車の後ろで、杉山晴は九条羽を見つけた。彼女は呆然と、ゆっくりと走り去っていく高級車を見つめていた。雨で濡れた顔には、戸惑いの色が浮かんでいる。九条羽との間の大きな溝を、改めて痛感した。九条羽は九条グループの御曹司で、S・Tテクノロジーの社長。数兆円を超える資産を持つ男。自分はただの、売れない女優。身分の違いはあまりにも明白だ。ましてや、自分には、決して消すことのできない過去がある......杉山晴がぼーっとしていると、監督が怒鳴り散らした。「終わる気あんのか!グズグズすんな。演技が下手だから何回もやり直してんだろうが!」大塚雅は慌てて監督に歩み寄り、頭を下げた。実は大塚雅の心中では、監督が杉山晴に言い寄っているのに、彼女が応じないから嫌がらせをしているのだと分かっていた。大塚雅は時々、杉山晴の融通の利かなさに腹が立つこともあった......大塚雅も女だ。杉山晴が誰かのために、自分を大切に守っているのではないかと推測していた。大塚雅は杉山晴の顔を拭きながら、何気なく言った。「この世界ではね、時には妥協も必要だし、諦めも肝心よ......もっと稼ぎたい、いい仕事がしたいんじゃないの?こんなあなたを、私の他に誰が面倒見てくれるっていうの?毎日毎日、本当に苦労させられるんだから」杉山晴は小さな声で謝った。「大塚さん、申し訳ありません」大塚雅は手を振った。「よく考えてみることね。気持ちが固まったら、また話そう......あの人がどんなに魅力的でも、彼の家柄と私たちの間には壁があるわ」杉山晴は俯いて、黙っていた――......深夜遅くにようやく仕事が終わり、杉山晴は事務所のワゴン車でマンションの下まで送られた。車は彼女を降ろすと、すぐに走り去っていった。杉山弘子はもう寝ているだろう。杉山晴はすぐには部屋へ上がらず、一人、花壇の縁に腰を下ろした。ハンドバッグからタバコを取り出すと、白く細い指で一本抜き取り、震える手で火をつける......膝には薬を塗ったが、小さな傷跡が残るだろう。でも、杉山晴は気にしなかった。今、彼女が考えているのは、ただひたすらお金を稼ぐことだけだ。10億円貯まったら、芸能界から足を洗い、祖母と一緒に田舎で暮らそう。そこで、真面目な男性と結婚するかもしれないし、一人で生きていく
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第1406話

夜は深く沈んでいた。黒塗りの高級車は夜闇に溶け込み、杉山晴の目の前で徐々に姿を消していく。赤いテールランプは、祭りの花火のように、あっという間に消えていった......「羽、とても会いたかったよ」杉山晴は夜の闇の中、独り言ちるように呟いた。膝の傷口が開き、鮮血が灰色に沈むアスファルトに一滴ずつ落ちて、見るも痛々しい。そして、彼女の顔は、夜に浮かぶ幽霊のように青白かった。突然、前方の車が止まった。杉山晴は涙を浮かべ、唇を震わせながらも、精一杯の笑みを浮かべた――九条羽。九条羽。杉山晴は駆け出した。この瞬間、血を流す膝も、二度と彼の前に現れるなという九条羽の言葉も、すべて忘れてしまった。ただ彼に会いたかった。一目だけでもいいから、もう一度チャンスが欲しかった。高級車、そして上品な男。杉山晴は1メートル手前でためらい、まるで悪いことをした少女のように、大人を見上げて立ち尽くしていた。190センチ近い長身の九条羽は、ゆったりと車に乗り、横顔は彫刻のように整っていた。九条家の血を引く彼は、九条時也に9割方似た容姿で、全身から色気が漂っていた。杉山晴は160センチと小柄で、白い肌に華奢な体つきだった。彼女は何かを言おうとしたが、夜風に言葉はかき消されてしまった――ついに、九条羽は杉山晴の方を振り向いた。彼は杉山晴の指に挟まれた細いタバコを静かに見つめ、冷笑した。そして、冷酷な声で言った。「人気女優だろう?もっとうまく演じたらどうだ?もしファンがお前の正体を知ったら、好きな女優が男をたぶらかして金儲けをする女だと知ったら、どれほど悲しむと思う?」九条羽の声はさらに冷たくなった。「もしかしたら、お前はファンの気持ちなんてどうでもいいと思っているのかもしれないな。お前の心には金しかないんだろうから、本当の気持ちなんてこれっぽっちもないんだろう?ああ、そうだ、お前みたいな人間に真心があるはずがないか」「違うの」杉山晴は慌てて言い訳をしたが、九条羽の冷たい視線を見て言葉を詰まらせた。彼女はとっさにタバコを投げ捨てた。まるで汚い過去を振り払うかのように。しかし、拭い去れない過去、そして九条羽の憎しみと嫌悪は変わらなかった。まるでゴミを見るような、あの頃の目だった。......杉山晴は全身をこわばらせた。
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第1407話

1時間後、黒の高級車がゆっくりと九条家の門をくぐった。九条羽は車のドアを開け、玄関を通り抜け、リビングに入った。深夜3時だというのに、九条家は煌々と明かりが灯っていた。九条時也は、夜遅くに帰る九条羽を待っていたのだ。物音を聞きつけると、九条時也はチェスの駒を置き、失恋した様子の九条羽を見て、くすりと笑った。「夜中に彼女の家の前で待ってたのか?で、いいことはあったか?」九条羽はジャケットを脱ぎ捨て、ソファに放り投げると、使用人の田中に声をかけた。「田中さん、うどんを作ってくれ」田中は九条羽を可愛がっていたので、エプロンを軽く直し、すぐにキッチンへ向かった。そして、しばらくすると美味しそうなうどんを運んできた。九条羽が勢いよくうどんをすすっていると、九条時也は静かに近づき、目で「それでどうなった?」と無言で続きを促した。九条羽は箸を止め、静かに言った。「彼女を待ちに行ってたわけじゃない」九条時也は、彼が強がっているのが手に取るように分かった。しかし、九条時也はそれを指摘せず、昔の出来事について尋ねた。杉山晴のしたことは確かに酷かった。あの頃、バスケは九条羽にとって何よりも大切なものだったのだ。彼女の冗談は度を越していた。だが、息子をよく知る父親として、九条時也は分かっていた。九条羽が杉山晴のことを少しでも忘れていたら、夜中にわざわざ会いに行ったりはしないだろう。きっと、まだ心に引っかかっているのだ。そして、どこか諦めきれない気持ちもあるのだろう。九条時也は九条羽に単刀直入に言い放った。「もし、お前の心にまだあの子がいるなら、片腕の自由を失いはしたが、代わりに愛を手に入れたと思えばいいじゃないか?だが、どうしても過去のわだかまりを乗り越えられないのなら、自分のためにも、あの子のためにも、きっぱり手を引いてお互いを解放してやれ」そう言って、九条時也は彼の肩を叩いた。「もっとどっしり構えるんだ。いつまでもくよくよしていてもお前が辛いだけだぞ。ここ数日、お母さんは夜中に何度も目を覚ましている。何も言わないが、お前のことを心配しているんだ。もし、それほど好きじゃなくなったのなら、きっぱりと忘れて新しい恋を探せ。ダメならお見合いだってあるんだぞ!」......九条羽は淡々と答えた。「分かってる」九条時也は笑って
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第1408話

個室の中には、九条羽を含めて10人ほどが集まり、賑やかな雰囲気だった。大塚雅以外、九条羽と杉山晴が旧知の仲であることを知る者はなく、羽振りの良い若者たちは杉山晴に酒を勧めて騒いでいた。杉山晴が一番美人だったから、特に彼女を狙っていた。テーブルの上には、3杯の赤ワインが並んでいた。甲斐と名乗る社長がポケットから2億円の小切手を取り出し、3杯のワインを指差しながら杉山晴に言った。「制作費のスポンサーを探しているんだろ?この3杯を飲み干したら、小切手はお前のものだ。俺からの出資だと思ってな」あの三杯を立て続けに飲めば、酔いつぶれてその場に倒れ込んでしまうのは目に見えている。大塚雅はすぐさま愛想笑いをした。「杉山さんは後でゆっくりと社長のお相手を務めさせますから。このお酒は私がいただきます。代わりに3杯ついでおきますね」そう言って大塚雅は2杯をつぎ足したが、甲斐社長に止められた。甲斐社長は大塚雅を無視し、冷笑した。「こいつに言ったんだ。お前は何様だ?お前が酒を飲んだところで、何の意味がある?」大塚雅は愛想笑いを浮かべていたが、内心では気が気じゃなかった。杉山晴は体が弱く、3杯も飲んだら大変なことになる。普段は口が悪い大塚雅だが、本当は杉山晴にこんな無茶をさせるのは忍びなく、帰りたくなった。しかし、杉山晴は静かに言った。「飲みます」大塚雅は眉をひそめた。「杉山さん、無理しないで」甲斐社長たちは大塚雅を邪魔だと感じ、個室から追い出した。大塚雅はドアの外で杉山晴の名前を呼び、今なら考え直して一緒に帰ろうと言おうとした......杉山晴はかすかに微笑んだ。「私たちがここへ来たのは、まさに制作費のスポンサー様を探すためですもの」そう言いながら、心の中では血の涙を流していた。九条羽がすぐそばにいたからだ。これまで数えきれないほどの接待で、数えきれないほどの酒を飲んできた。酔って吐いて、道端で泣きじゃくったこともある。色んなみっともない姿を見せてきたけれど、今日ほど惨めな思いをした日はなかった。杉山晴は諦めなかった。九条羽は自分を憎んでいる。彼の心の中では、自分は堕落した女なのだ。上品なふりをする必要もない。ドラマへのスポンサーだって、酒を飲んで接待して得てきたものだ......隠すことなんて何もない。個室のドアが静かに
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第1409話

個室の中は静まり返った。最初は誰かが、「頭おかしいんじゃないか?」と悪態をついたが、九条羽だと分かると、誰も口を挟めなくなった。九条羽はゆっくりと立ち上がり、ワインの染みを踏みつけながら、杉山晴の前に立った。彼は見下ろすように杉山晴を見つめた。ワインを浴びて惨めな姿、長いまつ毛に付着したワインの雫、噛み破られた唇、白い首筋に広がる赤い染み。杉山晴は顔を上げ、体が小刻みに震えていた――二人の視線が絡み合う。九条羽は低い声で、彼女の目を見つめながら尋ねた。「これがお前が望んだ生活か?楽しいか?金のためにこんな目に遭って、満足か?」杉山晴は震える唇をどうすることもできず、言葉が出てこなかった。周りの人間は九条羽が杉山晴を知っていることに気づいた。甲斐社長は震える声で言った。「羽さん、もし彼女が気に入ったなら......」「俺によこせと?」九条羽は冷たく言い放った。「お前は何様だ?俺が女を欲しいと思ったら、お前に譲ってもらう必要があるのか?」甲斐社長は何も言えなくなった。この場にいた誰もが、九条家と藤堂家に逆らう勇気はなかった。二つの巨大財閥は強力に結びついており、誰かを潰そうと思えば簡単だったからだ。九条羽は彼らをまだ許していなかった。テーブルの上には、まだ開けられていないワインボトルが6本残っていた。彼はそれをちらりと見た。その場にいたのは皆、世渡り上手な連中だった。一つの視線で、何をすべきかを理解した。女優やモデルたちは急いでワインボトルを開け、我先にと自分の体へワインを浴びせかけた。全身がワインまみれになり、杉山晴と同じくらい惨めな姿になるまで。彼女たちは内心怯え、杉山晴に後ろ盾ができた後、復讐されるのではないかと恐れていた。女が終わると、男の番になった。甲斐社長はためらうことなく、ワインボトルを自分の頭で叩き割った。額から血が流れ落ちたが、彼は作り笑いを浮かべながら杉山晴に言った。「杉山さん、何も知らずに失礼しました!後日、改めてお詫びさせてください」杉山晴は甲斐社長が頭を下げたのは、自分のためではなく、九条羽のためだと理解していた。そこで彼女は小さく言った。「結構です」甲斐社長は九条羽の態度を探っていたのだ。しかし九条羽は何も言わず、杉山晴を連れて出て行った。......九条
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第1410話

駐車場。凍えるほどの寒さだった。九条羽は黒いレンジローバーのドアを開け、杉山晴に車に乗るよう促した。しかし、杉山晴はためらった。服についたお酒のシミで九条羽の車内を汚してしまうのを恐れたのだ。だが、彼は気にしていない様子で、少し不機嫌そうに言った。「乗れ」杉山晴は、九条羽の車内を汚さないよう気をつけながら、そっと乗り込んだ。しばらくして、九条羽も車に乗り込んだ。車内にはシートベルトの音だけがかすかに響く。その小さな音に、杉山晴はまるで驚きおびえる小鳥のようだった。彼女は顔を向け、低い声で尋ねた。「どこへ行くの?」九条羽はシートベルトを締め、黒く深い瞳を杉山晴に向けた。そして、嘲りの色を浮かべながら聞き返した。「ホテルだ。まさか、芸能界に数年いただけで、男に駆け引きを覚えたのか?それとも、分かってて聞いてるのか?」「そんなことないわ」杉山晴の声はかすれていた。九条羽は姿勢を正し、フロントガラスを見つめながら、無表情に言った。「俺は別に構わないが」杉山晴の顔は真っ青になった。ホテルへ向かう途中、二人は一言も言葉を交わさず、車内は墓場のように静まり返っていた。10分後、黒いレンジローバーは5つ星ホテルの駐車場へ滑り込んだ。エンジンを切ると、九条羽は杉山晴の方を向いて、淡々とした口調で言った。「今ならまだ引き返せるぞ」杉山晴は伏し目がちだった。顔にはまだお酒のシミが残っているが、みずみずしくて美しい。杉山晴は何も言わず、ただ静かに首を横に振った。九条羽はそれ以上何も言わず、ドアを開けて車から降りた。そして杉山晴を連れてホテルのフロントへ向かい、財布からクレジットカードを取り出して、最高のスイートルームを要求した。フロント係の女性は顔を上げた――若くてお金持ちの男性と、人気女優らしい女性。ただ、女性の方は少し様子がおかしい。フロント係は機転を利かせ、すぐに唯一のプレジデンシャルスイートを手配した。一泊132万円。九条羽は静かに言った。「3ヶ月、この部屋を押さえてください」フロント係は呆然とした。3ヶ月だと、1億2000万円近くになる。この男はどれだけ金持ちなんだ?1億2000万円あれば、マンションだって買えるのに、なぜホテルを使うんだ?しかし、せっかく提示されたのだからと、フロント係はにこ
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