「――で、矢神さんはそういう相手いるの?」「いいい……っ、いえいえっ! いい……いないですよ、彼氏とか好きな人とかっ!」「矢神さん、どもりすぎ。そんなに動揺しなくても」 思いっきり動揺してどもりまくっていると、小川先輩に笑われた。何ていうか、社会人にもなって恥ずかしい……。「ごめんねー、私が悪かったね。彼氏にもよく言われるのよ。『お前は秘書なんだから、もうちょっと周りの空気読め』って」「……はあ」 確かに、周りの空気が読めないのは秘書として致命的じゃないかとわたしも思う。でも、キチンと守秘義務が守れる人なら多分問題はないはず。だからご自身で「空気が読めない」と自虐的に言えてしまう小川先輩だって、社長秘書という仕事が務まっているんだろう。「……って、私の話はどうでもよかったよね。じゃあさっきまで一緒だった男の子は? あのガタイのいい」「入江くんのことですか? 彼は高校から大学までの同級生で、友だちです」「えっ、そうなの? 二人って仲よさそうに見えたし、てっきり付き合ってるもんだと思ってた」 佳菜ちゃんにも言われたけど、やっぱりわたしと入江くんって周りの人の目からはそんなふうに見えるのか。でも正直なところ、わたしにとって彼がどういう存在なのか、自分でもよく分かっていないのだ。「はい。……多分、付き合ってはいないです。あ、ちなみに入江くんの配属先は総務課だそうですけど」「総務課か。そういえば、桐島くんも秘書室に来る前は総務にいたのよ。ちょうどパワハラがひどかった頃に」「えっ、そうなんですか?」 驚きの事実に、わたしは目をみはった。あれだけ会長秘書の仕事をバリバリやっていそうなあの人がかつて総務にいたことにもだけれど、その総務課でハラスメント被害に耐えていたことにも驚いた。「うん、そうなのよー。秘書室(うちのぶしょ)に来たのは先代の会長が余命宣告を受けて、絢乃さんが後継者になりそうだったからだったんだけど。つまりは愛の力ね。ちなみに、先代会長の秘書だったのが私」「へぇー……」「まあ、そんな彼にも秘書の仕事は務まってるんだから、矢神さんも『わたしには無理』とか思わないでね。この仕事はやる気と、ボスへの愛さえあれば務まるものだから。ウチでは秘書検定なんて持ってる人の方が少ないし。私も桐島くんも持ってないもん」「…………はあ」 〝ボスへの愛
Terakhir Diperbarui : 2025-04-25 Baca selengkapnya