Semua Bab 君と奏でるトロイメライ~今度こそ君を離さない~: Bab 41 - Bab 50

79 Bab

もっと甘えて 02

非常口である裏口からそっと外へ出た春花は、店の前を避けてそのまま駅まで走った。後ろは振り返らない。とにかく前だけ見て一心不乱に走る。いつどこで高志に気づかれるともわからない。背後から突然呼び止められるかもしれない、もしかしたら掴みかかられるかもしれない。高志に罵られていた日々がフラッシュバックする。会えばきっとまた怒鳴られるのだろう。そんな恐怖に怯えながら、マンションに着くまで気が気ではなかった。「はあっ、はあっ、」「おかえり春花。……どうしたの?」息を切らしながら玄関を後ろ手に閉めると、春花はズルズルとその場に座り込んだ。リビングから顔を出した静が慌てて駆け寄る。「大丈夫?」「……どうしよう」「どうした?」春花は静のシャツの袖をぎゅっと握る。その手がカタカタ震えていることに気づき、静は眉間にシワを寄せた。春花の手を取り両手で優しく包んでから、落ち着かせるように背中をそっと擦る。「落ち着いて、春花」背中を擦る手の動きに合わせて、春花は大きく息を吐き出した。恐る恐る静を見れば心配そうに寄り添ってくれている。静に余計な心配をかけてしまっている。だけど、頼れる人が側にいる。それだけでも以前とは比べ物にならないくらいに心が落ち着き、消えかけていた勇気が湧いてくるようだった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-04
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もっと甘えて 03

できるだけ心を落ち着けて、先ほどあったことをゆっくりと話す。高志が店を覗いていたこと。たぶん春花に会いに来たこと。葉月がこっそり逃がしてくれたこと。途中震えてしまいそうになる春花だったが、静は急かすことなく春花の言葉に耳を傾けた。そして一部始終を聞いた静は怒りで震え、腸が煮えくり返りそうになった。大切な春花に身の危険が迫っている。それなのに自分は春花を守ることができなかった。怯えた春花は青白い顔をして今にも泣き出しそうだ。「……ごめん、何とかするから」気丈にも微笑もうとする春花を、静は叱り飛ばした。「そうやって抱え込むな。俺の前で強がったりするなって言っただろ?」厳しくも優しい言葉は、まるで春花を包み込むかのようにゆっくりと心に浸透していく。静に思い出されるのは音楽室での記憶。家庭の事情で音大に行けなくなったと静に告げたあの日、笑ってごまかそうとした春花に対して静は言ったのだ。『俺の前で強がったりするな』あの時だって春花は一人で抱え込んでいた。静は助けたいと何度思っただろう。今はあの時とは違う。大人になったのだから、きっともっと春花の力になれるはずだ。いや、むしろ助けなくてはいけない。「俺が助けるよ」「……でも、どうしたらいいんだろう?」高志のモラハラに耐えて耐えて、ようやく抜け出した道。勇気を出して別れを告げ、どうにか解放されたと思ったのだ。そしてやってきた静との幸せな時間。ようやく掴んだ幸せに亀裂を入れられたような、そんな気持ち。「大丈夫、一緒に考えよう」静は春花の手をぎゅっと握る。静の大きくてあたたかな手は穏やかで心地よく、春花の心を温かく包んだ。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-05
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もっと甘えて 04

春花を落ち着かせるため、静はコーヒーを淹れる。部屋に広がる香ばしい香り。あたたかなコーヒーをごくんと一口飲めば、静の優しさが体いっぱいに広がっていくような気がした。春花が落ち着いたことを確認してから、静が口を開く。「職場がバレてるのはやばいな。きっとまた来るだろう」「店に迷惑かけちゃう。今日も店長が助けてくれて……」「じゃあ仕事辞める?」「それはできないよ。店としては辞めた方がいいかもしれないけど、私についてくれてる生徒さんたちを見捨てることはできないの」「そうだな、ごめん。浅はかなこと言った。だけど春花に危害が及ぶ方が俺は心配だよ」「高志だってたまたま来てただけかもしれないし、何か私に話があっただけかもしれない」「春花、あいつにどんなことされてたか覚えてるだろ? 会ったらきっとまたその繰り返しだ」「そうかもしれないけど、だからって仕事を休むわけにはいかないよ」春花はたくさんのピアノレッスン生を受け持っている。春花のことを慕って毎週レッスンに来る生徒たちのことを思うと、まったくもって仕事を辞める選択肢は出なかった。一方でやはり高志の存在は恐怖の対象である。今までの経験上、会ったところでまともな話が出来るとも思わないし、そもそもなぜ高志が春花を待ち伏せしていたのか、目的もわからない。仕事を辞めたくない春花と、心配だから行かないでほしい静。お互い言葉は選んで話しているが、二人の話し合いは平行線を辿った。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-06
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もっと甘えて 05

やがて静が小さく息を吐き、眉を下げる。ふっと微笑んで春花を見つめた。「わかったよ春花。俺が毎日送り迎えする。そうしよう」「でもそんなの……」「迷惑じゃない。俺がしたいからするだけ」「……甘えてもいいの?」「むしろ恋人なんだから、もっと甘えてほしいんだけどな」「えへへ……難しいなぁ」静がそっと頭を撫でてやると、春花はほんのり頬を染めた。恋人に甘えること、そんなことはドラマや漫画の世界でしか見たことがなかった。むろん高志に甘えたこともない。毎日気を遣い高志の顔色を伺いながら生活をしていた春花にとって、他人に甘えるということは安易にできるものではない。甘えようものなら不機嫌になり、その場の気分で怒鳴り散らす高志に毒されていたからだ。そんな春花が高志のモラハラから脱出したいとなんとか正気を保っていられたのは、静の音源があったからに他ならない。静の存在にどんなに癒され助けられたことだろうか。それなのに恋人の静は、春花に「甘えてもいい」と言う。贅沢すぎる申し出に春花は萎縮するが、春花の意を汲み取った静は「いいんだよ」と優しく春花を抱きしめた。暖かいぬくもりに包まれていると、すーっと心が落ち着いていくのがわかる。春花は戸惑いながらも、愛されていることを実感して胸が熱くなった。「ところでさ、春花」「うん」「何で元彼のことは名前で呼んで、俺のことは未だに苗字なの?」「えっ?」「もしかして何も疑問に思ってなかった?」「だって桐谷くんは桐谷くんで、なんか慣れちゃってて……」「俺の名前知ってる? 静っていうんだけど」「し、知ってるよ!」「じゃあそういうことで、よろしく」「……せ、静?」「……」「な、何か言ってよ。恥ずかしいんだけどっ」口元を抑えて黙ってしまった静に、春花は真っ赤な顔で慌てて詰め寄る。「いや……」静は春花からふいと目をそらすと、「……可愛すぎてどうにかなりそう」とぼそりと呟いた。「え、えええ~~~!」お互い真っ赤な顔になりながら、恋人として一歩進んだことに胸をときめかせていたのだった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-07
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もっと甘えて 06

◇電車通勤をしていた春花だったが、静の車で送り迎えをしてもらう日々に変わった。助手席に座ると特別感が増す。「ふふっ」「どうした?」「すっごく恋人っぽくて優越感!」「それはよかった」運転している横顔は凛々しく、静の隣にいることが夢のように感じられる。しかも職場まで毎日送迎してくれるのだ。高志の脅威よりも静から与えられる愛が大きくて、春花は安心感でいっぱいになった。あれ以来、高志の姿は確認していない。春花も静も店長の葉月でさえ、防犯面に関していつも以上に気をつけていたが、幸いなことに何事もなく日々が過ぎていった。送迎時は春花が店に入るまで静が付いていく。過保護なまでの扱いに春花は最初遠慮したが、静は頑として譲らなかった。「おはようございます」「おはよう、山名さ……えっ!」たまたま出勤時間が同じだった葉月と店の前でバッタリ出会い、葉月は春花の隣に立つ静の姿を見て驚きのあまり言葉を失った。「もしかして本物の桐谷静……?」「店長、こちらは……」「初めまして、桐谷静です。いつも私のCDを平積みにしてくださっているそうで、ありがとうございます」「え、いえいえ。私、ファンなんです! サインもらえますか?」「ありがとうございます。今日は時間がないのですみません。今度お邪魔するときにたくさん書かせていただきます。じゃあ、春花。俺は行くね。また帰りに」「うん。ありがとう」静は春花にそっと告げ、葉月にはペコリと一礼をして去っていく。その紳士的な背中を葉月はぼーっと見送っていたが、はっと我に返って春花に詰め寄った。「ちょっと山名さん!」「は、はいっ」「本物の桐谷静だった!」「そうですね。本物です」興奮気味の葉月はテンション高く、今あった出来事を思い返しては感嘆のため息を落とす。そんな葉月を見て、やはり静は有名人で人気者なんだということを改めて実感し嬉しくなった。「ところで山名さん。桐谷静と同級生って言ってたわよね?」「はい、そうですよ」「ふーん」葉月はニヤニヤとした笑みを浮かべ、春花は首を傾げる。「ただの同級生には思えないんだけど」「いや、えっと、その……お付き合いしてて」「そうでしょうそうでしょう。それしか考えられないわ。よかったじゃない」葉月は春花の背中をバンバンと叩く。荒々しい葉月の励ましに、春花はほんのり頬を染めながら
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-08
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もっと甘えて 07

数日が過ぎ、静が以前から申し出ていたレッスンの見学が行われることとなった。大歓迎の葉月は自身のCDにサインを貰うだけではなく、店のポスターやポップにまでサインを貰うことに抜かりはない。図々しいお願いでも静は快く引き受け、和気あいあいとした雰囲気で店内がひときわ明るくなった。「まさかうちの店に桐谷静さんが来るなんて!」「ねー! 店長、どんなツテ使ったんですか?」「私じゃなくて山名さんの知り合いなのよ」「えー! 山名さん? すごーい!」「えっと、私が一曲弾く約束で来てもらったので……弾きますね」「えっ! 桐谷静に認められてるの? 山名さん、すごっ!」「あ、あはは……」盛り上がる同僚たちに持て囃されながら、春花はいつものレッスン室とは違う、発表会用のピアノの前に座った。個室になるレッスン室とは違い少しだけ観客が入るような広さの部屋には、静、そして同僚たちがわらわらと集まる。開け放たれた扉の隣は店舗と直結しており、来店する客も自由に行き来することができる。「みんなは静のピアノを聴きに来ているのに、まるで私のピアノ発表会みたい」「そうだよ。俺は春花のピアノを聴きに来たんだから」「本当に弾くの? 私の演奏なら家でも聴けるのに」「家と外では違うだろ?」「そうだけど……」まるでコンサートさながら、ピアノにスポットライトが当たり室内の照明がわずかに落とされた。「さあ、春花」静が背中を押し、春花は緊張しながらピアノの前に立った。ペコリと一礼すると、わあっと歓声が上がる。椅子に座るとザワザワとした店内がしんと静まり返り、春花の身がきゅっと引き締まった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-09
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もっと甘えて 08

すうっと息を吸ってから、ポロン……と鍵盤を叩く。とたんにピアノの世界に引き込まれるような感覚に、春花は胸を震わせた。指が鍵盤に吸い付くように動いていく。誰のためでもない、自分のために弾くピアノ。音楽の世界は心地良い。普段のレッスン時の「春花先生」とは違う、ピアニスト山名春花がそこにはいた。「すごい、山名さんってこんなにピアノ上手いんだ!」「やっぱり先生ってすごいのねぇ」感嘆のざわめきが起こる中、葉月が静に耳打ちする。「最近山名さんの顔色がいいと思っていたんだけど、きっとあなたのおかげなのね。あなたと一緒にいるからとても幸せそう」「それならよかったです。でも俺の方が春花と一緒にいて幸せなんです。店長さん、これからも春花をよろしくお願いします」「こちらこそ。山名さんには期待してるのよ。というわけで、山名さんの次はピアニスト桐谷静が一曲披露していただけるかしら。一曲でも二曲でも、飽きるまで弾いてもらって構わないんだけど」「なかなかハードですね」「ふふっ、商売上手って言ってほしいわね」葉月は不適に笑い、静は苦笑する。とても雰囲気のいい店舗なのはやはり店長の葉月のリーダーシップの賜物で、そんなところで働いている春花に以前「辞めたら」などと軽はずみに口にしてしまったことを、静は改めて反省した。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-10
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もっと甘えて 09

暖かなギャラリーに盛大な拍手で迎えられながら、演奏を終えた春花はほうっと胸を撫で下ろした。春花はワクワクするような懐かしいような、不思議な気分だった。観客のいる中でピアノを弾くのは何年振りだろうか。高校生の時の、発表会前のドキドキワクワクした気持ちが呼び起こされたかのようだった。静と目が合うと、ニコッと微笑まれて安堵する。「すごくよかった」「ほんと? 次は静の番だよ」小さくハイタッチをして、交代をした。静の演奏が始まると再びしんと静まり返る。綺麗で繊細なピアノの音色が耳に心地よく響いて、春花はふわふわと海の中を漂っている気持ちになった。静の実力は知っているはずなのに、いつ聴いても心に染み渡って美しい。感動すら覚えるその演奏はやはり圧巻だった。「春花」「はい」「トロイメライ」手招きされて、恐縮しつつも静の隣に座る。「いくよ」すうっという呼吸音で鍵盤を弾く。一体感の生まれる二人の演奏は観客たちの心を掴み、その音色はしっかりと刻み込まれたのだった。「やっぱプロは違うわ~!」「でも山名さんも凄かった~!」静の生の演奏を聴いた同僚たちは口々に感想を言い合う。それは静を褒めるものだけでなく、春花の存在感さえも確かなものとして彼女の評価を上げた。「店長、いろいろとありがとうございました」「こちらこそ、いい演奏を聴かせてもらったわ。ありがとう山名さん。桐谷さん、本当にタダでいいのよね?」「こちらが無理言って演奏させてもらったんですから、お金なんて取りませんよ。CDまた平積みしていただけると嬉しいかな」「もちろん、大々的に宣伝しますよ! 今日でファンになった子たちも多いみたいだしね」葉月は、未だ演奏の余韻に浸りながら興奮気味の社員たちに目配せをする。 そんな同僚たちの姿を見て春花は嬉しさでいっぱいになり、静は感謝の気持ちでいっぱいになった。楽しく心穏やかな時間は春花と静に活力を与えた。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-11
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罪悪感 01

いつも通り静が春花を迎えに行ったある日のこと。 店の前で春花を迎え、すぐ目の前の駐車場へ向かおうと歩を進めた時だった。「おい、春花。いいご身分だな」ひどく冷たいドスの聞いた声が横から耳に突き刺さり、二人はそちらに視線を向ける。「……高志」そこには髪を乱暴に掻き乱した高志が、春花と静を睨み付けるように立っていた。「なるほどな。男がいたからそっちに逃げたって訳だ」「違っ……」「春花に何の用だ。ストーカー被害として警察に付き出してもいい」静が春花をかばうように前に出る。そんな静を見て、高志はますます苛立ったように声を張り上げた。「人のもの奪っておきながら何言ってんだ」「春花はものじゃない。さあ、警察を呼ぼうか」その瞬間、高志はその場に崩れ落ち、先ほどの勇ましい態度が急変したように弱々しい声を出す。「春花、俺は春花がいないとダメなんだ。なあ春花、やり直そう。アパートも解約しないでくれよ。俺、お前がいないと死んじゃうよ」懇願するような態度は春花の気持ちをグラグラと揺らがせる。春花だってもう高志からの呪縛からは逃れているため簡単に心を持っていかれることはないのだが、わずかながらの罪悪感が動揺として現れた。そんな春花の心をピシャリと断ち切るように、静が凛とした声で春花の背中を押す。「聞かなくていいよ、春花。さあ、車に乗って」「待てって、春花!」高志の騒ぐ声に、道行く人が腫れ物でも触るかのように遠巻きに見たり避けたりしていた。やばい奴には関わりたくない、誰もがそう思い怪訝な表情をする中、春花だけは去り際に高志をチラリと見た。「え……?」ギラリと光る鋭利で気味の悪い輝きが目に飛び込んだ瞬間、春花は無我夢中で静を押し倒した。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-12
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罪悪感 02

「っ!」「ぐっ!」脇腹に鋭い痛みが走り、春花は体制を崩しながら倒れまいと必死に手をつく。ぐきっという鈍い感覚に顔を歪めるが、脇腹の痛みの方が強く意識を保とうとするだけで精一杯だ。静は春花に突き飛ばされるまま、道路にごろりと転がる。「キャー!」誰かの悲鳴と共に静が見た光景は、苦痛に顔を歪ませながら地面にうずくまる春花の姿だった。「春花!」抱き寄せようと手を添えると、ぬめりとした感触に戦慄が走る。静の手には春花の血がべっとりと付いており、一気に血の気が引いていった。「春花しっかり!」「静、ケガは?」「俺は何ともない」「……静が……怪我しなくてよかった。ピアニストは……怪我が命取りだもんね」わずかに微笑む春花に静は唇を噛み締める。「何言ってるんだ! 今救急車を!」静の呼び掛けに、春花は青白い顔をしながら小さく頷く。静の手のひらから春花の血がこぼれ落ちる。止めたくても止められない、赤い血がぼたぼたと地面を染めた。「春花! 春花、大丈夫だから」「……静が無事なら、それでいい」「よくない! 今救急車が来るからな!」ザワザワと恐怖に怯える通行人たち。 勇気ある者たちに取り押さえられながらも奇声をあげ続ける高志。 騒ぎに気付いて店を飛び出してきた葉月。 そして祈るように春花を抱きしめる静。泣きそうな静の顔が春花の視界に入る。(ああ、静に迷惑かけちゃった……)やがて救急車とパトカーの近付くサイレンの音と共に、春花の意識は混濁していった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-13
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