「夏目美羽(なつめ みう)さん、こちらがご依頼の偽装死亡のプランです。半月後の結婚式のグローバル生中継当日に『崖転落事故』を演出されるとのことですね?」「ええ」スタッフは厳しい表情で確認した。「本当によろしいですか? 公開生中継での偽装死亡となると、現在の身分を完全に捨てることになりますよ」美羽はプランを握りしめ、力強く頷いた。「もう覚悟した」ビルを出た瞬間、広場の巨大なスクリーンが美羽の目に飛び込んだ。浅間雅也(あさま まさや)が彼女を抱き締めながら婚約を発表する映像が流れていた。颯爽とした男性と優雅な女性の姿に、通りすがりの車まで速度を緩めるほどだった。映像の中の雅也は彼女を強く抱き締めていた。普段は冷徹な男が、この時は目を赤く染め、声を震わせながら宣言していた。「今日こそが僕の人生で最も大切な日です。だって、美羽は僕のプロポーズを承諾しました。皆様に、来月僕たちの結婚式のグローバル生中継へご招待申し上げます……」スクリーンに流れるコメントが速く更新された。【19歳で彼女に一目惚れしたとか】【20歳で彼女の実家に釣り合うように起業した】 【22歳で留学中の彼女に会うため年間200回ぐらいフランスを往復した】 【恋愛至上の男が最高だわ】コメント群を眺める美羽の目に皮肉が浮かんだ。彼女は携帯画面を点け、保存したチャットのスクリーンショットを見た。最上部の写真には、知らぬ女が色っぽくレンズを見据え、スカートを捲り上げて赤く腫れたヒップを現した。【雅也さん、昨日のお仕置き痛かったわ!30分以内にマッサージに来てくれないと、本気で泣いちゃうからね!】雅也の返信は即座に届いていた。【今から行く】……世間は彼女が理想の男性を得たのを羨んだ。誰もが雅也の深い愛情を褒めた。しかし彼女だけが知っていた。この男が彼女をかすめて女子大生に二年間も貢いでいることを。 視界が涙で滲んだ。彼女はぼんやりした。19歳で両親を亡くし、泣き崩れた時、雅也が彼女を抱き締めながら彼女を一生守ると誓った。彼女を庇うため巨石で足が骨折したこともあり、彼女の「西洋料理が好き」という一言でユーロパを飛び回ったこともあった。彼女は彼の全ての暗証番号を知り、彼のSNSのプロフィールは常に彼女一色……プロポーズの夜
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