風歌は振り返り、怒気の宿る瞳で睨みつけた。行く手を阻んだ人が、旭だと気づいた。旭は切れ長の目をわずかに細め、その表情は真剣で慎重だった。「風歌、この件で私刑は許されない。俺が現場にいる以上、志賀市警察署に連行して尋問すべきだ」「あの男は硫酸で私の顔を焼こうとしたのよ。反撃しただけ。いけないこと?」風歌の口調は冷え冷えとしており、掴まれた手を振りほどこうとした。旭は風歌の手首を掴んで放さず、表情は依然として険しい。「人を傷つけた以上、制裁を受けるべきだ。だが君が彼を傷つければ君も同じことになる。忘れるな、ここはクラブだ。君が貸し切りにしたとしても大勢の従業員が見ている。全員が証人になる」風歌は一瞬言葉を失い、口元に冷笑を浮かべた。「でも、もうやったよ。あなたはどうするつもり?」旭はしばらく黙り込んでから、ようやく言った。「見なかったことにするし、現場の後始末も手伝おう。だがこれ以上彼を殴るのはやめろ。御門俊永は今やただの君の使用人で、ペットにすぎない。彼のために面倒を背負い込む必要はない」旭のその言葉に、風歌は大きな衝撃を受けた。「もし俊永が庇ってくれなかったら、今頃傷ついていたのは私の顔よ。それでもそんなことが言えるの?」旭は言葉に詰まった。風歌は無理やり彼の手を振り払い、冷たい瞳で信じられないといったように旭を凝視した。「山口旭、今のあなたは本当に私の知らない人みたい」旭の瞳が微かに揺れ、サファイアの瞳仁にどこか傷ついた色が浮かんだ。静かに一歩後ろへ下がり、もう風歌の行動を制止しようとはしなかった。遮るものがなくなり、風歌は口元に冷笑を浮かべ、再び男の前にしゃがみ込んだ。「さあ、続けましょう」「や…やめてくれ……」風歌は男の命乞いを無視し、再び彼の左手背に狙いを定め、酒瓶を高く振り上げた。「やめろ!」まさに振り下ろそうとした瞬間、入口からまた制止の声が聞こえた。三課の隊長である遠藤が、一隊の警官を率いて火急の勢いで駆けつけたのだ。「旭様、あなた様もいらっしゃいましたか」遠藤は駆け込むなり、まず旭の姿を認めると挨拶をした。旭が無表情なのを見て、ようやく前に進み出て風歌の手から酒瓶を奪い取った。地面に転がる男の惨状を見て、遠藤は息を呑んだ。実に、容赦
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