美咲は一度も振り返ることなく車に乗り込み、エンジンがかかると同時に、手にしていたスマホのSIMカードをパキッと折って、窓の外へと放り投げた。誰にも愛されなかった美咲は、自分で自分を愛せばいい。さようなら、上京市。さようなら、全ての人たち。彼女が、すでに所有権の名義変更まで済ませていた無人島に到着したのは、まる一日と一晩が過ぎた頃だった。島には、あらかじめ美咲の希望通りに設計された洋館がすでに建てられており、到着してすぐにそのまま入居できるよう整えられていた。資金には余裕があり、島へ渡る際に今後の出入りが多少不便になることを見越して、いっそクルーズ船を一隻購入していた。彼女自身は島から出るつもりはあまりなかったが、彼女が購入した「家族」と「恋人」が同じ気持ちとは限らない。備えておくに越したことはなかった。洋館の扉を押し開けると、中には生活に必要な設備がすべて整っていた。周囲を見渡し、美咲は満足そうにうなずいた。ここが、これから自分が生きていく場所。スマホを取り出し、カスタムファミリーの到着予定を確認しようとしたその時、館内の扉が内側から開き、一人のイケメン青年が姿を現した。彼女の姿を目にした瞬間、彼は一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐに目の前の人物が誰なのかを理解し、穏やかに笑みを浮かべた。そして体を横にずらして扉を開け、彼女を中へと招き入れながら、館の中にいるふたりへと声をかけた。雇い主が今日到着すると聞いていたため、彼らはすでに長いあいだ館の中で待機していた。そして、いざ本人と対面すると、残りのふたりもそれぞれ順番に自己紹介を始めた。「私は夜神梅子(やがみうめこ)、あなたがカスタムしたお母さんよ。こちらは上田剛士(うえだたけし)、お父さん役ね」柔らかく微笑む年配の女性がそう言い、隣にいた男性を紹介する。そして最初に出迎えてくれた青年は、梅子の言葉をさえぎるように、先に名乗った。「五十嵐陸(いがらしりく)です。君の……カスタム恋人だよ」……上京市最大のホテルでは、美咲と智也の結婚式が盛大に開催されようとしていた。この話題性抜群の挙式には、上京市の名門御曹司や夜神グループの関係者など、政財界の著名人たちが続々と集まり、世紀の結婚式の目撃者になろうとしていた。だが、式の開始が迫る中、式場スタッ
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