――今日は入社二日目。わたしは篠沢商事本社ビルのエントランス前で入江くんと合流した。佳菜ちゃんとは待ち合わせをしていないので、もう来ているのかまだ来ていないのか分からない。「――おはよ、入江くん」「うっす。――あれから何もなかったか?」 彼は昨夜別れた後のことを心配してくれているみたいだ。わたしが宮坂くんの連絡先をブロックしたので、アイツがわたしのマンションまで押しかけて来ていなかったか気にしてくれているらしい。「うん、大丈夫だよ。あの後は何もなかったから。心配してくれてありがとね」「だったらいいんだけどさ。今朝も大丈夫だったのか? 誰かに後つけられたりとか」「ないない! 大丈夫! 宮坂くんだって、わざわざ朝からそんなことするほど行動的じゃないでしょ」 わたしは彼を安心させるように笑い飛ばしたけれど、ストーカーの行動力なんて褒められたものじゃない。あれは〝行動力〟というより〝執念〟と言った方が正しいのかもしれないけれど。「……まあ、お前が『大丈夫だ』って言うんなら大丈夫なんだろうな。じゃ、今日も一日、お互いに頑張ろうな。また昼休みに社食で」「うん、頑張ろ! じゃあ、わたし先に行くね」 入江くんと別れて、出勤してきた他の社員さんたちに「おはようございます」と言いながらエレベーターホールへ向かっていくと――。「おはようございます!」 受付の女性たちが、誰かに対して普段の五割増しに高い声で挨拶するのが聞こえた。……誰だろう? 声の感じからして、ものすごく驚いているように聞こえたけど……。 興味本位で振り返るのも失礼だと思い、首を傾げながら歩いていると――。「矢神さん、おはようございます」「おはようございます。――って、えっ!? 会長!?」 わたしに挨拶して下さったのは、なんと絢乃会長だった。でもお一人で、一緒に出勤してこられたはずの桐島主任がいない。「あの……、今日、桐島主任はご一緒じゃないんですか?」「ええ。彼には今日から送迎は帰りだけでいいから、って伝えたの。彼はもう早くに出勤してきて、今ごろは会長のデスクを掃除したりとかしてくれてるんじゃないかな」「そうなんですね。……でも、会長はそれで不便じゃないですか?」 わたしがそう訊ねたところで、エレベーターが下りてきた。成り行き上、会長と二人で乗り込むことに。会長が三十四階のボタ
Last Updated : 2025-05-23 Read more